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Disease Atlas · 全身 · 症候群

Cornelia de Lange症候群

Cornelia de Lange syndrome

別名
コルネリア・デ・ランゲ症候群Brachmann-de Lange症候群
臓器系
全身小児
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)PathologyPediatrics
トピック
発生学 8.1:先天異常と出生前診断:異常の種類病理学 A/43:先天異常の発生機序小児科 1-27:小児の知的発達症
上位概念
先天奇形(分類の枠組み)
鑑別疾患
胎児性アルコール症候群
続発疾患
胃食道逆流症知的発達症先天性横隔膜ヘルニア先天性心疾患感音難聴停留精巣
症状
睫毛伸長多毛症脊柱側弯症発作近視眼瞼下垂

🧠 全体像:は、という「染色体を束ねてクロマチンのループを作る装置」の異常で起こる多系統の発生異常である。はだけでなくとプロモーターの距離を決めて遺伝子発現を制御するため、その破綻は特定の臓器ではなく発生プログラム全体に及ぶ——これが「・成長・上肢・消化管」というつながりの見えない4領域が同時に侵される理由である。したがって本症は「」と呼ばれる。臨床の核は、①見て分かる特徴的な、②出生前から始まる、③上肢に偏った、④高率のの4点。⚠️ 重症度の幅がきわめて広く、非古典型はが典型的でないために診断が遅れる。

発生機序:コヒーシン複合体の破綻

はSMC1A・SMC3・RAD21が作る輪状の構造体で、を束ねる。NIPBLとMAU2はこの輪をクロマチンへ装填しループを押し出す役割を、HDAC8は装填と安定化を可能にする役割を担う1。

遺伝子 役割 割合 遺伝形式
NIPBL の 約80%
SMC1A 輪の構成タンパク 約5% X連鎖
HDAC8 装填・安定化 約4% X連鎖
SMC3 輪の構成タンパク 1〜2%
RAD21・BRD4・MAU2 輪の構成/クロマチン制御 各1%未満
不明 — 3〜5% —

💡 の異常ではなく、の異常として理解する。 によるループ形成がとプロモーターの結び付きを決めているため、本症は「」とも呼ばれる1。多数の遺伝子の発現量がわずかずつ狂う結果、単一臓器の奇形ではなく全身に散らばる軽微な発生異常の集合という表現型になる。

⚠️ 大半はである。 親が保因者であることはまれで、多くは生殖細胞系列のかによる。モザイクの頻度ができないため、血液で陰性でもなど別の組織を用いた検査を考慮する1。

疫学

は欧州登録(EUROCAT)のデータから出生約50,000に1人と推定される1。スペクトラム全体では出生10,000〜30,000に1人という推定もある2。⚠️ 5倍の開きは母集団の取り方(のみか、非古典型を含むか)による。 軽症例は診断されていないと考えられている。

臨床像

顔貌

から見て取れる。核となるのは眼周囲と口周囲の組合せである。

  • (左右のが正中で連なる)98%、濃く弓状の。
  • 長く濃い睫毛(>90%)。生下時から存在し、薬剤性のと違って可逆性がない構造的な特徴である。
  • 短い鼻・凹んだ・前向きの鼻孔。
  • 長く平坦な、薄い上唇、下向きの口角(いずれも>90%)。
  • (>90%)、(80%)、±(30%)1。

成長障害

出生前から始まるのが特徴で、生後6か月ごろから均整型のがより明らかになる。では身長・体重とも生涯にわたり5未満で推移するため、一般のではなくCdLS専用ので評価する1。

⚠️ な成長制限に、とによる体重増加不良がされる。逆流の管理はの改善と直結する。

上肢の減形成

下肢より上肢が強く侵される点が特徴的で、重症度の幅がそのまま表現型の幅になる。

程度 所見
重度 肘と前腕の完全欠損。の約3分の1がからまでのを示す
中等度 (25%)・
軽度 小さい手、母指の近位偏位(第1が短い)、第5指の(70%)

(79%)とは肘のの原因になる。下肢の障害は軽く、第2・3趾のが80%超にみられる1。

消化管

が75%と高率で、本症の管理の中心を占める1。

  • 約3分の1に誤嚥の所見があり、15%がを要する。
  • ・・不機嫌の原因になるため、に診断して積極的に治療する。重症例ではの評価のうえを検討する。
  • (4%)はの持続する嘔吐の最多原因、(2%)、(1%)。

⚠️ 本症の患者は痛みや不快を訴えられないことが多い。 や不機嫌が「行動の問題」として扱われ、その背後にある逆流・中耳炎・歯科疾患が見落とされる。行動変化を見たらまず身体的な原因を探す。

その他の臓器

系統 所見
発達・行動 >95%(IQ 30未満〜102、平均53)。がより、が認知より障害される。56%、、睡眠障害50%
神経 発作25%(が多く2歳未満発症、標準治療に反応良好)
耳鼻科 難聴80%。感音難聴との双方があり、に改善する例がある
眼科 58%、44%、眼瞼炎25%、16%
循環器 30%(・>>の順)
泌尿生殖器 男児の73%、57%。女性では
運動器 ・が約3分の1に思春期以降出現。通常は軽度で手術を要することはまれ
皮膚 >80%(顔・耳・背・腕に及ぶ)、60%

診断

2018年の第1回国際コンセンサスが、加点式の臨床診断基準を定めた2。

  • (各2点、6項目):/濃い、短い鼻・凹んだ・上向きの、長いまたは平坦な、薄い/下向きの口角、手の/、。
  • (各1点、7項目):/、、、、小さい手足、第5指の短縮、。
合計点 の数 解釈
11点以上 3項目以上 。既知遺伝子に病的変異が見つからなくても診断確定
9〜10点 2項目以上 非古典型
4〜8点 1項目以上 の適応
4点未満 — 検査の適応にならない

⭐ のうち4項目はである。 が典型的でない型では点が伸びず、基準の上でも診断が遅れる。実際、SMC1A変異でCdLS表現型を示した40例の得点は2〜13点(平均8.0)と、NIPBL変異の(12〜16点、平均13.5)よりはるかに低く分布した2。

flowchart TD
    A["新生児〜乳児の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='characteristic facies'>特徴的顔貌</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth failure'>成長障害</span>・上肢異常"] --> B["コンセンサス基準で加点"]
    B --> C{"合計点は"}
    C -->|"11点以上・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='major criteria'>大症状</span>3項目以上"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span>として診断確定"]
    C -->|"9〜10点・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='major criteria'>大症状</span>2項目以上"| E["非古典型として診断"]
    C -->|"4〜8点・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='major criteria'>大症状</span>1項目以上"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molecular genetic testing'>分子遺伝学的検査</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multigene panel'>多遺伝子パネル</span>)"]
    C -->|"4点未満"| G["他の症候群を検討"]
    F --> H{"病的変異は同定されたか"}
    H -->|"されない"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exome'>エクソーム</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genome sequencing'>ゲノム解析</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='buccal mucosal cells'>口腔粘膜細胞</span>でモザイクを検索"]
    H -->|"された"| J["遺伝カウンセリングと臓器別評価へ"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral blood leukocytes'>末梢血白血球</span>のメチル化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='epigenetic signature'>エピジェネティック署名</span>解析を検討"]
    D --> J
    E --> J

⚠️ SMC1Aの病的変異が見つかっても、それだけでCdLSとは言えない。 はCdLSではなくを、また一部のSMC1A変異例はに似た表現型を示す。遺伝子型ではなく表現型で診断するというのがコンセンサスの立場である2。

鑑別

疾患 似ている点 分かれ目
出生前からの、、平坦な、薄い上唇、発達障害 ・長い睫毛・上肢を欠く。妊娠中の飲酒歴
(ANKRD11) 発達遅滞、、濃い、、前向き鼻孔 知的障害はより軽い。を伴いが少ない
(EP300) 、、弓状の、長い睫毛、、 目立つ鼻、幅広い母指・
(ASXL1) 出生前後の成長制限、、、乳児期はが似る がより重篤、、特有の姿勢

管理

根治療法はなく、系統別の管理と長期ので構成される1。

領域 内容
栄養 CdLS専用で評価し、やで必要量を満たす
消化管 を積極的に治療。の有無を評価し、重症例ではを検討
発達 理学・作業・。の早期導入が有効
行動 不安・注意の問題・を定期評価。行動の変化は身体的原因の検索を先に行う
感覚器 年1回以上の眼科評価と歯科評価(清掃を含む)、小児期・思春期は年1回の。は積極的に治療
周術期 ⚠️ 手術前に血小板減少と心疾患を評価し、麻酔中の気道管理に注意する
家族 遺伝カウンセリング。親が非罹患でもによる再発があるため「=再発なし」と説明しない

まとめ

  • は(SMC1A・SMC3・RAD21と、そのNIPBL・MAU2・HDAC8)の異常によるで、の破綻が多系統の発生異常として現れる。
  • はNIPBLが約80%、SMC1A約5%、HDAC8約4%。NIPBLなど5遺伝子は、SMC1A・HDAC8はX連鎖で、大半がまたはである。
  • 核となる4点は、①特徴的な(・長い睫毛・前向き鼻孔・薄く下向きの上唇)、②出生前から始まる、③上肢に偏った、④75%。
  • 2018年のコンセンサス基準は6項目(各2点)と7項目(各1点)で採点し、11点以上かつ3項目以上を、9〜10点かつ2項目以上を非古典型とする。
  • の6項目のうち4項目がであるため、SMC1A変異例のようにがな例は得点が伸びず診断が遅れる(HDAC8・RAD21変異でも非古典型の表現型が報告されている)。遺伝子型ではなく表現型で診断するのがコンセンサスの立場である。
  • 管理は栄養・・発達支援・感覚器のが柱で、手術時は血小板減少・心疾患・気道の評価を欠かさない。

出典

  1. 1.Cornelia de Lange Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2026)Cornelia de Lange症候群の原因遺伝子の内訳がNIPBL約80%・SMC1A約5%・HDAC8約4%・SMC3 1〜2%・RAD21/BRD4/MAU2が各1%未満・不明3〜5%であること、BRD4/MAU2/NIPBL/RAD21/SMC3型は常染色体顕性、HDAC8/SMC1A型はX連鎖であり大半が新生変異または接合後モザイクであること、体細胞モザイクの頻度が高く口腔粘膜細胞を用いた検査を考慮すべきであること、頻度が眉毛癒合98%・哺乳障害>95%・成長障害>95%・知的発達症>95%・小さい手足>90%・短頭小頭>90%・長い睫毛>90%・上唇赤唇部が薄い>90%・口角下垂>90%・多毛>80%・難聴80%・小顎80%・橈骨頭低形成79%・胃食道逆流症75%・斜指症70%・大理石様皮膚60%・自傷行為56%・下顎骨棘42%・側弯33%・高口蓋±口蓋裂30%・先天性心疾患30%・けいれん25%・欠指25%であること、成長障害は出生前から始まり生涯を通じて身長体重が5パーセンタイル未満にとどまりCdLS専用成長曲線が作られていること、IQは30未満〜102(平均53)と幅広いこと、上肢の重度異常が25%・前腕欠損から欠指までの減形成が古典型の約3分の1にみられ減形成が無い例でもほぼ全例に小さい手・母指の近位偏位・第5指斜指がみられること、先天性心疾患の内訳が肺動脈狭窄・末梢肺動脈狭窄・心室中隔欠損・心房中隔欠損の順であること、男児の73%に停留精巣がみられること、有病率が古典型でEUROCATのデータから1:50,000と推定されること、鑑別に胎児性アルコール症候群・KBG症候群(ANKRD11)・EP300関連Rubinstein-Taybi症候群・Bohring-Opitz症候群などが挙がること、管理では胃食道逆流症の積極的治療(消化管軸捻転の評価と重症例での噴門形成術の検討)・専用成長曲線を用いた栄養評価・年1回以上の眼科と歯科の評価・小児期と思春期の年1回の聴力評価が推奨されることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Diagnosis and management of Cornelia de Lange syndrome: first international consensus statement(Nature Reviews Genetics(第1回国際コンセンサス会議)・2018)2018年の第1回国際コンセンサスがCornelia de Lange症候群の臨床診断基準を大症状(各2点)6項目と小症状(各1点)7項目の加点式で定め、11点以上かつ大症状3項目以上を古典型、9〜10点かつ大症状2項目以上を非古典型、4〜8点かつ大症状1項目以上を分子遺伝学的検査の適応、4点未満を検査適応なしとしたこと、11点以上であれば既知遺伝子に病的変異が見つからなくても診断が確定すること、大症状が眉毛癒合/濃い眉・短い鼻や凹んだ鼻梁や上向きの鼻尖・長いまたは平坦な人中・上唇赤唇部が薄いことや口角下垂・手の欠指や無指・先天性横隔膜ヘルニアであり、小症状が全般的発達遅滞/知的発達症・出生前発育遅滞・出生後発育遅滞・小頭症・小さい手足・第5指の短縮・多毛であること、NIPBL変異例75例での検証で古典型は12〜16点(平均13.5)・非古典型は9〜11点(平均10.0)に分布したこと、SMC1A変異でCdLS表現型を示した40例の得点が2〜13点(平均8.0)と古典型より低く分布したこと、有病率が出生10,000〜30,000に1人と推定されること、コヒーシン機能に関わる遺伝子の異常であってもRoberts症候群やNicolaides-Baraitser症候群のように古典型との重なりが乏しいものはCdLSスペクトラムに含めないことを確認した閲覧 2026-09-03