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Disease Atlas · 呼吸器 · 先天性疾患

先天性横隔膜ヘルニア

Congenital diaphragmatic hernia

別名
CDH
臓器系
呼吸器消化器
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)Pediatrics
トピック
発生学 11.4:体腔:臨床小児科 2-13:先天性横隔膜ヘルニアと肺発生異常
鑑別疾患
先天性横隔膜弛緩症先天性肺気道奇形先天性肺葉性過膨張
関連疾患
食道閉鎖症・気管食道瘻肺低形成
治療薬
シルデナフィル
原因となる疾患
Cornelia de Lange症候群

🧠 全体像:(CDH)は、横隔膜の形成が破綻して残った穴(多くはの)から腹腔臓器が胸腔へ脱出する疾患である。予後を決めるのは「穴」そのものではなく、と、それに伴う肺高血圧の重症度——この一点に理解のすべてが集約される。だからこそ出生直後の対応は「今すぐ横隔膜の穴を閉じる」ことではなく、「壊れやすい肺と過敏な肺血管をこれ以上傷めずに酸素化・換気を安定させる」ことに置かれ、手術は生理学的に安定してから行う待期的な処置になる。

病態

、胸腔と腹腔を隔てる(発生学 11.4)は左右非対称に閉鎖が進み、右側より閉鎖が遅く脆弱な左側で閉鎖不全が起こりやすい。この閉鎖不全により横隔膜後外側に欠損孔()が残ると、胃・脾臓・腸管などの腹腔内臓器がへ脱出する。なお「膜が閉じ残る」という言い方は結果の記述であり、上流にあるのは胸膜腹膜ヒダ()の間葉の形成・融合・筋性化の早期の破綻である(発生学 11.3)。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleuroperitoneal membranes'>胸膜腹膜膜</span>の閉鎖不全(左側優位)"] --> B["横隔膜後外側に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foramen of Bochdalek'>Bochdalek孔</span>が残存"]
    B --> C["腹腔臓器(胃・脾臓・腸管など)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>へ脱出"]
    C --> D["脱出臓器が同側肺を圧迫"]
    A --> A2["肺そのものの一次的な発生異常<br>(dual-hit仮説のfirst hit。必須かは未確定)"]
    D --> E["気管支分岐・肺胞形成が障害される<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hypoplasia'>肺低形成</span>)"]
    A2 --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vascular bed'>肺血管床</span>も未発達・過反応性となる"]
    F --> G["新生児遷延性肺高血圧を来しやすい"]
    D --> H["縦隔が対側へ偏位し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contralateral lung'>対側肺</span>も圧迫され得る"]

⚠️ CDHの重症度=穴の大きさではなく、の重症度で決まる。 障害が始まった発生時期が早いほど、すなわち気管支分岐が進む前(発生学 13.3のに至る前)から始まるほど、肺胞・の発達が広範に障害され重症化する。

💡 CDHのを「圧迫の結果」だけに還元しない。 CDHの低形成肺は炎症性のシグネチャーを示し、成長・成熟・血管化のいずれもが障害されている1。ニトロフェン模型では縦隔・横隔膜ができるより前からが認められ、大きな胎児肺のように同じく肺を圧迫する他のヒト病態はCDHのようなを来さない2。ここから「肺の一次的な発生異常(first hit)+脱出臓器による機械的圧迫(second hit)」という仮説が提唱された。⚠️ ただし内因性の first hit が必須かは決着しておらず、横隔膜の発生の破綻が臓器脱出を招き、続く圧迫こそが下流の肺病変の主たるだとするモデルもある3。

Bochdalek孔ヘルニアとMorgagni孔ヘルニアの対比

CDHの大半はヘルニアだが、まれに前方・傍胸骨部に生じるがある。発生部位・好発側・重症度が対照的であり、混同しないよう整理する。

ヘルニア
部位 後外側 前方・胸骨傍(傍正中)
好発側 左側(の閉鎖が遅い) 右側(左は心膜・心臓に保護される)
頻度・重症度 CDHの大半を占め、を伴い重症化しやすい まれで、症状は軽微なことが多い

先天性腹膜心膜横隔膜ヘルニア(中央型)

ごくまれに、横隔膜のに欠損が生じてとが交通し、肝左葉・胃などがへ脱出する。1903年の初報以来、報告は少数にとどまる4。は前方・中央の性部分で上面が心膜と連続し、発生学的にはに由来する。機序としては隔の部分的な欠損、あるいは妊娠第4〜5週に急速に成長する肝が入り込んでした隔が破綻することが挙げられるが、確定していない4。隔が丸ごと欠けることは考えにくい——それでは肝も(Cuvier管)も形成されないからである5。

⚠️ 「の閉じ残り」ではない。 は拡大してになる通路であり、そこでの分離の破綻が生むのはとの交通(ヘルニア)である。本症もの一型として扱う4。心膜内へ入るとの鑑別が問題になり、で欠損の前方に横隔膜組織が残っていればの欠損を示唆する4。

合併異常

CDHの約半数で他のを合併する。、染色体異常、などが代表例であり、時には全身の系統的な評価が重要になる。

臨床像・出生前診断

  • 出生前: ・で、への胃・腸管の脱出、患側肺容積、肝臓のの有無を評価する。肝脱出の有無や肺容積の指標(lung-to-head ratio など)は出生後の重症度・と関連するとされる。
  • 出生直後: 重度の呼吸窮迫、患側の、胸部での、(腹部臓器が胸腔にあるため腹部がへこむ)を認める。
  • 画像: 胸部X線での、、患側肺の低形成像を示す。

⭐ 出生前に診断されている、または出生直後に・呼吸窮迫を認める児では、を行わないことが最初のになる。は胃腸管に空気を送り込み、容をさらに増やして肺と静脈還流を圧迫するため、疑った時点でによる管理へ切り替える。

初期対応・呼吸循環管理

flowchart TD
    A["CDHを疑う・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prenatal diagnosis'>出生前診断</span>あり"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bag-mask ventilation'>バッグマスク換気</span>を避け<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endotracheal intubation'>気管挿管</span>"]
    B --> C["太い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasogastric tube (NG tube)'>経鼻胃管</span>で持続的に胃を減圧"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung-protective ventilation'>肺保護換気</span><br>(低圧・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='permissive hypercapnia'>許容的高炭酸ガス血症</span>)"]
    D --> E["肺高血圧を評価・治療"]
    E --> F["酸素化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemodynamics'>循環動態</span>が安定"]
    F --> G["生理学的に安定してから<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical repair'>外科的修復</span>"]
  • ・胃管減圧: 胃腸管のを最小化し、圧迫をこれ以上増やさない。
  • : 未発達な肺を・から守るため、低い気道内圧を保ち、の正常化よりも肺保護を優先する()。
  • 肺高血圧の評価・治療: の低形成・過反応性により新生児遷延性肺高血圧を伴いやすく、酸素化に難渋する例ではやなどの療法を考慮する。
  • 上記でも酸素化・を維持できない重症例では、()による補助循環を専門施設で検討する。

⚠️ サーファクタントはCDHに一律投与する治療ではない。 明らかな肺の未熟性を示す所見がある場合などに限って個別に検討されるものであり、CDHそのものへのルーチン治療として扱わない。

治療(外科的修復)

⭐ 手術を急ぐことがCDH管理の原則ではない。 呼吸・循環・肺高血圧が生理学的に安定するのを待ってから横隔膜欠損を修復するが現在の標準であり、出生直後の緊急手術を第一選択にはしない。

  • 欠損が小さい場合は横隔膜の閉鎖で足りることが多いが、欠損が大きい場合は(や自己組織)による修復を要する。
  • 開腹・いずれのアプローチも用いられるが、重症例・大欠損例では低侵襲アプローチの適応を慎重に判断する。
  • 術後も肺高血圧の、、、などを長期的にフォローする。

肺発生異常との位置づけ

CDHはで肺の発育空間が奪われる代表例だが、肺の発育を妨げる機序は疾患ごとに異なる。

疾患 機序の要点
横隔膜欠損を通じた腹腔臓器の圧迫に、低形成肺そのものの成長・成熟・血管化の障害が重なる(dual-hit仮説)
由来の嚢胞性肺組織が正常肺組織を置換し、気管・心をし得る
正常気管支と交通せず、体循環からを受ける非機能肺組織
高度なによる などによる羊水不足で、胎児のを介した肺発育刺激が失われる

💡 いずれも「気道との交通」「血流」「圧迫・スペースの」という軸で整理すると、病名の丸暗記から解放される。

まとめ

  • CDHはの閉鎖不全による(後外側、左側優位)から腹腔臓器が胸腔へ脱出する疾患で、前方・右側優位のMorgagniヘルニア、欠損による腹膜心膜(中央型)とは部位・重症度が対照的である。
  • 予後を左右するのは横隔膜の穴そのものではなく、の重症度と、それに伴う肺高血圧である。は機械的圧迫だけには還元できず、肺そのものの成長・成熟・血管化の障害を伴う(dual-hit仮説。一次的な肺の異常が必ず先行するかは未確定)。約半数で他のを合併する。
  • 出生直後はを避けてし、胃管で減圧しながら()で管理する。サーファクタントは一律投与しない。
  • 肺高血圧には吸入やなどの療法を、難治例ではを検討する。
  • は生理学的に安定してから行うであり、出生直後の緊急手術が原則ではない。

出典

  1. 1.Fetal therapies in congenital diaphragmatic hernia: a review of possibilities and practical challenges(Seminars in Fetal & Neonatal Medicine・2025)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。先天性横隔膜ヘルニアが肺低形成を特徴とし、その低形成肺が炎症性のシグネチャーを示すとともに成長・成熟・血管化が障害されていること、これが出生後のガス交換異常と肺高血圧をもたらし、生存不良と長期予後の主たる規定因子であることを確認した閲覧 2026-09-07
  2. 2.Role of genetics and the environment in the etiology of congenital diaphragmatic hernia(World Journal of Pediatric Surgery・2024)全文を閲覧。ニトロフェンラット模型では縦隔と横隔膜が形成されるより前から肺低形成が認められること、胎児の大きな占拠性肺病変のように同側・対側の肺を圧迫する他のヒト病態がCDHでみられるような肺低形成を来さないこと、これらの観察からCDHの肺低形成が機械的圧迫のみによるものではないと考えられることを確認した閲覧 2026-09-07
  3. 3.Epithelial Dysfunction in Congenital Diaphragmatic Hernia: Mechanisms, Models and Emerging Therapies(Cells・2025)全文を閲覧。二段階(dual-hit)仮説がニトロフェンラット模型の観察から提唱されたもので、肺の一次的な発生異常(first hit)に続いて二次的な機械的圧迫(second hit)が加わることでCDHの肺低形成が生じるとする枠組みであること、この仮説が広く受け入れられている一方で、内因性の first hit の必要性に疑問を投げかける証拠が増えていること、横隔膜の発生の攪乱が内臓の脱出を招き、続く肺の圧迫が下流の肺病変の主たる駆動因子だとする対立モデルがあることを確認した閲覧 2026-09-07
  4. 4.Congenital peritoneo-pericardial hernia in a 4 years-old child: Case report of a rare type of congenital diaphragmatic hernia(Radiology Case Reports・2026)全文を閲覧。先天性腹膜心膜横隔膜ヘルニアが横隔膜の中心腱の欠損によって腹膜腔と心膜腔が交通するもので、先天性横隔膜ヘルニアのきわめてまれな一型であること、1903年に初めて報告されたこと、中心腱が発生学的に隔(septum transversum)に由来し、隔の部分的欠損、または妊娠第4〜5週に肝が急速に成長して脆弱化した隔が破綻することで中心腱の欠損が生じうると述べていること、心膜内Morgagni孔ヘルニアが競合する鑑別で、CTで欠損の前方に横隔膜組織が残っていれば本症を示唆することを確認した閲覧 2026-09-07
  5. 5.Concurrent congenital peritoneopericardial diaphragmatic hernia and bochdalek hernia in a neonate(SpringerPlus・2014)全文を閲覧。中心腱欠損の発生機序が未解明であること、隔(septum transversum)が完全に欠損したのでは肝も総主静脈(ducts of Cuvier)も形成されないため完全欠損は考えにくく、隔の部分的な形成不全、または肝の急速な成長で脆弱化した隔の破綻が最も有力とされること、Bochdalek孔ヘルニアが後外側に生じ、現在は肝後間葉板(posthepatic mesenchymal plate)の欠損によると考えられていることを確認した閲覧 2026-09-07