発生学

発生学 · 11.4

体腔:臨床

Body Cavities — Clinical

疾患
先天性横隔膜ヘルニア先天性横隔膜弛緩症

🧠 横隔膜の臨床相関は「組織の欠損」と「を保った筋性化不全」に分けて考える。 後外側または前方に真の欠損孔がある・に対し、では膜のを保ったまま筋層が菲薄化する。

先天性横隔膜ヘルニア

は、横隔膜の後外側に欠損孔が生じ、腹腔内臓器(胃・脾臓・腸管など)がへ脱出する病態。古典的には(11-3-diaphragm-formation)の閉鎖不全と説明されるが、現在は胸膜腹膜ヒダの間葉形成・融合・筋性化が早期に破綻する発生異常として捉えられる。1

特徴 内容
好発部位 後外側()。の閉鎖が右側より遅く脆弱な左側に多い
主要な合併症 脱出した腹部臓器が肺の発生を圧迫し、を来す(13-2-larynx-trachea-bronchi-lungsの気管支分岐が進む前に圧迫されるため重症化しやすい)
臨床像 出生直後からの重度の呼吸窮迫、(腹部臓器が胸腔にあるため腹部がへこむ)

⚠️ CDHの転帰を大きく左右するのはと肺高血圧である。2 ただし欠損の大きさ、修復の必要性、心機能も独立して重要であり、「穴そのものは重要でない」とまでは言い切れない。3

Morgagni孔ヘルニア

横隔膜の前方・胸骨傍(傍正中)に生じるまれなヘルニアで、胸骨部分と肋骨部分の横隔膜筋線維の間の弱い部分(傍孔)から生じる。CDH(後外側、左に多い)とは発生部位が対照的で、右側に多い(左側は心膜・心臓に隣接し保護されるため)。CDHに比べ症状は軽微なことが多い。

横隔膜弛緩症

横隔膜に穴が開くのではなく、正常な付着と膜のを保ったまま筋層が先天的に薄く・低形成となり、に押されて横隔膜の一部が異常に高く挙上する病態。先天性では頸部体節由来の筋前駆細胞(11-3-diaphragm-formation)の遊走・筋性化不全により、が菲薄な線維弾性組織へ置き換わると考えられる。4

💡 「穴があいている(CDH・Morgagniヘルニア)」と「膜はつながっているが薄い(eventration)」は病理としては全く異なるが、いずれも横隔膜を形成する4つの構成要素(11-3-diaphragm-formation)のどこかの発生不全に由来するという共通の枠組みで理解できる。

心膜腔への脱出(先天性腹膜心膜横隔膜ヘルニア)

ごくまれに、横隔膜のに欠損が生じてとが交通し、腹腔内臓器(肝左葉・胃など)がへ脱出する。1903年の初報以来、報告は少数にとどまる。5 は前方・中央の性部分で、その上面は心膜と連続する。発生学的には隔(septum transversum、11-3-diaphragm-formation)に由来し、隔が部分的に欠損すること、あるいは妊娠第4〜5週に急速に成長する肝が入り込んでした隔が破綻することが機序として挙げられている。5 ただし隔が丸ごと欠けることは考えにくい——それでは肝も(Cuvier管)も形成されないからである。6

💡 これは「の閉じ残り」ではない。 (11-1-intraembryonic-coelom)は肺芽の成長とともに拡大してになる通路であり、そこでの分離の破綻が生むのはとの交通、すなわちヘルニアである。腹膜心膜交通の座はにあり、この病態もの一型(中央型)として扱われる。5

⚠️ 前方・傍胸骨のも心膜内へ入りうるため鑑別を要する。では欠損の前方に横隔膜組織が残っているかが手がかりで、残っていればの欠損、欠損がのすぐ後方に接していればを示唆する。造影に用いるは、圧をかけて内容を注入することになるため腸閉塞・心タンポナーデの危険があり推奨されない。5

まとめ

  • (CDH)は後外側、特に左側に多く、間葉の形成・融合・筋性化異常が上流病変となり、と肺高血圧が転帰を大きく左右する。
  • Morgagniヘルニアは前方・傍胸骨部に生じ、右側に多く、CDHより軽症であることが多い。
  • は真の穴ではなく、を保った筋層の低形成による横隔膜の挙上で、CDH・Morgagniヘルニアとは病理が異なる。
  • 先天性腹膜心膜は(隔=septum transversum 由来)の欠損によるとの交通で、の閉じ残りではない。の心膜内型との鑑別を要する。
  • いずれも横隔膜を構成する複数の細胞・組織系の発生不全という共通の枠組みで理解できる。

出典

  1. 1.Resolving the heterogeneity of diaphragmatic mesenchyme: a novel mouse model of congenital diaphragmatic hernia(Disease Models & Mechanisms・2021)横隔膜形成には由来の異なる間葉細胞群が関与し、その異常が先天性横隔膜ヘルニアを生じうる閲覧 2026-08-22
  2. 2.Update on Congenital Diaphragmatic Hernia(Anesthesia & Analgesia・2020)先天性横隔膜ヘルニアでは肺低形成と肺高血圧が病態・予後の主要因になる閲覧 2026-08-22
  3. 3.Congenital Diaphragmatic Hernia: Perinatal Prognostic Factors and Short-Term Outcomes in a Single-Center Series(Children・2023)欠損の大きさ、パッチ修復、肺高血圧、左室機能不全もCDHの転帰に関係する閲覧 2026-08-22
  4. 4.Video assisted thoracoscopic plication of the left hemidiaphragm in symptomatic eventration in adulthood(Journal of Thoracic Disease・2012)横隔膜弛緩症では筋性部が菲薄化する一方、付着と解剖学的連続性は保たれる閲覧 2026-08-22
  5. 5.Congenital peritoneo-pericardial hernia in a 4 years-old child: Case report of a rare type of congenital diaphragmatic hernia(Radiology Case Reports・2026)全文を閲覧。先天性腹膜心膜横隔膜ヘルニアが横隔膜の中心腱の欠損によって腹膜腔と心膜腔が交通するもので、先天性横隔膜ヘルニアのきわめてまれな一型であること、1903年に初めて報告されたこと、中心腱が発生学的に隔(septum transversum)に由来し、隔の部分的欠損、または妊娠第4〜5週に肝が急速に成長して脆弱化した隔が破綻することで中心腱の欠損が生じうると述べていること、心膜内Morgagni孔ヘルニアが競合する鑑別で、CTで欠損の前方に横隔膜組織が残っていれば本症を示唆すること、バリウムを用いた造影が腸閉塞と心タンポナーデの危険があるため現在は推奨されないことを確認した閲覧 2026-09-07
  6. 6.Concurrent congenital peritoneopericardial diaphragmatic hernia and bochdalek hernia in a neonate(SpringerPlus・2014)全文を閲覧。中心腱欠損の発生機序が未解明であること、隔(septum transversum)が完全に欠損したのでは肝も総主静脈(ducts of Cuvier)も形成されないため完全欠損は考えにくく、著者が最も可能性が高い(most likely)とするのは肝の急速な成長で脆弱化した隔の破綻であり、隔の部分的な形成不全は「起こりうる(could result from)」という弱い書き方であること、心膜内脂肪塊による説も挙げられていること、Morgagni孔ヘルニアは剣状突起に隣接する前方横隔膜と胸壁の接合部を通る点で本症と区別されることを確認した閲覧 2026-09-07