疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 全身 · 症候群

COVID-19罹患後症状

Post-COVID-19 condition

別名
long COVIDロングCOVIDpost-COVID-19症候群COVID-19後の症状
臓器系
全身感染症
科目
Pulmonology and Thoracic SurgeryMedical Microbiology
トピック
呼吸器内科 26:ウイルス性肺炎微生物学 3/22:コロナウイルスとフィロウイルス
鑑別疾患
甲状腺機能低下症貧血
関連疾患
筋痛性脳脊髄炎・慢性疲労症候群体位性起立性頻脈症候群
原因微生物
SARS-CoV-2
症状
倦怠感呼吸困難動悸頭痛不眠咳胸痛
元疾患
新型コロナウイルス感染症

🧠 全体像:は、確定できる検査も、病態そのものを治療する薬も無いところから出発する。だから学習の要点は症状の羅列ではなく、①定義が国と機関で一致していないこと、②ME/CFSと大きく重なること、③その重なりの中心に(PEM)があることの3点に絞られる。PEM の有無は診断名の問題ではなくを反転させるである——PEM があるなら運動療法は避け、活動量の調整(ペーシング)へ切り替える。

⚠️ 定義が一致していない

「long COVID の頻度は◯%」という数字を読むときは、まずどの定義かを確かめる。時間の閾値も、必要な症状も、機関ごとに違う。

出所 呼称 時間の条件 特徴
(Delphi合意、2021年オンライン公開/2022年 Lancet Infect Dis 掲載) post condition 発症から通常3か月の時点でみられ、少なくとも2か月持続する1 他の診断で説明がつかないこと。倦怠感・・が代表1
英国 (NG188) ongoing symptomatic / post- syndrome 4〜12週と12週超の2段階2 long COVID は4週以降のすべてを含む通称2
米国 NASEM(2024年6月) Long Covid 少なくとも3か月持続(持続・再発寛解・進行のいずれの経過でもよい)3 感染に関連した慢性状態と位置づけ、1つ以上のに影響するとする3
米国 RECOVER(研究用) PASC 発症・検査から6か月以降の症状調査4 12症状に重み付けしたPASCスコアで陽性を判定する研究用の4
(小児、2023年) 小児の 3か月以内に出現し、少なくとも2か月持続3 成人と条件の立て方が違う。頻度は成人より低い3

⚠️ 日本には定まった定義が無い。 厚生労働省の手引きは、以前は「」を用いていたが、 の post condition の訳語として「後の症状」を採り、本文では「」としている3。用語が違うだけでなく、拠っている定義そのものが違うことを踏まえて文献を読む。

💡 と のずれの実務上の意味。 は4週から拾い上げる立て付けなので、4〜12週で自然軽快する人を多数含む2。 の3か月・2か月という条件は、この自然軽快層をあらかじめ落としている。同じ集団を測っても 定義のほうがは高く出る。

疫学 — 数字は定義に従属する

RECOVER 成人コホートでは、2021年12月1日以降に初感染して感染後30日以内に登録された2,231人のうち、6か月時点で PASC 陽性は224人(10%、95%CI 8.8〜11%)であった4。44症状のうち37症状で感染者と非感染者のが1.5以上であり、症状が感染に帰属しうることが示されている4。

⚠️ この10%は「RECOVER ので、この時期に、この登録条件で」の数字である。 他の研究の数字と並べる前に、定義・観察期間・対照群の有無を突き合わせる。

臨床像 — 単一症状ではなく症状の束

は共通症状を系統別に列挙しており、特定の1症状ではなく複数の症状が束になって現れ、変動することが特徴とされる2。

系統 代表的な症状
呼吸器 、咳
循環器 、胸痛、
全身 倦怠感、発熱、疼痛
神経 ()、頭痛、睡眠障害、()、めまい、高齢者のせん妄、可動性の障害、
消化器 腹痛、悪心・嘔吐、下痢、体重減少・食欲低下
運動器 関節痛、筋痛
、、、味覚・、鼻閉
皮膚 発疹、脱毛
精神 抑うつ・不安・PTSD の症状

⚠️ 小児では呼吸困難・・・・心拍数の変動・胸痛が成人より少ないとされる2。成人の症状リストをそのまま小児に当てない。

⚠️ 労作後倦怠感(PEM)— ME/CFS との接点であり、治療の分岐点

この2つの病名は、の水準で大きく重なっている。 RECOVER-Adult では、急性感染から6か月以上経った時点で 2015年 IOM 基準による ME/CFS を満たしたのは感染群4.5%(531/11,785)、非感染群0.6%(9/1,439)、発症率は 2.66 対 0.93/100人年(4.93)であった5。⭐ さらに、感染後 ME/CFS と判定された531人のうち471人(88.7%)は long COVID の基準も同時に満たしていた5——両者は「鑑別して片方を選ぶ」関係ではなく、大きく入れ子になっている。

その重なりの中心にあるのがである。感染群で最も多い ME/CFS 症状はで24.0%(2,830/11,785)5、RECOVER の PASC スコアでも寄与症状の筆頭に挙がる4。

⚠️ PEM の有無はを反転させる。 厚労省の手引きは、・筋力低下に対しては・・などのリハビリテーションが推奨される一方、労作後の症状悪化(PESE)がみられる場合には運動療法の実施を避け、日々の活動量の調整・環境調整・自己管理の指導を優先すると複数のガイドラインが推奨していることを記している3。リハビリテーションを始める前に、まず労作後の酸素化低下との有無を検討することが ガイドラインで推奨されている3。

💡 ME/CFS でが推奨から外れたのと同じ理屈である。に負荷を漸増する運動療法は、労作で悪化するという病態と正面から衝突する。「動かないから体力が落ちている」と読み替えて負荷を課さない。

診断 — 除外が主で、確定検査は無い

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronavirus disease 2019'>COVID-19</span>後4週以上つづく症状"] --> B{"急性・生命を脅かす合併症の徴候があるか"}
    B -->|"労作時の低酸素・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='O₂ saturation'>酸素飽和度</span>低下<br>重症肺疾患の徴候<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac chest pain'>心臓性胸痛</span><br>PIMS-TS"| C["急性期診療科へ緊急紹介"]
    B -->|"無い"| D["症状に応じた血液検査で他疾患を除外<br>血算・腎機能・肝機能・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='C-reactive protein'>CRP</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferritin'>フェリチン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='B-type natriuretic peptide'>BNP</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycated haemoglobin A1c'>HbA1c</span>・甲状腺機能"]
    D --> E{"別の診断で説明がつくか"}
    E -->|"つく"| F["その疾患として診療する"]
    E -->|"つかない"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-acute sequelae (long COVID)'>罹患後症状</span>として包括的評価<br>PEMの有無を必ず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>する"]
    G --> H{"労作後の症状悪化があるか"}
    H -->|"ある"| I["運動療法を避け、活動量と環境の調整<br>自己管理の指導"]
    H -->|"ない"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='breathing exercise'>呼吸練習</span>・下肢筋力練習・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aerobic exercise'>有酸素運動</span><br>症状増悪時は中止"]
  • SARS-CoV-2 検査が陰性でも除外しない。 は、・抗原・抗体のいずれも陰性であることを理由に、を満たす人を紹介や精査から外してはならないとしている2。流行初期には検査自体が受けられなかった人が多い。
  • 血液検査は「網羅」ではなく「症状に応じて」選ぶ。 が挙げるのは血算・腎機能・肝機能・・・・・甲状腺機能である2。
  • 4週から12週の間に自然軽快する人が多いため、この時期は支援と経過観察を基本とし、改善しない場合に次の紹介を考える2。

鑑別

を「COVID のせい」で止めない。 厚労省の手引きは、がうつ病の一部の症状やの初期症状と類似しうること、 退室後には記憶力・注意力・・の低下が30〜80%にみられることを挙げている3。重症で に入っていた患者では、感染そのものより後の経過が寄与している可能性を考える。

治療

病態そのものを治療する薬物療法のエビデンスは無い。 は「共通症状に対しては既存の治療が使えるが、病態そのものを治療する薬理学的介入のエビデンスは欠けている」と明記している2。したがって治療は、

  1. 症状ごとの対症療法(既存の各症状の標準治療に従う)
  2. 支援(現実的な目標設定、症状が変動することの共有、就労・就学・支援へのつなぎ)2
  3. (身体・心理・精神の各側面を含み、安全に開始できるか先に確認する)2
  4. PEM があるならペーシング(運動療法は避け、活動の優先順位づけと十分な休息を指導する)3

の4本立てになる。⚠️ 「治す薬が無い」と「できることが無い」は別である。 症状の変動を前提に支援の水準を変えること、機能への影響を評価すること、支援へつなぐことが治療の実体になる。

まとめ

  • 定義は (発症から通常3か月・2か月以上持続)・(4〜12週と12週超の2段階)・NASEM(3か月以上)・RECOVER(研究用のPASCスコア)で一致していない。頻度の数字はどの定義かを確かめてから読む。
  • 日本には定まった定義が無く、厚労省の手引きは 定義の訳語として「」を用いている。
  • 症状は単一ではなく系統をまたぐ束として現れ、変動する。小児では呼吸器・循環器症状が成人より少ない。
  • ME/CFS と大きく重なる。 感染後 ME/CFS の88.7%は long COVID 基準も満たす。両者は排他的な鑑別ではない。
  • PEM(労作後の症状悪化)の有無を必ずする。 あれば運動療法を避けて活動量・環境の調整へ切り替える。リハビリ開始前に労作後の酸素化低下とを確認する。
  • はうつ病・認知症初期・後の(退室後30〜80%)と重なる。検査が正常であることをの根拠にしない。
  • 病態そのものを治す薬は無い。対症療法・支援・・ペーシングを組み合わせる。

出典

  1. 1.A clinical case definition of post-COVID-19 condition by a Delphi consensus(The Lancet Infectious Diseases・2022)患者・臨床家・研究者・WHO職員265人による2巡のDelphi法(14領域45項目を評価)で成人の合意定義が作られ、「post-COVID-19 conditionは、SARS-CoV-2感染の疑いまたは確定の既往がある人に、通常は発症から3か月の時点でみられ、少なくとも2か月持続し、他の診断では説明がつかない症状として生じる」とされたこと、よくみられる症状として倦怠感・息切れ・認知機能障害が挙げられ日常生活の機能に影響を及ぼすとされたこと、急性期からの回復後に新規に出現する場合と急性期から持続する場合があり、変動・再燃しうるとされたこと、小児には別の定義が当てはまりうるとされたこと、ICD-10ではpost-COVID-19 conditionとして2020年9月から収載されていること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-03
  2. 2.COVID-19 rapid guideline: managing the long-term effects of COVID-19 (NG188)(National Institute for Health and Care Excellence・2024)臨床上の症例定義を3つに分け、急性COVID-19を発症から4週まで、ongoing symptomatic COVID-19を4週から12週まで、post-COVID-19 syndromeを12週を超えて持続し他の診断で説明できないものとしていること、long COVIDという語がこの後2者(4週以降すべて)を含む通称として使われるとしていること、SARS-CoV-2検査が陰性でも症例定義を満たせば紹介や精査から除外してはならないとしていること、労作時の低酸素血症・酸素飽和度低下、重症肺疾患の徴候、心臓性胸痛、PIMS-TSがあれば急性期診療科へ緊急紹介するとしていること、血液検査は症状に応じて選び血算・腎機能・肝機能・CRP・フェリチン・BNP・HbA1c・甲状腺機能を含みうるとしていること、共通症状として呼吸器(息切れ・咳)・循環器(胸部絞扼感・胸痛・動悸)・全身(倦怠感・発熱・疼痛)・神経(認知機能障害いわゆるbrain fog・頭痛・睡眠障害・末梢神経症状・めまい・高齢者のせん妄・可動性の障害・視覚障害)・消化器・運動器・耳鼻咽喉(耳鳴・耳痛・咽頭痛・味覚嗅覚障害・鼻閉)・皮膚(発疹・脱毛)・精神(抑うつ・不安・PTSD症状)を列挙していること、4週から12週の間に自然軽快する人が多いこと、病態そのものを治療する薬物療法のエビデンスは欠けていると明記していること閲覧 2026-09-03
  3. 3.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版(厚生労働省・2025)国内における定義は定まっておらず本手引きがこれまで「遷延症状」を用いてきたこと、WHOの「post COVID-19 condition」を「COVID-19後の症状」と訳したうえで本手引きでは「罹患後症状」としたこと、参考としてNASEMの2024年6月のLong Covid定義(SARS-CoV-2感染後に生じる感染関連の慢性状態で、持続・再発寛解・進行しながら少なくとも3か月持続し、1つ以上の臓器系に影響するもの)を併記していること、WHO専門家パネルの小児の定義が「確定または強く疑われたCOVID-19の後3か月以内に出現し少なくとも2か月以上続く」であり成人と異なること、ブレインフォグがうつ病の一部の症状・アルツハイマー病初期・ICU退室後の認知障害(30〜80%にみられる)と類似しうること、ME/CFSやPOTSに類似した症状が現れることがあり両者とも明確なバイオマーカーが無く治療法も確立していないこと、労作後の症状悪化(PESE)がみられる場合には運動療法の実施を避け活動量・環境の調整と自己管理の指導を優先すると複数のガイドラインが推奨していること、リハビリテーションの前にまず労作後の酸素化低下と心機能障害の有無を検討することがWHOガイドラインで推奨されていること閲覧 2026-09-03
  4. 4.Development of a Definition of Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection(JAMA・2023)RECOVER成人コホートの9,764人(89%が感染者、女性71%、年齢中央値47歳)で急性発症または検査日から6か月以上後の症状調査を解析し、44症状のうち37症状で感染者対非感染者の調整オッズ比が1.5以上だったこと、PASCスコアに寄与した症状が労作後倦怠感・倦怠感・brain fog・めまい・消化器症状・動悸・性欲や性機能の変化・嗅覚味覚の消失または変化・口渇・慢性咳嗽・胸痛・異常運動であったこと、2021年12月1日以降に初感染し感染後30日以内に登録された2,231人のうち6か月時点でPASC陽性が224人(10%、95%CI 8.8〜11%)であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-03
  5. 5.Incidence and Prevalence of Post-COVID-19 Myalgic Encephalomyelitis: A Report from the Observational RECOVER-Adult Study(Journal of General Internal Medicine・2025)急性感染から6か月以上経過した最初の受診時点で、感染群では11,785人中531人(4.5%)が2015年IOM臨床診断基準を満たしたのに対し非感染群では1,439人中9人(0.6%)であったこと、ME/CFSの発症率が感染群2.66(95%信頼区間2.63〜2.70)/100人年に対し傾向スコアで対応させた非感染群では0.93(95%信頼区間0.91〜0.95)/100人年でハザード比4.93(95%信頼区間3.62〜6.71)であったこと、感染群で最も多いME/CFS症状が労作後倦怠感で11,785人中2,830人(24.0%)であったこと、感染後ME/CFSと判定された531人のうち471人(88.7%)がRECOVERのlong COVID基準も同時に満たしていたこと閲覧 2026-09-03