呼吸器学

呼吸器学 · 26

ウイルス性肺炎

Viral pneumonia

前提:病態
オルソミクソウイルス(インフルエンザ)コロナウイルス
微生物
Influenza A virus
疾患
COVID-19罹患後症状新型コロナウイルス感染症

ポッドキャスト

🧠 全体像:は、ウイルスが肺胞・へ感染して生じる肺炎である。成人ではインフルエンザ、SARS-CoV-2、高齢者・免疫不全者ではRSウイルスも重要で、小児ではRSウイルスが主要病原体となる。発熱、咳、呼吸困難を認めたら、病原体、発症時期、重症化リスクを早期に同定し、適応のある抗ウイルス薬と支持療法を行う。

共通する診断

  • 症状:発熱、咳、呼吸困難、倦怠感。低酸素血症は重症化の徴候
  • または抗原検査
  • 、重症例で
  • 胸部X線・:両側性・多発性浸潤影、など
  • 細菌性、心不全、肺塞栓症、を鑑別

抗菌薬はそのものには効かない。、局在性浸潤影、再発熱、培養などから細菌性を疑う場合に使用する。

インフルエンザ

A型・B型・C型による感染症で、主に冬季に流行する。A型はのとで亜型を分類する。により新しい株・亜型が出現する。

臨床像

  • 急激な高熱、頭痛、筋痛、倦怠感
  • 、
  • は正常〜軽度上昇のことがある

原発性インフルエンザ肺炎

ウイルスが肺実質へ直接感染し、の2〜5日後に呼吸困難、低酸素血症、チアノーゼが急速に悪化する。または減少を認め、胸部X線で周囲うっ血様陰影、びまん性・多巣性浸潤影を示す。とへ進行しうる。

二次性細菌性肺炎

一旦改善後に再発熱・・局在性浸潤影が出現する。肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、などを考え、培養採取後に経験的抗菌薬を開始する。

治療と予防

以下の抗ウイルス薬はインフルエンザA型・B型を対象とする。

COVID-19

COVID-19はSARS-CoV-2による感染症である。SARS-CoV-2はエンベロープを持つ非分節・ウイルスである。

構造と細胞侵入

主な機能
宿主の()へ結合
エンベロープ蛋白 形成・放出
膜蛋白 の
蛋白 ゲノムを包装

16個のが複製・転写複合体を形成する。がへ結合し、2(TMPRSS2)などで活性化された後、・、翻訳・複製、組立、放出が進む。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory droplets'>飛沫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aerosol'>エアロゾル</span>を吸入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spike protein'>スパイク蛋白</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiotensin-converting enzyme 2'>ACE2</span>へ結合"]
  B --> C["TMPRSS2などで活性化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane fusion'>膜融合</span>"]
  C --> D["ウイルス<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>の翻訳・複製"]
  D --> E["新規<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ウイルス粒子</span>の組立・放出"]
  E --> F["肺胞上皮の直接障害"]
  E --> G["免疫応答の異常活性化"]
  F --> H["肺炎・低酸素血症"]
  G --> H

臨床像と診断

発熱、咳、呼吸困難、倦怠感、、嗅覚・などを示す。等のまたは抗原検査で診断し、重症度に応じ血液検査、胸部X線、超音波、を追加する。

COVID-19の治療

治療は流行株、免疫状態、発症日、重症化リスク、、腎肝機能、薬物相互作用で決める。

非入院・非重症患者

薬剤 機序 主な位置づけ
/ がを阻害し、が代謝を遅らせる 高リスク患者で発症5日以内。重大な薬物相互作用と腎肝機能を確認
依存性ポリメラーゼを阻害する 高リスク患者で発症7日以内、3日間静注が選択肢
ウイルスへ変異を蓄積させ複製を阻害 他の推奨薬が使えない成人の代替。妊娠中は避け、妊娠可能な患者とそのパートナーは避妊する

高リスクの軽症・中等症例では、/を発症5日以内、3日間のを7日以内に開始する。両剤が使用できない場合にを代替とする。低リスクの軽症例は症状観察と支持療法が中心である。抗ウイルス薬の地域承認・推奨は更新されるため、最新指針を確認する。3

⚠️ この3剤の並びは米国の枠組みである。 についてはの判断が違う。EMAの人用医薬品委員会は2023年2月23日、非入院・未接種で重症化リスクをもつ成人1,400例超を対象とした主要試験のデータでは入院・死亡の低減も・回復までの時間の短縮もできず、明確な有益性を示せる患者集団も特定できなかったとして、販売承認を推奨しない意見を出した。4 抗ウイルス薬の位置づけはごとに違いうるので、「代替薬」と書くときはどの国の枠組みの話かを添える。

入院患者

効果が否定された薬・使われなくなった薬

治療の歴史が短く更新が速いため、「かつて使われた」薬と「今使う」薬を区別できることが重要である。2022年頃までの資料には、現在の指針に残っていない薬が多く登場する。

薬・分類 現在の位置づけ
中和モノクローナル抗体(/、/、、) を標的とするため、変異の蓄積とともに活性を失う。上の外来治療の一覧に残っていないのはこのためである3。の側でも、米国ではREGEN-COV(+)・・のが2024年12月13日付で取り消された7
患者にとって重要なのいずれにも利益が示されていない
、、、アスピリン、阻害薬/ いずれも標準治療と区別できない
/ 高い確実性で有害(有害事象による中止が増える)
症状の持続期間を短縮しうるが、入院を減らす根拠はない
は重症入院例でのな使用に反対する(条件付き推奨・確実性は低い)5

⚠️ 「効果が否定された」と「優先薬が入手できないときの代替」を同じ箱に入れない。 ・・は、上の入院患者の項のとおり条件付きの選択肢として現行指針に残っている。上の表に並ぶのは、利益が示されなかった薬と有害が示された薬である。5

⭐ なぜモノクローナル抗体だけが陳腐化し、小分子抗ウイルス薬は生き残ったのか。 モノクローナル抗体はウイルス表面のという、を受けて最も速く変異する部位に結合する。一方、が阻害するやが阻害する依存性ポリメラーゼはウイルスの複製に必須で変異の余地が小さいである。標的の選び方が、その薬が変異を越えて使い続けられるかを決めた。

⚠️ 授業資料との差:2022年時点の授業資料は、中和モノクローナル抗体を入院・死亡を70〜87%減らす治療として表で提示し、・抗ヒスタミン薬・薬剤リにも多くの紙幅を割いている。授業資料自身が「オミクロンBA.1に対して無効、BA.2に対して活性低下」と注記しているとおり、抗体製剤の陳腐化はすでに始まっており、その後も進んだ。259試験・166,230人を対象とする2025年のでは、は患者にとって重要なのいずれについても標準治療と区別できず、/は有害だった。 現在も利益が確認されているのは、/と(いずれも入院減少、中等度の確実性)である。8

あわせて出典の質にも注意する。 授業資料のの項は、特定の薬の有効性を主張する目的で運営されている集計サイトを引用しており、査読を経た系統的レビューと同列に扱えない。「どんな研究が集められたか」「誰が集めたか」を確認する習慣が、この領域では特に重要になる。授業資料の治療表の出典であるNIHの診療指針も2022年9月版であり、その後の改訂を反映していない。

まとめ

  • では病原体検査、酸素化、細菌性の評価が重要である。
  • 重症・高リスクのインフルエンザは発症48時間を超えても抗ウイルス薬を開始する。
  • の抗ウイルス薬は発症早期の高リスク患者で用い、相互作用と臓器機能を確認する。
  • 酸素を要するでは全身性ステロイドを用いるが、酸素不要例にはに投与しない。
  • 中和モノクローナル抗体はの変異で失活し、現行の治療一覧から外れた。米国ではREGEN-COV・・のも2024年12月に取り消されている。など利益が否定された薬と区別して覚える。
  • 免疫調節薬は「優先されるもの」と「優先薬が使えないときの代替」を分けて覚える。、、は代替として現行指針に残っており、効果が否定された薬ではない。
  • 抗ウイルス薬の位置づけは国ごとに違う。は米国では代替薬として残るが、では販売承認が推奨されていない。

出典

  1. 1.Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians(Centers for Disease Control and Prevention・2026)入院・重症・進行性・高リスクのインフルエンザでは検査確定や発症48時間を待たずオセルタミビルを開始し、吸入ザナミビルを喘息・COPD患者に用いないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Summary of WHO clinical practice guidelines for influenza(World Health Organization・2026)WHO 2024指針では非重症インフルエンザの重症化高リスク例に発症48時間以内のバロキサビル、重症例にオセルタミビルを条件付きで推奨することを確認した。閲覧 2026-08-09
  3. 3.COVID-19 Treatment Clinical Care for Outpatients(Centers for Disease Control and Prevention・2026)高リスク非入院患者でニルマトレルビル/リトナビルを発症5日以内、3日間レムデシビルを7日以内に開始し、モルヌピラビルを代替薬とする位置づけを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Refusal of the marketing authorisation for Lagevrio (molnupiravir)(European Medicines Agency・2023)PDF(EMA/82948/2023 Rev.1)を自分で取得して確認した。EMAの人用医薬品委員会は2023年2月23日、非入院・未接種で重症化リスクのある成人1,400例超の主要試験のデータでは入院・死亡の低減も罹病期間・回復までの時間の短縮も結論できず、明確な有益性を示せる患者集団も特定できなかったとして、モルヌピラビルの販売承認を推奨しない意見を出した。閲覧 2026-09-21
  5. 5.IDSA Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19(Infectious Diseases Society of America・2025)酸素を要する重症・重篤例で全身性ステロイドを用い、進行例ではトシリズマブまたはバリシチニブを追加し、酸素不要例では全身性ステロイドを用いないことを確認した。閲覧 2026-08-02
  6. 6.American Society of Hematology living guidelines on use of anticoagulation for thromboprophylaxis for patients with COVID-19: executive summary(American Society of Hematology・2025)COVID-19入院例で、重篤例は予防強度を優先し、非重篤の急性入院例は血栓・出血リスクに応じ治療強度も条件付きで選択することを確認した。閲覧 2026-08-02
  7. 7.Revocation of Emergency Use of a Drug Product During the COVID-19 Pandemic; Availability(U.S. Food and Drug Administration(Federal Register 90 FR 35685)・2025)官報告示の全文を自分で取得して確認した。FDAはREGEN-COV(カシリビマブ+イムデビマブ、EUA 091)・ソトロビマブ(EUA 100)・EVUSHELD(チキサゲビマブ+シルガビマブ、EUA 104)・ベブテロビマブ(EUA 111)の4件の緊急使用許可を2024年12月13日付で取り消した。取消しはいずれも企業側の申請によるもので、根拠条項は FD&C Act 564(g)(2)(C) である。本告示にバムラニビマブ/エテセビマブは含まれない。閲覧 2026-09-21
  8. 8.Drug treatments for mild or moderate covid-19: systematic review and network meta-analysis(BMJ・2025)259試験・166,230人を対象としたネットワークメタ解析で、ニルマトレルビル/リトナビルとレムデシビルが入院を減らす可能性が高い一方、イベルメクチン・ヒドロキシクロロキン・コルヒチン・フルボキサミン・アスピリン・ACE阻害薬/ARBは標準治療と区別できず、ロピナビル/リトナビルは高い確実性で有害であること、ファビピラビルなどは症状持続期間を短縮しうるが入院は減らさないこと、モノクローナル抗体は本レビューの対象外であることを確認した。閲覧 2026-09-09