Microbe Atlas · ウイルス
Influenza B virus
B型インフルエンザウイルス
🧠 全体像:B型インフルエンザウイルス influenza virus インフルエンザウイルス(influenza virus) influenza virus(インフルエンザウイルス) をA型から分かつ最大の違いは「動物リザーバーanimal reservoir 動物リザーバー(animal reservoir)animal reservoir(動物リザーバー) を持たない」という一点に尽きる。ヒトにほぼ限定されているため、A型の特徴である遺伝子再集合reassortment 遺伝子再集合(reassortment)reassortment(遺伝子再集合) (抗原シフトantigenic shift抗原シフト(antigenic shift)antigenic shift(抗原シフト))が起こらず、世界的大流行pandemic 世界的大流行(pandemic)pandemic(世界的大流行) (パンデミックpandemicパンデミック(pandemic)pandemic(パンデミック))を起こさない——これがA型・B型・C型のうちB型だけを覚える際の一番のポイントである。抗原性antigenicity 抗原性(antigenicity)antigenicity(抗原性) で山形系統Yamagata lineage山形系統(Yamagata lineage)Yamagata lineage(山形系統)とビクトリア系統Victoria lineageビクトリア系統(Victoria lineage)Victoria lineage(ビクトリア系統)の2系統に分かれ、学童期の良性急性小児筋炎の原因としてはA型より目立つ。
構造とゲノム
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 科・ゲノム | Orthomyxoviridae科。負鎖negative-sense (strand) 負鎖(negative-sense (strand))negative-sense (strand)(負鎖) (−)一本鎖RNA single-stranded RNA一本鎖RNA(single-stranded RNA) single-stranded RNA(一本鎖RNA)を8分節に分けて持つ。核内で複製する |
| 外殻outer shell (outer layer)外殻(outer shell (outer layer))outer shell (outer layer)(外殻) | エンベロープあり、らせん対称helical symmetryらせん対称(helical symmetry)helical symmetry(らせん対称)。表面にHA(ヘマグルチニンhemagglutinin (HA)ヘマグルチニン(hemagglutinin (HA))hemagglutinin (HA)(ヘマグルチニン))とNA(ノイラミニダーゼneuraminidaseノイラミニダーゼ(neuraminidase)neuraminidase(ノイラミニダーゼ))を持つ |
| M2蛋白M2 proteinM2蛋白(M2 protein)M2 protein(M2蛋白) | A型のM2に相当する独自の膜蛋白(BM2)を持つが構造が異なり、アマンタジンamantadine アマンタジン(amantadine)amantadine(アマンタジン) の標的にならない |
| 系統 | 抗原性antigenicity 抗原性(antigenicity)antigenicity(抗原性) により山形系統Yamagata lineage山形系統(Yamagata lineage)Yamagata lineage(山形系統)とビクトリア系統Victoria lineageビクトリア系統(Victoria lineage)Victoria lineage(ビクトリア系統)の2系統に分岐している |
⚠️ 山形系統Yamagata lineage 山形系統(Yamagata lineage)Yamagata lineage(山形系統) は近年の流行から事実上姿を消した。 2020年3月以降、自然界で発生した山形系統 Yamagata lineage 山形系統(Yamagata lineage) Yamagata lineage(山形系統) の確定検出例が世界のサーベイランス surveillance サーベイランス(surveillance) surveillance(サーベイランス) で報告されていない。これを受けてWHOWHO(World Health Organization)のワクチン組成諮問委員会 advisory committee 諮問委員会(advisory committee) advisory committee(諮問委員会) は2023年9月以降「4価ワクチンに山形系統 Yamagata lineage 山形系統(Yamagata lineage) Yamagata lineage(山形系統) 抗原を組み入れる正当性は無い」と判断し、WHOは各国へできるだけ早く除外するよう勧告している1——季節性インフルエンザワクチン seasonal influenza vaccine 季節性インフルエンザワクチン(seasonal influenza vaccine) seasonal influenza vaccine(季節性インフルエンザワクチン) が3価(A型2株+B/ビクトリア系統Victoria lineage ビクトリア系統(Victoria lineage)Victoria lineage(ビクトリア系統) 1株)へ移行している背景である。
病原性の仕組み
増殖過程はA型と同じくHAがシアル酸 sialic acid シアル酸(sialic acid) sialic acid(シアル酸) に結合→エンドサイトーシス→脱殻 uncoating 脱殻(uncoating) uncoating(脱殻) →核内複製 endomitosis 内複製(endomitosis) endomitosis(内複製) →NAによるビリオン virion ビリオン(virion) virion(ビリオン) 遊離という流れをたどる(詳細はInfluenza A virusを参照)。B型・C型がパンデミック pandemic パンデミック(pandemic) pandemic(パンデミック) を起こさない理由は、この増殖機序ではなく変異の様式にある。
| 項目 | 抗原ドリフトantigenic drift 抗原ドリフト(antigenic drift)antigenic drift(抗原ドリフト) (B型で起こる) | 抗原シフトantigenic shift 抗原シフト(antigenic shift)antigenic shift(抗原シフト) (B型では起こらない) |
|---|---|---|
| 機序 | HA・NA遺伝子の点変異の蓄積 | 2株の共感染 coinfection 共感染(coinfection) coinfection(共感染) による分節ごとの遺伝子再集合 reassortment遺伝子再集合(reassortment) reassortment(遺伝子再集合) |
| 成立に必要な条件 | 変異が蓄積する時間だけ | 別の亜型を保有する動物宿主との共感染 coinfection共感染(coinfection) coinfection(共感染) |
| B型での成立 | 成立する(季節性流行の原因) | 成立しない——ヒトにほぼ限定され、混ぜる相手となる動物リザーバー animal reservoir 動物リザーバー(animal reservoir) animal reservoir(動物リザーバー) が存在しない |
⭐ 「B型・C型がパンデミック pandemic パンデミック(pandemic) pandemic(パンデミック) を起こさない」=「混ぜる相手がいない」から。 抗原シフトantigenic shift 抗原シフト(antigenic shift)antigenic shift(抗原シフト) には別の亜型を保有する動物宿主との共感染 coinfection 共感染(coinfection) coinfection(共感染) が要る。A型は水禽 waterfowl水禽(waterfowl) waterfowl(水禽)・ブタという巨大な動物プールを持つが、B型はヒトにほぼ限定されるため、そもそも再集合 reassortment 再集合(reassortment) reassortment(再集合) の材料となる多様な亜型プールが存在しない。
感染経路と疫学
- 飛沫感染が主体
- ヒトがほぼ唯一の宿主(アザラシでの散発 sporadic 散発(sporadic) sporadic(散発) 的な検出例が報告されているが疫学的な意味は乏しい)
- A型と同じ季節(冬季)に流行し、毎シーズンA型と共に、あるいは単独で流行する
- 学童・小児での罹患率 incidence rate 罹患率(incidence rate) incidence rate(罹患率) が相対的に高い傾向がある
起こす疾患
| 病型 | 特徴 |
|---|---|
| 季節性インフルエンザ | 臨床像はA型と区別できない(発熱・咳嗽・咽頭痛sore throat咽頭痛(sore throat)sore throat(咽頭痛)・筋痛・倦怠感)。詳細はインフルエンザを参照 |
| 良性急性小児筋炎 | 学童期に下腿(ふくらはぎ)の筋痛で歩けなくなる病型。インフルエンザ関連筋炎316例の解析では原因ウイルスの76%がB型(A型は24%)で、インフルエンザの発症から中央値3日(範囲0〜18日)で筋炎が現れ、下腿の筋だけが障害されたものが69%、CPKは例外なく上昇し、臨床的回復までの中央値も3日(範囲1〜30日)だった2 |
| 横紋筋融解症rhabdomyolysis横紋筋融解症(rhabdomyolysis)rhabdomyolysis(横紋筋融解症) | 同じ316例では10例(3%)にとどまるが、そのうち86%はA型に関連していた(B型ではなくA型寄り)。8例(80%)が腎不全に至っており、筋炎そのものより重い2 |
| ライ症候群Reye syndromeライ症候群(Reye syndrome)Reye syndrome(ライ症候群) | 罹患中のアセチルサリチル酸acetylsalicylic acidアセチルサリチル酸(acetylsalicylic acid)acetylsalicylic acid(アセチルサリチル酸)(アスピリン)投与で誘発されうる——小児へのアスピリンは禁忌 |
診断
- 迅速抗原検査rapid antigen detection test, RADT迅速抗原検査(rapid antigen detection test, RADT)rapid antigen detection test, RADT(迅速抗原検査)・RT-PCRRT-PCR(reverse transcription polymerase chain reaction)でA型と鑑別しながら同定する(詳細はInfluenza A virusを参照)
治療と予防
| 薬剤 | 有効性 |
|---|---|
| オセルタミビルoseltamivirオセルタミビル(oseltamivir)oseltamivir(オセルタミビル)(NA阻害薬) | A型・B型ともに有効——NA阻害薬はA型・B型の両方に活性を持つ3 |
| バロキサビルbaloxavirバロキサビル(baloxavir)baloxavir(バロキサビル)(cap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬cap-dependent endonuclease inhibitorcap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(cap-dependent endonuclease inhibitor)cap-dependent endonuclease inhibitor(cap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬)) | A型・B型ともに有効 |
| アマンタジンamantadineアマンタジン(amantadine)amantadine(アマンタジン)(M2阻害薬) | 無効——アダマンタン系はA型のM2イオンチャネル蛋白を標的とするため、B型には作用しない3 |
⚠️ アマンタジンamantadine アマンタジン(amantadine)amantadine(アマンタジン) がB型に効かないのは「種としての自然耐性 intrinsic resistance自然耐性(intrinsic resistance) intrinsic resistance(自然耐性)」であり、治療中に獲得される耐性ではない。 B型はA型のM2に相当する膜蛋白としてBM2を持つが構造が異なり、薬の標的にならない。なおアダマンタン系は、循環するA型ウイルスに広範な耐性があるためA型に対しても米国では現在推奨されていない3——「B型だけに効かない薬」ではなく「実質使われない薬」として押さえる。
- 予防は年次ワクチン接種が柱。3価はA型2株+B/ビクトリア系統Victoria lineage ビクトリア系統(Victoria lineage)Victoria lineage(ビクトリア系統) 1株、4価はA型2株+B型2系統(ビクトリア・山形)という構成で、不活化ワクチンinactivated vaccine 不活化ワクチン(inactivated vaccine)inactivated vaccine(不活化ワクチン) でも弱毒生ワクチン attenuated live viral vaccines 弱毒生ワクチン(attenuated live viral vaccines) attenuated live viral vaccines(弱毒生ワクチン) でもB型株が組み込まれる。山形系統Yamagata lineage 山形系統(Yamagata lineage)Yamagata lineage(山形系統) 抗原を外した3価への切り替えが各国で進み、2025年5月時点で少なくとも40か国が3価を使用中または移行中である1
まとめ
- B型インフルエンザウイルス influenza virus インフルエンザウイルス(influenza virus) influenza virus(インフルエンザウイルス) はA型と同じOrthomyxoviridae科・8分節ゲノムだが、ヒトにほぼ限定され動物リザーバー animal reservoir 動物リザーバー(animal reservoir) animal reservoir(動物リザーバー) を持たない。
- 山形系統Yamagata lineage山形系統(Yamagata lineage)Yamagata lineage(山形系統)・ビクトリア系統Victoria lineage ビクトリア系統(Victoria lineage)Victoria lineage(ビクトリア系統) の2系統があり、山形系統Yamagata lineage 山形系統(Yamagata lineage)Yamagata lineage(山形系統) は2020年3月以降自然発生 spontaneous 自然発生(spontaneous) spontaneous(自然発生) 株の確定検出例がない。WHOは2023年9月以降その抗原を外すよう勧告し、3価ワクチンへの移行が進んでいる。
- 抗原ドリフトantigenic drift 抗原ドリフト(antigenic drift)antigenic drift(抗原ドリフト) は起こすが抗原シフトantigenic shift 抗原シフト(antigenic shift)antigenic shift(抗原シフト) は起こさない——混ぜる相手となる動物宿主がいないため、A型と違いパンデミック pandemic パンデミック(pandemic) pandemic(パンデミック) を起こさない。
- 臨床像はA型と区別できないが、学童期の良性急性小児筋炎はB型が約4分の3を占める。一方で横紋筋融解症rhabdomyolysis 横紋筋融解症(rhabdomyolysis)rhabdomyolysis(横紋筋融解症) はA型寄りなので、この2つを混ぜない。
- 治療はオセルタミビル oseltamivirオセルタミビル(oseltamivir) oseltamivir(オセルタミビル)・バロキサビルbaloxavir バロキサビル(baloxavir)baloxavir(バロキサビル) が有効だが、アマンタジンamantadine アマンタジン(amantadine)amantadine(アマンタジン) は無効(BM2蛋白BM2 protein BM2蛋白(BM2 protein)BM2 protein(BM2蛋白) の構造がA型のM2と異なるため標的にならない自然耐性 intrinsic resistance自然耐性(intrinsic resistance) intrinsic resistance(自然耐性))。アダマンタン系はA型にも耐性が広がっており実質使われない。
出典
- 1.Frequently Asked Questions: Transitioning to Trivalent Seasonal Influenza Vaccines(World Health Organization・2025)同PDFの本文を取得して確認した。2020年3月以降「自然に発生したB/Yamagata系統ウイルスの確定検出が引き続き無い」ことを根拠に、WHOのワクチン組成諮問委員会が2023年9月以降は4価ワクチンへ山形系統抗原を組み入れる正当性は無いと判断し、WHOが各国へできるだけ早い除外を勧告していること。3価がA型2亜型(H1N1・H3N2)+B型1系統(ビクトリア)、4価がA型2株+B型2系統(ビクトリア・山形)という構成であること。2025年5月時点で少なくとも40か国が3価を使用中または移行中であり、移行の判断は各国・地域の当局が行うとされていること。閲覧 2026-09-27
- 2.Influenza-associated myositis in children(Infection(Agyeman P, et al.)・2004)Europe PMC の抄録(PMID 15293074)で確認した。スイスの2大学病院の5例に文献報告(個別症例報告39例と、計272例をまとめた5編)を加えた計316例の解析で、インフルエンザ関連筋炎が学童期に多く男児が女児の約2倍であること、原因ウイルスはB型76%・A型24%であること、インフルエンザ発症から筋炎発症までの中央値が3日(範囲0〜18日)、下腿の筋のみの障害が69%、CPK が例外なく上昇し臨床的回復までの中央値が3日(範囲1〜30日)であること。横紋筋融解症は316例中10例(3%)にとどまり、女児に多く(80%)、むしろA型との関連が多く(86%)、うち8例(80%)が腎不全に至ったこと。全文は未取得で、確認した範囲は抄録にとどまる。閲覧 2026-09-27