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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 先天性疾患

停留精巣

Cryptorchidism

臓器系
腎・泌尿器生殖・産婦人科
科目
PathologyUrologyPediatrics
トピック
病理学 C-80:精巣・精巣上体の炎症性病変/停留精巣/精巣萎縮泌尿器科学 U-03:尿道・男性外性器の発生異常小児科 16:精巣捻転・卵巣捻転、停留精巣
続発疾患
精巣捻転・卵巣捻転精巣腫瘍
関連疾患
プルーンベリー症候群鼠径ヘルニア尿道下裂
症状
腫脹
検査値
hCG負荷試験
元疾患
WAGR症候群
原因となる疾患
5α還元酵素欠損症Cornelia de Lange症候群下垂体茎断裂症候群
適応薬
ヒト絨毛性ゴナドトロピン

🧠 全体像:は腹腔内相(アンドロゲン非依存、INSL3・が主役)と鼠径陰嚢相(アンドロゲン依存)の2段階からなり、どちらの相で停止したかがの局在(腹腔内〜内)を決める。臨床の骨格は、①・(retractile testis)・を触診で鑑別すること、②触知できるか否かで検索方針(触診だけで完結するか、腹腔鏡まで要するか)が分かれること、③生後6か月時点でがなければ、遅くとも生後18か月までにを終えるという年齢の物差しを外さないことの3点に集約される。悪性化リスク・はいずれも「下降しないまま放置された期間」に比例して積み上がるため、治療の本質はではなく時間との勝負である。

概要

  • 定義:または両側の精巣が、腹腔内から陰嚢底部までの正常な下降経路を完了できず、陰嚢内の生理的位置に到達していない状態。泌尿生殖器のとして最も頻度が高い。
  • 疫学:の1〜4%、早産児・では約30%に認められる。多くは生後6か月までにし、その時点でなお下降していない児の頻度は約1%まで低下する。片側性が多いが、両側性も最大30%に及ぶ1。
  • 発生学的背景(の機序):は連続する2つの相からなる。
    1. 腹腔内相:精巣が腎付近から骨盤内・内鼠径輪付近まで移動する。INSL3(精巣由来)との肥大が主体で、テストステロンには非依存的。
    2. 鼠径陰嚢相:精巣がを通過し陰嚢まで下降する。テストステロン依存性で、を介したCGRP(calcitonin gene-related peptide)分泌がの牽引を導くとされる。
    • どちらの相が障害されるかにより、部位は腹腔内〜内〜陰嚢上方まで幅広く分布する。
  • 病因・危険因子:大部分は特発性。関与しうる要因として、のホルモン異常、精巣自体の異常、・の発生異常が挙げられる。危険因子は早産、、、家族歴など。、、などの症候群に伴うこともある。

病態と分類

という言葉は「下降経路のどこかで止まった精巣」を指すが、臨床的には似て非なる3つの状態を鑑別することが診療の出発点になる。

病型 定義 触診所見 対応
正常な下降経路(腹腔内〜〜陰嚢上方)のどこかで発育が停止し、その位置にとどまる 陰嚢までに誘導できない、または誘導しても保持できずすぐ戻る 手術適応()
精巣自体は正常に陰嚢まで下降済みだが、強いにより内へ引き上げられている 陰嚢まで誘導でき、牽引を解いてもしばらく陰嚢内にとどまる(テンションなく保持できる) 手術不要。への移行がないか年1回の経過観察を行う
は正常に通過したが、正常な下降経路から外れた異常な部位(浅鼠径嚢、会陰、大腿、恥骨上、対側陰嚢など)に 陰嚢外の異常な部位に触知される 手術適応()
(ascending/acquired undescended testis) 乳児期に陰嚢内・として確認されていた精巣が、成長とともに二次的に方向へ上昇する 経過観察中に位置が変化する 手術適応。との鑑別のため定期診察が重要

💡 との違いは「陰嚢まで誘導できるか」だけでなく「テンションなく陰嚢内にとどまれるか」で判定する。誘導直後に手を離すとすぐへ跳ね上がる場合はとして扱う。

臨床像

  • 触知できるか否かで大きく2群に分かれる:型(約80%、内〜外鼠径輪付近に触れる)と非触知型(約20%、腹腔内に存在するか、精巣そのものが欠損している(・vanishing testis)可能性を含む)。
  • 片側性が多いが、両側性の場合はがより高い。
  • 患側の陰嚢は低形成でしぼんで見えることが多い。
  • にによるを合併することが少なくなく、腫脹や可能な鼠径腫瘤を伴って気づかれることもある。
  • 思春期以降になって初めて発見される例(見逃されていた例、二次性のを含む)もあり、対応が乳幼児例とは異なる(後述)。

診断

診察手技

  1. 暖かい部屋で児をリラックスさせる(冷所・不安・はを強め、をと誤認しやすくする)。
  2. 仰臥位または安座位で、からに沿って陰嚢方向へ片手で圧をかけながら精巣を追い、もう一方の手を陰嚢に置いて精巣を捕捉する。
  3. 捕捉できたら陰嚢内へ誘導し、手を離してもテンションなく陰嚢内にとどまるかを確認する(との鑑別)。
  4. 触知できない場合は、対側の精巣サイズ(の有無)、の合併、外性器の性分化異常を示唆する所見がないかも合わせて確認する。

画像検査の位置づけと限界

⚠️ 触知できない精巣の局在診断において、超音波・・はいずれも感度・特異度が不十分であり、腹腔内精巣の存在・位置を確実に除外・同定できない。現行のAUAガイドラインは、専門医紹介前のルーチンの画像検査を明確に推奨しない(意思決定に資することがまれなため)としている2。も「画像検査では精巣が存在するかどうかを確実に判定できない」としている1。画像は「非触知精巣だから撮る」ものではなく、撮っても手術方針を変えないことが多い点を理解しておく。

非触知精巣の検索:腹腔鏡の適応

非触知精巣の確定的な局在診断・決定は、全身麻酔下の再診察に続くが標準的手段である。

flowchart TD
    A["非触知精巣(診察上、陰嚢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='groin'>鼠径部</span>に触れない)"] --> B["全身麻酔導入後に再診察<br>(筋弛緩により<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpable'>触知可能</span>になることがある)"]
    B --> C{"麻酔下で触知できるか"}
    C -->|"できる"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpable'>触知可能</span>精巣として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='groin'>鼠径部</span>切開+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orchiopexy'>精巣固定術</span>(または摘除術)"]
    C -->|"できない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnostic laparoscopy'>診断的腹腔鏡</span>を施行"]
    E --> F{"腹腔鏡の所見は"}
    F -->|"精索血管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductus deferens'>精管</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inguinal canal'>鼠径管</span>内へ入る(約40%)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='groin'>鼠径部</span>を検索し、萎縮精巣があれば摘除・なければ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blind end'>盲端</span>血管を確認"]
    F -->|"腹腔内精巣を確認(約40%)"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low'>低位</span>ならば1期的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laparoscopic'>腹腔鏡下</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='orchiopexy'>精巣固定術</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='high'>高位</span>(血管が短い)ならば2期的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fowler-Stephens procedure'>Fowler-Stephens法</span>を検討"]
    F -->|"内鼠径輪付近に覗く精巣(peeping testis、約10%)"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='groin'>鼠径部</span>を検索し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orchiopexy'>精巣固定術</span>"]
    F -->|"精索血管が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blind end'>盲端</span>に終わる(約10%、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vanishing testis'>消失精巣</span>=vanishing testis)"| J["精巣は摘除済みと判断し追加切除は不要<br>対側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensatory hypertrophy'>代償性肥大</span>があれば経過観察"]

⭐ 腹腔鏡の4所見(内へ向かう血管 約40%・腹腔内精巣 約40%・覗く精巣 約10%・血管= 約10%)1はそれぞれ対応が異なるため、「非触知=即摘出」ではない点に注意する。

治療

年齢別の推奨時期

  • 生後6か月(修正齢)までにがなければ、専門医(小児泌尿器科等)へ紹介する2。それ以降のはまれである。
  • 紹介後、は生後6〜12か月頃を目標に、遅くとも生後18か月までに完了させるのが、AUAガイドライン(2014年発表・2025年に内容の確認済み。「修正6か月までにがなければ、その後1年以内に手術を行う」=およそ18か月まで)2・/ESPU小児泌尿器科ガイドライン(「12か月になる前に、遅くとも18か月までに行う」)1に共通する現行の推奨である。放置は不妊・悪性化リスクの上昇と関連するため、「を待つ」を無期限の経過観察と誤解しない。
flowchart TD
    A["出生時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryptorchidism'>停留精巣</span>を確認"] --> B["生後6か月(修正齢)まで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous descent'>自然下降</span>を待つ"]
    B --> C{"生後6か月時点で下降しているか"}
    C -->|"下降した"| D["経過観察を終了(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending undescended testis'>上昇精巣</span>への移行がないか念のため確認)"]
    C -->|"下降していない"| E["専門医へ紹介"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orchiopexy'>精巣固定術</span>を計画:目標は生後6〜12か月、遅くとも生後18か月までに完了"]

精巣固定術

  • な精巣には切開によるを行う。
  • 触知不能・の腹腔内精巣にはを用い、精索血管が短く陰嚢まで届かない場合は2期的(を一旦しの発達を待って2期目に固定する術式)を検討する。

ホルモン療法の位置づけ

  • ・アナログによるは、下降を誘導する第一選択治療として推奨されない(AUA:反応率が低く、長期的な有効性の根拠に乏しい)2。
  • EAUも片側性については「下降のみを目的としたは行わない」とする一方、両側性については「将来の妊孕性を守るために内分泌治療を提示する」と推奨しており、片側と両側で扱いが分かれる1。⚠️ ただし両側例のに国際的なコンセンサスがあるわけではない。 のこの推奨はパネル合議によるもの(4)で、同じ章がNordic consensusは推奨していないと明記しており、AUAは下降誘導目的の自体を行わないよう求めている12。

思春期以降に発見された例への対応

  • 対側精巣が正常な片側性のが思春期以降まで見逃されていた場合、精巣が萎縮・低形成、精索血管やが高度に短い、あるいは年齢そのもの(思春期後)を理由に、ではなくを選ぶことがある2。これは、こうした精巣の多くが妊孕性への寄与が乏しく、組織学的に悪性化の素地を有することが多いためである。
  • 両側性のが思春期以降まで持続している場合は、悪性化・不妊双方への配慮から両側の精巣生検+を行う。
  • いずれも患者・家族とののもとで、精巣の大きさ・外観・位置、患者の希望を踏まえて個別に判断する。

合併症

  • 不妊:特に両側性で顕著。精子形成に適した温度(体温よりやや低い陰嚢内環境)を欠くことによるの障害が背景にある。
  • 悪性化リスク:孤立性におけるのは、9件・3件ので統合値2.90(95%CI 2.21〜3.82)——おおむね3倍である(研究間のは大きい、I²=89%)3。全体を通したの幅としては2.75〜8倍が引かれることが多く、AUAガイドラインもこの値を採る42。⚠️ 3つの数字は測っている量が違う——2.90は孤立性に限ったメタ統合値、2.75〜8は全般のリスクの幅、次に挙げる2〜6分の1は固定術の時期どうしの比較である。持続するは()が多く(74%)、下降済みまたは固定術後の精巣が悪性化する場合は性が多い(63%、p<0.0001)4。固定術が早いほどリスクは低い——12歳以降に固定術を受けたか受けなかった例は、思春期前に固定術を受けた例の2〜6倍の発生を示す(10〜12歳までに固定術を受けた例のは2〜3にとどまる)4。スウェーデンの一般人口と比べたも、13歳より前に固定術を受けた群で2.2、13歳以降で5.4と同じ向きである1。
  • 合併:(の遺残)を共有するため、を高率に合併する。
  • :解剖学的な固定が不十分なため、のリスクが健常精巣より高いとされる。

まとめ

  • は、腹腔内相(アンドロゲン非依存、INSL3・)→鼠径陰嚢相(アンドロゲン依存)という2段階の下降過程のどこかで停止した状態であり、・(テンションなく陰嚢内保持可)・(下降経路から外れた)を触診で鑑別することが出発点になる。
  • 型(約80%)と非触知型(約20%)で検索方針が異なり、非触知精巣の局在診断・決定は超音波などの画像検査ではなく、全身麻酔下再診察に続くが標準である。
  • 治療は生後6か月(修正齢)までのを待ち、それ以降は専門医へ紹介、遅くとも生後18か月までにを完了させるのが現行の推奨であり、は第一選択にならない。思春期以降に発見された片側例ではが選ばれることもある。
  • 合併症は不妊(特に両側性)、悪性化リスクの上昇(早期ので低減可能)、合併、リスクの上昇であり、いずれも「下降しないまま放置された期間」を短縮することが最大のになる。

出典

  1. 1.EAU Guidelines on Paediatric Urology — Management of Undescended Testes(European Association of Urology (EAU)・2026)2026年版の停留精巣の章を閲覧し、手術時期の推奨「Perform surgical orchidofunicolysis and orchidopexy before the age of 12 months, and by 18 months at the latest」、画像検査について「Imaging studies cannot determine with certainty whether or not a testis is present」、ホルモン療法について片側例は「Do not offer hormonal therapy in unilateral undescended testes for testicular descent only」・両側例は「Offer endocrine treatment in cases of bilateral undescended testes to preserve future fertility potential」を確認した。非触知精巣に対する診断的腹腔鏡の所見の内訳は、精索血管が鼠径管へ入る例が約40%、腹腔内精巣が約40%、peeping testisが約10%、盲端に終わる血管(消失精巣)が約10%。悪性化リスクについては、スウェーデンの一般人口と比較して13歳より前に精巣固定術を受けた群の相対リスクが2.2、13歳以降に治療された群が5.4と記載される。思春期以降については「orchidopexy in palpable undescended testes and orchiectomy in post-pubertal boys with an intraabdominal testis and a normal contralateral testis in a scrotal position」。疫学の節に「Cryptorchidism can occur bilaterally in up to 30% of cases」とある(2026-09-24に再取得して確認)。閲覧 2026-09-04
  2. 2.Evaluation and Treatment of Cryptorchidism: AUA Guideline(American Urological Association(Journal of Urology)・2014)AUAの公式ガイドラインページ(2014年発表、2025年に内容の妥当性確認済みと表示)で次のステートメントを確認した。紹介の時期は「Providers should refer infants with a history of cryptorchidism (detected at birth) who do not have spontaneous testicular descent by six months (corrected for gestational age) to an appropriate surgical specialist for timely evaluation」、手術の時期は「In the absence of spontaneous testicular descent by six months (corrected for gestational age), specialists should perform surgery within the next year」。画像検査は「Providers should not perform ultrasound (US) or other imaging modalities in the evaluation of boys with cryptorchidism prior to referral as these studies rarely assist in decision making」。ホルモン療法は「Providers should not use hormonal therapy to induce testicular descent as evidence shows low response rates and lack of evidence for long-term efficacy」。遊走精巣は「In boys with retractile testes, providers should assess the position of the testes at least annually to monitor for secondary ascent」。摘除の選択は「surgical specialists may perform an orchiectomy (removal of the undescended testis) if a boy has a normal contralateral testis and either very short testicular vessels and vas deferens, dysmorphic or very hypoplastic testis, or postpubertal age」。悪性化リスクの倍率(2.75〜8倍)と思春期前固定術による低減幅(2〜6分の1)も同ページのstatement 12の解説に記載があり、いずれもWood & Elder 2009に由来する。閲覧 2026-09-04
  3. 3.A meta-analysis of the risk of boys with isolated cryptorchidism developing testicular cancer in later life(Archives of Disease in Childhood・2013)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。孤立性停留精巣を対象に症例対照研究9件(症例2,281例・対照4,811例)とコホート研究3件(男児2,177,941例、精巣腫瘍発症345例、追跡58,270,679人年)を統合し、精巣腫瘍の相対リスクの統合値は2.90(95%CI 2.21〜3.82、有意な異質性 p<0.00001, I²=89%)であったこと。結論は「Boys with isolated cryptorchidism are three times more likely to develop testicular cancer」で、出版バイアスの可能性と質の高い根拠の乏しさが限界として挙げられている。閲覧 2026-09-04
  4. 4.Cryptorchidism and testicular cancer: separating fact from fiction(The Journal of Urology・2009)停留精巣における精巣腫瘍の相対リスクが2.75〜8であること、10〜12歳までに精巣固定術を受けた例では相対リスクが2〜3にとどまること、12歳以降に固定術を受けたか固定術を受けなかった例は思春期前に固定術を受けた例の2〜6倍の精巣腫瘍発生を示すこと、持続する停留精巣(鼠径部・腹腔内)は精上皮腫が多く(74%)、下降済みまたは固定術後の精巣が悪性化する場合は非精上皮腫性が多い(63%、p<0.0001)ことを確認した。AUAガイドラインが挙げる「2.75〜8倍」「思春期前固定術で2〜6分の1」はいずれも本論文に由来する。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04