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Drug Atlas · B17 Pituitary & hypothalamic hormones / 下垂体・視床下部ホルモン

ヒト絨毛性ゴナドトロピン

human chorionic gonadotropin

分類
Pituitary & hypothalamic hormones / 下垂体・視床下部ホルモン
商品名(日本)
HCGモチダゴナトロピン
商品名(EU)
Pregnyl
科目
PharmacologyTranslational Medicine and Pathophysiology
トピック
B17: Thyroid and antithyroid drugs. Pituitary hormones. Hypothalamic hormones, hormonanalogs and antagonists1-24: Male hypogonadism and androgen insensitivity syndrome
承認適応
男性性腺機能低下症停留精巣
禁忌疾患
前立腺癌思春期早発症
副作用
女性化乳房

🧠 全体像:()は、下垂体の()とほぼ同じ受容体(LHCGR)に結合して作用する胎盤由来のホルモンである。との最大の違いは半減期が長いことで、この一点が「の代役として使える」という薬理学的な価値と、「効きすぎて過剰刺激を起こす」というリスクの両方を生む。用途は大きく3つ——①男性のでを保ちながら妊孕性を維持する、②女性のでサージの代わりに使うトリガー、③(日本ではだが、AUAは誘導目的の使用をStandardで否定する)。①では、補充が/を抑制して精子形成をむしろ落とすのと対照的に、は精巣のLHCGRを直接刺激するため症状改善と妊孕性温存を両立できるという違いが核心になる。

薬効群の中での位置づけ

B17のゴナドトロピン軸は、同じをどちらの方向に、どこで操作するかで薬の性格が分かれる。

軸の操作点 代表薬 機序 性腺への効果
受容体を直接刺激 hCG LHCGRに結合し半減期の長い様作用を持続 精巣・卵巣を直接刺激(急性・トリガー的)
受容体を持続刺激 持続刺激で受容体をし/分泌を止める 性腺刺激を止める方向(・)
視床下部でを拮抗 負のフィードバックを外し内因性/を引き出す 自前のゴナドトロピンを間接的に増やす()

⭐ 同じ軸に働く3剤が、それぞれ違う“レバー”を引いている。 は受容体そのものを直接刺激する外因性補充、は持続刺激による受容体のという逆方向の使い方、は視床下部のブレーキを外してを引き出す——「補充」「」「間接誘発」という3つの戦略が同じ軸の上に並ぶ。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human chorionic gonadotropin'>hCG</span>を投与"] --> B["精巣<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leydig cell'>Leydig細胞</span>・卵巣の<br>LHCGR(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>受容体)に結合"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>と同じ細胞内シグナルを惹起"]
    C --> D["男性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leydig cell'>Leydig細胞</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intratesticular testosterone'>精巣内テストステロン</span>を産生"]
    D --> E["精巣内高濃度テストステロンが維持される"]
    E --> F["精子形成が保たれる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>製剤の併用でさらに促進)"]
    C --> G["女性:顆粒膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='theca cell'>莢膜細胞</span>を最終的に刺激"]
    G --> H["卵胞の最終成熟・排卵(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>サージの代役)"]
    B --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human chorionic gonadotropin'>hCG</span>は半減期が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>より長い"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinization'>黄体化</span>刺激が遷延"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial growth factor'>VEGF</span>を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian hyperstimulation syndrome, OHSS'>卵巣過剰刺激症候群</span>(OHSS)のリスク"]

💡 補充と対照的な点がここに集約される。 は視床下部-下垂体へ負のフィードバックをかけて・分泌そのものを抑制するため、全身のテストステロン濃度は上がっても精巣内のテストステロン産生はむしろ低下し、精子形成が犠牲になる。はの代わりにLHCGRを直接刺激するため、この負のフィードバックの土俵に乗らず、を保ったまま症状を改善できる1。

薬物動態

項目 値・特徴
・皮下注射
由来 由来の製剤、または(など、とは別に扱われる製剤もある)
半減期 より長い(24時間を超える)。この差が「の代役になる」利点と「過剰刺激を起こす」欠点の両方を生む2

適応

領域 使いどころ
男性内分泌 のうち(続発性・)で、妊孕性を希望する患者。補充とは異なりを保てるため、精子形成を維持しながら症状を治療できる1
・における・排卵のトリガー。サージの代役として5,000〜10,000 IUのが標準的に用いられる2
小児泌尿器 ——日本では(1回300〜1,000単位を1週1〜3回で4〜10週まで、または1回3,000〜5,000単位を3日間連続で筋注)3。ただし米国AUAは誘導目的の使用を明確に否定している(⚠️下記参照)
男性内分泌 不全による男子、下垂体性男子症(類宦官症)、症、睾丸(いずれも日本の)3

⚠️ では、上の承認と臨床ガイドラインの推奨が食い違う。 日本の電子添文は睾丸を効能又は効果に掲げ、用法・用量まで定めている3。一方、米国泌尿器科学会(AUA)のガイドライン Statement 10 は「を誘導する目的でを用いるべきではない(反応率が低く長期有効性の根拠が無いため)」とし、これはAUAの最も強い推奨区分である Standard(エビデンスGrade B)に置かれている4。「日本では使える」と「AUAは勧めない」は両立する。どちらか一方だけを覚えない。

💡 AUAが挙げる根拠は数字で読むと分かりやすい。 対照を置かない試験での下降成功率は25〜55%だが、盲検試験では6〜21%まで下がる。再発も多い。副作用は最大75%の男児に陰嚢のしわ・色素沈着・・陰茎の成長が生じ(中止後に退縮しうる)、のが15,000 IUを超えるとを早めて身長の伸びを妨げうる4。米国の標準治療はである。

⚠️ AUAの否定は「を誘導する目的」に限った推奨で、一般の否定ではない。 同じガイドラインは「Use of hormones to improve fertility (rather than to induce testicular descent)」という別項を立て、の前にLHRHまたはを投与すると固定術時の生検で fertility index が改善したと報告されていることを述べている(ただし単独の長期妊孕性を示す報告は検索で見つからなかったとも明記する)4。推奨文だけを抜き出すと、この書き分けが消える。

用法・用量

のトリガーとして、5,000〜10,000 IUを単回投与する(施設・プロトコルにより異なる)2。日本の電子添文はで通常5,000単位を単回投与し、OHSSの発現リスクが低く5,000単位では不十分と判断される場合にのみ10,000単位を考慮するとし、採卵の34〜36時間前を目安とする3。

男性のにおける精子形成の誘導は、日本では2段階で規定されている3。

  1. の発現と血中テストステロン値の正常化のため、1,000単位を1週3回皮下注射する。正常範囲に達しない、または上限を超える場合は1,000〜5,000単位を1週2〜3回の範囲で調整する
  2. さらに精子形成を誘導するため、1,000〜5,000単位を1週2〜3回皮下注射しつつ遺伝子組換え製剤を併用する

💡 はの代役なので、単独ではを介したしか担えない。 に働くの補充を足して初めて精子形成が回る——これが「単独で足りなければ製剤を加える」という順序の理由である。内分泌学会のガイドラインも、思春期前発症ので妊孕性の獲得・回復を目的とする場合はと(または組換え)の両方の補充を要することが多いとしている1。

睾丸に対する日本の用法は1回300〜1,000単位を1週1〜3回で4〜10週まで、または1回3,000〜5,000単位を3日間連続の筋注である3。実際の用量・・治療期間は適応・年齢・反応性で大きく変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

⚠️ 禁忌は適応ごとに書き分けられている。平坦に並べると、女性の不妊治療にだけ掛かる規定が男性適応にも掛かるように読める。

区分 日本の電子添文2.の禁忌3
〈効能共通〉 前立腺癌など悪性腫瘍およびその疑い(アンドロゲン産生を促進して腫瘍の悪化・化を招く)/性腺刺激ホルモン製剤に対する過敏症の既往/症(アンドロゲン産生促進により性的早熟を早めの早期閉鎖を来す)
〈症・黄体補充・の卵胞成熟及び・一般不妊治療の〉限定 活動性の(症状が悪化するおそれ)

⚠️ 日本の電子添文は「1. 」として、不妊治療による本剤の使用で・肺塞栓を含む血栓塞栓症を伴う重篤ながあらわれうることを掲げている3。OHSSは「副作用の一つ」ではなく欄の項目である。

  • ⚠️ (OHSS)のトリガーになる。 の半減期の長さによる遷延した刺激が主因で、トリガーはこのリスクを下げる代替法になるが、により周期での低下・流産増加という代償を伴う2
  • のリスク(における複数と関連)
  • 男性では(テストステロンの末梢アロマターゼ変換によるエストラジオール上昇)、に注意
  • ⚠️ 。 WADAの禁止表でS2(等)区分に分類され、男性競技者には常時使用が禁止されている。診断が確認されたのであれば(TUE)の対象になりうる5

副作用

頻度 内容
高頻度 注射部位反応、頭痛、気分変化
注意(男性) 、、
重篤・まれ(女性・トリガー使用時) (OHSS)、

まとめ

  • はとほぼ同じ受容体(LHCGR)に結合するが、半減期が長いため様作用を持続させる。
  • ⭐ 補充と違い、/分泌を抑制しないためを保ったまま妊孕性を維持できる——で妊孕性を希望する男性への主要な使いどころ。
  • 女性のではサージの代役としてトリガーに使われるが、半減期の長さゆえに⚠️OHSSのリスクを高める。トリガーはOHSSリスクを下げる代替だがという代償を伴う。
  • ⚠️ は日本ではだが、AUAはを誘導する目的のを Standard(Grade B)で否定している(盲検試験での成功率6〜21%、総量15,000 IU超でを早めうる)。米国の標準治療は。ただしAUAの否定は下降誘導の目的に限ったもので、固定術前の/LHRH投与が生検上の fertility index を改善したという記述は同じガイドラインの別項に残っている。
  • ⚠️ 禁忌は〈効能共通〉と〈不妊治療の適応限定〉に分かれる。 共通は悪性腫瘍(前立腺癌)・性腺刺激ホルモン製剤への過敏症・症の3つ、活動性のは不妊治療の適応にだけ掛かる。であり、男性競技者は常時使用が禁止されている。

出典

  1. 1.Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)・2018)近い将来の妊孕性を希望する男性にはテストステロン補充療法を開始しないことを強く推奨すること、思春期前発症の性腺機能低下症で妊孕性の獲得・回復を目的とする場合はFSHとLH(ヒト絨毛性ゴナドトロピンまたは組換えLH)の両方の補充を要することが多いことを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.GnRH agonist trigger versus hCG trigger in GnRH antagonist in IVF/ICSI cycles: A review article(International Journal of Reproductive Biomedicine・2016)体外受精における最終卵胞成熟・排卵のトリガーとして5,000〜10,000 IUのhCGボーラス投与が標準的に用いられること、hCGはLHと同様の作用を持つが半減期が24時間を超えて長いため黄体化刺激が遷延し卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを高めること、GnRHアゴニストトリガーは内因性のLH・FSHサージを誘発し急速で可逆的な黄体退行を起こすためOHSSリスクを下げる代替法となる一方、黄体機能不全により新鮮胚移植周期での妊娠率低下・流産増加という代償を伴うことを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.ゴナトロピン注用5000単位 電子添文(医薬品医療機器総合機構(PMDA)電子添文・2022)2022年8月改訂(第1版、効能変更・用法用量変更)の全文を読んだ。4の効能又は効果に停留睾丸、造精機能不全による男子不妊症、下垂体性男子性腺機能不全症(類宦官症)、思春期遅発症、低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症における精子形成の誘導、無排卵症、生殖補助医療における卵胞成熟及び黄体化などが並ぶこと、2の禁忌が〈効能共通〉としてアンドロゲン依存性悪性腫瘍(例えば前立腺癌)及びその疑い、性腺刺激ホルモン製剤への過敏症の既往、性早熟症の3項目、〈無排卵症・黄体補充・卵胞成熟及び黄体化・排卵誘発〉限定として活動性の血栓塞栓性疾患の1項目であること、1の警告が不妊治療により脳梗塞・肺塞栓を含む血栓塞栓症を伴う重篤な卵巣過剰刺激症候群があらわれうるとすること、6の用法及び用量で停留睾丸が1回300〜1,000単位を1週1〜3回で4〜10週まで、または1回3,000〜5,000単位を3日間連続の筋注であること、低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症の精子形成誘導が1,000単位を1週3回皮下注(血中テストステロン値に応じて1,000〜5,000単位を1週2〜3回に調整)ののち遺伝子組換えFSH製剤を併用すること、生殖補助医療のトリガーが5,000単位単回(条件を満たせば10,000単位)で採卵の34〜36時間前を目安とすることを確認した。閲覧 2026-09-08
  4. 4.Evaluation and Treatment of Cryptorchidism: AUA Guideline(American Urological Association(Journal of Urology)・2014)AUAの公式ガイドラインページ(表題は Evaluation and Treatment of Cryptorchidism (2025)、本文冒頭に「Published 2014; Reviewed and Validity Confirmed 2025」と表示)を全文取得して確認した。Guideline Statement 10 の逐語は「Providers should not use hormonal therapy to induce testicular descent as evidence shows low response rates and lack of evidence for long-term efficacy」で、推奨の強さは Standard、エビデンスは Grade B である。その Discussion は、対照のない試験での下降成功率が25〜55%、無作為化盲検試験では6〜21%に下がること、再発リスクが大きいこと、hCGの総投与量が15,000 IUを超えると骨端閉鎖を早め身長の伸びを妨げうること、最大75%の男児に陰嚢のしわ・色素沈着・陰毛・陰茎の成長が生じ中止後に退縮しうることを述べる。同ページには「Use of hormones to improve fertility (rather than to induce testicular descent)」という別項があり、精巣下降誘導とは区別して、精巣固定術前のLHRHまたはhCG投与が生検上のfertility indexを改善したと述べている(単独ホルモン療法の長期妊孕性アウトカムの報告は検索で見つからなかったとも書かれている)。米国の標準治療が精巣固定術であることも冒頭に記載がある。閲覧 2026-09-08
  5. 5.The World Anti-Doping Code International Standard — Prohibited List 2026(World Anti-Doping Agency (WADA)・2026)ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)がS2(ペプチドホルモン・成長因子等)区分で男性競技者に対し常時禁止物質に指定されていることを確認した。閲覧 2026-08-19