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Drug Atlas · B17 Thyroid drugs / 甲状腺薬

TRIAC(チラトリコール、3,3',5-トリヨードチロ酢酸)

tiratricol

分類
Thyroid drugs / 甲状腺薬
商品名(EU)
Emcitate
科目
Pharmacology
トピック
B17: Thyroid and antithyroid drugs. Pituitary hormones. Hypothalamic hormones, hormonanalogs and antagonistsCore35: Orphan drugs
副作用
発汗過多下痢不安
対象疾患
MCT8欠損症甲状腺ホルモン抵抗性

🧠 全体像:TRIAC(、)はT3ので、(TRβ)に選択的な作動薬である。承認されている使いどころは1つだけ——()——で、その理由は構造にある。T3・T4は細胞膜を通るのにMCT8輸送体を要するが、TRIACはMCT8非依存的に細胞内へ入れる。この一点だけで、脳ではT3が足りず末梢ではT3が過剰という同疾患の「ねじれ」を、末梢側だけ是正できる。⚠️ (RTHβ)での使用とは目的が別であることを混同しない。

薬効群の中での位置づけ

B17トピックのは「補充する()」か「合成・分泌を抑える()」かの二極が基本だが、TRIACはどちらでもない第三の発想を持つ。のTRβにT3より高い親和性で結合し受容体を活性化する一方、末梢の代謝は速く体内に蓄積しにくいため、の末梢性甲状腺中毒を鎮める、輸送障害そのものを迂回する薬として位置づけられる。⚠️ 承認されている効能は末梢性甲状腺中毒の是正までで、中枢神経系の甲状腺ホルモン不足を改善するかは検証中である1。

機序

flowchart TD
    A["MCT8遺伝子の変異により細胞膜のT3輸送体が機能しない"] --> B["脳などMCT8依存性の高い組織でT3取り込みが低下"]
    A --> C["肝・腎などMCT8非依存的な組織にT3が過剰供給"]
    B --> D["中枢は相対的な甲状腺ホルモン低下状態"]
    C --> E["末梢は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>な甲状腺中毒状態(頻脈・体重減少・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle wasting (muscle atrophy)'>筋萎縮</span>)"]
    F["TRIACを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral'>経口投与</span>"] --> G["MCT8を介さずに細胞膜を通過"]
    G --> H["TRβへ選択的に結合し受容体を活性化"]
    H --> I["下垂体・肝での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative feedback'>ネガティブフィードバック</span>が働き内因性T3・T4分泌が抑制"]
    I -.->|"末梢性甲状腺中毒が軽減する"| E

💡 「輸送体が壊れているのに、なぜ薬は入れるのか」がこの薬の核心である。 T3・T4は疎水性が高いにもかかわらず細胞膜通過にMCT8のような特異的輸送体を要するが、TRIACは分子構造の違いからMCT8に依存せず拡散的に細胞内へ入る。これによって内因性T3・T4の分泌をフィードバックで抑えつつ、TRβを介した受容体刺激は維持できる1。

適応

状況 位置づけ
() で承認された唯一の適応(2025年2月12日、出生時からのの治療として)1。米国では本ノート作成時点で未承認
異常症(RTHβ) ではない。 甲状腺中毒様症状への対症療法はβ遮断薬単独が基本で、TRIACは専門施設の判断による例外的な選択肢にとどまる2

⚠️ 2つの適応対象を取り違えない。 では輸送障害を迂回する目的そのものが治療理論であるのに対し、RTHβでは受容体そのものは正常でTRIACの役割は限定的である。

用法・用量

血清値を目標範囲(1.4〜2.5nmol/L)に収めるよう個別に用量を漸増する。第2相試験(Triac Trial I)では1日1回350μg(マイクログラム)から開始し350μg刻みで増量し、平均は体重あたり38.3μg/kg(範囲6.4〜84.3)であった3。投与12か月時点で血清T3は平均4.97から1.82nmol/Lへ低下した31。

禁忌・注意

  • ⚠️ 妊娠中は禁忌1
  • 他の原因による甲状腺機能亢進症(など)には適応がない1。TRIACはの輸送障害を前提にした薬であり、通常のの治療薬ではない
  • 用量は目標T3値に合わせた個別漸増を要し、固定用量では管理できない3

副作用

頻度 内容
10%未満(common。投与開始時・増量時) 、下痢、、不安、。多くは数日で消退する1
治療関連(試験データ) 一過性の・が45例中6例(13%)3

まとめ

  • TRIACはT3ので、TRβに選択的な作動薬。MCT8非依存的に細胞内へ入れるという一点がへの適応理由になる。
  • は()のみ(、2025年2月12日)。RTHβでの使用はではなく、専門施設判断の例外的選択肢にとどまる。
  • 用量は血清T3を目標範囲に収めるよう個別に漸増する(試験での平均必要量は体重あたり約38μg/kg)。
  • 妊娠中は禁忌。など他の原因による甲状腺機能亢進症には適応がない。
  • 高頻度の副作用は・下痢・・不安・で、多くは投与開始時・増量時に生じ数日で消退する。

出典

  1. 1.Emcitate (tiratricol) — European public assessment report overview(European Medicines Agency・2025)2025年2月12日にEmcitate(チラトリコール)がMCT8欠損症(Allan-Herndon-Dudley症候群)患者における末梢性甲状腺中毒症の治療薬としてEUで販売承認された(MCT8欠損症に対しEUで承認された最初かつ唯一の薬であること)こと、チラトリコールがMCT8を必要とせずに細胞へ出入りできる点でT3と異なること、46例の試験で血中T3値が投与12か月後に平均4.97から1.82nmol/lへ低下し頻脈・高血圧・期外収縮などの甲状腺中毒症状に緩やかな改善がみられたこと、頻度10%未満の副作用として発汗過多・下痢・易刺激性・不安・悪夢が投与開始時や増量時に多くみられ数日で消退すること、他の原因による甲状腺機能亢進症には適応がなく妊娠中は禁忌であることを確認した閲覧 2026-08-31
  2. 2.2024 European Thyroid Association Guidelines on diagnosis and management of genetic disorders of thyroid hormone transport, metabolism and action(European Thyroid Association(Persani et al., European Thyroid Journal)・2024)甲状腺ホルモン受容体β異常症(RTHβ)で甲状腺中毒様症状への対症療法がβ遮断薬単独が基本であり、例外的にTRIACを専門施設の判断で用いることがあると記載されていることを確認した閲覧 2026-08-31
  3. 3.Effectiveness and safety of the tri-iodothyronine analogue Triac in children and adults with MCT8 deficiency: an international, single-arm, open-label, phase 2 trial(The Lancet Diabetes & Endocrinology(Groeneweg S, et al.)・2019)欧州8か国と南アフリカの多施設非盲検単群第2相試験(45例が解析対象、年齢中央値7.1歳)で、Triacを1日1回350μg(マイクログラム)から開始し血清総T3が1.4〜2.5nmol/Lに収まるよう350μg刻みで漸増したところ平均必要用量が体重あたり38.3μg/kg(範囲6.4〜84.3)であったこと、投与12か月時点で血清T3が4.97から1.82nmol/L・TSHが2.91から1.02mU/L・遊離T4が9.5から3.4pmol/L・総T4が31.6nmol/L低下し(いずれもP<0.0001)、治療関連有害事象(一過性の発汗過多・易刺激性)が6例(13%)にみられたが投与に関連しない重篤な有害事象が18例(39%)で26件発生し多くは感染症であったことを確認した閲覧 2026-08-31