疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

精巣捻転・卵巣捻転

Testicular and ovarian torsion

臓器系
腎・泌尿器生殖・産婦人科
科目
UrologyPediatrics
トピック
泌尿器科学 U-08:泌尿器科救急疾患小児科 16:精巣捻転・卵巣捻転、停留精巣小児科 2-15:小児の外性器・内性器救急
鑑別疾患
急性虫垂炎精巣腫瘍精巣上体炎・精巣炎泌尿生殖器外傷
治療薬
フェンタニルケトロラク
症状
悪心圧痛骨盤痛発熱嘔吐疼痛
画像所見
渦巻き徴候
スコア
TWISTスコア
原因となる疾患
停留精巣卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍

🧠 全体像は、どちらも「精索・卵巣支持組織の捻れ→・浮腫→動脈血流の圧迫→虚血→壊死」という同じ因果の連鎖をたどる外科的緊急症である。違うのは解剖(精索1本の単純な軸 vs 卵巣・卵管というの複雑な茎)と好発年齢・臨床対応の細部だけで、学習の幹は共通している。両者に共通する最大の原則は「疑ったら、確定診断のための画像検査に時間を浪費せず、外科(泌尿器科/婦人科)へ直行させる」ことであり、精巣は虚血が進めば壊死・摘除に、卵巣は虚血が進めば機能廃絶に至る「時間との勝負」である。もう一つの対比軸は:精巣は温存不能なら摘除するが、卵巣は外観が黒色・壊死様でもを優先し温存を試みるという非対称性を持つ。

概要

は精索が捻れて精巣への血流が絞扼される泌尿器科的緊急症、は卵巣・卵管が支持靭帯とを軸に捻れる婦人科的緊急症である。両者とも・急性下腹部痛の鑑別の最に置くべき疾患であり、確定診断(画像検査)を待たずに外科的評価へつなぐことが予後を決める。

  • と思春期(10〜14歳)に二峰性に好発する。
  • :小児から思春期・生殖年齢まで幅広く起こり、卵巣腫瘤(特になど)を伴うことが多いが、小児では正常卵巣の捻転も少なくない。

⚠️ どちらも「画像検査で確定してから専門科へ紹介する」という順序を踏むと、している間に虚血が進行し温存の機会を失う。臨床的疑いが十分に高ければ、画像検査の結果を待たずに直ちに専門科(泌尿器科/婦人科)へコンサルトするのが両疾患に共通する最重要原則である。

精巣捻転

病態

陰嚢内で精索が捻れ、まず静脈還流が障害されてうっ血・浮腫が生じ、浮腫の増悪がやがて動脈血流を圧迫して虚血に至る。捻転の型は年齢層で異なる。

好発年齢 機序
(周産期〜生後30日以内) 精巣・精索・が固定される前にのまま捻れる
思春期男児(10〜14歳) 内で精索のみが捻れる。bell-clapper変形(精巣が精索周囲を自由に回転できる先天的なの付着異常)が代表的な素因となる
flowchart TD
    A["精索の捻転(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tunica vaginalis'>鞘膜</span>外型:周産期/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tunica vaginalis'>鞘膜</span>内型:bell-clapper変形を背景に思春期)"] --> B["精索内静脈の還流障害"]
    B --> C["精巣のうっ血・浮腫が進行"]
    C --> D["浮腫増悪により精索内動脈が圧迫される"]
    D --> E["精巣実質の虚血"]
    E --> F{"発症からの時間"}
    F -->|"6時間以内"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular salvage rate'>精巣温存率</span>が最も高い(目安90%以上):golden window"]
    F -->|"12〜24時間"| H["温存率が急速に低下(目安で数十%程度まで)"]
    F -->|"24時間超"| I["温存率はさらに低下するが、ゼロではない(症例により10〜20%程度の温存例も報告される)"]
    I --> J["虚血非可逆化・精巣壊死"]

💡 「6時間」「24時間」という数字は覚えやすい目安として重要だが、実際の温存率は連続的に低下していくのであって、24時間を境に急に「治療してもムダ」になるわけではない。24時間を超えても一定割合で温存例が報告されており、時間が経過していることを理由に手術適応そのものを諦めてはならない。

臨床像

  • 突然発症の激しい片側陰嚢痛・下腹部への。悪心・嘔吐を伴うことが多い。
  • 発熱は伴わないことが多い(発熱があればなど他疾患をより疑わせる)。
  • 精巣(により精巣が挙上し横向きになる)。
  • :感度は高いが特異度は限定的で、これ単独で確定・除外はできない。
  • (精巣を持ち上げて疼痛が軽減するか=を示唆する所見とされる)は感度・特異度がともに不十分であり、陽性・陰性いずれでも捻転を除外する根拠にしてはならない
  • 新生児では疼痛を訴えられず、無痛性の硬いや陰嚢皮膚のとして発見されることがある(分娩前後に発症している例が多い)。

⚠️ は、教科書的にはの鑑別に使われるが、いずれも精度が不十分である。これらの所見だけで捻転を除外し帰宅させることは危険であり、臨床的疑いが残れば画像・専門科評価を進める。

診断

所見 点数
精巣の腫脹 2点
硬い精巣 2点
1点
1点
悪心・嘔吐 1点

代表的な層別化()は0〜2点:低リスク、3〜4点:、5〜7点:高リスクで、検証研究によって用いるには多少のばらつきがある(例:0点未満/6点以上で三分する報告もある)が、原則は共通している。低リスク群は捻転のがほぼ100%に近く、高リスク群(5〜7点)はが90〜100%に達するため、高リスクと判定されればの結果を待たずに直ちに外科的評価へ進めるという運用が検証研究の蓄積によって支持されている。EAU/ESPU(欧州泌尿器科学会・欧州小児泌尿器科学会)小児泌尿器科ガイドラインもを診断を効率化する補助ツールとして位置づけているが、スコア単独で捻転を確定・除外できるものではないと明記しており、臨床的疑いが強い場合は画像結果を待たずに緊急評価へ進むべきという原則そのものが優先される。群は緊急でを追加して判断する。

  • :現行ガイドラインで推奨される第一選択の画像検査。動脈血流の低下・消失、精索の、精巣腫大・不均一化を評価する。血流が残存していても捻転(特に不完全捻転・)を否定できない
  • :灌注の有無を評価できるが施行に時間を要し、現在ではが広く利用可能なため第一選択ではなく、限られた施設・非典型例に限られる二次的な検査という位置づけである。
  • 血液検査(を伴うことがある)は診断の補助にとどまり、除外には使えない。

の診断は、画像検査で「確定」してから動くものではないで高リスクと判定される、あるいは臨床的疑いが強い時点で、画像結果を待たずに泌尿器科へ直ちにコンサルトすることが最優先される。「疑ったら画像より先に電話する」という順序を徹底する。

治療

  • 診察・搬送を待つ間のとして、などの短時間作用性オピオイドやなどのNSAIDsを用いてよい。十分なを優先し、鎮痛が診察所見を隠すことを過度に恐れて治療を遅らせない。
  • :手術までの橋渡し(・虚血時間の短縮目的)として試みてよいが、成功してもという定型手術が別途必要であり、手術そのものを遅らせる理由にしてはならない
  • (緊急外科的整復):直ちにし、精巣の生存性を確認する。
    • 生存性が保たれていれば患側をで固定し、通常は対側精巣も予防的に固定する(対側にも同じ解剖学的素因=bell-clapper変形を持つ可能性が高いため)。
    • 明らかに壊死・温存不能と判断された精巣のみ摘除する。
  • では、患側精巣の温存率自体が低いことに加え、対側の適応(同時に行うか、対側の解剖学的リスクを見て個別に判断するか)については議論が続いているが、現行のEAU/ESPUガイドラインは新生児例でも対側を行う方針を示している。

⚠️ 「発症から○したから手術しても意味がない」という自己判断で搬送・手術を見送ってはならないとともに温存の可能性は下がるが、ゼロにはならず、摘除の判断は必ず術中の精巣の見え方(色調・出血の有無)で行う。

卵巣捻転

病態

卵巣・卵管が支持靭帯()とを軸にねじれる病態。卵巣は(大動脈直接分枝)とという二重の血管支配を受けているため、精巣よりも虚血に対する耐性がやや高いが、捻転が進行すればいずれの経路も圧迫され虚血に陥る。

flowchart TD
    A["卵巣・卵管が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular pedicle'>血管茎</span>を軸に捻転"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous stasis'>静脈うっ滞</span>"]
    B --> C["卵巣間質の浮腫"]
    C --> D["浮腫増悪により動脈血流も圧迫される(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian artery'>卵巣動脈</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian branch of the uterine artery'>子宮動脈卵巣枝</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dual circulation'>二重支配</span>のため精巣より進行は緩やかな傾向)"]
    D --> E["卵巣実質の虚血"]
    E --> F["未治療のまま進行すると卵巣壊死・機能廃絶"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detorsion'>脱捻転</span>により血流再開"| G["虚血が可逆的であれば卵巣機能は回復し得る"]
  • 危険因子:卵巣腫大、、良性腫瘍(特に)、妊娠、治療など、付属器のサイズ・可動性を増す病態全般。
  • 小児・思春期では、腫瘤を伴わない正常卵巣そのものが捻転することも少なくない(卵巣支持靭帯が相対的に長い、あるいはのため)。

💡 「大きな腫瘤がなければ捻転は考えにくい」という思い込みは危険である。特に小児では正常卵巣の捻転が起こり得るため、腫瘤の有無だけで捻転を除外しない。

臨床像

  • 突然発症の片側性下腹部・。悪心・嘔吐を伴うことが多い。
  • と圧痛。
  • 部分捻転・間欠的な捻転‐自然復位を繰り返す例では、疼痛が波のように増悪・軽快を繰り返すことがあり、これが診断を遅らせる一因になる。

診断

  • 骨盤超音波(経腟または経腹):片側性の卵巣腫大、間質の浮腫、した卵胞、捻れた(whirlpool sign)などを評価する。
  • ⚠️ 動脈・静脈血流が超音波上保たれていても捻転は否定できない。卵巣はであるため、片方の経路が保たれているだけで血流ありと判定されることがあり、偽陰性が生じやすい。
  • 妊娠可能年齢では尿・血中β-hCGを必ず確認し、など他の急性下腹部痛の原因を並行して評価する。
  • 確定診断は腹腔鏡による外科的診断である。画像はあくまで補助であり、画像所見がでも臨床的疑いが強ければ評価を進める。

は「が保たれているから否定的」という誤った安心につながりやすい疾患である。臨床像(突然発症の片側痛+・圧痛)が典型的であれば、血流所見だけで除外せず、迅速に婦人科へ紹介するのが原則である。

治療

  • 疑えば速やかにを行う。
  • を最優先し、卵巣を温存する:肉眼的に暗赤色・黒色を呈していても、により血流が再開すれば卵巣機能が回復することが知られている。外観のだけを理由に卵巣摘除を選んではならない
  • と同時に行う必要はなく、追加のを避けるため、後日あらためて判断してもよい。
  • 卵巣摘除は、組織が崩壊して物理的に温存できない、あるいは悪性が強く疑われる場合など、選択的な状況に限る
  • 再発性の捻転や、捻転しやすい解剖学的素因(の卵巣など)が確認された例では、を個別に検討する。

⚠️ 卵巣摘除は不可逆的な処置であり、いったん切除すれば温存の機会は失われる。「壊死様に見えるから摘除する」という短絡的な判断を避け、を試みたうえで卵巣の生存性を評価するというACOG(米国産科婦人科学会)の推奨に沿った方針が現行の標準治療である。

精巣捻転と卵巣捻転の比較

項目
好発年齢 ・思春期(10〜14歳)の二峰性 小児〜生殖年齢まで幅広い
血管支配 精巣動脈1経路のみ→虚血が急速に進行 →進行がやや緩やか
主な危険因子 bell-clapper変形、、外傷既往 卵巣腫瘤(特に)、妊娠、。小児は正常卵巣でも起こる
特徴的な身体所見 精巣、消失 ・圧痛、間欠的な症状の波動
画像検査の限界 血流残存でも否定できない のためさらに偽陰性が生じやすい
で高リスクなら画像を待たず手術へ 確立された臨床スコアはなく、臨床的疑いと画像を統合して判断
確定診断 臨床診断+(最終的には手術所見) 腹腔鏡による外科的診断
温存不能時の対応 摘除を行う 原則として温存を優先し、摘除はなど選択的状況に限る
手術の基本方針 +患側・対側の を最優先(外観不良でも)、は後日でも可

まとめ

  • はいずれも「捻転→・浮腫→動脈血流圧迫→虚血・壊死」という共通の病態をたどる外科的緊急症であり、確定診断としての画像検査を待たず臨床的疑いの時点で専門科へ直ちにコンサルトすることが予後を決める。
  • で高リスクと判定されれば画像結果を待たずに手術評価へ進む。が現行の第一選択画像検査であり、は緊急対応には適さない二次的な検査に位置づけが変わっている。
  • 発症からの時間が経つほどは低下するが、24時間を超えても一定の温存例が報告されており、だけを理由に手術適応を諦めてはならない。
  • のため画像上の血流残存が偽陰性を生みやすく、確定診断は腹腔鏡による外科的評価である。
  • の非対称性が重要:精巣は温存不能なら摘除するが、卵巣は外観が不良でもを優先し温存を試みる(ACOGの推奨)。この違いを混同しないことが、両疾患を対比学習するうえでの最大のポイントである。