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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 腫瘍

卵巣奇形腫

Ovarian teratoma

別名
奇形腫成熟嚢胞性奇形腫未熟奇形腫
臓器系
生殖・産婦人科腫瘍
科目
Obstetrics and Gynecology (Gynecology)NeurologyMicroscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
婦人科 25:卵巣の良性腫瘍婦人科 27:卵巣腫瘍の病期・治療・病理神経内科 G3-26:自己免疫性脳炎発生学 2.1:配偶子形成:始原生殖細胞
合併症
精巣捻転・卵巣捻転
続発疾患
自己免疫性脳炎
関連疾患
仙尾部奇形腫卵巣癌卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍
治療薬
ブレオマイシンエトポシドシスプラチン
症状
骨盤痛悪心
検査値
AFP
画像所見
超音波エコー輝度
スコア
O-RADS US
下位分類
卵巣甲状腺腫

🧠 全体像:は、に由来するで、()が圧倒的多数を占め、その大半が良性であるという前提を最初に置く。全卵巣の69%、成人の全の11%を占め1、小児ののおよそ半数を占め、20〜40歳の女性に好発する2。良性であってもという急性外科疾患を高頻度に起こしうる点、まれに扁平上皮癌へのを来す点、そして若年女性の精神症状・けいれん・不随意運動を見たらを探すというとの結びつきが、この腫瘍を「よくある良性腫瘍」で終わらせない3つの理由になる。

分類

は組織学的に3型に分ける2。

型 本態 悪性度
() 外胚葉・中胚葉・内胚葉由来の成熟した3胚葉組織(皮膚、毛髪、、歯、骨、軟骨、神経組織など)を含む。全体の95%を占める最多の型1 良性(は稀)
未熟な胎児様組織、特にを含む。大きく・壊死性 悪性。の量でグレード評価し、進行性・転移性になりうる
単一の胚葉由来組織が優勢に増殖したもの。(甲状腺組織主体、甲状腺機能亢進を来しうる)、、神経性腫瘍など 型により異なる

⭐ 「=良性」と機械的に覚えない。 は成熟組織ではなく未熟な胎児様組織を主体とする別カテゴリーで、悪性として扱われる。良性・悪性を分けるのは「組織が成熟しているか」であって、という名前そのものではない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primordial germ cells, PGCs'>始原生殖細胞</span>由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germ cell tumour'>胚細胞腫瘍</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian teratoma'>卵巣奇形腫</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mature cystic teratoma (dermoid cyst)'>成熟嚢胞性奇形腫</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Dermoid cyst'>皮様嚢胞</span>)<br>圧倒的多数・良性"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immature teratoma'>未熟奇形腫</span><br>悪性・グレード評価"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monodermal and highly specialized type'>単胚葉性特殊型</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Struma ovarii'>卵巣甲状腺腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carcinoid tumor'>カルチノイド</span>など"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian torsion'>茎捻転</span>(最多の急性合併症)"]
    C --> G["稀に扁平上皮癌へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malignant transformation'>悪性転化</span>"]

卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍・卵巣癌との役割分担

卵巣腫瘤全体の分類・との鑑別・良悪性の画像診断(等)は卵巣・良性腫瘍が、上皮性・を含む全体の・化学療法は卵巣癌がそれぞれ担う。このノートはという1つの組織型に絞り、成熟・未熟・単胚葉性の分類、・というに特有の合併症、そしてとの関連を掘り下げる。

⚠️ 茎捻転 — 最多の急性合併症

⭐ はの主要な合併症であり、頻度は3〜21%に及ぶ2。突然発症の片側下腹部痛・悪心・嘔吐を呈し、間欠的な捻転-復位で症状が波打つことがある。捻転は5〜15cmの腫瘤で多いが、サイズが小さいことだけで捻転を除外できない。卵巣の生存性が保たれていれば整復を優先し、外見ののみで安易にを行わない(詳細は・を参照)。

破裂は1〜4%の頻度で生じ、内容物(脂肪・毛髪などの)が腹腔内に漏出するとを来す2。急性の・を呈し、緊急手術を要することがある。感染も1〜4%の頻度で合併しうる2。

⚠️ 悪性転化

のは稀だが、高齢・大型の腫瘍で起こりうる。 頻度は既報全体で1〜2%程度とされ2、系統的レビューでは0.17〜2%とやや幅がある3。転化する組織型の中では扁平上皮癌が最多で、例のおよそ半数を占める2。

⚠️ は若年発症の・破裂とは対照的に、高齢・大型の腫瘍で問題になる——扁平上皮癌転移例の予後は病期に強く依存し、5年生存率は病期I期の85.8%から病期IV期の0%まで低下する3。ベースの化学療法やが生存に関連する一方、早期で発見された若年患者ではも選択肢になる3。長期に存在する大型ので急激な増大・の増加・上昇があれば、を疑って評価する。

⚠️ 抗NMDA受容体脳炎との関連

若年女性の精神症状・けいれん・不随意運動(など)を見たら、を探す。 の女性患者において、を合併する頻度は2007〜2020年の報告を統合すると全体で37.4%だが、年齢が上がるほど合併頻度が高くなる——18歳超の女性では56%、18歳以下の女児では31%、14歳以下では9%である4。多くはで、腫瘍内のがNMDA受容体を発現し、の破綻を介しての引き金になると考えられている。

flowchart TD
    A["若年女性の急性〜亜急性の精神症状・発作・異常運動"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune encephalitis'>自己免疫性脳炎</span>を疑う"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuronal autoantibody'>神経自己抗体</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-NMDA receptor antibody'>抗NMDA受容体抗体</span>)を血清・髄液で検査"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pelvic ultrasound'>骨盤超音波</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian teratoma'>卵巣奇形腫</span>を検索"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian teratoma'>卵巣奇形腫</span>が見つかるか"}
    E -->|"あり"| F["腫瘍摘出+免疫療法を並行"]
    E -->|"なし"| G["免疫療法を先行し画像を再評価"]

⭐ 腫瘍摘出と免疫療法を併用した患者は、摘出しなかった患者より完全回復と再発リスク低下が多く報告されている4。診断がついたら、免疫療法単独で経過を見るのではなく、速やかな腫瘍検索と摘出を並行させる。・免疫療法の詳細はを参照する。

診断

超音波が第一選択で、脂肪成分を含むは特徴的な像(、など)を示す。O-RADS USでは典型的なの形態はカテゴリー2(悪性リスク1%未満)に分類され、ルーチンの経過観察のみで専門紹介は通常不要とされる。若年女性で複雑ながあればを念頭にAFP・・を追加するが、自体はこれらのマーカーを産生しない。

治療

  • :閉経前で5〜6cm未満であればでを図り、それを超える病変や閉経後患者ではを検討する2。
  • :(患側、子宮・対側)が多くで可能である。病期・グレードに応じて術後に++シスプラチン(療法)などの化学療法を行う。
  • (扁平上皮癌):病期に応じて・とベースの化学療法を組み合わせる。早期の若年患者ではも選択肢になる3。

まとめ

  • は(良性、全体の95%を占める圧倒的多数)・(悪性)・(・など)に分類され、自体は全卵巣の69%を占める。
  • (3〜21%)が最多の急性合併症で、破裂はを来しうる。
  • (主に扁平上皮癌)は1〜2%程度と稀だが、高齢・大型の腫瘍で起こり、病期依存性に予後が悪化する。
  • 若年女性の精神症状・発作・異常運動ではの合併を疑い、の女性患者の合併頻度は年齢が上がるほど高い(18歳超で56%)。腫瘍摘出と免疫療法の併用が予後を改善する。
  • 治療は年齢・サイズに応じた手術が基本で、や例では化学療法を組み合わせる。

出典

  1. 1.Mature Cystic Teratoma: An Integrated Review(International Journal of Molecular Sciences・2023)成熟嚢胞性奇形腫が全卵巣腫瘍の11%、全卵巣胚細胞腫瘍の69%、卵巣奇形腫全体の95%を占めることを確認した閲覧 2026-08-19
  2. 2.Cystic Teratoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)卵巣奇形腫が組織学的に単胚葉性特殊型(カルチノイド、神経性腫瘍、卵巣甲状腺腫を含む)・未熟奇形腫・成熟嚢胞性奇形腫の3型に分類され成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢胞)が最多であること、成熟嚢胞性奇形腫が成人の全卵巣腫瘍の約20%を占め小児の卵巣腫瘍のおよそ半数を占めること、好発年齢が20〜40歳であること、悪性転化が全体で1〜2%に生じ扁平上皮癌が悪性例の50%を占めること、茎捻転が3〜21%、破裂が1〜4%、感染が1〜4%の頻度で生じうること、閉経前女性では5〜6cm未満なら腹腔鏡下嚢胞摘出術で卵巣温存を図り、それを超える病変や閉経後患者では付属器切除を推奨することを確認した閲覧 2026-08-19
  3. 3.Squamous cell carcinoma transformation in mature cystic teratoma of the ovary: a systematic review(BMC Cancer(Li C, Zhang Q, Zhang S, et al.)・2019)成熟嚢胞性奇形腫の扁平上皮癌への悪性転化の頻度が既報全体で0.17〜2%と幅があること、扁平上皮癌転移例の5年生存率が病期I期で85.8%からIV期で0%まで病期依存性に低下すること、白金製剤ベースの化学療法や子宮全摘が生存に関連したこと、早期の若年患者では妊孕性温存手術が可能であることを確認した閲覧 2026-08-19
  4. 4.Anti-N-Methyl-D-Aspartate Receptor Encephalitis and Ovarian Teratoma: A Systematic Review(International Journal of Molecular Sciences(Wu CY, Wu JD, Chen CC)・2021)2007〜2020年の報告を統合すると抗NMDA受容体脳炎の女性患者における卵巣奇形腫の全体頻度が37.4%であり、18歳超の女性では56%、18歳以下の女児では31%、14歳以下では9%と年齢が上がるほど合併頻度が高いこと、腫瘍摘出術と免疫療法を併用した患者で腫瘍摘出を行わなかった患者より完全回復と再発リスク低下が多く見られたことを確認した閲覧 2026-08-19