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Disease Atlas · 神経 · 疾患

自己免疫性脳炎

Autoimmune encephalitis

臓器系
神経免疫・膠原病
科目
Neurology
トピック
神経内科 G3-26:自己免疫性脳炎
鑑別疾患
ウイルス性脳炎悪性症候群海馬硬化細菌性髄膜炎進行性多巣性白質脳症統合失調症傍腫瘍性小脳変性
関連疾患
Morvan症候群
治療薬
免疫グロブリン静注療法メチルプレドニゾロンリツキシマブシクロホスファミド
症状
発作
検査値
神経自己抗体髄液検査
画像所見
内側側頭葉のFLAIR高信号
原因となる疾患
胸腺腫
適応薬
免疫グロブリン静注療法

🧠 全体像は、数日〜数週の経過で記憶・精神・意識・発作・運動・自律神経症状が進行するである。など感染性疾患を経験的に治療しながら除外し、抗体結果を待たずに臨床基準で免疫療法を開始できるかどうかが予後を左右する。

抗原による分類

標的 代表抗体 典型像・腫瘍関連
神経細胞表面・シナプス NMDAR 若年者の精神症状、発作、を伴うことがある
神経細胞表面 LGI1 高齢者、顔面上肢発作、記憶障害、低Na血症。腫瘍関連は低い
神経細胞表面 CASPR2 、末梢神経過興奮、を伴いうる
シナプス受容体 GABA-B受容体 重い発作・を伴いうる
シナプス受容体 。肺・乳房・胸腺などの腫瘍関連
細胞内抗原 Hu、Ma2、CRMP5など 腫瘍随伴性が強く、T細胞性障害が中心で免疫療法反応が乏しいことがある

💡 は典型的にはと関連し、の代表抗体としては扱わない。神経細胞表面抗体はが主体で免疫療法に反応しやすい一方、細胞内抗原(Hu、Ma2など)を標的とする病型はが主体で治療抵抗性になりやすいという違いがある。

代表的な症候群

  • 抗NMDAR脳炎:精神・に続き、発作、減少、異常運動、意識低下、へ進展しうる。若年女性ではの検索が重要。
  • 抗LGI1脳炎:顔面上肢発作は短く頻回で、に先行することがあり、早期免疫療法が予後を左右する。
  • 抗GABA-B受容体脳炎:発作が目立ち、の検索を要する。
  • :亜急性の障害、発作、精神症状を呈する症候群の総称で、複数の抗体が原因となりうる。

診断

「自己抗体陽性」だけを診断としない。感染、薬物・代謝性、原発性精神疾患、腫瘍、てんかん後状態、を系統的に除外する。

flowchart TD
    A["3か月未満で進行する記憶・精神・意識障害"] --> B["新規発作・局在所見・髄液炎症・MRI所見を確認"]
    B --> C["可能性のある<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune encephalitis'>自己免疫性脳炎</span>"]
    C --> D["MRI・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar puncture'>腰椎穿刺</span>"]
    D --> E["髄液と血清の神経抗体を対で検査"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='herpes simplex (HSV)'>単純ヘルペス</span>など感染を検索し経験的アシクロビルを開始"]
    E --> G["抗体・年齢・性別に応じた腫瘍検索"]
    F --> H["感染を合理的に除外"]
    H --> I["抗体結果を待たず免疫療法を開始"]

髄液は細胞増加、蛋白上昇、を示しうるが、正常でもを除外できない。MRIは内側のT2/FLAIR高信号を示すことがあるが、特に抗NMDAR脳炎ではMRIが正常のことも多い。、発作、は補助所見で単独では特異的ではない。抗NMDAR抗体は髄液での検査が重要で、LGI1抗体は血清の感度が高いなど、抗体ごとに検体特性が異なる。非特異的なの血清単独抗体を、臨床像なしに病因とみなさない。

診断基準(Graus基準、2016年)

を満たす」というときに実際に何を確認しているかを整理する。2016年にGrausらが提唱した基準は、抗体結果を待たずに免疫療法を開始してよいかどうかを、と補助検査だけで段階づけるように設計されている1

診断カテゴリー 必要な項目
Possible AE(可能性のある 3か月未満の急速な進行で、①障害、②意識変容(低下・・性格変化)、③精神症状のいずれかがあり、かつ新規の局所中枢・原因不明の新規発作・・AEを示唆するMRI所見の少なくとも1つを伴い、他疾患を合理的に除外できること
Probable seronegative AE(血清抗体陰性の可能性の高いAE) Possible AEの記憶・意識・精神症状の基準を満たし、他の確立したAE症候群に当てはまらない場合、髄液所見(/IgG index上昇)・MRI・少なくとも2つを満たせば、神経抗体が未検出でも診断できる
Probable 精神・異常/障害/運動異常/低下/または6主要症状群のうち4つ以上を急速に発症し、異常または髄液所見()の少なくとも1つを伴い、他疾患を除外すれば、抗体結果を待たずprobableと診断できる。IgG(可能なら髄液で確認)が陽性なら、6症状群のうち1つだけでもdefiniteと確定できる
Definite Possible AEに準じる亜急性の記憶・意識・精神症状が辺縁系症候を示唆し、両側内側に限局するFLAIR/T2高信号のMRI所見優位の異常・のうち少なくとも1つを伴えば、神経抗体が未確定でもdefiniteと判定できる

⚠️ 血清・髄液とも抗体陰性のまま経過する例が、全体の3分の1から半数に上るとされる2 抗体陰性を理由に免疫療法を差し控えないのは、この基準が臨床像と補助検査だけでProbable/Definiteの判定を許容しているためである。小児例では2020年に提案された基準()が使われる。 成人基準をそのまま当てはめると感度が落ちるため、Possible pediatric AEは「新規の局所/びまん性異常・障害・運動異常・精神症状・発作のうち2項目以上」というより緩やかな入り口基準を採る3

治療

⚠️ 静注アシクロビルそのものへの治療薬ではない。 と臨床像が重なり、鑑別が確定するまでは両者を見分けられないため、を経験的にカバーする安全策として投与する。PCRの結果が出るまで静注アシクロビルを開始し、必要ならへの経験的抗菌薬も併用する。臨床像・髄液所見などから感染を合理的に除外できたら、抗体結果の確定を待たずに(アシクロビルとは別の)そのものへの免疫療法を開始する。

  1. 高用量パルス、のいずれかまたは併用を病状に応じて選ぶ(第一選択免疫療法)。
  2. 反応不十分ならリツキシマブを中心に、など第二選択の免疫療法を追加する。
  3. など背景腫瘍が同定されたら速やかに治療する。腫瘍摘出は免疫療法と並行して治療効果を高めうる。
  4. 発作・、異常運動、精神症状を環境で管理する。

予後予測:NEOSスコア

に限り、治療開始後1年時点の機能予後を予測する(anti-NMDAR Encephalitis One-Year Functional Status)が提案されている4。次の5項目を各1点で加算し、合計0〜5点で評価する。

該当すれば+1点となる項目
ICU入室を要した
発症から治療開始まで4週間を超えた
治療開始後4週間の時点で臨床的改善がない
MRI異常あり
髄液が20/μLを超える

0〜1点では1年後に不良な機能転帰(modified Rankin Scale 3点以上)となる確率が約3%にとどまるのに対し、4〜5点では約69%に達する4。早期の治療開始と初期反応性が転帰を大きく左右することを裏づける数値であり、抗体結果を待たず免疫療法を開始するという上記のの根拠の一つになる。

⚠️ 様の症状やを呈する患者に安易に抗精神病薬を投与すると、様の症状悪化やを招くことがあるため、精神科的治療は神経内科・と連携して慎重に行う。回復は数か月以上に及ぶことがあり、認知・精神・運動・言語の長期リハビリテーションと再発監視を継続する。

まとめ

  • 亜急性の精神・、新規発作、異常運動、からを疑う。
  • MRI・髄液が正常でも除外できず、血清と髄液の抗体を臨床像と統合して解釈する。
  • を経験的に治療しつつ感染を合理的に除外した後は、抗体結果を待たず免疫療法を開始する。
  • 抗体ごとの腫瘍関連を踏まえ、腫瘍治療と段階的な免疫療法、長期リハビリテーションを並行する。

出典

  1. 1.Autoimmune Encephalitis Criteria in Clinical Practice(Neurology: Clinical Practice (American Academy of Neurology)・2023)2016年のGraus診断基準(Possible AE/Probable seronegative AE/Probable抗NMDA受容体脳炎/Definite辺縁系脳炎の各項目)を538例に実地適用したコホート研究。本文Table 1に基準の全項目が再掲されており、そこから各カテゴリーの必要項目を確認した(Lancet Neurology原著は有料の壁に阻まれ直接には確認できなかった)。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Systematic Review and Meta-Analysis of the Clinical Features Associated With Seronegative Autoimmune Encephalitis(Neurology: Neuroimmunology & Neuroinflammation (Di Cosmo L, et al.)・2026)自己免疫性脳炎全体のおよそ3分の1から半数は血清・髄液とも神経抗体が検出されないまま経過すること、Graus基準では臨床像と髄液・MRI・脳波などの補助所見の組み合わせだけでprobable seronegative AEの診断が許容されることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Clinical approach to the diagnosis of autoimmune encephalitis in the pediatric patient (correction notice)(Neurology: Neuroimmunology & Neuroinflammation (American Academy of Neurology)・2020)小児例向けのPossible AE基準(新規の局所/びまん性神経学的異常・認知機能障害・運動異常・精神症状・発作のうち2項目以上)の文言。訂正版の告知ページで確認し、成人基準との差異の詳細(本文の理由づけ)までは確認できていない。閲覧 2026-08-03
  4. 4.A score that predicts 1-year functional status in patients with anti-NMDA receptor encephalitis(Neurology (American Academy of Neurology)・2019)抗NMDA受容体脳炎のNEOSスコア(ICU入室・治療開始4週超の遅れ・4週時無改善・MRI異常・髄液白血球数20/μL超の5項目、各1点)と、0〜1点で1年後不良転帰3%、4〜5点で69%という予測性能閲覧 2026-08-03