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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

胸腺腫

Thymoma

臓器系
腫瘍呼吸器免疫・膠原病
科目
PathologyNeurologySurgery
トピック
病理学 C/7:脾臓・胸腺の疾患神経内科 G1-33:重症筋無力症神経内科 G3-26:自己免疫性脳炎外科学 A/07:外科的腫瘍学 I:診断の基本原則
上位概念
縦隔腫瘍
鑑別疾患
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫ホジキンリンパ腫非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
合併症
血液・腫瘍救急(発熱性好中球減少症・腫瘍崩壊症候群・上大静脈症候群)
続発疾患
重症筋無力症自己免疫性脳炎Isaacs症候群
関連疾患
Morvan症候群
治療薬
シスプラチンドキソルビシンシクロホスファミドカルボプラチンパクリタキセルエトポシドスニチニブエベロリムスオクトレオチドプレドニゾロンペムブロリズマブ
症状
呼吸困難胸痛嗄声腫脹筋力低下
検査値
網赤血球抗体価
画像所見
結節石灰化心嚢液貯留
スコア
TNM分類Masaoka-Koga分類

🧠 全体像は「由来の腫瘍のなかで最も予後の良い群」であると同時に、組織型だけでは悪性度を語れない腫瘍の代表でもある。WHO分類(A・AB・B1・B2・B3・)は細胞の顔つきを区分するが、実際の予後を決めるのは組織型よりも、Masaoka-KogaまたはTNMで測る「どこまで広がっているか」という病期であり、この二重構造を理解することが学習の軸になる。もう一つの軸が傍腫瘍性自己免疫で、重症筋無力症を筆頭に、(Good症候群)・CASPR2/LGI1関連の神経症候群まで、胸腺という「を教育する臓器」の腫瘍だからこそ自己免疫を誘発しやすいという成り立ちを合わせて押さえる。

概要

に由来する腫瘍で、の原因として最も頻度が高い。多くは40〜60歳代に診断され、健診の胸部画像で偶発的に発見される例が半数近くを占める。胸腺の細胞数が単に増えるとは異なり、腫瘍性の上皮細胞が増殖する点が本態である。

WHO組織分類

現行のWHO Classification of Thoracic Tumours第5版(2021年)は、胸腺上皮性腫瘍を次の6区分に分類する。

亜型 腫瘍上皮細胞の形態 未熟T細胞(非腫瘍性)の量
A型 乏しい
AB型 +類上皮性が混在 部分的に豊富
B1型 類上皮性、正常髄質に類似 豊富
B2型 類上皮性、増加 なお豊富
B3型 類上皮性、軽度の異型 乏しい
明らかな 実質的に消失

💡 A・AB型は、B1〜B3型は類上皮性細胞という細胞形態の軸でまず二分し、B1→B2→B3と進むほど未熟T細胞が減って腫瘍上皮細胞の比率が増えていく、という一方向の変化として整理すると覚えやすい。

⚠️ かつては「良性・」「悪性I型(局所浸潤性)」「悪性II型(=)」という3分類(Rosai–Levine系の旧分類)で教えられたが、現行のWHO分類はA〜B3型のすべてを「転移・再発をきたしうる腫瘍」として扱っており、細胞学的に良性と位置づける区分を置いていない。「良性」という言葉は現行分類には存在しない。

病期分類

の予後を最も強く規定するのは組織型ではなく病期である。臨床で用いられる体系は2つある。

体系 概要
I(被膜への浸潤なし)、IIA(被膜への顕微鏡的浸潤)、IIB(周囲脂肪組織への肉眼的浸潤)、III(心膜・大血管・肺など隣接臓器への浸潤)、IVA(胸膜・心膜播種)、IVB(
(第9版、2025年1月発効) 胸腺上皮性腫瘍に初めてTNMを導入したのは第8版(2017年発効)。第9版はT2・T3区分の見直しなど分類の精緻化を行った改訂版。Masaoka-Koga I〜IIBはT1aにおおむね相当し、胸膜浸潤はT2、大や胸膜播種はT4に相当するなど、両体系は対応づけられる1

💡 WHO分類はTNMを必須の病期記載として位置づけ、は併記可能な扱いとしている。TNMはの頻度が高いの評価で特に強みを発揮する。

前縦隔腫瘤の鑑別

の鑑別は「4つのT」として整理される。

特徴
中年成人に好発、境界明瞭な腫瘤、被膜の石灰化を伴うことがある
(Teratoma・germ cell tumor) 若年男性に多い、脂肪・石灰化・嚢胞成分が混在する不均一な腫瘤で、αフェトプロテインやhCGなどのが有用
リンパ腫(“Terrible” lymphoma) )や、縦隔原発型を含むなど。若年者に多く全身症状を伴いやすい
へ進展した。頸部とのが手がかりになる

臨床像

局所症状は腫瘤の圧迫・浸潤によるもので、呼吸困難胸痛による嗄声浸潤によるSVC症候群(顔面・頸部の腫脹)などがある。一方で診断時に無症状のことも多く、健診CTでのが半数近くを占める。

傍腫瘍性自己免疫症候群

の臨床で最も重要なのは、局所症状よりもこの自己免疫との関連である。胸腺は本来T細胞にを教育する臓器であり、そのがかえっての選別異常を招くと考えられている。

症候群 概要
重症筋無力症 患者の約30〜50%が合併する、最も頻度の高い随伴症候群。陽性例が中心で、筋力低下を呈する
骨髄での選択的な形成不全。貧血があるのにが増えないことが手がかりになる
(Good症候群) に伴う後天性の不全で、や難治性下痢を来す。小児期発症のとは区別する
CASPR2/LGI1関連神経症候群 として現れる。詳細はを参照
自己免疫性多臓器症候群 筋炎、腸炎、苔癬様皮膚炎など複数臓器に及ぶ稀な傍腫瘍性自己免疫

💡 これらは互いに排他的ではなく併存しうる。重症筋無力症のみを念頭に置いて他の症候を見落とさないことが臨床上の注意点である。の測定は、原因抗体が既知の症候群を疑ったときに対象を絞って行う。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior mediastinal mass'>前縦隔腫瘤</span>を画像で指摘<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incidental finding'>偶発的発見</span>が多い)"] --> B["造影CTで境界・脂肪組織との<span class='jp-term jp-term-diagram' title='continuous'>連続性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular invasion'>血管浸潤</span>を評価"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resectable'>切除可能</span>と判断できるか"}
    C -->|"はい"| D["生検を経ずに手術へ<br>(多職種で評価のうえ)"]
    C -->|"境界不明瞭・浸潤が疑われる"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle biopsy'>針生検</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trephine biopsy'>コア生検</span>で組織型を確認"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resection specimen'>切除標本</span>または生検でWHO組織型を判定"]
    E --> F
    F --> G["Masaoka-KogaまたはTNM病期を確定"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-acetylcholine receptor antibody'>抗AChR抗体</span>など傍腫瘍性自己免疫を系統的に評価"]
    H --> I["病期・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resectability'>切除可能性</span>・随伴症候群に応じて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

⚠️ 明らかにな腫瘤では、による播種のリスクを避けるため生検を経ずに手術へ進むことがある。境界不明瞭・浸潤が疑われる例に限って、術前に断を確定する。

治療

完全切除と胸腺全摘

⭐ 治療の中心は外科的完全切除である。腫瘍だけの摘出ではなく、周囲の胸腺組織を含めたを行う。理由は2つある。胸腺内に多発しうるを取り残さないことと、重症筋無力症を合併する例では残存胸腺組織がなお自己免疫を駆動しうることである。重症筋無力症そのものの周術期管理・胸腺摘除の適応の詳細は同ノートに譲る。

切除不能例・局所進行例

局所浸潤が強く初回切除が困難な例では、シスプラチンを組み合わせたで腫瘍を縮小させたうえで、を再評価する。の併用も選択肢になる。陽性例やMasaoka-Koga II〜III期では、を追加して局所再発を減らす。

進行例・胸腺癌への全身療法

遠隔転移や再発を来した例、特にでは、シスプラチンの併用などを基盤とする化学療法を行う。難治例では分子標的薬()や、陽性を示すに対するの併用が選択肢になる。

⚠️ )は例が報告されるが、の患者は自己免疫の下地を持つため、重篤な(筋炎、の顕在化・増悪を含む)の頻度が他のより高いとされ、導入には特に慎重な適応判断とモニタリングを要する。

予後

は組織型の違いよりも病期(Masaoka-KogaまたはTNM)と切除のが予後を規定する。完全切除例の5年は概して良好だが、再発は他のに比べて遅発性であることが特徴で、切除後10年以上を経てから胸膜・心膜播種として再発することがある。この遅い経過ゆえに、長期にわたる画像による経過観察が必要になる。

まとめ

  • 由来の腫瘍で、WHO第5版(2021年)分類はA・AB・B1・B2・B3型とに分け、細胞学的に良性というカテゴリを置いていない。
  • 予後は組織型よりも(第8版)で測る病期と切除のが規定する。
  • の鑑別は「4つのT」(・リンパ腫・甲状腺腫瘤)で整理する。
  • 重症筋無力症を筆頭に、、Good症候群、CASPR2/LGI1関連神経症候群、自己免疫性多臓器症候群など傍腫瘍性自己免疫を高頻度に合併する。
  • 治療の中心は完全切除+で、・進行例には、放射線療法、・分子標的薬などのを組み合わせる。は自己免疫増悪リスクに注意する。
  • 再発は遅発性であり、長期の経過観察を要する。

出典

  1. 1.The Ninth Edition TNM Staging Classification for Thymic Epithelial Tumors(IASLC Staging and Prognostic Factors Committee, Thymic Domain・2024)胸腺上皮性腫瘍のTNM病期分類第9版が2025年1月発効であり、11,347例のデータベースを基にT2・T3区分の見直しなどを行った改訂であることを確認した(抄録・複数の関連レビューのタイトル・要旨で確認、全文は購読制で未取得)閲覧 2026-08-10