外科学

外科学 · A/07

外科的腫瘍学 I:診断の基本原則

Surgical oncology I. Basic principles of the diagnosis

前提:病態
腫瘍の一般的特徴(良性・悪性)癌のグレード分類と病期分類
疾患
胸腺腫
スコア
TNM分類

ポッドキャスト

🧠 腫瘍診断は「気づく()→証明する(生検)→広がりを測る()→介入方法を選ぶ(診断的/)」の4段階。 “7つの“は患者自身が気づける直接徴候、は腫瘍が離れた場所に及ぼす間接徴候——両者を区別して覚える。の核は分類(T=の大きさ・進展、N=、M=遠隔転移)で、治療を始める前に()として決めるのが原則(転移の有無でが根本的に変わるため)。で確定する、を受けた例のとは、同じ表記でも評価の時点が違う。

1. リスク評価・スクリーニング・診断の3段階

  1. :患者のがん罹患感受性を推定する。遺伝カウンセリング、環境リスク因子の詳細な、綿密な家族歴聴取を含み、遺伝性症候群に対するを行うこともある。
  2. スクリーニング:対象となるがんは「長期間無症状である」「・死亡率を生じやすい」「治療可能である」という3条件を満たす必要がある。
  3. 診断:生検による組織学的証明。

2. 臨床症状

直接徴候 — がんの7つの危険信号

  1. 排便・排尿習慣の変化
  2. 治らないただれ・潰瘍(治癒しない皮膚・粘膜の病変)
  3. 異常な出血・分泌物
  4. 乳房やその他の部位の腫瘤・
  5. ・(・胃癌を示唆)
  6. いぼ・ほくろの明らかな変化
  7. しつこい咳・嗄声

間接徴候・全身症状

分類 内容
転移に続発
転移によらない() ①既知ホルモンの/②未同定のホルモン様物質の分泌/③腫瘍から分泌される/④に対する自己免疫的感作

傍腫瘍症候群とホルモン産生

=がんが体に及ぼす二次的な影響全般を指す用語で、その一つが腫瘍によるホルモン産生の異常である。の本質は、腫瘍が本来の組織起源とはなホルモン異常を起こす点にあり、なかでもが最も多く、多くの場合は予後不良の指標となる。1

講義で示された腫瘍とホルモンの対応表は次のとおり。⚠️ この表は「どの腫瘍が何を出すか」をに覚えるための表ではない——同じ腫瘍が複数のホルモンを出し、同じホルモンが多くの腫瘍から出る。古い腫瘍名も含むので、右列で現在の読み方に置き換えて覚える。

腫瘍(講義の表記) 産生されるホルモン 現在の読み方
() の代表。異所性Cushing症候群は肺癌との関連が多い1(→)
などのもの原因になる(→)
現在の呼称は。過剰はとして現れ、のを来す1(の代表は。→SIADH)
カルシトニン、()、、インスリン、グルカゴン 異所性カルシトニン分泌は現行の総説でも挙がる1。⚠️ については下の注を読む
(現在の呼称は) カルシトニン、 はを来す代表的な腫瘍だが、介在するのはではなくPTHrPである2
腺癌 GH()、グルカゴン 傍腫瘍性のは非常にまれで、膵と肺の腫瘍に関連して報告される1
乳癌 ()、HPL()、カルシトニン、、 乳癌のもPTHrP介在性として記述される2

腫瘍とホルモンの対応は一義的ではないので、対応表を丸暗記するのではなく、異所性ホルモン産生という機序と臨床症候から評価する。1

⚠️ 「腫瘍がを出す」は現在の理解ではほぼ当てはまらない。 は、①PTHrP(関連蛋白)の傍腫瘍性分泌による、②・による、③腫瘍性の1,25-ジヒドロキシビタミンD()産生で説明され、真のは「ごく稀」と位置づけられている2。PTHrP介在性は頭頸部・食道・子宮頸部・肺・乳房の扁平上皮癌、卵巣・腎・胆嚢の腺癌でよく記述されている2。講義の表がと書いている箇所は、この機序に読み替える(→)。

⭐ →によるCushing症候群様症状は頻出パターン。 は「腫瘍の場所」ではなく「腫瘍が何を分泌するか」で症状が決まる点が診断の落とし穴になりやすい。

3. 診断のプロセス

A. 臨床病歴 — がんの警告サイン

体重減少、、体の開口部・乳頭からの出血や分泌物、治りの遅いただれ・潰瘍、持続する咳・喘鳴、声の変化、、排便習慣の変化、皮膚・乳房・腹部・筋肉の増大する腫瘤。

B. 身体診察

な腫瘤(可動性/非可動性)、リンパ節腫大。

C. 臨床検査評価

カテゴリ 内容
血液検査 ()、電解質パネル、、
画像検査 超音波、X線、造影CT、、
サンプリング手技 ()、内視鏡(気管支鏡・食道鏡・胃鏡・)
生検(悪性の証明) (:細い針で細胞を採取)/(疑わしい腫瘤から組織片を採取——前立腺・乳房・肝臓の腫瘤で主に使用し、病理医が染色・鏡検する)/(病変の)

💡 は単独では診断を決めない。 良性疾患でも上昇し、進行癌でも正常値のことがあるため、悪性の証明はあくまで生検によるで行い、マーカーは主に治療効果の判定と切除後の再発モニタリングに使う(例:大腸癌の →B/19)。

4. 病期分類

外科的腫瘍学において最も重要なのは組織の病理学的検索である。 はの特徴、浸潤・転移の有無に基づいてがんを群分けする作業であり、治療を始める前(講義の表現では手術前)に行うべきである(転移の有無・腫瘍ので術式も治療の順序も変わるため)。

いつ評価したかで表記が変わる

評価の時点 表記 何に基づくか
治療開始前 () 画像・内視鏡・生検などの
手術後 () の病理検索。一般により正確
後の手術後 後の標本。第9版では乳癌でyp分類の規定が明確化され、結腸・でも例は接頭辞yを付けて別個のを置かないとされる3

⚠️ 同じ「Stage II」でも、のStage IIとのStage IIでは意味が違う。治療成績を比べるときは、どの時点の病期かを揃える(詳細は分類)。

病期群の骨格

講義が示す病期の骨格は次のとおり。

講義での定義 現行分類を読むときの注意
Stage I 原発部位に限局 具体的なT・Nの境界は癌種ごとに異なる
Stage II より局所に進行した病変 同上
Stage III 所属リンパ節への転移 リンパ節転移がなくてもだけでStage IIIに入る癌種がある(の第9版ではStage IIIAにT3-4N0M0が含まれる)3
Stage IV 遠隔転移 多くの癌種でM1=Stage IVだが、正確な定義は癌種別分類に従う

は癌種および版ごとに定義されるため、この表は概略として用いる。4

⚠️ 4段階を「重症度の一本道の」として読まない。 は結腸・について、高T・低N(Stage II)の患者がの少ないリンパ節転移(Stage III)より予後不良のことがあり、現行のは階層的ではないと明記している。結腸・のはこの点を踏まえて改訂中で、2026年中の公表が予定されている3。

TNM分類

因子 意味
T のサイズまたは直接的な進展度
N 所属リンパ節への浸潤の程度
M 遠隔転移の有無
分類 解釈
TX を評価不能
T0 の証拠なし
T1〜T4 のサイズ・進展度
NX 所属リンパ節を評価不能
N0 なし
N1〜N3 転移リンパ節の数・部位
MX 遠隔転移を評価不能(講義の表に挙がっているが、現行の分類では用いない臓器がある。使える区分は版と臓器ごとに確認する →分類)
M0 遠隔転移なし
M1 遠隔転移あり

⚠️ T1〜T4・N1〜N3が何を指すかは臓器ごとに定義される。 とは版を揃えて共同改訂しており両者のと病期は一致するが、改訂は臓器ごとに順次施行されるため、どの臓器のどの版の話かを確かめずに区分を当てはめない3。下の図は消化管(結腸・直腸)の例で、第9版でもT・N・M・病期のカテゴリー自体に変更はなく、加わったのは(結腸・直腸周囲の脂肪組織内にある明瞭な腫瘍結節で、リンパ節・壁外・とは区別される)の定義だけである3。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut wall'>腸管壁</span>での浸潤の深さ(結腸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectal cancer'>直腸癌</span>の例)"]
  A --> T1["T1:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='submucosa'>粘膜下層</span>まで"]
  A --> T2["T2:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscularis propria'>固有筋層</span>まで"]
  A --> T3["T3:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscularis propria'>固有筋層</span>を越えて<br>大腸周囲の組織まで"]
  A --> T4a["T4a:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral peritoneum'>臓側腹膜</span>の表面に達する"]
  A --> T4b["T4b:隣接臓器・構造へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct invasion'>直接浸潤</span>"]

の意義: の決定、予後情報の提供、治療成績の評価、異なる治療法間の比較。

5. 診断的介入

  • :は最初に転移しうる所属リンパ節であり、そこだけを選択的に採取しての有無を評価し、・に役立てるである。リンパ管マッピングとこの手技が普及する前は、転移しうる所属リンパ節を予防的に一括切除していた(選択的リンパ節郭清)が、が陰性なら全郭清を省略できるようになった5。悪性黒色腫では、に転移があっても完全リンパ節郭清の臨床的な有益性は示されていない一方、この手技自体は重要な予後情報と、郭清を行わない場合でも多くの患者で持続する所属リンパ節の制御をもたらすと位置づけられている5。適応は癌種・病期で異なり、乳癌では生検そのものを省略する条件が定められている(→A/08)。
  • :胃癌・などの評価に使用。
  • ・:肺癌の評価に使用。

6. 緩和的介入

腫瘍を完全に切除できない場合でも:

  • 生命を脅かす合併症(イレウス、出血)は解決できる
  • 切除・(可能な限りを減らす)
  • バイパス、、、骨の安定化

7. 手術のバイタル適応とその症候

閉塞部位 症候
胃・食道 、摂食不能
回腸〜結腸 イレウス
胆道系 黄疸
気管・気管支 呼吸困難
尿路 尿閉、水腎症
頭蓋内圧亢進

その他の緊急適応:穿孔、出血、特定の骨折、。

転移先臓器別の代表的治療

原発 転移先 治療
乳房・前立腺・腎・甲状腺 骨 の治療
肺・乳房・膵 脳 放射線療法、切除
大腸・・骨・結合組織・腎 肺 非定型切除、、
大腸・・乳房 肝 切除、、PEIT(経皮的エタノール注入療法、percutaneous ethanol injection therapy)、、

まとめ

  • 腫瘍診断は「リスク評価→スクリーニング→生検による診断」の3段階、続いて・介入方法の選択へ進む。
  • 直接徴候(7つの)と間接徴候(・)を区別する——は腫瘍が「どこにあるか」ではなく「何を分泌するか」で症状が決まる。⚠️ 講義の対応表がと書くは、実際にはPTHrP介在性が主体で、真のはごく稀である。
  • 診断は病歴→→臨床検査(血液・画像・サンプリング・生検)の順に進める。は診断の決め手ではなく、効果判定と再発モニタリングのである。
  • (Stage I〜IV、分類)は治療開始前に()として決め、の・後のと区別する。区分の定義は臓器ごと・版ごとに決まり、Stage I〜IVは重症度の一本道ではない(結腸・ではStage IIがStage IIIより予後不良のことがある)。
  • ・腹腔鏡・はで、が陰性なら全郭清を省略できる。例でもイレウス・出血などの生命を脅かす合併症にはで対応する。

A/08: 外科的腫瘍学 II:治療の基本原則で、本トピックの診断に続く治療原則を扱う。

出典

  1. 1.Paraneoplastic endocrine syndromes: a contemporary overview(Expert Review of Endocrinology & Metabolism・2025)内分泌性傍腫瘍症候群は組織起源と無関係な多様なホルモン異常を来すこと閲覧 2026-08-09
  2. 2.Hypercalcemia of Malignancy: Mechanisms and Therapeutic Implications of Concurrently Elevated PTHrP and Calcitriol(Journal of the Endocrine Society(Kometas ML, Maalouf NM)・2025)Europe PMC経由でPMC12257092の全文XMLを取得して確認した。悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症が古典的に「骨転移または多発性骨髄腫による局所骨溶解」か「PTHrP・1,25-ジヒドロキシビタミンD(カルシトリオール)・ごく稀にPTHの傍腫瘍性分泌」に帰せられてきたこと(逐語 "or extremely rarely PTH")、PTHrP介在性(液性)高カルシウム血症が頭頸部・食道・子宮頸部・肺・乳房の扁平上皮癌と卵巣・腎・胆嚢の腺癌でよく記述されていることを確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.The 9th Edition of the UICC TNM Classification of Malignant Tumours: Updates and Rationale for Change(Union for International Cancer Control (UICC)・2026)Europe PMC経由でPMC13432304の全文XMLを取得して確認した。UICC TNM分類が第9版へ更新され、改訂はAJCCと共同で行われて両者のTNMと病期が一致し続けるようにしていること、表1では結腸・直腸のcT・cN・cM・pT・pN・pM・cStage・pStageのいずれにも変更がなく腫瘍堆積(tumour deposits)の定義追加のみであること、結腸・直腸の節が高T・低N(Stage II)の患者が腫瘍量の少ないリンパ節転移(Stage III)より予後不良のことがあり現行のTNMは階層的でない(逐語 non-hierarchical)と述べ、結腸・直腸癌の病期分類が改訂中で2026年中の公表が予定されていること、術前治療例ではyT・yN・y Stageと接頭辞yを用い別個の病期分類は置かないこと、唾液腺癌の第9版ではStage IVを遠隔転移(M1)のみに限りStage IIIAにT3-4N0M0が含まれること、乳癌では術後のyp分類の規定が明確化されたことを確認した。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Ninth Version of the AJCC and UICC Nasopharyngeal Cancer TNM Staging Classification(JAMA Oncology・2024)TNMの病期群が癌種・版ごとに異なること閲覧 2026-08-09
  5. 5.Sentinel lymph nodes in melanoma: necessary as ever for optimal treatment(Clinical & Experimental Metastasis・2024)センチネルリンパ節生検の主目的が病期診断と予後評価であること閲覧 2026-08-09