疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

胸膜肺芽腫

Pleuropulmonary blastoma

別名
PPB
臓器系
腫瘍呼吸器小児
科目
Pediatrics
トピック
小児科 2-13:先天性横隔膜ヘルニアと肺発生異常小児科 3-05:小児の悪性骨・軟部腫瘍
鑑別疾患
気管支原性嚢胞先天性肺気道奇形
合併症
気胸
関連疾患
横紋筋肉腫甲状腺癌
治療薬
ビンクリスチンダクチノマイシンシクロホスファミドイホスファミドドキソルビシン
症状
呼吸困難咳嗽発熱
画像所見
薄壁嚢胞

🧠 全体像:は、DICER1 のを背景に肺と胸膜に生じる小児のである。⭐ 幹は「時間とともに嚢胞が充実化していく一本の連続」——I型(、診断時年齢中央値8か月)→ II型()→ III型(、41か月)と進み、は91%から53%へ落ちる1。⚠️ 臨床の核はここにある——I型は「ただの先天性」に見える。 (CPAM)の4型と画像で紛らわしく、経過観察を選んだ数年のあいだにな嚢胞から転移しうる腫瘍へ変わりうる。**「小児のを見たら DICER1 を思い出す」**が、この疾患を学ぶ最大の実利である。

何が起きているか

DICER1 はの成熟を担う酵素をコードし、肺・腎・肝といったが行われる臓器の発生に必須である1。その機能が失われるとが破綻し、肺には嚢胞が生じる。

⭐ 変異の入り方は「2ヒット」だが、通常のとは形が違う。 多くは、①生殖細胞系列に受け継いだと、②後天的に生じた RNase IIIbドメインの(E1705・D1709・G1809・D1810・E1813)の、の組み合わせで生じる1。

flowchart TD
    A["DICER1 生殖細胞系列の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss-of-function variant'>機能喪失変異</span>"] --> B["RNase IIIbドメインの<br>ホットスポットに体細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='missense mutation'>ミスセンス変異</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microRNA'>マイクロRNA</span>の5p鎖が失われ<br>3p鎖に偏る"]
    C --> D["肺の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='branching morphogenesis'>分岐形態形成</span>が破綻し<br>末梢に多嚢胞性病変ができる"]
    D --> E["嚢胞隔壁に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primitive small round cell'>原始的小円形細胞</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Rhabdomyoblast'>横紋筋芽細胞</span>が増える(I型)"]
    E --> F["肉眼的な腫瘤を形成(II型)"]
    F --> G["嚢胞成分が消え<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid'>充実性</span>となる(III型)"]
    E --> H["進行せず細胞成分を欠く(Ir型)"]

病的 DICER1 バリアントの一般集団での保有率は約1対10,600と推定されている1。

病型——同じ腫瘍の異なる時期

型 形態 診断時年齢 転移
I型 。隔壁に(分化を伴うことがある)が並ぶ 中央値8か月1 報告が無い2 91%1
Ir型 多嚢胞性だがを欠く。進行の停止ないし退縮を意味する1 — 報告が無い2 I型と合わせて91%2
II型 。肉眼的な腫瘤があり、残存する微小な嚢胞性成分を伴う I型とIII型の中間 しうる(脳が最多、稀に肝・骨)2 71%1
III型 。・・・・が入り混じる 中央値41か月1 しうる2 53%1

💡 II型とIII型を分けるのは「残った嚢胞が見えるかどうか」だけである。 肉眼的腫瘤の有無がI型とII型を分け、微小な嚢胞性成分の残存がII型とIII型を分ける1。⚠️ 生検では区別できない。 だけが採れた検体からはII型かIII型か決められず、で初めて判定できる1。

⚠️ 年齢と予後の対応は「進行する時間があったかどうか」を映している。 型そのものが独立した別の病気なのではなく、放置された時間の長さが型になる。だからI型で見つけて切ることに大きな価値がある。

⚠️ 先天性肺気道奇形との区別が臨床の核

CPAMとは、現在では病態の異なる別個の疾患と考えられている2。それでも臨床的な区別は難しく、⚠️ CPAM 4型(、薄壁でしばしばの嚢胞)は断層画像でと紛らわしい2。CPAM 4型が退縮したなのか、がCPAM 4型の合併症なのかも決着していない3。

どちらを支持するか 所見
CPAM を支持 されている、肺の、体循環からの23
を支持 多葉性ないし両側性の病変、複雑な(隔壁を伴う)嚢胞、、気胸の発生、DICER1 23

⭐ では決められない、という実測がある。 病理学的に確定した肺病変のデータベースから嚢胞性と年齢を合わせた先天性肺奇形を選び、9名の小児放射線科医が盲検下でした研究では、感度58%・特異度83%・81%にとどまり、も低かった(κ=0.36)4。個々の画像所見に両者の有意差は見出されなかった4。

⚠️ だから著者らは「のない嚢胞性肺病変では、を確定するために手術する」としている4。⚠️ 「単なる先天性」として経過観察に回す判断は、この不確かさの上に立っていることをする。

⭐ もう一つの実務的なは DICER1 検査である。 を有する小児全例、とくに隔壁を有する嚢胞・多発性・両側性・乳児期に発見されたもの、および無症候性CPAMを経過観察しようとしている患者に、生殖細胞系列の DICER1 検査が強く推奨されている2。

疫学と臨床像

一般集団でのは出生25万人に1例と稀だが、CPAMを有する小児では頻度が4%まで上昇し、死亡率は約20%と報告されている3。

  • 乳児期のI型は無症状で、他の理由で撮った画像や出生後の評価で見つかることが多い。
  • ⚠️ 気胸の発症はである。 嚢胞の破裂として現れ、「気胸を起こした」を良性と決めつけない3。
  • II型・III型は呼吸困難・咳嗽・発熱・胸痛で発症し、しばしば肺炎として治療されてから腫瘤が判明する。
  • ⚠️ 診断は中央での病理検討を要する。 に送られた症例の約20%はではなく、真の先天性・嚢胞性の胸膜肺・などであった1。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleuropulmonary blastoma'>胸膜肺芽腫</span>の診断"] --> B{"型はどれか"}
    B -->|"I型・Ir型"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative margin'>陰性断端</span>を確保した完全切除<br>通常は肺の広めの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wedge resection'>楔状切除</span>"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor spillage'>腫瘍散布</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incomplete resection'>不完全切除</span>・<br>局所浸潤があったか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adjuvant chemotherapy'>補助化学療法</span>を追加"]
    D -->|"なし"| F["化学療法は通常行わず経過観察"]
    B -->|"II型・III型"| G{"完全切除が可能か"}
    G -->|"可能"| H["初回手術で完全切除し<br>化学療法を続ける"]
    G -->|"困難ないし10 cm超"| I["生検で診断を確定し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant chemotherapy'>術前化学療法</span>を先行"]
    I --> J["腫瘍縮小後に切除"]
    H --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metastatic workup'>転移検索</span>(脳を優先)と<br>DICER1関連腫瘍の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-term surveillance'>長期監視</span>"]
    J --> K
    E --> K
    F --> K
型 手術 化学療法
I型・Ir型 広めのを確保した完全切除が管理の中心2 ⚠️ 原則として行わない。 術中の・・隣接構造への局所浸潤といった事情があるときに限る2
II型・III型 と並ぶ治療の柱。完全切除が可能なら初回手術、困難なら生検先行2 肉腫に準じたレジメン。のではIVADo(・・・)を計36週2

⭐ 化学療法感受性は高い。 での40〜90%の縮小がしばしば得られる2。EXPeRTは10 cmを目安とし、これを超える腫瘍では生検先行後にを行う方針を妥当としている2。⚠️ ただし反応は一過性で、急速な再増大がありうる2。

I型に対する試験レジメンは、・・(VAC)4コースに続くVA 3コースの計22週である2。

DICER1 症候群として診た家族歴と監視

⭐ を診断したら、家族歴の聴取と本人のが始まる。 同じ DICER1 バリアントが多臓器の腫瘍を起こすためである1。

臓器 主な腫瘍
甲状腺 、分化型および1
卵巣 1
腎 、1
子宮頸部・他 1
眼・中枢神経・下垂体 、、1
鼻腔 1

⚠️ 家族歴では「甲状腺の手術」「若い女性の」「小児期の」「」を具体的に聞く。 病名ではなく出来事として尋ねないと拾えない。

が推奨する監視は次のとおりである1。

時期・対象 検査
リスクのある児の出生時 胸部X線でを探す
が確定した児 生後9か月までに胸部CT(II型・III型へ進む前にI型を切除できるように)
上記が正常だった場合 2.5歳で(II型・III型の発症のピークの前)
乳児期以降 腹部超音波を8歳まで6〜12か月ごと
8歳ごろから を2〜3年ごと
女性 を6〜12か月ごとに少なくとも40歳まで

まとめ

  • は DICER1 を背景に生じる小児ので、I型()→ II型()→ III型()という一本の進行を辿る。
  • 診断時年齢の中央値はI型8か月・III型41か月、はI型91%からIII型53%へ落ちる。型は別の病気ではなく、進行に使われた時間を映している。
  • 臨床の核はCPAM 4型との区別で、の感度58%・特異度83%・κ=0.36と、画像だけでは決められない。のない嚢胞性肺病変ではの確定が推奨される。
  • を有する小児、とくに隔壁を伴う・多発性・両側性・乳児期発見の嚢胞と、無症候性CPAMを経過観察しようとする患者には DICER1 生殖細胞系列検査を行う。
  • 一般集団では出生25万人に1例と稀だが、CPAMを有する小児では4%まで上昇し、死亡率は約20%と報告されている。
  • 治療はI型・Ir型が完全切除のみ(化学療法は原則不要)、II型・III型は肉腫に準じた化学療法と切除の併用。化学療法感受性は高いが反応は一過性である。
  • 診断がついたら DICER1 症候群として、甲状腺・卵巣・腎・中枢神経の腫瘍を家族歴との対象にする。

出典

  1. 1.DICER1 tumor predisposition syndrome: an evolving story initiated with the pleuropulmonary blastoma(Modern Pathology(González IA, Stewart DR, Schultz KAP, Field AP, Hill DA, Dehner LP)・2022)胸膜肺芽腫がI型(嚢胞性)・Ir型・II型(嚢胞充実性)・III型(充実性)の形態的連続として捉えられ、この進行が診断時年齢と転帰に対応することを本総説がまとめていること、I型の診断時年齢中央値が8か月・III型が41か月であり5年全生存率がI型91%からIII型53%へ低下すること、およびI型が90%超・II型71%・III型53%という5年全生存率(いずれも本総説自身のデータではなく参照文献25の引用である)、II型とIII型はI型と異なり肉眼的な腫瘤を形成し両者の区別は残存する微小な嚢胞性成分の有無で決まること、Ir型は原始的な小円形細胞を欠く多嚢胞性病変で腫瘍進行の停止ないし退縮を意味すること、I型の隔壁内に軟骨結節を認めるのが15%であること、本症候群の大半が生殖細胞系列の機能喪失変異とRNase IIIbドメインの5つのホットスポットコドン(E1705・D1709・G1809・D1810・E1813)における体細胞ミスセンス変異という2ヒットで生じること、病的DICER1変異の一般集団での保有率が約1対10,600と推定されること、国際胸膜肺芽腫登録に送られた症例の約20%が胸膜肺芽腫ではなく真の先天性肺嚢胞・嚢胞性滑膜肉腫・Ewing肉腫などであったこと、DICER1関連腫瘍にSertoli-Leydig細胞腫・子宮頸部胎児型横紋筋肉腫・多結節性甲状腺腫・分化型および低分化型甲状腺癌・嚢胞性腎腫と腎未分化肉腫・鼻軟骨間葉性過誤腫・毛様体髄上皮腫・下垂体芽腫・松果体芽腫が含まれること、監視として出生時の胸部X線、生殖細胞系列変異が確定した児では生後9か月までの胸部CT、正常なら2.5歳での低線量CT、乳児期の腹部超音波を8歳まで6〜12か月ごと、甲状腺超音波を8歳ごろから2〜3年ごと、骨盤超音波を6〜12か月ごとに少なくとも40歳まで、が推奨されるとまとめられていることをEurope PMCの全文で確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Current Management of Pleuropulmonary Blastoma: A Surgical Perspective(Children(Knight S, Knight T, Khan A, Murphy AJ)・2019)I型・Ir型の胸膜肺芽腫が転移を来したという報告が無く、十分な陰性断端を確保した完全切除で管理すべきとされること、I型・Ir型を合わせた生存率が91%で死亡例はいずれもより進行した型への進行後であったこと、I型では術中の腫瘍散布・不完全切除・隣接構造への局所浸潤といった事情が無い限り補助化学療法を通常は行わないこと、II型・III型では全身化学療法と外科的切除の双方が治療の要でありレジメンは肉腫に準じること(欧州はビンクリスチン・ダクチノマイシン・イホスファミドと、ビンクリスチン・ドキソルビシン・イホスファミドを交互に行う方式、米国はVACないしVACAdが多い)、国際胸膜肺芽腫登録の前向き試験ではI型に対しVAC4コースとVA3コースの計22週、II型・III型に対しIVADo(イホスファミド・ビンクリスチン・ダクチノマイシン・ドキソルビシン)を計36週とすること、II型・III型はI型と異なり転移しうること(最も多いのは脳、稀に肝・骨)、EXPeRTが10 cmを目安として上回る場合は生検先行後に術前化学療法を行う方針を妥当としていること、胸膜肺芽腫が化学療法に比較的感受性で術前化学療法により腫瘍体積の40〜90%の縮小がしばしば得られること、CPAMと胸膜肺芽腫は病態が異なる別個の疾患と現在は考えられている一方で臨床的な区別は難しくCPAM 4型と紛らわしいこと、CPAMを支持する所見が出生前診断・肺の過膨張・体循環からの流入血管であり胸膜肺芽腫を支持する所見が多葉性ないし両側性の病変・複雑な嚢胞・縦隔偏位であること(これは本総説自身の解析ではなく参照文献22・23の引用である)、著者らが肺嚢胞を有する小児全例、とくに隔壁を有する嚢胞・多発性・両側性・乳児期に発見されたものにDICER1生殖細胞系列検査を強く推奨し、無症候性CPAMを非手術的に経過観察する方針を検討する患者にも同検査を推奨していることをEurope PMCの全文で確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Congenital Lung Malformations: Unresolved Issues and Unanswered Questions(Frontiers in Pediatrics(Annunziata F, Bush A, Borgia F, Raimondi F, Montella S, Poeta M, Borrelli M, Santamaria F)・2019)胸膜肺芽腫が一般集団では稀で出生25万人に1例の発生率である一方、CPAMを有する小児では頻度が4%まで上昇し死亡率は約20%であること、CPAM 4型が退縮した胸膜肺芽腫なのか胸膜肺芽腫がCPAM 4型の合併症なのかは不明であると本総説が述べていること、胸膜肺芽腫を支持する所見として気胸の発生・両側性ないし多区域性の病変・複雑な嚢胞・DICER1の生殖細胞系列変異が挙げられ、CPAMを支持する所見として出生前診断・体循環からの流入血管・肺の過膨張が挙げられることをEurope PMCの全文で確認した。⚠️ 25万分の1・4%・死亡率約20%の3つの数値は本総説自身の解析結果ではなく、本総説が参照文献47〜49を引用したものである。閲覧 2026-09-02
  4. 4.Accuracy of Chest Computed Tomography in Distinguishing Cystic Pleuropulmonary Blastoma From Benign Congenital Lung Malformations in Children(JAMA Network Open(Engwall-Gill AJ, Chan SS, Boyd KP, et al.、Midwest Pediatric Surgery Consortium)・2022)2009〜2015年に病理学的に確定した原発性肺病変521例のデータベースから、嚢胞性胸膜肺芽腫の症例と年齢を合わせた出生後発見の先天性肺奇形の対照を選び、9名の小児放射線科医が盲検下で術前CTを読影した多施設症例対照研究で、詳細に検討した40例のうち9例(23%)が病理学的に確定した嚢胞性胸膜肺芽腫であったこと、胸膜肺芽腫を検出するCTの感度が58%・特異度が83%・全体の正診率が81%であったこと、悪性を強く疑うという判定は胸膜肺芽腫の病理と相関したものの(オッズ比13.5、95%CI 2.7〜67.3、P=0.002)読影者間一致度が低かったこと(κ=0.36、範囲0.06〜0.64)、胸膜肺芽腫と良性嚢胞性病変とのあいだで個々の画像所見に有意差が無かったこと、著者らが出生前診断のない嚢胞性肺病変では病理診断を確定するための手術的管理が妥当と結論したことをEurope PMCの全文で確認した。なお導入部にある「出生後に初めて診断された嚢胞性肺病変の約10%が嚢胞性(I型)胸膜肺芽腫を含みうる」という数値は本研究の結果ではなく、本論文が参照文献16を引用したものである。閲覧 2026-09-02