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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

甲状腺癌

Thyroid cancer

臓器系
腫瘍内分泌・代謝
科目
PathologyInternal MedicineSurgery
トピック
病理学 C/86:甲状腺腫瘍内科学 E-03:甲状腺結節と甲状腺癌内科学 L-79:甲状腺腫瘍外科学 B/03:甲状腺腫瘍(症状・診断・治療)外科学 S-03:甲状腺悪性疾患と治療
鑑別疾患
非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
続発疾患
声帯麻痺
治療薬
レボチロキシンダブラフェニブ+トラメチニブソラフェニブレンバチニブカボザンチニブ
症状
下痢呼吸困難反回神経麻痺嗄声顔面紅潮
検査値
CEA血中カルシトニン
画像所見
甲状腺結節砲弾状陰影
スコア
TNM分類ベセスダシステム
組織像
甲状腺乳頭癌のリンパ節転移乳頭状甲状腺癌乳頭状甲状腺癌の亜型・術式選択・経過観察
下位分類
甲状腺髄様癌
元疾患
先天性頸部嚢胞(甲状舌管嚢胞・鰓裂嚢胞)
原因となる疾患
Cowden症候群多発性内分泌腫瘍症
適応薬
カボザンチニブセルペルカチニブソラフェニブプラルセチニブレンバチニブ
禁忌薬
セマグルチドティルゼパチドデュラグルチドリラグルチド

🧠 全体像は起源細胞で3系統に分けて理解する。由来の)は頻度が高く予後良好で、治療はATA指針に沿ったリスク適応——腫瘍径・・リンパ節転移で+選択的を選ぶ。同じ由来でもしたは最も進行が速く予後不良、由来のとは全く別系統のでRET遺伝子変異・MEN2との関連が診療の軸になる。「頻度が高いほど予後が良い」という逆相関を軸に組織型を覚えると、の違いも整理しやすい。結節の初期評価(TSH→→FNA→)はを参照。

病態:組織型別の発癌機序

の約90%以上は由来の)で、残りをと、由来のが占める。危険因子として小児期の頭頸部曝露が最も強く、との関連が明らかである。

組織型 起源 主な遺伝子異常 播種様式 頻度の目安
BRAF V600E、RET/PTC融合、NTRK融合 最多(約80〜85%)
RASPAX8::PPARG融合 血行性(肺・骨・肝) 約10〜15%
(神経内分泌) RET性は体細胞、家族性は生殖細胞系列) ・血行性 数%
TP53、しばしばBRAF V600E併存 急速な局所浸潤・早期遠隔転移 2%未満
  • BRAF V600E変異は約半数に見られ、MAPK経路を恒常的に活性化する。核所見(、偽)がの中心で、)が優位な亜型は独立した挙動を示すことがあり別項で扱う。
  • RAS変異やPAX8::PPARG融合が関与し、地域で頻度が上がる。細胞診ではの有無を判定できず、外科の組織評価で初めて腺腫と鑑別できる。
  • 性が約75%、家族性(MEN2A・MEN2B・)が約25%を占め、いずれもRETを介する。腫瘍細胞はカルシトニンを分泌し、間質に(カルシトニン由来、)を認める。
  • :既存の分化型癌やからので生じることが多く、TP53変異に加えBRAF V600Eなど由来の変異を引き継ぐことがある——BRAFの根拠になる。

癌(癌)はの亜型として扱われることが多いが、変異の蓄積や染色体多倍体化など独自の分子背景を持ち、への反応が乏しい傾向がある点での中でも別枠として意識する。

臨床像

多くは無痛性のまたはとして発見され、機能性は稀(大半がTSH正常の「」結節)である。急速な増大、嗄声(による)、嚥下・呼吸困難、頸部リンパ節腫大は悪性を疑わせる所見である。では進行例でカルシトニン・の分泌により水様性下痢やを来すことがある。は数週単位で急速に増大する硬いとして発症し、診断時点で気道・食道浸潤を伴うことが多い。

病期分類(AJCC/TNM第8版)

)の診断時年齢55歳を閾値とする点が最大の特徴で、他の多くのと異なる。は年齢を用いない。

対象 年齢 の要点
分化型(乳頭・濾胞) 55歳未満 遠隔転移がなければStage I、遠隔転移があればStage II(局所進展の程度にかかわらず)
分化型(乳頭・濾胞) 55歳以上 T・N・M各因子を通常の同様に組み合わせてStage I〜IVに分類(T3aは腫瘍径4cm超、T3bは肉眼的〈ストラップ筋のみ〉、N1aはに加えリンパ節を含む)
年齢を問わない 通常のT・N・M分類でStage I〜IVに分類
年齢を問わない 診断された時点で一律Stage IV(IVA:甲状腺内限局、IVB:肉眼的、IVC:遠隔転移)

💡 55歳以上でも遠隔転移のないは死亡率が低い症例を多く含むため、AJCC第7版までの45歳閾値から第8版で55歳へ引き上げられ、生命予後との相関が改善した。は再発リスクそのものではなく死亡リスクを反映する指標であり、後述のATA(再発リスク)とは別の軸である。

ATAリスク層別化(分化型甲状腺癌の再発リスク)

が死亡リスクを表すのに対し、(RAI適応・TSH抑制強度・フォロー間隔)を決めるのは再発である。

リスク区分 代表的な所見 10年再発リスクの目安
低リスク 甲状腺内限局、肉眼的なし、なし、リンパ節転移がないか微小転移(N1a、5個以下・最大径2mm以下) 低い
微小な、頸部リンパ節転移(N1a/N1b)、アグレッシブな組織亜型(高円柱細胞型など)、BRAF V600E陽性の中等度所見の組み合わせ 中等度
高リスク 肉眼的、不完全切除、遠隔転移、術後高値からの遠隔転移の推定、広範な 高い

⭐ ATAは術後の病理所見が確定してから行う動的な評価であり、術後の推移や画像所見で経過中に再評価する(dynamic risk stratification)。2015年ATA指針以降、この考え方が標準になっている。⚠️ AJCC/TNM(死亡リスク)とATA(再発リスク)を混同しないこと——同じ「Stage I」でもATAリスクは低〜高まで幅がある。

なお2025年のATA指針改訂では、この3区分を低・低中間・中高・高の4区分に細分化する動きがあるが、低リスクほど・RAI回避へ、高リスクほど全摘・RAI追加へ寄せるという基本原則は変わらない。

診断・評価の流れ

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid nodule'>甲状腺結節</span>を評価<br>(TSH・超音波・必要時FNA)"]
    A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bethesda system'>Bethesda分類</span>V/VIまたは<br>臨床的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid cancer'>甲状腺癌</span>が確定"]
    B --> C["頸部超音波でリンパ節転移を評価"]
    C --> D["手術範囲を決定<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lobectomy'>葉切除</span> vs <span class='jp-term jp-term-diagram' title='total thyroidectomy'>甲状腺全摘</span>)"]
    D --> E["術後病理でAJCC/TNM病期<br>とATAリスクを確定"]
    E --> F["ATAリスクに応じ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='radioactive iodine ablation'>放射性ヨウ素アブレーション</span>の適応を判断"]
    F --> G["TSH抑制目標を設定し<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglobulin, Tg'>サイログロブリン</span>・超音波でフォロー"]

結節の初期評価アルゴリズム自体(TSH測定→→FNA適応判断→)はで扱う。

治療

手術術式の選択(分化型甲状腺癌)

⭐ 2015年ATA指針以降、「原則全摘」からリスク適応型の縮小手術へ大きく転換している。2025年の改訂ではこの流れがさらに進み、低リスク癌におけるの位置づけが拡大した。

腫瘍・進展の状況 基本方針
限局・2cm以下・なし・臨床的リンパ節転移なし(低リスク) が推奨される基本術式
限局・2cm超4cm以下(低リスク) またはを、病理予測因子・対側結節の有無・患者希望で個別化
4cm超、肉眼的、臨床的リンパ節転移・遠隔転移 +病変リンパ節区域の郭清を基本とする
極小(≤1cm)・低リスクの 専門施設でのも選択肢

💡 で治療を完結する場合、術後は甲状腺機能を保てることが多く、TSH抑制目的の高用量を一律には要さない。一方で後に病理学的ハイリスク因子が判明すれば、追加のを検討する。

⚠️ リンパ節郭清は画像・術中所見で転移が確認された区域を系統的に切除するが原則で、腫大した節だけをつまみ取る「」は再発率を高めるため避ける。

放射性ヨウ素(I-131)アブレーション

  • RAIは後の全例に一律実施するものではなく、ATA、残存病変の有無、値、ヨウ素集積性を踏まえて適応を判断する。
  • 低リスクで後に肉眼的残存病変がない例では、RAIを省略しても再発率に大きな差がないことが複数ので示されている。
  • 中〜高リスク、特に遠隔転移や不完全切除が疑われる例ではRAIの追加が大きい。
  • のみの症例ではRAIの適応にならない(残存する対側葉が正常に集積するため治療効果を評価できない)。

TSH抑制療法

ATA・治療反応 TSH目標の目安
高リスクまたは病変が残存 TSHを抑制域(<0.1 mU/L程度)に維持
で治療反応が不明確 軽度抑制域(0.1〜0.5 mU/L程度)
低リスクで治療反応が良好(検出感度未満・画像陰性) 正常域下限〜正常域を目標とし、過度な抑制は避ける

⚠️ 過度なTSH抑制は心房細動、骨密度低下・骨折リスク上昇などの害を伴うため、再発リスクが低く治療反応が良好な患者では正常域に戻すことが推奨される。による補充は「甲状腺ホルモン補充」と「シグナルの抑制」の二重の意味を持つ。

髄様癌の治療とMEN2

はヨウ素を取り込まないためRAIの適応にならず、外科的切除が唯一の根治手段である。なら+病変に応じた中央・外リンパ節郭清を行う。術前に・CEAを測定し、全例で生殖細胞系列RET変異の検査を検討する。

⚠️ MEN2に伴うを除外せずに甲状腺手術・麻酔を行うと、周術期に致死的なを誘発しうる。MEN2が疑われる、または確認された患者では、甲状腺手術に先立ちの有無を・画像で評価し、あれば先に治療する。

RETが同定されたでは、コドン別のに基づきの時期を決める。この層別化と具体的な年齢の目安はの該当節を参照——最高リスク(MEN2B、コドンM918T)は生後1年以内、高リスク(MEN2A、コドンC634)は5歳未満、はカルシトニン推移を見ながら小児期〜若年成人でのを計画する。

進行・転移性でには、RET変異陽性例に対するなど)が全身治療の中心となる。)も選択肢だが、期間の点で優先されることが多い。

分化型甲状腺癌の分子標的治療(放射性ヨウ素抵抗例)

RAI抵抗性・進行性のでは、を主体とする)が全身治療の中心となる。腫瘍にBRAF V600EやRET融合、NTRK融合などのが同定された場合は、より選択的な分子標的薬(BRAF/MEK阻害薬、など)を優先的に検討する。

未分化癌の治療

診断時から一律Stage IVとして扱い、気道評価を最優先する。

  1. の評価(呼吸困難・喘鳴があれば緊急対応)。
  2. 迅速な断とBRAF V600Eを含む分子検査を並行して行う。
  3. 、放射線治療、全身治療、患者のを多職種で同時に検討する。
  4. BRAF V600E変異陽性の・転移例では(BRAF/MEK阻害薬併用)が重要な全身肢であり、一部では術前として腫瘍縮小を図りを高める試みも報告されている。

⚠️ 「は全例のみ」という旧来の扱いは適切でない。の登場で長期生存例も報告されており、の利益と負担を早期から話し合いつつ、症状緩和と積極的治療を並行して検討する。

まとめ

  • 由来の)、同じく由来だがした由来のの3系統に分けて理解する——の一種ではない。
  • AJCC/TNM第8版の(死亡リスク、55歳を年齢閾値とする)とATA(再発リスク、術後に動的評価)は別の軸であり混同しない。
  • の手術範囲・RAI適応・TSH抑制強度は、いずれも一律ではなくATAに応じて個別化する。
  • はRETと・CEAが診療の軸で、MEN2ではを先に除外・治療してから甲状腺手術に進む。のコドン別リスクに基づくの時期はと共通の枠組みで管理する。
  • は診断時から一律Stage IVとして気道評価を最優先し、BRAF V600E陽性例では治療の重要な選択肢になる。