組織病理学

組織病理学 · H1-083

甲状腺乳頭癌のリンパ節転移

Metastasis carcinomatosa lymphnodi (HE) - LYMPH NODE

描出疾患
甲状腺癌

🧠 全体像:甲状腺(papillary thyroid carcinoma)はに頸部リンパ節へ転移しやすい。に濾胞状構造やがあっても、それだけで癌とは診断しない。に加え、、核内細胞質、核の淡明化などのに特徴的な核所見を確認する。

標本の要点

項目 所見
臓器 リンパ節
染色 ・染色(HE)
背景 、、リンパ洞などの残存リンパ節構造
境界明瞭な上皮性腫瘍巣、・濾胞状構築
分泌物 濾胞腔内の
核所見 、核内細胞質、核の重なり・淡明化
関連所見

リンパ節内での読み方

  1. 、、リンパ洞を探してリンパ節であることを確認する。
  2. 正常リンパ組織を置換する上皮性腫瘍巣を同定する。
  3. ・濾胞状構築とから上皮への分化を考える。
  4. と核内細胞質を含む型の核所見を確認する。
  5. を補助所見として評価する。

💡 は被膜下洞から現れる。 はリンパ節の被膜を貫いて被膜下洞へ注ぐので、最初の腫瘍細胞はそこに現れる。リンパ節を低倍率で見るときに被膜直下をなぞるのはこのためである。ただし「に押し流されて受動的に入る」という説明は再検討されている。CCL1はリンパ節のリンパ洞内皮には検出されるが末梢リンパ管には検出されず、その受容体CCR8はヒト悪性黒色腫に強く発現する。CCR8を阻害するとマウスで腫瘍細胞がと被膜下洞の接合部で停止し、リンパ節転移が有意に減った1。リンパ洞内皮は通り道ではなく関門であり、そこを越えられるかどうかが転移成立の分かれ目になる。

はとも表現されるが、単独では特異的ではない。核内細胞質も、細胞質が核内へ陥入した像であり、複数の核所見を構築と組み合わせて判断する。

💡 「複数の核所見を組み合わせる」は点数化されている。 7か国24名の甲状腺病理医が、型の核所見を項目ごとに点数化する簡略化されたを作成・検証しており、感度98.6%・特異度90.1%・全体の正確度94.3%が報告されている2。1つで診断しないのは慎重さの問題ではなく、単項目では特異度が落ちることが数字で示されているからである。

乳頭癌と濾胞癌を混同しない

特徴 癌(follicular thyroid carcinoma)
診断の中心 特徴的な核所見 ・
構築 または濾胞状 主に濾胞状
典型的転移経路 、頸部リンパ節 血行性、肺・骨など
みられうる 通常は中心所見ではない
リンパ節転移 比較的典型的 より少ない

⭐ 濾胞状構築は「」を意味しない。は濾胞状に増殖することがあり、型の核所見が診断を方向づける。

💡 ただし「濾胞状+型核所見」がすべて癌でもない(2016年の改称)。 のうちのものは、109例が中央値13年(10〜26年)の経過で全例無病生存だったことを根拠に、2016年に癌の名を外してNIFTP(noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features)へ改称された。一方、同じ型でも浸潤性の101例では12%に有害事象が生じ、遠隔転移5例・2例が出ている2。旧称の「」も実習・試験では出てくるので、例だけが切り出されてになったと位置づけて覚える。は・がないことが要件なので、リンパ節転移巣を見ているこの標本の原発は、定義上ではない。

flowchart TD
    A["甲状腺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary carcinoma (thyroid: PTC)'>乳頭癌</span>"] --> B["腫瘍細胞がリンパ管へ侵入"]
    B --> C["所属頸部リンパ節へ到達"]
    C --> D["リンパ節内で増殖"]
    D --> E["正常リンパ組織を置換"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary'>乳頭状</span>・濾胞状構築"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary carcinoma (thyroid: PTC)'>乳頭癌</span>型の核所見"]
    F --> H["甲状腺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='papillary carcinoma (thyroid: PTC)'>乳頭癌</span>のリンパ節転移"]
    G --> H

センチネルリンパ節という語

は、から最初にを受けるリンパ節を指す。しかし、リンパ節の組織像だけで「センチネル」と判定することはできず、の同定を含む臨床的手技で定義される。甲状腺のリンパ節転移を見たときは、まずとして理解する。

まとめ

  • は、はが典型である。
  • 濾胞状構築やだけでと診断しない。
  • 、核内細胞質、核の淡明化を構築と合わせて評価する。
  • は有用な補助所見だが、単独で確定診断にはならない。

出典

  1. 1.Tumor cell entry into the lymph node is controlled by CCL1 chemokine expressed by lymph node lymphatic sinuses(Journal of Experimental Medicine(Das S, Sarrou E, Podgrabinska S, et al.)・2013)腫瘍細胞がリンパ流に受動的に流されてリンパ節へ入るという通説に対し、リンパ節のリンパ洞内皮が腫瘍細胞の進入を制御しており能動的な遊走を要すること、ケモカインCCL1がヒト・マウスともリンパ節のリンパ洞には検出されるが末梢リンパ管には検出されないこと、その受容体CCR8がヒト悪性黒色腫に強く発現すること、CCR8を阻害するとマウスでリンパ節転移が有意に減り腫瘍細胞が集合リンパ管と被膜下洞の接合部で停止したことを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Nomenclature Revision for Encapsulated Follicular Variant of Papillary Thyroid Carcinoma: A Paradigm Shift to Reduce Overtreatment of Indolent Tumors(JAMA Oncology(Nikiforov YE, Seethala RR, Tallini G, et al.)・2016)7か国24名の甲状腺病理医が乳頭癌の核所見を項目ごとに点数化する簡略化された核スコアを作成・検証し、感度98.6%(95%CI 96.3〜99.4%)・特異度90.1%(95%CI 86.0〜93.1%)・全体の正確度94.3%(95%CI 92.1〜96.0%)を得たこと、非浸潤性の被包型濾胞型乳頭癌109例が中央値13年(10〜26年)の経過で全例無病生存であったのに対し浸潤例101例では12例(12%)に有害事象(遠隔転移5例・原病死2例)が生じたこと、この結果に基づき非浸潤例をnoninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features(NIFTP)へ改称したことを確認した。閲覧 2026-08-24