組織病理学

組織病理学 · H1-082

成熟奇形腫

Teratoma adultum (HE) - DIFFERNET TYPES OF TISSUES

描出疾患
卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍精巣腫瘍

🧠 全体像:は、の腫瘍内に、通常の発生部位とは異なる複数の成熟組織が混在する病変である。組織が成熟していても挙動は発生部位と齢で異なり、成人卵巣や思春期前精巣と、思春期後精巣を同じ「良性」と扱わない。

組織構成

胚葉 認めうる成熟組織
外胚葉 、、神経組織
中胚葉 軟骨、骨、平滑筋、、脂肪組織
内胚葉 、気管支上皮、甲状腺・唾液腺様組織

漿液腺・粘液腺、成熟軟骨、平滑筋、、脂肪、結腸上皮、気管支上皮など、互いに異なる成熟組織を一つの腫瘍内で確認する。

成立の考え方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multipotent'>多分化能</span>をもつ生殖細胞"] --> B["体細胞系へ分化"]
    B --> C["外胚葉系組織"]
    B --> D["中胚葉系組織"]
    B --> E["内胚葉系組織"]
    C --> F["複数の成熟組織が混在"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mature teratoma'>成熟奇形腫</span>"]

すべての組織が必ずそろう必要はない。複数胚葉に相当する成熟組織が、正常の臓器配列とは異なる形で混在することが重要である。

成熟と悪性度は同義ではない

部位・年齢 一般的な挙動
成人卵巣 通常は良性
思春期前精巣 通常は良性
思春期後精巣 組織が成熟していても悪性として扱われ、をもつ
小児・縦隔など 完全切除された成熟病変は良好なことが多いが、部位・切除状況・混合成分を評価する

⚠️ 「=すべて良性」と暗記しない。特に思春期後の精巣は、成熟組織だけから構成されても悪性挙動をとりうる。

💡 精巣では「患者の年齢」ではなく「腫瘍の型」で分ける( 2016)。 2016分類はを発生機序で組み替え、をgerm cell neoplasia in situ(GCNIS)と名づけたうえで、GCNIS由来のとGCNIS非由来のを区別した。要点は、思春期後の精巣にもまれに良性の思春期前型が存在すると明記されたことで、「思春期後に見つかったはすべて悪性」という年齢だけの言い換えは正確ではない。同じ改訂でspermatocytic seminomaはspermatocytic tumourへ改称されている1。旧来の「思春期前/思春期後」という齢での言い方も実習・試験では使われるので、年齢の区分が腫瘍型の区分に読み替えられたと位置づけて覚える。

💡 精巣では未熟性の記載が必須ではない。 卵巣ではの量でのgradeを付けるが、ではのに予後的意義が示されておらず、報告は必須とされていない。代わりに報告すべきとされるのは、成分から発生したの過増殖で、これはより侵襲的な挙動を示す1。下の「観察の順序」で未熟成分と体細胞型悪性腫瘍を別々に探すのは、この重みの差があるためである。

関連病変との比較

病変 鑑別点
未熟な胎児性組織、特にを含む
、、など別の悪性胚細胞成分を併存
体細胞型悪性腫瘍を伴う 内に癌・肉腫など明確な悪性体細胞成分が発生。卵巣では1.5〜2%とまれで、扁平上皮癌が最多、次いで腺癌・肉腫2
その臓器に本来存在する成熟組織が配列異常を示す

観察の順序

  1. 腫瘍を構成する上皮性・間葉性組織を列挙する。
  2. 各組織が成熟しているか、などを含むかを評価する。
  3. 別の悪性成分や体細胞型悪性腫瘍を探す。
  4. 発生部位、年齢、臨床的病期と組み合わせて挙動を判断する。

💡 を十分にサンプリングする。 卵巣のを拾えるかどうかは切り出しの丁寧さで決まる。齢の上昇・腫瘍最大径・値がの予測指標になるので、これらが揃う症例ではの追加切片を出す2。

・様組織を認める場合も、単一の小領域だけで腫瘍の発生部位や齢を断定しない。

まとめ

  • は複数の成熟体細胞組織からなる生殖細胞腫瘍である。
  • 外胚葉・中胚葉・内胚葉系の組織を系統的に同定する。
  • 成熟度と臨床的良性は同義ではなく、部位と年齢が挙動を左右する。
  • 思春期後精巣は、成熟像でも悪性として扱う。

出典

  1. 1.The World Health Organization 2016 classification of testicular germ cell tumours: a review and update from the International Society of Urological Pathology Testis Consultation Panel(Histopathology(Williamson SR, Delahunt B, Magi-Galluzzi C, et al., ISUP Testicular Tumour Panel)・2017)WHO 2016分類が胚細胞腫瘍を発生機序で組み替え、前駆病変の名称をgerm cell neoplasia in situ(GCNIS)としたこと、GCNIS由来の「思春期後型(postpubertal-type)」腫瘍とGCNIS非由来の「思春期前型(prepubertal-type)」腫瘍を区別し、思春期後の精巣にもまれに良性の思春期前型奇形腫が存在することを認めたこと、spermatocytic seminomaをspermatocytic tumourへ改称したこと、奇形腫の未熟性(immaturity)の記載は予後的意義が示されていないため必須とされない一方、奇形腫成分から発生した体細胞型悪性腫瘍(somatic-type malignancy)の過増殖はより侵襲的な挙動を示すため報告すべきであることを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Malignant transformation of mature cystic teratoma of the ovary(Journal of Obstetrics and Gynaecology Research(Atwi D, Kamal M, Quinton M, Hassell LA)・2022)卵巣成熟嚢胞性奇形腫の悪性転化はまれで全体の1.5〜2%にとどまること、悪性化は奇形腫を構成するどの組織からも起こりうるが組織型としては扁平上皮癌が最も多く次いで腺癌・肉腫の順であること、患者年齢の上昇・腫瘍最大径・腫瘍マーカー値が悪性転化の予測指標となり、充実部を十分にサンプリングすることが悪性成分の検出に役立つことを確認した。閲覧 2026-08-24