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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 腫瘍

卵巣甲状腺腫

Struma ovarii

別名
卵巣甲状腺腫瘍Ovarian struma
臓器系
生殖・産婦人科内分泌・代謝
科目
Pathology
トピック
病理学 C/75:卵巣腫瘍
上位概念
卵巣奇形腫
鑑別疾患
卵巣癌
関連疾患
甲状腺癌
症状
骨盤痛腹部膨満動悸
検査値
CA-125

🧠 全体像:ののうち、甲状腺組織が腫瘍全体の50%を超えて占めるものをと呼ぶ1。大多数は良性のだが、この腫瘍を単なる「卵巣にできた甲状腺のかけら」で終わらせない理由が2つある。ひとつは機能性の場合に頸部の甲状腺が萎縮し骨盤の腫瘍が甲状腺の役を奪うという所見の逆転、もうひとつは腹水・胸水を伴い進行卵巣癌に酷似するである。診断の骨格は「甲状腺機能異常なのにが正常」「骨盤腫瘤なのに腹水・胸水を伴う」という2つの違和感からを思い出せるかにかかっている。

病態・定義

の分類とその中での位置づけはを参照。このノートは甲状腺組織が主体という1点に絞ったを扱う。ほとんどが由来で、片側性の〜として発見される。組織学的には正常の甲状腺と同じスペクトラム(様変化、様変化、まれに癌)を示しうる1。

疫学

全体の約1%、()の約2.7%を占める、まれな腫瘍である1。多くは40〜50歳代で偶発的に発見されるが、若年女性にも生じうる。

臨床像

小さな腫瘍は無症状のまま画像で見つかることが多いが、腫瘤が増大すると骨盤腫瘤による圧迫感・を来す。後述するを合併すると、腹水により腹部膨満を来し、であれば状としてを伴う。

卵巣奇形腫との役割分担

全体の分類(成熟嚢胞性・未熟・の3区分)、・破裂といった急性合併症、扁平上皮癌への、との関連はが担う。このノートはのうち甲状腺組織が主体という1点に絞り、機能性による状、の逆転パターン、というに固有の臨床像を掘り下げる。

⚠️ 機能性腫瘍と甲状腺機能亢進症

の一部は機能性で、異所性の甲状腺組織が自律的に甲状腺ホルモンを産生し、状(、体重減少、振戦、、不安)を来しうる。 産生されたホルモンはへ負のフィードバックをかけるため、本来の頸部甲状腺は抑制されてが低下し、甲状腺自体は萎縮方向に働く——腫瘍が卵巣にあるのに、頸部甲状腺のが異常という一見ちぐはぐな臨床像がここから生まれる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Struma ovarii'>卵巣甲状腺腫</span>(機能性)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic thyroid tissue'>異所性甲状腺組織</span>が<br>甲状腺ホルモンを自律産生"]
    B --> C["血中甲状腺ホルモン上昇"]
    C --> D["視床下部-下垂体へ負のフィードバック"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>低下・頸部甲状腺は抑制・萎縮"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotoxicosis'>甲状腺中毒症</span>状<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpitations'>動悸</span>・体重減少・振戦)"]

⚠️ 放射性ヨウ素シンチグラフィ — 集積部位が逆転する

診断を確定づけるのが(I-131/I-123)である。頸部の甲状腺への集積は抑制されて低下する一方、骨盤の腫瘤に強い集積を認める——ので通常「集積が見える場所」と「症状の原因臓器」が一致しないという逆転が起こる2。を併用すると、この骨盤への集積が卵巣腫瘤に一致することを解剖学的に確認でき、診断の決め手になる2。この所見パターンを知らずに「甲状腺機能亢進症なのに頸部シンチが陰性」で診断を止めてしまうと、を見逃す。

⚠️ 偽Meigs症候群

は腹水を伴うことがあり、既報では約20%に腹水を認め、腹水に胸水(多くは右側)を伴う組み合わせ、すなわちは約5%に生じる3。真のが・に特有であるのに対し、はを含むそれ以外の良性腫瘍でも起こりうる病態名である。骨盤腫瘤+腹水+胸水+しばしば血清上昇という組み合わせは進行卵巣癌の像に酷似するため、腫瘍を摘出して初めて良性のと判明する症例が繰り返し報告されている3。腹水・胸水は腫瘍摘出後に自然消退することが多く、悪性でなくてもこの所見だけで進行癌と決めつけない。

診断

  • :と嚢胞部が混在する腫瘤として描出され、通常のと異なり含有成分を反映した特徴的なを示すことがある。
  • CT/MRI:性腫瘤で、では膠様のを反映した多彩な信号強度を呈する1。
  • :機能性であれば遊離T4・T3上昇と低下を認める一方、頸部は正常か萎縮を示す。
  • :頸部へのと骨盤腫瘤への異常集積という上記の逆転パターンを確認する2。
  • CA-125:良性のでも上昇しうるため、単独では良悪性の鑑別にならない3。

確定診断は摘出標本のによる。術前の画像・血液検査はあくまで疑いを高める手段であり、良悪性の最終判断はに委ねる。

所見 一般的な()
、毛髪球、結節()が典型的 含有成分を反映した多彩・不均一な
甲状腺機能 通常は正常 機能性であれば亢進所見(低下・遊離T4/T3上昇)
頸部 通常は正常 正常〜萎縮
腹水・胸水 まれ 約20%に腹水、約5%にを伴う

術前の超音波だけで両者を確実に区別するのは難しく、甲状腺機能異常や腹水を伴う卵巣腫瘤を見たら、の枠だけで考えずを鑑別に加えるのが実務上のポイントになる。

⚠️ 悪性転化

大多数のは良性である。 まれにを来し、悪性の組織型は型が最多で、正常のと同じ組織学的基準(核所見、被膜・の有無)で診断する。悪性例のうち遠隔転移を来すのはおよそ5%にとどまる1。悪性と診断された場合は、通常のに準じた(全摘出、必要に応じた、術後の)を適用する。「卵巣にある腫瘍だから婦人科の枠組みだけで完結する」と考えず、内分泌・核医学と連携する。

治療

  • 外科的切除が治療の中心である2。良性が想定される片側性腫瘍では患側(または妊孕性温存を重視する場合は)を行う。
  • (状を伴う症例)では、術前に・で甲状腺機能をコントロールしてから手術に臨む——コントロール不良のまま手術操作を加えるとのリスクを高めるため、通常ののに準じる。
  • 悪性が判明した場合は、に準じて追加切除・・を検討し、術後はと同様にで経過を追う。
  • による腹水・胸水は、の摘出により多くが自然消退するため、腫瘍摘出に先行して胸水・腹水そのものを治療対象にする必要は通常ない。

まとめ

  • は、甲状腺組織が全体の50%を超えるので、の約1%を占める。
  • は状を来しうるが、負のフィードバックにより頸部甲状腺は抑制・萎縮し、では頸部のと骨盤腫瘤への異常集積という逆転パターンを示す。
  • 腹水(約20%)・胸水を伴う(約5%)は進行卵巣癌に酷似し、も上昇しうるため、腫瘍摘出後に良性と判明することが多い。
  • 大多数は良性だが、まれに型を主体にし、その場合はに準じた治療を行う。
  • 治療は外科的切除が中心で、では術前に甲状腺機能をコントロールしてから手術する。

出典

  1. 1.Papillary Carcinoma in Struma Ovarii: A Radiological Dilemma(Cureus(Thomas JJ, Maheshwari S, Alwaheedy M)・2021)卵巣甲状腺腫が甲状腺組織が全体の50%超を占める奇形腫と定義されること、卵巣腫瘍の1%・皮様嚢胞の2.7%を占めるという頻度、悪性例のうち転移を来すのは約5%であること、超音波・CT・MRIの画像所見の特徴を確認した閲覧 2026-08-19
  2. 2.Incidental diagnosis of struma ovarii through radioiodine whole-body scanning: incremental role of SPECT/CT(Radiologia Brasileira(do Vale RHB, Sado HN, Danilovic DLS, Duarte PS, Sapienza MT)・2016)ヨウ素131全身シンチグラフィで頸部甲状腺への集積が抑制される一方で骨盤腫瘤に強い集積を認めたこと、外科的切除が卵巣甲状腺腫治療の中心であることを確認した閲覧 2026-08-19
  3. 3.Coexistence of benign struma ovarii, pseudo-Meigs' syndrome and elevated serum CA 125: Case report and review of the literature(Oncology Letters(Jin C, Dong R, Bu H, et al.)・2015)卵巣甲状腺腫における腹水の頻度が20%、偽Meigs症候群(腹水+胸水)の頻度が5%であることを確認した閲覧 2026-08-19