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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 腫瘍

甲状腺濾胞腺腫

Follicular thyroid adenoma

別名
濾胞腺腫
臓器系
内分泌・代謝腫瘍
科目
PathologyInternal MedicineSurgery
トピック
病理学 C/86:甲状腺腫瘍内科学 E-03:甲状腺結節と甲状腺癌外科学 S-02:甲状腺の良性疾患と治療
鑑別疾患
甲状腺癌中毒性腺腫非浸潤性甲状腺濾胞腫瘍・乳頭癌様核所見を伴うもの濾胞結節性疾患
関連疾患
非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
検査値
甲状腺刺激ホルモン
画像所見
甲状腺結節甲状腺シンチグラフィ集積パターン
スコア
ベセスダシステム

🧠 全体像:は、被膜に囲まれた由来の良性腫瘍である。⭐ この疾患の掴みどころは「良性であることの証拠が『無いこと』でしか示せない」点にある——はもも無いことで定義され、その「無い」は切除した腫瘍の被膜を全周にわたって顕微鏡で見て初めて言える1。⚠️ だから()ではとを区別できない。細胞そのものはほとんど同一だからである2。⚠️ さらに第5版は、腫瘍ですらない(FND)がと形態的に酷似しうることまで明文化した——⭐ 細胞診で悪性か決まらないだけでなく、でも「本当に腫瘍か」が常には決まらない。この二重の不確かさが、結節の診療を「診断のための手術」という形へ押し出している。

WHO第5版(2022年)での位置づけ

由来腫瘍は良性腫瘍・・悪性腫瘍の3つのファミリーに分けられる1。は良性側の1つである。

ファミリー 含まれるもの ICD-O behaviour code
良性腫瘍 (FND)//構造を伴う/ 0(FNDは腫瘍でないためコードなし)
NIFTP/// 1()
悪性腫瘍 ・・ほか() 3

⚠️ 用語が版で動いている。 第5版で変わった点のうち、に直接かかわるものは次の3つである1。

  • 「」は使わない。 歴史的な誤称であるとして「」に置き換えられ、腺腫は「」になった。
  • はから外に出た。 前版ではの中の「機能性腺腫(いわゆる)」だったものが、「構造を伴う」という独立した良性腫瘍型になった。臨床像としてのはこれに対応する。
  • 「variant」は「subtype」になった。 遺伝子変異の意味の variant と混同しないための整理で、組織亜型を指すときは subtype を使う。

良性側の4つを分ける軸

⭐ 良性の4つは「機能」と「単発か多発か」で整理できる。

機能 特徴 分子的背景
(FND) 多発性の/腫瘍性結節。臨床的には。・・が同義語として認められている 多くはだが、一部は分子的にクローン性
() 単発・。もも無い ふつう1
構造を伴う 機能性(=) 濾胞内に特徴的な増殖 TSHR・GNAS・EZH1の変異1
好酸性(旧Hürthle)細胞からなる —

⚠️ FNDとは組織学的に切り分けられないことがある。 FNDはと形態的に酷似したの細胞性結節を持ちうるため、第5版は「組織学的基準では病変と腫瘍性病変を常には区別できない」と明記している1。⭐ FNDという新しい用語そのものが、この区別できなさを引き受けるために作られた。

💡 機能亢進を伴わない型は「」に残る。 のを持ちながら機能亢進を伴わない腫瘍は「を伴う」としての中に分類される1。⚠️ これをと取り違えないことが重要で、の乳頭は広くの芯を持ち、型の核を欠く1。

なぜ細胞診で決まらないのか

⭐ との細胞は「ほとんど同一」である。 両者を分けるのは細胞の見た目ではなく、あるいはという構造の所見であり、これは腫瘍と被膜の境界面を組織として見なければ評価できない2。⚠️ が取ってくるのは細胞であって被膜ではないから、原理的に決着しない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid nodule'>甲状腺結節</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>測定"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>低値:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functioning thyroid nodule'>機能性結節</span>を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintigraphy'>シンチグラフィ</span>でホットなら細胞診は不要"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>正常〜高値:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ultrasound risk stratification'>超音波リスク層別化</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fine-needle aspiration cytology (FNAC)'>穿刺吸引細胞診</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fine-needle aspiration'>FNA</span>)"]
    E --> F["ベセスダIV:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular neoplasm'>濾胞性腫瘍</span><br>悪性リスク30%(23〜34%)"]
    F --> G["⚠️ ここで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular adenoma'>濾胞腺腫</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular thyroid carcinoma, FTC'>濾胞癌</span>かは決まらない"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnostic lobectomy'>診断的葉切除</span>/分子検査で絞り込む"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resection specimen'>切除標本</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capsular and vascular invasion'>被膜・血管浸潤</span>を全周評価"]
    I --> J["浸潤なし → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular adenoma'>濾胞腺腫</span>(良性)"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capsular invasion'>被膜浸潤</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular invasion'>血管浸潤</span>あり → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular thyroid carcinoma, FTC'>濾胞癌</span>"]

⚠️ 無ラベルの矢印は「次に何をするか」の順序であって、因果ではない。

第3版(2023年)は、このカテゴリーの名称を「」の一語に整理した——第2版までの「疑い」という併記が外れている3。報告時には好酸性型かどうかを明記する3。

ベセスダIVの悪性リスク(成人) 値
を悪性に数える(Table 2) 30%(23〜34%)3
を最終的な癌の診断から除く(Table 4) 23%3

💡 裏返せば、ベセスダIVの7割前後は良性であり、その多くがである。 ⚠️ だから「だから全例手術」とはならない。第3版では分子検査・補助検査の章が新設され、ThyroSeq v3・Afirma GSC・ThyraMIRが扱われるようになった3。⚠️ ただし細胞診の診断そのものは分子検査の結果から独立して下されるべきとされている3——分子検査は細胞診の判定を書き換えるものではなく、手術に進むかどうかの判断材料である。

画像でどこまで寄せられるか

超音波は結節評価の第一線だが、⚠️ の良悪を分けるとしては力不足である。

に傾く所見 に傾く所見
形・辺縁 境界明瞭、整な形 が大きい、不整な辺縁
エコー —
血流 辺縁優位 内部の乱れた血流
被膜 保たれる 被膜の途絶・を示唆する所見

⚠️ 重なりが大きい。 ・石灰化・血流はいずれも両者で重なり、従来ののに対するはAUC 0.6〜0.75にとどまる2。💡 はもともとの所見を軸に設計されており、はその設計の外にある。 ・・人工知能による改善(報告では最大91.2%の精度)が試みられているが、症例数の少なさとモデルの解釈性が課題として残る2。

⚠️ 本総説が他文献から引く個別の数値(完全なを示すが約78%、悪性に似た所見を示すが15〜20%)は、この総説自身の測定値ではない——原著に当たらずに固定値として覚えない。

機能の面では、が役に立つ。⭐ TSHが低値でがホットなら(=構造を伴うに対応)であり、細胞診の議論に入らずに済む。通常のはとして現れる。

治療

  • ⭐ 診断がついたは良性であり、それ自体に追加治療を要さない。
  • ⚠️ 問題は「診断をつけるまで」である。 と判定された結節では、がを評価する唯一の確実な方法になる。分子検査は、この手術を減らす方向に働く補助手段として位置づけられる3。
  • 結節が大きく圧迫症状を生じる場合や、整容上の問題がある場合は、良性と分かっていても切除の適応になりうる。結節全般の評価と管理の流れは・を参照。
  • ⚠️ の扱いが診断を決める。 ・は限られた場所にしか無いことがあるので、腫瘍と被膜の境界面を広く提出する必要がある。同じ理由でNIFTPも細胞診では診断できない。

まとめ

  • はの良性で、⭐ もも「無い」ことで定義されるである。の全周評価でしか確定しない。
  • ⚠️ ではとを区別できない。 細胞形態がほとんど同一であり、決め手となる浸潤の所見は組織でしか見られないため。
  • 第5版(2022年)の良性由来腫瘍は(FND)・・構造を伴う・の4つ。⚠️ 腺腫は「」に、は「構造を伴う」に置き換わった。
  • ⚠️ FNDとは組織学的にも常には区別できないとが明記している。細胞診で悪性か決まらないだけでなく、で「腫瘍か過形成か」も決まらないことがある。
  • 分子的には、通常のは、構造を伴うはTSHR・GNAS・EZH1変異と、良性の中でも背景が分かれる。
  • ベセスダIV()の悪性リスクは成人で30%(を癌に数えない集計では23%)。⭐ 裏返せば7割前後は良性なので、全例を無条件に手術しない。
  • ⚠️ 超音波では決着しない。 のに対するは 0.6〜0.75にとどまる。はを軸に設計されたである。

出典

  1. 1.Update from the 2022 World Health Organization Classification of Thyroid Tumors: A Standardized Diagnostic Approach(Endocrinology and Metabolism (Seoul)(Jung, Bychkov, Kakudo)・2022)Europe PMC経由でPMC9633223の全文XMLを取得して確認した。WHO第5版が濾胞細胞由来腫瘍を良性腫瘍・低リスク腫瘍・悪性腫瘍の3つのファミリーに分けること、良性側が濾胞結節性疾患(follicular nodular disease, FND)・濾胞腺腫・乳頭状構造を伴う濾胞腺腫・好酸性腺腫の4つであること、"Hürthle cell" が歴史的な誤称であるとして "oncocytic cell" に置き換えられ Hürthle cell adenoma / carcinoma がそれぞれ oncocytic adenoma / oncocytic carcinoma になったこと、FNDが多結節性甲状腺腫の臨床設定で生じる多発性の過形成性・腫瘍性病変に対して新設された用語で腺腫様結節・腺腫様過形成・結節性過形成・多結節性甲状腺腫を同義語として認めること、FNDが濾胞腺腫と形態的に酷似した被包性細胞性結節を持ちうるため組織学的特徴だけでは常には区別できない("Histologic criteria cannot always differentiate hyperplastic from neoplastic lesions.")こと、乳頭状構造を伴う濾胞腺腫が概して自律性機能性結節であり前版では濾胞腺腫の中の機能性腺腫(いわゆる中毒性腺腫)に分類されていたこと、乳頭状構造を伴う濾胞腺腫がTSHR・GNAS・EZH1の変異を持つのに対し通常の濾胞腺腫はふつうRAS変異を持つこと、機能亢進を伴わない乳頭状過形成型は「乳頭状過形成を伴う濾胞腺腫」として濾胞腺腫内に分類され、その乳頭は広く浮腫状の芯を持ち乳頭癌型の核を欠くため乳頭癌と取り違えないことが重要であること、低リスク腫瘍がNIFTP・悪性度不確定濾胞性腫瘍・悪性度不確定高分化腫瘍・硝子化索状腫瘍の4つでICD-O behaviour code 1 を与えられること、被包性濾胞細胞由来癌(濾胞癌・好酸性癌・浸潤性被包型濾胞型乳頭癌)が微少浸潤型(被膜浸潤のみ)・被包性血管浸潤型・広汎浸潤型に層別されること、被包性血管浸潤型がさらに限局性(4か所未満)と広範(4か所以上)に分けられること、「variant」が組織亜型の意味では「subtype」に置き換えられ variant は遺伝子変異の意味に留保されたこと、被包性/境界明瞭で濾胞増殖優位の甲状腺腫瘍の大半がRAS様の分子プロファイルを示すことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Ultrasound features of thyroid follicular adenoma and follicular carcinoma: A narrative review(The Journal of International Medical Research(Hou T, Nie F)・2026)Europe PMC経由でPMC12921136の全文XMLを取得して確認した叙述的総説。濾胞腺腫と濾胞癌が細胞形態上ほぼ同一であり術前の鑑別が組織病理に依存するため多数の良性結節患者が不要な手術を受けていること、濾胞腺腫が境界明瞭で等エコーの結節として辺縁優位の血流を示す傾向があるのに対し濾胞癌は縦横比の大きい形・不整な辺縁・内部の乱れた血流・被膜の途絶や血管浸潤を示唆する所見を呈する傾向があること、しかしエコー輝度・石灰化・血流パラメータでは両者の重なりが大きく、従来のTI-RADSは濾胞性腫瘍に対する判別能が限られる(AUC 0.6〜0.75)こと、造影超音波・エラストグラフィ・人工知能で診断精度の改善(報告では最大91.2%)が示されているが症例数の少なさとモデルの解釈性が課題として残ることを確認した。⚠️ 総説が他文献から引く個別の数値(完全な低エコーハローを示す濾胞腺腫が約78%、悪性に似た所見を示す濾胞腺腫が15〜20%)は本総説自身の測定値ではない。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Highlights of the 2023 Bethesda System for Reporting Thyroid Cytopathology, 3rd Edition(Korean Journal of Head & Neck Oncology(Song)・2024)発行元サイトの全文で確認した。2023年ベセスダシステム第3版のカテゴリーIVが「濾胞性腫瘍(Follicular Neoplasm)」の単一名称に整理され(第2版の「濾胞性腫瘍疑い」という併記が外された)、好酸性(Hürthle細胞)型かどうかを明記すべきとされること、成人の悪性リスク(NIFTPを悪性に数える Table 2)がI 13%(5〜20%)・II 4%(2〜7%)・III 22%(13〜30%)・IV 30%(23〜34%)・V 74%(67〜83%)・VI 97%(97〜100%)であること、NIFTPを最終的な癌の診断から除いた場合(Table 4)がI 12%・II 2%・III 16%・IV 23%・V 65%・VI 94%であること、第3版で分子検査・補助検査の章(第14章)が新設されThyroSeq v3・Afirma GSC・ThyraMIRが扱われる一方で細胞診の診断自体は分子結果から独立して下されるべきとされることを確認した。閲覧 2026-09-03