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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 疾患

濾胞結節性疾患

Follicular nodular disease

別名
多結節性甲状腺腫腺腫様甲状腺腫
臓器系
内分泌・代謝
科目
Pathology (Histopathology)SurgeryInternal Medicine
トピック
組織病理学 H2-094a:多結節性甲状腺腫外科学 B/02:甲状腺腫(goiter)の症状・診断・治療内科学 E-03:甲状腺結節と甲状腺癌
鑑別疾患
甲状腺濾胞腺腫
続発疾患
中毒性多結節性甲状腺腫
関連疾患
非中毒性甲状腺腫・甲状腺結節
症状
呼吸困難嗄声嚥下障害
検査値
甲状腺刺激ホルモン
画像所見
甲状腺結節甲状腺シンチグラフィ集積パターン
スコア
ベセスダシステム

🧠 全体像:(FND)は、分類第5版(2022年)が「腺腫様甲状腺腫」「」「」に代わって導入した統一病理用語である1。⭐ 核心は「真の腫瘍ではない」という位置づけと、「それでも一部は腫瘍かもしれない」という但し書きが同居している点——FNDは臨床的にはとして現れる多巣性の病変の集合で、大半は(過形成)だが、一部の結節は分子的にクローン性(=真の腫瘍)であり、しかも組織学的な見た目だけではと区別できない1。この「区別できなさ」を制度として受け止めるために作られたのがFNDという用語そのものである。

WHO第5版での位置づけと同義語

由来腫瘍は良性腫瘍・・悪性腫瘍の3ファミリーに分けられ、FNDは良性側の1つとして新設された1。分類は次の旧来の呼称をFNDの同義語として明示的に許容している。

旧来の呼称 FNDとの関係
adenomatous nodule() 同義語
adenomatous hyperplasia() 同義語
nodular hyperplasia() 同義語
multinodular goiter() 同義語(臨床的な呼称)

⚠️ 「」という語が残っているが、FNDそのものはではない。 は「これらの病変は腫瘍性ではなく、ICD-O behaviour codeも割り当てられない」と明記している1。旧称に含まれていた「腺腫」の語感を引き継ぎつつ、実体は病変として再定義した用語だと理解する。

クローン性と非クローン性が混在する

⭐ FNDの本質は、という1つの臨床像の中に、性質の異なる結節が混在しているという事実の受け入れである。

  • 大半は()——のな刺激によりが過形成と退縮を繰り返す
  • 一部は分子的にクローン性(腫瘍性)——見た目は過形成結節と同じでも、実は単一の変異細胞から増殖したクローンである
  • 第5版は「組織学的基準だけでは病変と腫瘍性病変を常には区別できない」と明記している1

💡 これは「診断が未熟だから区別できない」のではなく、「形態という手段の限界」を制度が認めたということである。 だからこそFNDは、確定診断名ではなく「この結節の性質は形態からは決めきれない」という留保を含んだ用語として使われる。

濾胞腺腫との鑑別点

(FND)
病変の数 多発性(として現れる)
腫瘍かどうか 大半は非腫瘍性(過形成)。一部はクローン性 真の腫瘍(クローン性)
ICD-O behaviour code 無し(腫瘍でないため)1 0(良性腫瘍)
細胞性結節の形態 と酷似しうる FNDの結節と酷似しうる
での鑑別 ⚠️ 常には区別できない1 同左

⚠️ 「単発か多発か」は臨床的な目安であって、病理学的な確定基準ではない。 の中の個々の結節を1つずつ取り出せば、それぞれがFNDの結節か、独立したかを形態だけで言い切れない場面がある。

疫学と病態

散発性甲状腺腫の頻度は米国で約5%、60歳時点でな結節は約5〜6%、剖検で見つかる非触知結節は約50%にのぼる2。⭐ 世界的にはが最大の原因で、22億人がなんらかの状態にあり、欠乏の程度が軽度なら人口の5〜20%、中等度なら20〜30%、重度なら30%を超える集団に甲状腺腫を生じさせる2。女性は男性の1.2〜4.3倍多く罹患する2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>刺激(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iodine deficiency'>ヨード欠乏</span>など)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular epithelium'>濾胞上皮</span>の過形成と退縮の繰り返し"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multinodular goiter'>多結節性甲状腺腫</span>として触知される"]
    C --> D["一部の結節が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic'>自律性</span>を獲得"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular nodular disease'>濾胞結節性疾患</span>(FND)として病理報告される"]
    E --> F["長期化すると一部が機能的に自律化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic multinodular goiter'>中毒性多結節性甲状腺腫</span>へ進展しうる"]

な刺激によりの過形成が生じ、一部の濾胞がから独立したを獲得することがへの進展の背景にある2。⚠️ この自律化がさらに進み、非依存性のホルモン産生にまで至ったものがである——FNDは機能の面ではまだの段階を指す用語であり、機能亢進が明らかになった時点で臨床診断名が変わる。

評価と治療

評価は・遊離T4・T3の測定に始まり、続けてを行う。疑わしい所見があればのを行う2。⚠️ 細胞診・いずれの段階でも、FNDとの鑑別という限界がついて回る——ベセスダIV()と判定された結節では、切除して被膜の全周を評価するまで最終的な性質が決まらないことがある。

  • によるは、長期化した甲状腺腫にはほとんどまたは全く効果がない2。地域での早期・若年例を除き、な第一選択にはならない。
  • 圧迫症状(呼吸困難・嚥下障害・嗄声)や整容上の問題があれば甲状腺切除術の適応になる。
  • ⚠️ 無症候でもは手術適応になる2。・が進行してから発見されるとが上がるためである。
  • 悪性が疑われる結節・ベセスダVI(悪性)が混在すれば、としてのに切り替わる。

💡 の「」というカテゴリー名は、FNDとの両方を包含する。 細胞診の段階では、対象がのFND結節なのか、真の腫瘍であるなのか、あるいはなのかを1つの検体から決めることはできない。だからこそ、このカテゴリーの悪性リスクは常に「幅」(レンジ)で示され、単一の数値には収束しない。

臨床での使いどころ

⚠️ 「」という臨床診断名と、「FND」という名は、同じ実体を別の角度から見たものである。 触診・画像で多発結節を確認した時点では「」と呼び、切除・生検の病理報告書では「」という用語が使われる——両者を別の病態と誤解しないことが、この用語を学ぶ実務的な意味である。

まとめ

  • (FND)は第5版(2022年)が新設した病理用語で、・・・を同義語として包含する。
  • ⭐ 大半はの過形成病変だが、一部は分子的にクローン性(腫瘍性)であり、組織学的にもと常には区別できない。
  • FNDは腫瘍性病変ではないためICD-O behaviour codeを持たない一方、は真の腫瘍として区別される——ただし両者は形態的に酷似しうる。
  • 背景にはを主因とするな刺激と濾胞の過形成・自律化があり、進行するとという機能亢進の段階に至りうる。
  • 評価は・超音波・細胞診の順で進めるが鑑別の限界は残る。は長期化した甲状腺腫には効果に乏しく、症状・進展があれば手術が適応になる。

出典

  1. 1.Update from the 2022 World Health Organization Classification of Thyroid Tumors: A Standardized Diagnostic Approach(Endocrinology and Metabolism (Seoul)(Jung, Bychkov, Kakudo)・2022)Europe PMC経由でPMC9633223の全文を取得して確認した。「follicular nodular disease(FND)」という用語が、多結節性甲状腺腫の臨床設定で生じる多巣性の過形成性・腫瘍性病変を包含するために新設されたこと(原文:"The term 'follicular nodular disease (FND)' was newly introduced to account for multifocal hyperplastic/neoplastic lesions occurring in the clinical setting of multinodular goiter.")、WHO分類がadenomatous nodule・adenomatous hyperplasia・nodular hyperplasia・multinodular goiterの4つを同義語として許容すること、多巣性の良性結節は臨床的に多結節性甲状腺腫と呼ばれ一般に過形成性・非クローン性病変とされるが一部の病変は分子的にクローン性(すなわち腫瘍性)であり形態的に濾胞腺腫と類似しうること(原文:"Multifocal benign nodules are clinically known as multinodular goiter and generally considered hyperplastic and non-clonal lesions. However, some lesions are molecularly clonal (i.e., neoplastic) and morphologically look similar to adenoma.")、FND内の被包性細胞性結節が濾胞腺腫と組織学的特徴だけでは鑑別できないこと(原文:"FND can have encapsulated cellular nodules that morphologically look similar to follicular adenoma, and thus, they cannot be differentiated based on histologic features.")、FNDが腫瘍性病変ではないためICD-Oコードを割り当てられていないこと(原文:"These lesions are not neoplastic and thus have no assigned ICD-O codes.")を確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Nontoxic Goiter(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)米国での散発性甲状腺腫の頻度が約5%であり、60歳時点で触知可能な結節が約5〜6%、剖検で見つかる非触知結節は約50%に達すること、世界で22億人がなんらかのヨード欠乏を有し欠乏の程度が軽度で人口の5〜20%・中等度で20〜30%・重度で30%超に甲状腺腫を生じさせること、女性が男性の1.2〜4.3倍多く罹患すること、慢性的なTSH刺激により濾胞上皮の過形成が生じ一部の濾胞が自律性を獲得して多結節性甲状腺腫へ進展すること、評価はTSH・遊離T4・T3の測定に続いて超音波検査を行い疑わしい所見があれば超音波ガイド下穿刺吸引細胞診を行うこと、レボチロキシン療法は長期化した甲状腺腫にはほとんどまたは全く効果がないこと、症状や合併症を伴う場合や無症候でも胸骨後甲状腺腫では甲状腺切除術が適応となることを確認した。閲覧 2026-09-07