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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

気胸

Pneumothorax

別名
PTX
臓器系
呼吸器
科目
PulmonologyTraumatologyPathology
トピック
呼吸器内科 44:気胸外傷学 13:外傷性血胸・気胸の診断と治療病理学 C/27:胸膜・心膜の病理
鑑別疾患
急性冠症候群肺血栓塞栓症
合併症
再膨張性肺水腫
関連疾患
胸水
症状
チアノーゼ胸痛呼吸困難
元疾患
エーラス・ダンロス症候群急性呼吸窮迫症候群胎便吸引症候群
原因となる疾患
マルファン症候群胸部外傷(肋骨骨折・血胸・外傷性気胸・フレイルチェスト)結核新生児呼吸窮迫症候群慢性閉塞性肺疾患
禁忌薬
亜酸化窒素

🧠 全体像:気胸は内に空気が入り込み、陰圧が失われて肺が虚脱する状態である。原発性(基礎肺疾患なし)、続発性(COPD・結核など基礎肺疾患あり)、・医原性のいずれからも、機序が働けばへ進展しうる。最優先事項はだけで認識し、画像を待たず直ちに減圧することである。安定したは、もはや大きさだけで治療を決めない。症状、生理学的安定性、基礎肺疾患、外来での管理可能性を総合して、保存的観察〜外来デバイス〜〜外科的処置まで個別化する。

病態

に挟まれた本来陰圧ので、この陰圧が肺の拡張を支えている。何らかの経路でに空気が流入すると陰圧が失われ、同側肺が虚脱する。空気の流入経路によって以下のように分類される。

  • 原発性:明らかな基礎肺疾患のないの自然破裂。若年、男性、長身・痩せ型、喫煙、家族歴が危険因子。
  • 続発性:COPDのブラ、結核、、肺癌などの基礎肺病変部で胸膜が破綻する。基礎疾患による低下のため、同じ大きさの気胸でも症状・生理学的破綻がより強く出やすい。
  • 気胸による肺実質損傷など)や穿損傷で、胸壁または肺・気道から空気が流入する。
  • 医原性気胸、経皮的、気管支鏡、などに伴う損傷による。

どの型から始まっても、損傷部がとして働くと、吸気時に空気がへ流入する一方で呼気時に排出されず、が進行性に上昇するへ進みうる。上昇した圧は同側肺をさらにするだけでなく縦隔を対側へ偏位させ、大静脈を圧迫して静脈還流を障害し、心拍出量を低下させる。この結果生じるは、低酸素血症と合わさって急速に心停止へ至りうる。

flowchart TD
    A["危険因子<br>原発性:若年男性・長身痩せ型・喫煙・家族歴<br>続発性:COPD等の基礎肺疾患<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span>:鈍的・穿<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facultative'>通性</span>外傷<br>医原性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive-pressure ventilation'>陽圧換気</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracocentesis'>胸腔穿刺</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung biopsy'>肺生検</span>"] --> B{"空気流入の機序"}
    B -->|"原発性"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apical subpleural bleb'>肺尖部胸膜下ブレブ</span>の自然破裂"]
    B -->|"続発性"| D["基礎肺病変部の胸膜破綻<br>(COPDのブラ、結核、癌など)"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span>・医原性"| E["胸壁または肺・気道損傷から空気流入"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleural cavity'>胸膜腔</span>への空気流入・陰圧消失"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["同側肺の虚脱"]
    G --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endobronchial one-way valve'>一方向弁</span>機序が成立するか"}
    H -->|"いいえ(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple pneumothorax'>単純気胸</span>)"| I["肺虚脱に見合った<span class='jp-term jp-term-diagram' title='V/Q mismatch'>換気血流比不均衡</span>"]
    H -->|"はい(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tension pneumothorax'>緊張性気胸</span>)"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic pressure'>胸腔内圧</span>の進行性上昇"]
    J --> K["対側肺圧迫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinal shift'>縦隔偏位</span>"]
    J --> L["大静脈圧迫・静脈還流低下"]
    L --> M["心拍出量低下"]
    K --> N["重度低酸素血症"]
    M --> O["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obstructive shock'>閉塞性ショック</span>・心停止"]
    N --> O

💡 は特定の型の気胸を指す病名ではなく、原発性・続発性・・医原性のどの気胸からも移行しうる生理学的な終末像である。「どの気胸か」よりも「が成立しているか」「循環・呼吸が破綻しているか」を常に意識する。

⚠️ へ進行させうる。すでに気胸が確認されている患者にを要する場合は、原則としてを先行または同時に行う。

臨床像

項目 (原発性・続発性) 気胸
突然の同側・呼吸困難 外傷直後〜遅発性。・胸壁創を伴うことが多い どの型からも急速に進行しうる
身体所見 患側呼吸音低下・消失、低下 同上に加え、胸壁創、など外傷所見 重度呼吸困難、頻脈、低血圧、意識変化、チアノーゼ
通常なし 通常なし 古典的所見だが遅発性・不明瞭なことが多く、併存例では目立たない
基礎疾患の影響 続発性ではCOPD等の低下により同じ気胸量でも症状が強く出やすい 他の外傷(、肺、大血管損傷)の合併に注意 放置すれば・心停止に直結

⚠️ なくてもを除外しない。が併存するとは目立たず、は比較的遅れて出現する所見である。臨床的な呼吸・循環の破綻の有無で判断する。

⭐ 外傷では気胸とが同時に存在するもまれではない。片側呼吸音低下でも、かで優位か気胸優位かの手がかりになる。

診断

  • は臨床診断であり、画像検査の結果を待って減圧を遅らせてはならない。
  • 安定例では胸部X線線と末梢の消失を確認する。仰臥位撮影ではとして現れ、見逃しやすい。
  • (eFASTを含む)はベッドサイドで迅速に評価でき、の消失、の消失、正常肺との境界を示す(lung point)が手がかりになる。
  • CTはX線で判定困難な小さな気胸、ブラとの鑑別、基礎肺疾患の評価に有用。
  • の画像所見(同側横隔膜平坦化、対側への)はあくまで参考所見であり、確認のために減圧を待つべきものではない。
flowchart TD
    A["胸痛・呼吸困難、または外傷後の患者"] --> B{"重度呼吸窮迫・低血圧・意識変化を認めるか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tension pneumothorax'>緊張性気胸</span>を臨床診断<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jugular venous distension'>頸静脈怒張</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tracheal deviation'>気管偏位</span>がなくても否定しない)"]
    C --> D["画像を待たず直ちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle decompression'>針減圧</span><br>第4/5肋間<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior axillary line'>前腋窩線</span>(第一選択)<br>または第2肋間<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midclavicular line'>鎖骨中線</span>(代替)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube thoracostomy'>胸腔ドレーン</span>で確実な排気"]
    B -->|"いいえ(安定)"| F["立位胸部X線"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung ultrasound'>肺超音波</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung sliding'>肺滑走</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='B-line'>Bライン</span>消失、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung point'>肺点</span>"]
    G --> H{"X線で不確実/ブラとの鑑別/基礎疾患評価が必要か"}
    H -->|"はい"| I["CTで評価"]
    H -->|"いいえ"| J["症状・大きさ・基礎肺疾患・生理学的安定性を総合評価"]
    I --> J
    J --> K["個別化した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を選択"]

治療

緊張性・不安定気胸への初期対応

  1. 直ちに胸腔減圧する。、画像確認、完全な無菌準備のために救命的減圧を遅らせてはならない。
  2. 第4〜5肋間・前〜が第一選択で、太く十分な長さ(例:14〜16G・8 cm)のカテーテルを用いる。胸壁が厚い場合は失敗しやすいため、第2肋間を代替部位として考慮する。
  3. 状況・技量に応じてで一時的に減圧し、速やかに確実なへ移行する。

⚠️ 挿入は血管束を避けるため必ずから行う。減圧後も、閉塞・位置異常・持続する緊張がないか再評価する。

酸素投与

低酸素血症がある場合に限り目標SpO₂へ調節して投与する。高CO₂血症のリスクがなければ94〜98%、リスクがあれば88〜92%を目安とする。安定した正化の患者に、空気吸収の促進だけを目的として一律に酸素を投与する(かつての「全例96〜100%」という考え方)のは過剰酸素投与につながるため行わない。

安定した自然気胸の管理

⭐ 2023年BTS(British Thoracic Society)の胸膜疾患ガイドラインでは、胸部X線上の気胸の大きさだけでを固定しない、症状・患者中心のアプローチへ転換している。大きさは処置の安全性(穿刺・ドレーン留置の可否)には影響するが、それ自体がな適応ではない。

状況 方針
無症状〜軽症で生理学的に安定した原発性 大きさにかかわらず、十分な説明と確実な外来フォローができればを考慮
支援が整った原発性で介入が必要な例 外来アンビュラトリーデバイスを、専門的フォローのある施設で考慮
保存的・外来管理に適さない例 または小口径を第一選択のとして検討
続発性、両側性、強い症状・低酸素、進行傾向 入院のうえ低い閾値でを行い、呼吸器内科・胸部外科へ相談
、再発、職業上の高リスク(士・パイロット等) 、Vによるブレブ・ブラ処理と胸膜処置を検討

💡 続発性は基礎肺疾患(COPD結核など)により肺がもともと低下しているため、原発性より症状が強く出やすく、を選べる範囲は狭くなる。

外傷性気胸・血胸への対応

  • の適応:、大きい・症候性の気胸、不安定な(目安として概ね500 mL以上)、・搬送・手術予定などで観察が危険な例。
  • 安定した小気胸、CTのみで見つかる気胸、300 mL未満の小は、継続的な監視と再画像が可能なら観察できる場合がある。すべての気胸・へ一律にドレーンを入れるわけではない。
  • ドレーンは内、概ね第4〜5肋間からを通して挿入する。
  • 手術(・V)の適応:が不安定な出血では量の数字を待たず判断する。参考値として初回または短時間で約1,500 mLの排血、あるいは200 mL/時が数時間(概ね2〜4時間)持続する場合はによる検索を強く考慮する。遺残には早期のVによる血腫除去が、・肺再膨張不良には大きな肺・気管支損傷やドレーン不良の検索とV/が有用。

⚠️ 量の閾値はあくまで判断材料の一つであり、の破綻、輸血必要量、画像上の活動性出血の有無を優先して手術適応を判断する。

経過観察と再発予防

気胸が画像上完全に消失するまで航空機搭乗は避け、は専門的評価なしに再開しない。禁煙は原発性の再発リスクを下げる重要なである。再発、両側病変、持続する、職業上の高リスクでは、Vによるブレブ・ブラ処理とを検討する。

まとめ

  • 気胸は原発性・続発性、医原性のいずれからも起こり、機序が働けばへ進展しうる。
  • は臨床診断で、がなくても否定せず、画像を待たず直ちにする(第4/5肋間が第一選択、第2肋間は代替)。
  • 安定例の診断は立位胸部X線、、必要に応じたCTを組み合わせる。
  • 2023年BTSガイドラインでは、安定したの管理を大きさだけで決めず、症状・生理学的安定性・基礎肺疾患・外来フォロー可能性から保存的観察、外来デバイス、を選ぶ。
  • 続発性はCOPD・結核などの基礎肺疾患によりが低いため、同じ大きさでも症状が強く出やすく、入院・ドレナージの閾値は低くなる。
  • 酸素は全例にを狙うのではなく、低酸素血症の有無と高CO₂血症リスクに応じて目標SpO₂を設定する。
  • 気胸・のドレナージ適応は一律ではなく、量・画像所見を総合して判断し、手術適応も量の閾値だけでなく生理学的破綻を優先する。
  • 、再発、職業上の高リスクでは、Vによるブレブ・ブラ処理とを検討する。