呼吸器学

呼吸器学 · 44

気胸

Pneumothorax

前提:正常
胸膜と肺胸壁の血管と神経(肋間神経血管束)
疾患
気胸

🧠 全体像:気胸は内へ空気が入り、陰圧が失われて肺が虚脱する状態である。最優先はを臨床診断し、画像を待たず即時減圧すること。安定したは大きさだけでなく、症状、生理学的障害、基礎肺疾患、外来管理可能性で治療を決める。

1. 分類と原因

分類 定義・原因
明らかな基礎肺疾患なし。破裂。若年、男性、長身・痩せ型、喫煙、家族歴が危険因子
続発性 COPDのブラ、結核、、嚢胞性線維症、、悪性腫瘍などに合併
気胸 、、穿損傷
医原性気胸 、、経皮的、など
機序でが進行性に上昇し、呼吸・循環が破綻する。どの気胸からも移行しうる

2. 病態生理

上昇→同側→低V/Q・増加となる。開放気胸では胸壁創から、閉鎖性では肺・気道損傷部から空気が入る。

緊張性気胸

flowchart TD
  A["胸膜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tracheobronchial'>気管気管支</span>損傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endobronchial one-way valve'>一方向弁</span>:吸気で流入し呼気で排出不能"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic pressure'>胸腔内圧</span>が進行性上昇"]
  C --> D["同側肺虚脱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contralateral lung'>対側肺</span>圧迫"]
  C --> E["大静脈圧迫・静脈還流低下"]
  E --> F["心拍出量低下"]
  D --> G["重度低酸素血症"]
  F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obstructive shock'>閉塞性ショック</span>・心停止"]
  G --> H

3. 臨床像

  • 突然の同側、呼吸困難
  • ・消失、、低下、
  • 緊張性では重度呼吸困難、頻脈、低血圧、意識変化、チアノーゼ。
  • は併存時には目立たず、は遅い所見である。両者がなくても除外しない。

4. 診断

  • 安定例は胸部X線で線と末梢消失を確認する。仰臥位ではを示す。
  • はX線で不確実な小気胸、ブラとの鑑別、基礎病変評価に用いる。
  • はベッドサイド・で有用。ではとB-lineの消失、Mモードでは正常の海岸徴候に代わるをみる。ただし消失は癒着、無呼吸、挿管などでも起こるため単独では確定しない。は気胸辺縁を支持するが、肺がに虚脱した大きな気胸では認めないことがある。
  • は臨床診断で、画像撮影を待って減圧を遅らせない。画像では同側横隔膜平坦化、対側へのを認めうる1。

画像上の広がりと病態を混同しない

  • またはだけに空気がある「部分気胸」、胸壁からほぼに離れるが小さな肺実質が残る「亜全気胸」、完全虚脱を示す「全気胸」は画像所見の記述であり、普遍的な治療分類ではない。
  • に水平ながあれば、ではなく液体も併存する液気胸を考える。
  • は虚脱率ではなく、上昇による呼吸・循環障害で定義する。肺が完全虚脱していなくても緊張性になりうる。
  • したがって、処置は「部分・亜全・全」だけで固定せず、症状、生理学的障害、基礎肺疾患と進行性で判断する。

5. 初期治療

緊張性・不安定気胸

  1. 直ちに胸腔減圧する。
  2. を直ちに留置できない場面や病院前ではを救命的な一時処置として行う。/AAST 2025は第2肋間、代替として第5肋間を挙げている1。胸壁厚とカテーテル長を考慮し、施設・救急プロトコルに従う。
  3. 経験・状況に応じ開放式または指による胸腔開放を行い、その後確実なを留置する。針は移動したり病院到着まで有効性を保てなかったりするため、指による胸腔開放も有効な減圧手段である1。

前の緊急処置であり、同意・画像・完全な無菌準備のために救命減圧を遅らせない。

部位の推奨は資料で違う。 第10版(以下はが引用している記述)は第4〜5肋間の前へ小柄な成人で5 cm・大柄な成人で8 cmの針を、欧州外傷コース(ETC)は第2肋間へ14または16ゲージの「超長」を推奨しており、部位も針も食い違う2。どれか1つを唯一の正解として覚えない。

⚠️ 左側では第5肋間でを行わない。 によるは下縦隔よりで強く、心臓が下縦隔に残るため、この高さからの穿刺は心損傷の危険がある。減圧部位と針長の(2025年)は、右側は7 cm針を第2肋間または第5肋間へ、左側は7 cm針を第2肋間へ入れることを提案している。針は長いほど失敗しにくい(針長が1 cm増えるごとに失敗率がおよそ7.76ポイント低下)が、研究間のが大きく前向きによる検証が必要と著者ら自身が述べている2。

酸素と陽圧換気

  • 酸素投与時の目標SpO₂は、高CO₂血症リスクがなければ94〜98%、リスクがあれば88〜92%を目安とする。
  • ドレナージを要さず入院観察する気胸では、高CO₂血症リスクがなければ空気再吸収促進のため高濃度酸素を考慮する。ただし全例へ漫然と投与せず、目標SpO₂とを意識して再評価する3。
  • はを緊張性へ進めうる。が必要な臨床的気胸では原則ドレナージを先行・同時に行う。

6. 安定した自然気胸

2023年BTSの考え方では、胸部X線上の径だけで治療を固定しない4。

状況 方針
症状が乏しく生理学的に安定した(primary spontaneous pneumothorax, PSP) 大きさにかかわらず、十分な説明・確実な追跡ができればを考慮
介入が必要なPSP 、外来デバイス、小口径を施設・希望で選択
、両側、重い症状・低酸素、進行 入院・を低い閾値で行い呼吸器/胸部外科へ相談
、再発、職業上高リスク 、による/ブラ処理・胸膜処置を検討

「大きさ」はどの資料の定義かとセットで覚える

BTSは2010年版からの変更点として、気胸の大きさはもはやの適応ではない(ただし処置を安全に行えるかどうかは大きさが決める)と明記している。同ガイドラインの気胸の臨床経路は、介入に足る大きさの目安を胸部X線で側方または方向に概ね2 cm以上、では放射線科の支援のもとで安全に到達できるなら大きさを問わないとしている4。つまり2 cmは「ここから治療する」線ではなく「ここから安全に針やドレーンを入れられる」線である。

⚠️ −3 cmのように、測る場所も閾値も違う定義を採る資料がある。 数値だけを取り出して覚えると、別の資料の枠へ持ち込むことになる。同じ「2 cm」でも、外傷診療で/AAST 2025が挙げる「安定例の2 cm以下の小気胸は24時間以上の観察のうえで保存的に管理できる」は別の場面の別の基準である1。

BTSの臨床経路が「高リスクの特徴」として挙げるのは次の6つで、これがあれば介入・入院の側へ倒す4。

  1. 血行動態の破綻()
  2. 著明な低酸素血症
  3. 両側気胸
  4. 基礎肺疾患
  5. 50歳以上で喫煙歴が多い

旧来の講義的整理との違い:は吸引または、続発性はドレーン±、と一律に分けると覚えやすいが、現行方針はより個別化される。安定したにはや外来もあり、続発性では低い閾値でドレナージする。は初回の続発性すべてに自動的に追加する処置ではなく、再発リスク、、手術適応、患者背景から選ぶ。4

7. 手技

指開胸

皮膚切開・鈍的剥離後に手指でへ到達し、開放して緊張を解除する。これは一時的な救命段階であり、通常はその後ドレーンを留置する。

胸腔ドレーン

  • 内で、血管束を避けから挿入する。/AAST 2025は第4〜6肋間のまたはからの側方挿入を最良としている1。
  • 空気を排出して肺再膨張を促す。留置後は臨床状態、排気、接続を確認し、画像で位置・再膨張を評価する。

まとめ

  • は画像を待たず即時減圧する。は第10版・ETC・/AAST 2025で違うので1つに固定せず、左側だけは心損傷の危険から第5肋間を避ける。
  • 酸素は全例96〜100%を狙わず、高CO₂血症リスクと観察・ドレナージ方針に応じ目標化する。
  • 安定したは径だけでなく症状・生理学的障害・追跡可能性で保存、吸引、外来デバイス、ドレーンを選ぶ。BTS 2023の2 cmは処置を安全に行えるかの目安であって治療の適応そのものではなく、3 cmなど別の測り方を採る資料と混ぜない。

出典

  1. 1.Thoracic trauma WSES-AAST guidelines(World Society of Emergency Surgery / American Association for the Surgery of Trauma・2025)全文(PMC12522690)で確認した。緊張性気胸と大量血胸は直ちに認識して処置を要すること(エビデンスの質は中等度、推奨は強い)、単純気胸・緊張性気胸・血胸の治療の第一選択が胸腔ドレーンであること(中等度・強い)、胸腔ドレーンの挿入部位は第4〜6肋間の前腋窩線または中腋窩線からの側方挿入が最良であること、胸腔ドレーンが使えない緊急時や病院前では第2肋間鎖骨中線、あるいは代替として第5肋間中腋窩線への針減圧が治療選択肢になりうること、針は移動したり病院到着まで有効性を保てなかったりするため指胸郭開放も有効な減圧手段であること、緊張性気胸の画像所見として同側横隔膜平坦化と対側への縦隔偏位を認めうること、安定例の2 cm以下の小気胸は24時間以上の観察のうえで保存的に管理できること(エビデンスの質は低く推奨は中等度)を確認した。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Meta-analysis of the optimal needle length and decompression site for tension pneumothorax and consensus recommendations on current ATLS and ETC guidelines(World Journal of Emergency Surgery・2025)全文(PMC12087068)で確認した。ATLS(引用されているのは第10版学生用マニュアル)が小柄な成人で5 cm・大柄な成人で8 cmの針を第4または第5肋間の前中腋窩線へ、欧州外傷コース(ETC)が14または16ゲージの「超長」カニューレを第2肋間鎖骨中線へと推奨しており、部位も針も食い違っていること、針長が1 cm増えるごとに減圧失敗率がおよそ7.76ポイント下がること、緊張性気胸による縦隔偏位は下縦隔より上縦隔で強いため心臓が残り第5肋間からの穿刺で損傷を受けやすいこと、著者らの提案が「右側の緊張性気胸は7 cm針を第2肋間鎖骨中線または第5肋間中腋窩線へ」「左側の緊張性気胸は7 cm針を第2肋間鎖骨中線へ」「左側は心損傷の危険があるため第5肋間中腋窩線では減圧しない」であること、ただし研究間の異質性が大きく前向き多施設試験による検証が必要と著者ら自身が述べていることを確認した。閲覧 2026-09-17
  3. 3.BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(British Thoracic Society・2017)急性期の目標SpO₂、高CO₂血症リスク例の制御酸素療法、ドレナージ不要で入院観察する気胸での高濃度酸素閲覧 2026-08-03
  4. 4.British Thoracic Society Guideline for pleural disease(British Thoracic Society・2023)英国胸部学会の公式サイトが公開しているガイドライン全文PDFと臨床経路の付録で確認した。推奨が「最小限の症状(強い疼痛も呼吸困難も生理学的破綻も無い)または無症状の原発性自然気胸には大きさにかかわらず保存的管理を考慮してよい」「支援体制と追跡が整う施設では外来管理を考慮すべき」「保存的・外来管理に適さない例では針吸引または胸腔ドレナージを考慮すべき」(いずれも条件付き)であること、本文が2010年版からの変更として「気胸の大きさはもはや侵襲的治療の適応ではない(ただし処置を安全に行えるかは大きさが決める)」と述べていること、気胸の臨床経路の脚注が介入に足る大きさを「臨床状況によるが一般に胸部X線で側方または肺尖方向に概ね2 cm以上、あるいはCTで放射線科の支援のもと安全に到達できる大きさであれば大きさを問わない」としていること、同経路の高リスクの特徴が血行動態の破綻(緊張性気胸)・著明な低酸素・両側気胸・基礎肺疾患・50歳以上で喫煙歴が多い・血気胸の6項目であることを確認した。閲覧 2026-09-21