呼吸器学

呼吸器学 · 43

胸水

Pleural effusion

前提:正常
胸膜と肺胸壁の血管と神経(肋間神経血管束)
疾患
気管支胸膜瘻胸水再膨張性肺水腫
スコア
Light基準

🧠 全体像:胸水は臓側・間に液体が異常貯留した状態である。まず超音波で安全に確認し、かをで分け、心不全など全身性圧異常か、感染・悪性腫瘍など局所かを診断する。

1. 胸水の形成

正常胸腔には少量の潤があり、肺運動を滑らかにする。・、胸膜透過性、リンパの均衡が崩れると貯留する。

型 機序 主な原因
または。胸膜自体の炎症は乏しい 、肝硬変、、、など
症、、リンパ閉塞 肺炎・、結核、悪性腫瘍、肺塞栓、外傷・、膵炎、、自己免疫疾患、など

胸水蛋白 >2.9 g/dLという単独の値ではなく、血清との比を含むを用いる。

2. ライト基準

次の1つ以上を満たせば、どれも満たさなければと判定する1。

  1. 胸水蛋白 / 血清蛋白 >0.5
  2. 胸水 / 血清 >0.6
  3. 胸水 >血清の2/3

⚠️ 3つとも比またはとの比較であり、胸水側の絶対値だけでは判定できない。胸水採取と同時に血清の蛋白・を採る。

心不全へ利尿薬投与後はで偽となることがあり、臨床像、などで補う。

3. 症候・身体所見

  • 呼吸困難、、
  • 患側胸郭運動低下、低下
  • で、
  • は炎症を示すが、大量液体上ではむしろ聞こえにくい。

大量胸水では縦隔・気管を対側へ偏位させうる。逆に患側へ牽引されるならなどを考える。

4. 画像診断

検査 所見・役割
胸部X線 、、大量時の対側への。では容量減少により縦隔が患側へ牽引される
胸部超音波 少量胸水、隔壁、穿刺部をリアルタイム評価。胸水の穿刺には必ず超音波を用いる(を常に用いることが強い推奨)21
胸部CT ・結節、肺実質、縦隔、少量・、悪性・感染徴候を評価

「がすべての小胸水の」ではなく、ベッドサイド検出と処置安全性では超音波が中心となる。

型胸水では、正面X線で横隔膜頂点が外側へ偏る、左側では胃泡と見かけの横隔膜との距離が増えるなど、に似た所見を示しうる。

5. 診断的胸腔穿刺

原因不明の片側胸水、感染・などで行う。明らかな両側心不全性胸水が利尿で改善する場合などは、必ずしも直ちに穿刺しない。

検体項目

  • 蛋白、と同時血清値、pH、ブドウ糖
  • 細胞数・分画、グラム染色・培養
  • 細胞診、必要に応じ抗酸菌検査、トリグリセリド、など

外観はで透明、感染性滲出液で・膿性、でとなりうるが、外観だけで分類しない。

安全な穿刺

  • 超音波で穿刺位置・深さを確認し、血管束を避けるための中で肋骨の直上から入る。⚠️ 後方アプローチは避ける——この位置ではが肋骨の下縁に覆われないことがある2。
  • 診断目的の採取は約50 mL、は500〜1,500 mLが目安で、60 mLを超えるでは針ではなくカテーテルを使う2。
  • 穿刺のを400〜500 mLで固定しない。手動吸引またはで緩徐にし、やは避ける。一回の穿刺でするのは原則1.5 Lまでとし、これを超えるは専門チームの監視下という限られた場合に限る。、胸痛、持続する咳、呼吸困難などの症状が出れば、それより少量でも中止する2。
  • 急速・無制限はや循環不安定を招きうる。

6. 原因別治療

  • 心不全:など基礎心不全治療。
  • 自己免疫性:基礎疾患に応じ抗炎症・免疫治療。
  • ・:明らかな膿がなければ胸水pHを直ちに測定し、pHで3段に分けて判断する(下表)。
  • :症候性で肺の再膨張が見込める場合は、またはを第一選択として提示し、患者の希望、入院・外来方針、再介入回避を踏まえて選ぶ。や不成功ではを優先する3。

胸水pHによるドレナージ判断

明らかな膿が引ければその時点でドレナージの適応である。膿が引けないでは、直ちにpHを測って次の3段で判断する1。

初回pH ・胸膜感染のリスク 初期のドレナージ方針
≤7.2 高い 超音波上安全にできる量があればを留置する
>7.2 かつ <7.4 中間 胸水を測り、>900 IU/Lならドレナージを考慮する。とくに大量胸水、低ブドウ糖(≤4.0 mmol/L)、発熱の遷延、での胸膜、超音波での隔壁があれば行う
≥7.4 低い 直ちのドレナージの適応にならない(ドレーンを入れない場合は定期的に再評価し、必要なら再穿刺する)

⚠️ pHを直ちに測れない場面では、胸水ブドウ糖 <3.3 mmol/L を・胸膜感染の高い確率を示す代用指標として使ってよい1。やヘパリンの混入はpHを下げ、採取の遅れや注射器内の空気はpHを上げるため、測る前の扱いで値が動くことも意識する。

胸膜感染・膿胸

は感染性胸水がで膿性となった状態で、から敗血症・多臓器障害へ進行しうる。抗菌薬だけでなく、として適切なを遅らせない。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parapneumonic effusion'>肺炎随伴胸水</span>を穿刺"] --> B{"明らかな膿またはpH ≤7.2?"}
  B -->|"はい"| C["抗菌薬+小口径<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube thoracostomy'>胸腔ドレーン</span>"]
  B -->|"いいえ"| D["pH・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactate dehydrogenase'>LDH</span>・糖・画像・臨床経過を統合"]
  D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complicated'>複雑性</span>を示す?"}
  E -->|"はい"| C
  E -->|"いいえ"| F["抗菌薬と厳密な再評価"]
  C --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drainage (fluid)'>排液</span>停止後も残存腔?"}
  G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue plasminogen activator'>tPA</span>+DNaseを検討"]
  H --> I["不応なら胸部外科へ相談"]

初期ドレーンは通常14 Fr以下の小口径を選ぶ。ドレーンからのが止まっても画像上の残存腔があれば、+DNase併用を検討する。⚠️ 単剤・DNase単剤は推奨されない——併用で初めて推奨されている。による洗浄は、+DNaseや手術が不適切な場合の選択肢であり、標準的な代替として全例へ行う治療ではない。1

7. 胸膜生検と留置胸膜カテーテル

  • 、閉鎖式、下を病変と疑い疾患に応じて選ぶ。
  • はを通して長期留置し、急速に再貯留するなどを在宅で間欠できる。一方で感染、特に蜂窩織炎のリスクに注意する4。
flowchart TD
  A["胸水を超音波で確認"] --> B["原因が明白か・穿刺適応"]
  B --> C["診断的穿刺"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='light&#39;s criteria'>ライト基準</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transudate'>漏出性</span>:全身原因を治療"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exudate'>滲出性</span>:感染・悪性・結核など検索"]
  F --> G["ドレナージ・生検・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indwelling pleural catheter (IPC)'>留置胸膜カテーテル</span>を病態別に選択"]

まとめ

  • 胸水はでとに分類し、単独で決めない。
  • 超音波は検出と安全な穿刺の中心で、から穿刺する。
  • 量は固定せず緩徐に管理し、一回の穿刺は原則1.5 Lまでとしつつ、それ未満でも症状が出れば中止する。感染性胸水はpH(≤7.2/7.2〜7.4/≥7.4)と追加所見から早期ドレナージを判断する。

出典

  1. 1.British Thoracic Society Guideline for pleural disease(British Thoracic Society・2023)英国胸部学会の公式サイトが公開しているガイドライン全文PDFで確認した。Table 1がライト基準を蛋白比>0.5・LDH比>0.6・胸水LDH>血清LDH基準上限の2/3の3項目とし1つ以上で滲出性とすること、胸膜感染では膿が引けなければ直ちにpHを測り、pH ≤7.2は高リスクで超音波上安全な量があれば胸腔ドレーンを入れる、pH >7.2かつ<7.4は中間リスクでLDHを測り>900 IU/Lならドレナージを考慮する、pH ≥7.4は低リスクで直ちのドレナージの適応がない、という3段の書き分けであること、pHが直ちに測れないときは胸水ブドウ糖<3.3 mmol/Lを高確率の指標にしてよいこと、初期ドレナージは14 Fr以下の小口径で行うこと、初期ドレナージ後に残存腔があれば組織プラスミノーゲン活性化因子とDNaseの併用を考慮し単剤は推奨しないこと、生理食塩水洗浄は併用療法や手術が適さない場合の選択肢であること、画像ガイド下の胸腔穿刺を常に用いるべきことを確認した。閲覧 2026-09-21
  2. 2.British Thoracic Society Clinical Statement on pleural procedures(British Thoracic Society・2023)英国胸部学会の公式サイトが公開しているClinical Statement全文PDFで確認した。臨床実践ポイントが「胸腔穿刺は神経血管束の損傷を避けるため肋骨の上で行う」「胸水の穿刺には胸部超音波を必ず用いる」「小径針が望ましい」「60 mLを超える治療的排液では針ではなくカテーテルを用いる」「治療的排液は用手吸引または重力で緩徐に行い真空ボトル・壁吸引は用いない」「一回の穿刺で排液するのは原則1.5 Lまで」「胸部圧迫感・疼痛・持続する咳・呼吸困難増悪が出れば中止する」であること、穿刺部位は安全三角の中の肋骨直上を選び、後方アプローチは神経血管束が肋骨の下縁に覆われないことがあるため避けること、より多量の排液は専門チームの監視下という限られた状況に限ることを確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Management of Malignant Pleural Effusions: An Official ATS/STS/STR Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society / Society of Thoracic Surgeons / Society of Thoracic Radiology・2018)悪性胸水での留置胸膜カテーテルと胸膜癒着術の選択、非膨張肺での留置胸膜カテーテル優先閲覧 2026-08-09
  4. 4.Indwelling Pleural Catheter versus Pleurodesis for Malignant Pleural Effusions: A Systematic Review and Meta-Analysis(Annals of the American Thoracic Society・2019)悪性胸水での留置胸膜カテーテルと胸膜癒着術の比較、および留置胸膜カテーテルの感染リスク閲覧 2026-08-09