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Disease Atlas · 呼吸器 · 外傷

胸部外傷(肋骨骨折・血胸・外傷性気胸・フレイルチェスト)

Thoracic trauma (rib fracture, hemothorax, traumatic pneumothorax, flail chest)

別名
Chest trauma
臓器系
呼吸器
科目
Traumatology and Orthopedics
トピック
外傷学 12:肋骨骨折の分類・治療・予後外傷学 13:外傷性血胸・気胸の診断と治療
合併症
循環性ショック
続発疾患
気胸急性呼吸窮迫症候群
治療薬
パラセタモールモルヒネ
症状
圧痛咳胸痛呼吸困難出血性ショック蒼白疼痛
画像所見
無気肺eFAST

🧠 全体像:では、胸壁の骨折だけでなく、への空気・血液貯留、肺、気道・大血管損傷を同時に考える。初療で最も重要なのは、と大量を生理学的破綻から直ちに認識し、画像を待たず処置することである。安定後は、・の疼痛を多角的に制御し、深呼吸・咳・・を維持して、、肺炎、呼吸不全を防ぐ。

病態

肋骨骨折とフレイルチェスト

の疼痛は吸気と咳を抑制し、低換気、分泌物貯留、、肺炎へ連鎖する。高齢者、複数骨折、基礎肺疾患、、低いはを高める。

は、連続する3本以上の肋骨がそれぞれ2か所以上で骨折した画像上の形態である。は、その不安定胸壁が呼吸に伴ってを示すを指す。呼吸不全の重症度は胸壁だけでなく、併存する肺、疼痛、分泌物排出不良に大きく左右される。

外傷性気胸・血胸

気胸では、肺・気道または胸壁の破綻からへ空気が入る。損傷部がになるとが上昇し、同側肺虚脱、縦隔、静脈還流低下からを来す。

では肋間動静脈、内胸動静脈、肺実質、・大血管などから内へ出血し、肺圧迫による換気障害とが同時に進む。気胸とが併存するも多い。

flowchart TD
    A["鈍的・穿<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facultative'>通性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest trauma'>胸部外傷</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rib fracture'>肋骨骨折</span>・胸壁不安定"]
    A --> C["肺・気道・胸壁の破綻"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrathoracic'>胸腔内</span>血管・肺実質損傷"]
    B --> E["疼痛→浅呼吸・咳抑制"]
    E --> F["分泌物貯留・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atelectasis'>無気肺</span>・肺炎"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic'>外傷性</span>気胸"]
    G --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endobronchial one-way valve'>一方向弁</span>機序"}
    H -->|"あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tension pneumothorax'>緊張性気胸</span>→静脈還流低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obstructive shock'>閉塞性ショック</span>"]
    H -->|"なし"| J["肺虚脱・換気障害"]
    D --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemothorax'>血胸</span>"]
    K --> L["肺圧迫+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>循環血液量減少</span>"]
    L --> M["低酸素血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic shock'>出血性ショック</span>"]

臨床像

病態 主な所見 見逃してはいけない点
限局する圧痛、呼吸・咳・体動で増悪する胸痛、 肋骨では大血管・、肋骨では肝・脾・腎・横隔膜損傷を検索
吸気時陥凹・呼気時膨隆する、強い疼痛、増大 肺が呼吸不全の主因になりうる。の有無だけで挿管を決めない
呼吸困難、、患側、、 仰臥位X線では見逃しやすく、で緊張化しうる
急速な呼吸不全、片側、低血圧、頻脈、意識変化 ・は遅い/欠如しうる。画像を待たない
胸壁創からの空気出入り、泡立つ創、呼吸困難 密閉後にへ変化しうるため連続再評価
・大量 患側、、頻脈、低血圧、蒼白 と肺圧迫を同時に治療。量だけで手術判断を遅らせない

⚠️ 患者の片側とショックを「気胸」と決めつけない。なら気胸、ならが示唆されるが、現場では、、心タンポナーデが併存しうる。

診断

一次評価

気道、呼吸、循環を同時に評価し、胸壁の左右差、、呼吸音、音、、頸静脈、を確認する。や大量で循環・呼吸が破綻していれば、画像検査より処置を優先する。

は臨床診断である。または中に、急な低酸素・低血圧、患側、胸郭膨隆、換気圧上昇などを認めたら、典型的なや画像所見がそろうのを待たない。

安定例の画像

  • eFAST:ベッドサイドで・消失、、胸水を評価する。迅速だががある。
  • 胸部X線:気胸、、、を検索する。仰臥位気胸ではに注意する。
  • 造影CT:安定例で、気胸・小、肺、骨折転位、大血管・横隔膜損傷を詳しく評価する。

単純X線でが写らなくても、限局性圧痛とがあれば骨折を否定できない。画像上の骨折本数だけでなく、年齢、疼痛、、、、併存損傷を含めて重症度を判断する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest trauma'>胸部外傷</span>の一次評価"] --> B{"呼吸・循環が破綻しているか"}
    B -->|"はい:片側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased breath sounds'>呼吸音低下</span>+ショック"| C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tension pneumothorax'>緊張性気胸</span>を疑うか"}
    C -->|"はい"| D["画像を待たず緊急胸腔減圧"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube thoracostomy'>胸腔ドレーン</span>で確実に排気"]
    C -->|"大量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemothorax'>血胸</span>を疑う"| F["太径<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube thoracostomy'>胸腔ドレーン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood components'>血液製剤</span>による蘇生"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemodynamics'>循環動態</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drainage (fluid)'>排液</span>量から緊急手術を判断"]
    B -->|"いいえ:安定"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extended focused assessment with sonography for trauma'>eFAST</span>・胸部X線"]
    H --> I{"詳細評価が必要か"}
    I -->|"はい"| J["造影CT"]
    I -->|"いいえ"| K["経時観察・再画像"]
    J --> L["観察・ドレナージ・VATS/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracotomy'>開胸</span>を選択"]

治療

緊張性気胸

を疑ったら、酸素投与と並行して直ちに減圧する。施設内で技術と器具が整えば指胸郭開放またはが確実で、は特に病院前・即時対応で用いる。十分な長さのカテーテルをから挿入する。

の推奨は資料によって違うので、どれか1つを唯一の正解として覚えない。

資料 推奨している部位・器具
第10版(下記が引用する記述) 第4〜5肋間の前。針は小柄な成人で5 cm、大柄な成人で8 cm1
欧州外傷コース(ETC、同上) 第2肋間。14または16ゲージの「超長」1
/AAST 2025 が使えない緊急時・病院前の選択肢として第2肋間、代替として第5肋間2
上記自身の提案 右側は7 cm針を第2肋間または第5肋間へ。左側は心損傷の危険から第2肋間を選び、第5肋間では行わない1

⚠️ 左右で危険が違う。 によるは下縦隔よりで強く、心臓が下縦隔に残るため、左側の第5肋間からの穿刺は心損傷の危険がある。針は長いほど失敗しにくい(針長が1 cm増えるごとに失敗率がおよそ7.76ポイント低下)が、長い針ほど左側の損傷危険も上がる。このの提案は研究間のが大きく、前向きによる検証が必要と著者ら自身が述べている1。

は閉塞・屈曲・胸壁厚のため失敗しうる一時的処置である。針は移動したり病院到着まで有効性を保てなかったりするため、指胸郭開放も有効な減圧手段である2。反応が乏しければ診断、位置、開存を再評価し、速やかに指胸郭開放またはへ移行する。

開放性気胸

胸壁は、まず空気の流入を減らす被覆を行う。専用のがあれば用い、なければ三辺固定の閉鎖性を使用する。完全密閉材を用いた場合も含め、呼吸・循環が悪化すれば緊張化を疑って一時的に開放し、減圧する。

創と別の部位からを留置し、胸壁欠損を外科的に洗浄・修復する。ドレーンを創そのものへ挿入しない。・穿損傷では抗菌薬予防を施設プロトコルに従って検討する。

血胸

状況 対応
循環不安定な 大きさにかかわらず太径(28Fr〜40Fr)、を中心とする蘇生、緊急手術判断2
安定例で500 mL以上 原則として(72時間以内が望ましい)2
安定例で300 mL未満の小 厳密な観察と24時間以内の再画像が可能ならを考慮2
遺残 で評価し、2本目のドレーンを漫然と追加せず、早期VATSによる血腫除去を検討

上3行は/AAST 2025の推奨で、いずれもエビデンスの質は低く、推奨の強さは中等度である2。量の数字を「決まった基準」として覚えない。

手術適応は生理学的破綻を最優先する。出血による、輸血しても持続するショックでは、量の閾値を待たず・止血へ進む。/AAST 2025は手術適応を「出血による」または「他の出血源が無い状況でからの排血が24時間に1,500 cc超、もしくは3時間連続で200 mL/時超」と定めている(エビデンスの質は低いが、推奨は強い)2。ドレーン閉塞や凝血でが少なく見える場合があるため、数字だけで出血を否定しない。

💡 量の閾値は資料で違う。 StatPearlsの「Hemothorax」は緊急前方の適応として24時間で1,500 mLに加え、2〜4時間連続で300〜500 mL/時を挙げており、時間あたりの値もも/AAST 2025と一致しない3。どの閾値を採るにせよ、量だけで決めず、・輸血必要量・画像上の活動性出血を優先する。/AAST 2025自身も、の量だけでは誤導されうるため厳密な臨床監視が必須だと述べている2。

肋骨骨折・フレイルチェスト

は、眠らせることではなく、十分な鎮痛によって深呼吸、咳、、離床を可能にすることである。

  • を基礎に、禁忌がなければ、必要最小限のオピオイドを組み合わせるを行う。
  • や全身鎮痛で不十分な場合は、、傍脊椎、、などのを患者の凝固・循環状態に応じて選ぶ。
  • 、深呼吸、咳嗽補助、、、を反復する。
  • 低酸素には酸素を投与し、増大には選択的にNIVを用いる。、意識障害、ショック、分泌物排出不能、進行するでは挿管する。

⚠️ の胸壁を「内側から固定する」目的だけで一律に挿管・しない。十分な鎮痛と肺で自発呼吸を維持できる場合は非挿管管理が可能であり、挿管は呼吸不全などの生理学的適応で決める。

(SSRF)は、、著しい胸壁変形・、複数の高度にを伴う場合、困難、に反応しない重度疼痛などで多職種評価する。適応があれば受傷後48〜72時間以内が望ましく、が困難でも可能なら3〜7日以内を検討する。時はまず蘇生・止血を優先する。

合併症と再評価

  • 遅発性気胸・、ドレーン閉塞・位置異常、
  • 肺の増悪、、肺炎、ARDS
  • 遺残からの・
  • 多発後の慢性疼痛、胸壁変形、

処置後は呼吸音、血圧、SpO₂、ドレーンの揺動・・量を反復評価し、画像で肺再膨張と遺残を確認する。状態悪化時は新たな損傷だけでなく、既存ドレーンの閉塞・・誤留置も疑う。

まとめ

  • では、気胸、、肺を同時に評価し、生命を脅かす生理学的破綻から治療する。
  • は臨床診断であり、画像を待たず減圧し、へ移行する。は第10版・ETC・/AAST 2025で違うので1つに固定せず、左側だけは心損傷の危険から第5肋間を避ける。
  • は胸部または三辺固定、創と別部位の、胸壁修復で治療し、緊張化を監視する。
  • は不安定例なら大きさを問わずドレナージとを行う。手術はを優先し、/AAST 2025の「24時間で1,500 cc超」「3時間連続で200 mL/時超」はいずれも他の出血源が無いことを条件とする強い推奨である(StatPearlsは2〜4時間連続で300〜500 mL/時という別の閾値を挙げる)。
  • ・では、深呼吸、、が基本で、挿管は胸壁だけでなく呼吸不全の有無で決める。
  • 選択例ではSSRFを早期に検討し、遺残は早期VATSで除去する。

出典

  1. 1.Meta-analysis of the optimal needle length and decompression site for tension pneumothorax and consensus recommendations on current ATLS and ETC guidelines(World Journal of Emergency Surgery・2025)全文(PMC12087068)で確認した。ATLS(引用されているのは第10版学生用マニュアル)が小柄な成人で5 cm・大柄な成人で8 cmの針を第4または第5肋間の前中腋窩線へ、欧州外傷コース(ETC)が14または16ゲージの「超長」カニューレを第2肋間鎖骨中線へと推奨しており、部位も針も食い違っていること、針長が1 cm増えるごとに減圧失敗率がおよそ7.76ポイント下がること、緊張性気胸による縦隔偏位は下縦隔より上縦隔で強いため心臓が残り第5肋間からの穿刺で損傷を受けやすいこと、著者らの提案が「右側の緊張性気胸は7 cm針を第2肋間鎖骨中線または第5肋間中腋窩線へ」「左側の緊張性気胸は7 cm針を第2肋間鎖骨中線へ」「左側は心損傷の危険があるため第5肋間中腋窩線では減圧しない」であること、ただし研究間の異質性が大きく前向き多施設試験による検証が必要と著者ら自身が述べていることを確認した。閲覧 2026-09-17
  2. 2.Thoracic trauma WSES-AAST guidelines(World Society of Emergency Surgery / American Association for the Surgery of Trauma・2025)全文(PMC12522690)で確認した。緊張性気胸と大量血胸は直ちに認識して処置を要すること(エビデンスの質は中等度、推奨は強い)、単純気胸・緊張性気胸・血胸の治療の第一選択が胸腔ドレーンであること(中等度・強い)、胸腔ドレーンの挿入部位は第4〜6肋間の前腋窩線または中腋窩線からの側方挿入が最良であること、胸腔ドレーンが使えない緊急時や病院前では第2肋間鎖骨中線、あるいは代替として第5肋間中腋窩線への針減圧が治療選択肢になりうること、針は移動したり病院到着まで有効性を保てなかったりするため指胸郭開放も有効な減圧手段であること、安定例では500 mL以上の血胸をドレナージし(72時間以内が望ましい)、安定例の300 mL未満の小血胸と2 cm以下の小気胸は保存的に管理できること(いずれもエビデンスの質は低く推奨は中等度で、小気胸には24時間以上の観察を要する)、不安定例の血胸は大きさにかかわらず太いドレーン(28Fr〜40Fr)で排液すること(低い・中等度)、大量血胸が胸腔への急速な1,500 mL超の失血と定義されること、手術適応が胸腔内出血による血行動態不安定、または他の出血源が無い状況で胸腔ドレーンからの排血が24時間に1,500 cc超もしくは3時間連続で200 mL/時超であること(エビデンスの質は低いが推奨は強い)、ただし胸腔ドレーン排液量だけでは誤導されうるため厳密な臨床監視が必須であること、開放性気胸はまず三辺閉鎖性被覆を行いその後に胸腔ドレーンと胸壁欠損の修復を行うこと、抗菌薬予防が鈍的外傷・自然気胸のドレーン挿入では不要で開放性気胸・穿通性外傷・手術・遺残血胸のドレナージでは適応となることを確認した。閲覧 2026-09-17
  3. 3.Hemothorax(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBIのライブページ(Pumarejo Gomez L・Tran VH、2023年8月8日最終更新)の全文を確認した。外科的介入(緊急前方開胸)の適応として「胸腔ドレーンからの24時間で1,500 mLの排血」「胸腔ドレーン留置後に2〜4時間連続で300〜500 mL/時」「大血管または胸壁の損傷」「心タンポナーデ」を挙げていること、300 mL未満と定義される少量の血胸は通常は治療を要さず数週間で再吸収されること、安定して呼吸障害が軽微なら手術を要さず4〜6時間後と24時間後の再画像で観察できること、胸腔ドレーンは第4または第5肋間の前腋窩線と中腋窩線の間から重力側・背側へ留置すること、遺残血胸にVATSが有効であることを確認した。閲覧 2026-09-17