整形外科学・外傷学

整形外科学・外傷学 · 13

外傷性血胸・気胸の診断と治療

Diagnosis and treatment of traumatic hemothorax and pneumothorax

前提:正常
胸部:胸膜と肺肺気量・死腔・肺胞換気・気道と胸壁の力学的性質胸部:血管と神経(胸壁)
疾患
気胸胸部外傷(肋骨骨折・血胸・外傷性気胸・フレイルチェスト)
症状
皮下気腫
画像所見
eFAST

ポッドキャスト

🧠 全体像:に血液が貯留するのが、空気が貯留するのが気胸である。と大量は画像を待たず、生理学的破綻を認識して直ちに処置する。安定例では・胸部X線・を使い分け、小さな病変の観察、、またはへ段階的に進む。

外傷のほか、中心静脈カテーテルなどのでも起こり、気胸には原発性・続発性もある。このノートでは外傷初期診療を中心に扱う。

病態と身体所見

病態 主な機序
肋間血管、肺実質、内胸血管、大血管からへ出血 、、頻呼吸。大量なら
胸壁または肺・気道損傷から空気が流入 胸痛、呼吸困難、、、
によりが上昇し、静脈還流と換気を障害 重い呼吸困難、低血圧、頻脈、片側。やは遅い/不明瞭なことがある

は臨床診断であり、ショックまたは呼吸不全を伴って強く疑うなら胸部X線やを待たない。

⚠️ 版に注意する。 は2025年に第11版が公開され、の制御を気道より前に置く x-ABCDE へ枠組みが変わった(・低血圧・晶質液の制限・早期輸血も明記)。1 本ノートが引いている減圧部位・針の長さの由来の数値は第10版を紹介した文献に基づくもので、第11版本文は取得できていない。数値をに帰属させて覚えるより、後述のように資料ごとの違いとして覚える。

診断

  • eFAST:ベッドサイドで胸膜消失、、胸水を検索する。
  • 胸部X線:気胸、胸水、、を確認するが、仰臥位ではを見逃し得る。
  • 造影CT:安定例で小さな気胸・、肺、横隔膜・大血管などの併存損傷を詳しく評価する。

初期治療フロー

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest trauma'>胸部外傷</span>+呼吸/循環異常"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tension pneumothorax'>緊張性気胸</span>を臨床的に疑う"]
    B -->|"はい"| C["直ちに胸腔減圧"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tube thoracostomy'>胸腔ドレーン</span>で確実な排気"]
    B -->|"いいえ"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extended focused assessment with sonography for trauma'>eFAST</span>・胸部X線・安定例では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>"]
    E --> F["小さく安定"]
    F --> G["厳密な観察と再画像"]
    E --> H["大きい/症候性/不安定"]
    H --> D
    D --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='drainage (fluid)'>排液</span>量・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='air leak'>空気漏れ</span>・肺再膨張を監視"]
    I --> J["持続出血・遺残<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemothorax'>血胸</span>・持続<span class='jp-term jp-term-diagram' title='air leak'>空気漏れ</span>"]
    J --> K["VATSまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracotomy'>開胸</span>を検討"]

緊張性気胸の緊急減圧

穿刺減圧は十分な長さの太いカテーテルを用いる。部位の推奨は資料によって違うので、どれか1つを唯一の正解として覚えない。

資料 推奨している部位・器具
第10版(下記が引用する記述) 第4〜5肋間の。針は小柄な成人で5 cm、大柄な成人で8 cm2
欧州外傷コース(ETC、同上) 第2肋間。14または16ゲージの「超長」2
/AAST 2025 が使えない緊急時・病院前の選択肢として第2肋間、代替として第5肋間3
上記自身の提案 右側は7 cm針を第2肋間または第5肋間へ。左側は心損傷の危険から第2肋間を選び、第5肋間では行わない2

実際の選択は左右、体格(胸壁厚)、到達成功率、臓器損傷危険、経験で決める。針は移動したり閉塞したりして病院到着まで効果が保てないことがあるため、指胸郭開放も有効な減圧手段であり3、いずれの方法でも速やかにによる確実な排気へ移行する。

⚠️ 血管束を避けるため、穿刺・切開はから入る。減圧後も閉塞・位置異常・持続する緊張を再評価する。

胸腔ドレナージ

適応

  • 、
  • 大きいまたは症候性の気胸
  • 血行動態が不安定な(大きさを問わず太いドレーンでする3)
  • 安定例ので、量が閾値を超えるもの(閾値は資料で違う:Blank 2026の総説は300 mL超4、/AAST 2025は500 mL以上3)
  • 、搬送・手術予定、病変増大などを考慮し観察が危険な例

安定した小気胸やのみで見つかる気胸、300 mL未満の小は、連続監視と再画像が可能なら観察できる場合がある3。気胸では胸部X線で胸郭容積の20%未満、またはで胸壁から肺まで35 mm未満が観察を考慮する目安となるが、約10%はドレナージへ移行する。4 /AAST 2025は安定例の2 cm以下の気胸を24時間以上の観察で保存的に管理してよいとしている。3 すべての気胸・へ一律にドレーンを入れるわけではない。

⚠️ 300〜500 mLのは資料が割れる帯である。 どちらの閾値を採るにせよ、量の数字だけでなく血行動態・呼吸状態・再画像での増大を合わせて判断する。

ドレーンは内、第4〜6肋間の前〜から挿入する。3 血行動態が安定したではピッグテールカテーテルが条件付きで推奨され(エビデンスの質は非常に低い)5、不安定例では大きさにかかわらず太いドレーンを選ぶ3。挿入後は位置、、、呼吸状態、肺再膨張を確認する。

抗菌薬の予防投与は一律ではない。/AAST 2025は、・に対するドレーン挿入では不要とし、・・手術(/)・遺残のドレナージでは適応としている。3 一方でBlank 2026の総説は、留置前の抗菌薬投与を推奨すると述べており4、資料間で立場が分かれる。

手術・胸腔鏡の適応

状況 対応
出血による 量の数字を待たず止血手術を判断する(/AAST 2025は手術適応。エビデンスの質は低いが推奨は強い)3
24時間で1,500 mL超の排血 同上の手術適応。大量(急速に1,500 mL超が胸腔へ失われる状態)は早期の認識・減圧・輸血を要する3
3時間連続で200 mL/時超の排血 他に出血源が無いことを確かめたうえで手術適応とする3
遺残 を試みるよりVATSが条件付きで推奨され、早期(4日以内)に行う5
持続性・肺再膨張不良 大きな肺・気管支損傷やドレーン不良を検索し、VATS/を検討する

量の閾値は判断材料であり、生理学的破綻、輸血必要量、画像上の活動性出血を優先する。

経過観察と合併症

では遺残血腫から、、拘束肺へ進むことがある。気胸では再発と持続性を追い、では禁煙を勧める。再発、両側病変、、持続するではVATSによる原因病変処置と胸膜癒着を検討する。

遷延するの背景にがあることもある。

気胸が画像上完全に消失するまで航空機搭乗を避け、は専門的評価なしに再開しない。酸素は低酸素血症や呼吸不全に投与し、正常酸素化の患者へ空気吸収だけを目的としたを一律に用いない。

まとめ

  • は臨床診断で、画像を待たず直ちに減圧する。
  • 安定した小気胸・小は、監視が整えば観察できる場合がある。ドレナージの量の閾値は資料で300 mL超と500 mL以上に分かれる。
  • 後は量だけでなく循環、酸素化、肺再膨張、を追う。
  • 遺残はドレーン追加を繰り返すより早期VATSを検討する。

出典

  1. 1.Advanced trauma life support 2025: A brief review of updates(Injury (Ramasamy A)・2026)抄録で確認した。ATLS第11版が2025年に公開されたこと、最大の変更が致死的出血の制御を最優先へ置く枠組み(ABCDEからx-ABCDEへ)であること、ほかにダメージコントロール蘇生・許容的低血圧・晶質液の制限・早期輸血・神経保護・脊椎運動制限の運用変更が挙げられていること。本文は取得できていない(出版社サイトが閲覧できず、Unpaywallは closed かつリポジトリ版なし)ので、第11版の胸部処置の数値はこの出典では確認していない閲覧 2026-09-17
  2. 2.Meta-analysis of the optimal needle length and decompression site for tension pneumothorax and consensus recommendations on current ATLS and ETC guidelines(World Journal of Emergency Surgery・2025)緊張性気胸の穿刺減圧部位には到達成功率と損傷危険のトレードオフがあり一律でないこと閲覧 2026-08-09
  3. 3.Thoracic trauma WSES-AAST guidelines(World Society of Emergency Surgery / American Association for the Surgery of Trauma・2025)全文(PMC12522690)で確認した。安定例では500 mL以上の血胸をドレナージし300 mL未満の小血胸は保存的に管理できること(いずれもエビデンスの質は低く推奨は中等度)、不安定例では大きさにかかわらず太いドレーンで排液すること、安定例の小気胸(2 cm以下)は24時間以上の観察で保存的に管理できること、手術適応が「胸腔内出血による血行動態不安定」または「他の出血源が無い状況で24時間に1,500 mL超、もしくは3時間連続で200 mL/時超の排血」であること(エビデンスの質は低いが推奨は強い)、胸腔ドレーンの挿入部位が第4〜6肋間の前〜中腋窩線であること、針減圧は胸腔ドレーンが使えない場面や病院前で第2肋間鎖骨中線または第5肋間中腋窩線に行う選択肢で、針が移動・無効化しうるため指胸郭開放も有効なこと、抗菌薬予防が鈍的・自然気胸のドレーン挿入では不要で開放性気胸・穿通性外傷・手術・遺残血胸のドレナージでは適応となることを確認した閲覧 2026-09-17
  4. 4.Traumatic pneumothorax and hemothorax: What you need to know(Journal of Trauma and Acute Care Surgery・2026)抄録で確認した。血行動態が異常な患者は速やかに胸腔ドレナージを要し、正常な患者では画像で判断すること、胸部X線で胸郭容積の20%超またはCTで胸壁から肺実質まで35 mm超の気胸はドレナージし、これより小さい気胸は観察してよいが約10%が観察に失敗してドレナージを要すること、300 mLを超える血胸はドレナージが推奨されること、ドレーン留置時の温生理食塩水による洗浄が二次的処置の頻度を下げること。本文は取得できていない(出版社サイトが閲覧できず、Unpaywallにリポジトリ版が無い)閲覧 2026-08-09
  5. 5.Management of simple and retained hemothorax: A practice management guideline from the Eastern Association for the Surgery of Trauma(American Journal of Surgery・2021)抄録で確認した。血行動態が安定した外傷性血胸にはピッグテールカテーテルを条件付きで推奨し、遺残血胸では血栓溶解療法を試みるよりVATSを条件付きで推奨したうえで、VATSは早期(4日以内)に行うよう推奨していること。本文は取得できていない(出版社サイトが閲覧できず、Unpaywallにリポジトリ版が無い)閲覧 2026-08-09