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Disease Atlas · 呼吸器 · 先天性疾患

嚢胞性線維症

Cystic fibrosis

別名
CF
臓器系
呼吸器消化器内分泌・代謝肝胆膵生殖・産婦人科
科目
PathologyPulmonologyPediatrics
トピック
病理学 A/14:嚢胞性線維症呼吸器内科 45:遺伝性肺疾患小児科 3-39:嚢胞性線維症
鑑別疾患
Kartagener症候群ヒルシュスプルング病新生児黄疸・高ビリルビン血症
合併症
アスペルギルス症胎便性イレウス
続発疾患
1型糖尿病急性膵炎膵外分泌不全気管支拡張症成長不良
関連疾患
鼻茸α1アンチトリプシン欠乏症
治療薬
イバカフトールルマカフトルテザカフトルエレクサカフトルドルナーゼアルファトブラマイシンコリスチンアジスロマイシンアズトレオナムバンザカフトルデューティバカフトル
原因微生物
Pseudomonas aeruginosaBurkholderia cepaciaStaphylococcus aureusStenotrophomonas maltophilia
症状
湿性咳嗽遷延性黄疸発熱浮腫喀血直腸脱
画像所見
無気肺
組織像
嚢胞性線維症(肺)
適応薬
デューティバカフトルバンザカフトル

🧠 全体像:嚢胞性線維症はCFTR遺伝子の両アレルにより上皮のCl⁻・HCO₃⁻輸送が障害される遺伝疾患である。では再吸収が働かず「塩辛い汗」になり、気道・膵管・胆管・では逆に分泌が減って「脱水した粘稠な分泌物」が閉塞を起こす——同じチャネル欠陥が臓器ごとに正反対の症状を生む点が理解の軸になる。診断はで終わらずと遺伝学的評価で確定し、治療は・感染管理・栄養補充という古典的な支持療法に、遺伝子型に適合するという病態修飾薬が加わり、この10年で予後の姿を大きく変えた。

定義

嚢胞性線維症(CF)は、白人集団で最も頻度の高い遺伝疾患であり、CFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子の両アレルにを持つことで発症する。呼吸器・・肝胆道・腸管・汗腺・生殖器など複数のが同時に侵される多臓器疾患であり、単一臓器病ではない。

は、反復性・慢性の肺感染症汗中高NaClである。

病態

CFTRは上皮細胞膜のcAMP依存性Cl⁻チャネルであり、HCO₃⁻輸送にも関与する。組織によって働く方向が異なることが、臓器ごとに正反対の所見を生む理由である。

  • CFTRは通常Cl⁻とNa⁺を管腔から再吸収する。機能喪失により再吸収できず、高張(塩辛い)汗となる。
  • 気道・膵管・胆管・腸管・ CFTRは通常Cl⁻(およびHCO₃⁻)を管腔側へ分泌する。機能喪失によりCl⁻分泌が低下し、Na⁺・水の再吸収が相対的に優位となり、が減少して粘液が粘稠化する。
flowchart TD
    A["CFTR遺伝子の両アレル<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>"] --> B["上皮のCl⁻・HCO₃⁻輸送障害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway surface liquid'>気道表面液</span>低下・粘液粘稠化"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucociliary clearance'>粘液線毛クリアランス</span>低下"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recurrent infection'>反復感染</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophilic inflammation'>好中球性炎症</span>"]
    E --> F["気管支拡張・呼吸不全"]
    F --> D
    B --> G["膵管・胆管の閉塞"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic insufficiency'>膵外分泌不全</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat malabsorption'>脂肪吸収不良</span>"]
    G --> K["胆汁うっ滞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver fibrosis'>肝線維化</span>"]
    B --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sweat duct'>汗管</span>でNaCl再吸収低下"]
    I --> J["高Cl⁻汗・塩分喪失"]
    B --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductus deferens'>精管</span>の発生異常"]
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital bilateral absence of the vas deferens'>先天性両側精管欠損</span>・閉塞性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='azoospermia'>無精子症</span>"]

💡 同じ分子障害が正反対の表現型を生む。 は「再吸収の欠損」で塩を失い、気道・膵・腸は「分泌の欠損」で脱水した粘液を作る。この方向の違いを押さえると、(高Cl⁻)と気道・消化器症状(閉塞性)を同じ機序で説明できる。

CFTR変異のクラス分類

CFTRバリアントはによりI〜VI型に分類され、この分類がそのままの選択根拠になる。

クラス 機序 代表例 対応する調節薬の考え方
I 早期停止コドン・タンパク産生なし G542X 現行調節薬の標的外(読み過し薬などが研究段階)
II 誤った折りたたみ→分解され膜へ到達しない F508del(最多) (フォールディング補正)+併用
III 膜には到達するが(開口)異常 G551D 単剤で反応しうる
IV 低下(チャネルは開くが流れが弱い) R117H で部分反応
V 正常CFTRの産生量そのものが減少 で部分反応
VI 膜上での安定性低下 で部分反応

F508del(クラスII)が最多の変異で、多くの患者が少なくとも1コピー保有する。CFTRタンパクの折りたたみ異常でERから分解されるため、フォールディングを助けるとチャネル開口を助けるの併用が治療の中心になる。

多臓器の臨床像

系統 主な所見
呼吸器 慢性、反復性気道感染、気管支拡張、、喀血、気胸、、低酸素血症、
消化器・栄養 新生児の、年長児以降の、体重増加不良、A・D・E・K欠乏、・浮腫
導管閉塞による(85〜90%)、反復(膵機能が比較的保たれる一部の遺伝子型で目立つ)
肝胆道 新生児、胆石、、胆汁うっ滞、進行例で・門脈圧亢進
内分泌・電解質 CF関連糖尿病(CFRD)、高温・発熱・運動時の塩分喪失、低Na/Cl血症、
生殖器 男性のによる閉塞性・不妊、女性の妊孕性低下・
CF関連低骨密度・症(栄養不良・ビタミンD欠乏・慢性炎症・ステロイド使用が関与)

⚠️ と膵炎は別の合併症として理解する。 大多数(85〜90%)は早期から高度の(膵機能廃絶)に至り、が前面に出る。一方、膵機能がある程度保たれる遺伝子型(クラスIV・V寄りの変異)を持つ「膵機能保持型」の患者では、逆に反復性参照)のリスクが目立つことがある。

CF関連糖尿病(CFRD)は、の線維化・脂肪浸潤による不足が主体であり、1型糖尿病のような自己免疫性βとは機序が異なる。インスリン抵抗性も併存しうるが、CFRDの治療の中心はインスリン補充であり、経過中にを来す頻度は1型糖尿病より低い。

診断

は「除外」ではなく「拾い上げ」の検査であり、確定診断にはと遺伝学的・機能的評価の統合が必要である。

flowchart TD
    A["新生児血液で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IRT'>免疫反応性トリプシノーゲン</span>測定"] --> B{"IRT上昇か"}
    B -->|"いいえ"| C["スクリーニング陰性(CFを完全には除外しない)"]
    B -->|"はい"| D["再IRTまたはCFTR遺伝子変異パネルへ"]
    D --> E["陽性スクリーニング児として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sweat test'>汗試験</span>へ紹介"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quantitative pilocarpine iontophoresis'>定量的ピロカルピンイオントフォレーシス</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sweat chloride'>汗中クロール</span>測定"]
    F --> G{"汗中Cl⁻の値"}
    G -->|"60 mmol/L以上"| H["CFTR機能障害を支持。臨床像と合わせCF診断"]
    G -->|"30〜59 mmol/L"| I["中間域:別日再検・拡張遺伝子解析・専門施設でCFTR<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional test'>機能検査</span>"]
    G -->|"30 mmol/L未満"| J["CFらしくない。ただし臨床像・遺伝子型が強く示唆すれば再評価"]
  • 陽性スクリーニング児は、在胎36週以上・体重2kg超の成熟度条件を満たせば生後10日以降、できれば生後4週までにを行う。
  • パネルは頻度の高い病的変異を対象とする簡易検査であり、2つのCF原因バリアントが検出されなくてもCFを完全には否定できない。不明例ではと欠失/重複解析、などのCFTRを追加する。
  • 陽性で症状に乏しく・遺伝子型が確定を満たさない児は、CFTR関連/CFスクリーニング陽性・診断未確定(CRMS/CFSPID)として定期フォローする。

呼吸機能評価

は協力可能な年齢の児のを評価するが、乳幼児では実施が難しく、早期の病変には鈍感である。(multiple-breath washout:MBW)から得る(lung clearance index:LCI)は換気不均等を反映し、CFではの排出が遷延してLCIが上昇するため、で測定でき、幼児やの経時評価に有用である。

呼吸器合併症の管理

の低下により気道は生後早期からにさらされ、年齢とともにが変化する。乳幼児期はStaphylococcus aureusが多く、年長になるにつれPseudomonas aeruginosaの定着が増え、に移行すると気管支拡張と肺機能低下を加速する。

⚠️ Burkholderia cepacia complex はCFに特有の重要病原体である。 定着するとの肺機能低下や致死的な「cepacia症候群」を来す株があり、患者間のを防ぐための隔離・感染対策が必須になる。さらに一部の菌種・株は後の予後不良と関連するため、移植施設によっては移植適応の評価に影響する(施設ごとの基準を確認する)。Stenotrophomonas maltophilia、、Aspergillus関連疾患(を含む)も念頭に置く。

目的 主な介入
毎日の・運動、吸入、(気道内DNA分解による喀痰低下)
気道閉塞 可逆性閉塞や吸入治療前投与など個別適応での吸入β₂刺激薬
緑膿菌の初回定着 早期(吸入などを中心とした計画)
緑膿菌の抑制 吸入や吸入によるサイクル投与、抗炎症・増悪抑制目的のアジスロマイシン
培養・感受性・既往菌・重症度に応じた経口/静注/の選択(全例一律の予防投与ではない)
進行例 、重症喀血への評価

⭐ CFのは多くの場合が出血源であり、選択的塞栓術の対象もになる(肺動脈ではない)。

CFTR調節薬(病態修飾治療)

は「遺伝子治療」ではなく、患者自身が持つ残存CFTRタンパクの折りたたみ・輸送・開口・安定性を的に改善するである。変異クラスに応じて(開口を助ける)と(折りたたみを助ける)を単独または併用する。

薬剤(レジメン) 作用 対象となる変異のクラスの目安
単剤 (クラスIII)など反応性変異
/ F508del(クラスII)ホモ接合
/ F508delホモ接合、または一部の残存機能変異
// 次世代2種+ F508delを少なくとも1コピー保有、または機能的にトリカフタに反応する変異
// 2種+を1日1回投与 米国では6歳以上で反応性またはCFTR蛋白を産生する適格変異1

//は、F508delだけでなくF508del/最小機能変異のでも肺機能・体重・肺増悪頻度を大きく改善し、現在最も広く使われる病態修飾治療になっている。適応年齢と対象変異はここ数年で拡大が続いており、2026年時点では対象年齢が2歳以上まで広がり、反応性またはCFTRタンパクを産生する適格変異へ適応が拡張された2。ただし全患者が同じ薬に反応するわけではなく、投与の可否は遺伝学的検査で確認した変異、年齢、承認状況、相互作用、肝機能などに基づき個別に判断する。

による肺増悪頻度・入院・肺機能低下速度の改善は、CF全体の生命予後を大きく押し上げた最大の要因である。米国のレジストリでは、調節薬時代前の2012年頃に約39歳だった予測生存年齢が、療法の普及後には60歳代後半まで上昇したと報告されている。ただし、これは登録集団全体の推計であり、・診断年齢・治療開始時期・地域の医療アクセスによって個々の見通しは大きく異なる。

栄養・消化管・内分泌の管理

目標 主な介入
(食事・間食ごとに投与)、高エネルギー・高蛋白食
欠乏 ・D・E・Kの補充と定期モニタリング
塩分喪失 発熱・高温環境・運動時の塩分・
CF関連糖尿病 定期的なスクリーニング、インスリンを中心とした
肝胆道病変 定期的な肝機能・画像評価、進行した・門脈圧亢進の専門管理
骨密度 栄養・ビタミンD最適化、定期的な骨密度評価、必要例へのなど

や年長児以降のは、とは別に腸管内容物自体の粘稠化が関わる閉塞であり、緩下剤・・輸液で軽快しない例は外科的評価が必要になる。

まとめ

  • CFTRのCl⁻・HCO₃⁻輸送障害は、では「再吸収の欠損」による塩喪失、気道・膵・胆道・腸管・では「分泌の欠損」による粘稠な分泌物と閉塞という、方向の異なる表現型を同じ機序から説明する。
  • 変異はI〜VI型に分類され、F508del(クラスII)が最多。分類がそのまま)の選択根拠になる。
  • 診断は新生児IRTスクリーニングで拾い上げ、(60 mmol/L以上でCFを支持、30〜59は中間域)と遺伝学的・機能的評価で確定する。
  • 呼吸器管理は、緑膿菌を中心とした培養に基づく感染管理が軸であり、Burkholderia cepacia complexは対策と適応の両面で特に重要な病原体である。
  • //)を中心とするの普及は、対象年齢・対象変異の拡大とともにCF全体の生命予後を大きく押し上げており、現行治療は・感染管理・栄養補充という支持療法と病態修飾治療を統合して行う。

出典

  1. 1.TRIKAFTA Highlights of Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2026)2歳以上で反応性またはCFTR蛋白を産生する適格変異へ拡大したエレクサカフトル・テザカフトル・イバカフトルの適応閲覧 2026-08-03
  2. 2.Orphan Drug Designations and Approvals: Alyftrek(U.S. Food and Drug Administration・2026)バンザカフトル・テザカフトル・デューティバカフトル配合薬の対象年齢と2026年の適応拡大閲覧 2026-08-03