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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

肺気腫

Pulmonary emphysema

臓器系
呼吸器
科目
Pulmonology and Thoracic SurgeryPathologyPathology (Histopathology)Translational Medicine and Pathophysiology
トピック
呼吸器内科 21:慢性閉塞性肺疾患と肺気腫病理学 C/19:閉塞性肺疾患(COPDなど)組織病理 H2-027:肺気腫病態生理学 2-13:長期喫煙の気道・肺弾性線維への影響
合併症
気胸
関連疾患
気腫合併肺線維症慢性閉塞性肺疾患
症状
労作時呼吸困難咳
検査値
スパイロメトリー肺拡散能
組織像
肺気腫
原因となる疾患
α1アンチトリプシン欠乏症

🧠 全体像:肺気腫は、より末梢のが恒久的に拡大し、その壁が破壊され、しかも明らかな線維化を伴わないという、病理形態で定義された実体である。⚠️ COPDの分類ではない。 は吸入後ので定義される臨床概念であり、肺気腫はその構成病変のひとつにすぎない——を伴わない肺気腫は珍しくない。読むときの軸は3つ、①小葉のどこが壊れたか(・汎小葉性・)②どのに多いか ③背景は何か(喫煙//若年の)である。上は明瞭な壁を持たないであり、この「壁の有無」がとの分かれ目になる。

定義——3つの要素で覚える

肺気腫の定義は病理形態にあり、次の3つがそろって初めて成立する。

  1. より末梢のが拡大している(=腺房が舞台である)
  2. そのの壁が破壊されている
  3. 明らかな線維化を伴わない

どれが欠けても別のものになる。壁の破壊を欠く拡大はであって肺気腫ではなく、線維化を伴えば瘢痕周囲の変化やという別の枠組みへ移る。

💡 「より末梢」という限定が、そのまま型の分類につながる。 腺房のどこが選択的に壊れるか——近位()か、腺房全体か、遠位(・)か——が、次節の3型の実体である。

肺気腫とCOPDは定義の土俵が違う

肺気腫 ()
定義の土俵 病理形態(肉眼・組織・) 臨床+生理(症状・曝露+後の/比)
診断の 、、
相手を必ず伴うか を伴わないことがある 病変だけでも成立しうる

⭐ 「肺気腫があるのにが無い」は例外的な状況ではない。 肺気腫とが併存する(CPFE)は極端な例で、3研究の患者132例をまとめた集計では/比が0.70未満だったのは41%にすぎず、37%は/比0.70以上かつが予測値80%以上に分類された1。⚠️ したがって「が正常だから肺気腫は無い」とは言えない。 逆に、のは病変(・の狭窄と消失)だけでも生じるので、「があるから肺気腫がある」とも言えない。両者は重なるが、一方が他方を含む関係ではない。

3つの型と背景

型 壊れる部位 分布 典型的な背景
(腺房の近位部) 優位。をの肺動脈が貫く2 喫煙。喫煙関連肺気腫で最も多い型2
汎小葉性 小葉内のすべての腺房がほぼ均等に2 進行例では優位2
遠位腺房(・)2 ・葉間・縦隔側の小葉。中〜で最も目立つ2 若年者の。ブラとの関連が最も強い2
不規則型 瘢痕の周囲に不規則に 瘢痕の分布に従う ・感染など瘢痕を残す病変

⚠️ は「症状が無いから軽い」わけではない。 はしばしば有意な症状・生理学的障害を伴わない2が、のブラが破れればになる。痩せた若年男性の突然の胸痛・呼吸困難という文脈では、肺機能が正常でもとブラが背景にありうる。

⚠️ 分布は「典型」であって「必発」ではない。 PiZ型119例の定量では、肺気腫のあった102例のうち優位は65例にとどまり、37例(36%)はむしろ優位だった3。しかも優位群は低下がより強く(9.9%predicted)、優位群はがより強いという解離を示す3。「下葉優位=」はの助けにはなるが、優位でも欠乏症は否定できない。

機序——プロテアーゼと抗プロテアーゼの綱引き

の弾性線維は、をはじめとするプロテアーゼと、それを抑えるの均衡の上に保たれている。この均衡が崩れる経路は2つある。

  • プロテアーゼが増える側:喫煙が・好中球を集め、放出されるプロテアーゼとが増える。はそのものを不活化するため、喫煙は両側から均衡を崩す。
  • が足りない側:では、がに留まって血中へ出ないため、肺での抑制力が最初から不足している。

💡 同じ「壁が壊れる」でも、下流の帰結は2系統に分かれる。 ①の低下 → 呼気時の虚脱と → と労作時の、②ガス交換面との減少 → 低下と。閉塞側とガス交換側で別々に評価するのが、後述のの読み方につながる。

画像——壁の有無で分岐する

flowchart TD
    A["胸部CTで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung field'>肺野</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypodense area'>低吸収域</span>"] --> B{"境界に明瞭な壁があるか"}
    B -->|"壁が無い"| C["肺気腫<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='air-containing space'>含気腔</span>の拡大と壁の破壊"]
    B -->|"薄い壁がある"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thin-walled cyst'>薄壁嚢胞</span><br>びまん性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystic lung disease'>嚢胞性肺疾患</span>の鑑別へ"]
    B -->|"厚い壁がある"| E["空洞<br>感染・悪性腫瘍・血管炎へ"]
    B -->|"線維化徴候を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aggregation/clustering (histological, e.g. lymphocytic aggregates)'>集簇</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Honeycomb lung'>蜂巣肺</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrous stroma'>線維性間質</span>性肺疾患へ"]
    C --> G{"分布はどこか"}
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper lung field'>上肺野</span>優位・小葉中心"| H["喫煙関連の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centrilobular'>小葉中心性</span><br>喫煙歴と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spirometry'>スパイロメトリー</span>を確認"]
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower lung field'>下肺野</span>優位・小葉全体"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha-1 antitrypsin deficiency'>α1アンチトリプシン欠乏症</span>を除外<br>血清AAT値とSERPINA1遺伝子型"]
    G -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subpleural'>胸膜直下</span>・葉間沿い"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraseptal'>傍隔壁性</span><br>ブラと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous pneumothorax'>自然気胸</span>のリスクを評価"]

⭐ との区別は壁の有無に尽きる。 嚢胞は薄い壁に囲まれ正常肺との境界が明瞭だが、肺気腫のは明瞭な壁を持たない。⚠️ 列をなすはに似ることがあるが、嚢胞の大きさがより大きく、やその他の線維化徴候を欠く点で区別される2。

肺機能検査の読み方

⭐ は肺気腫の「量」に最も素直に反応する指標である。 が併存すると閉塞と拘束が互いを打ち消し合ってが見かけ上ほぼ正常になるのに対し、はどちらの機序でも低下するためされず、両者の障害が積み上がって著明に低下する——これがCPFEでが保たれたままだけが落ちる理由であり、/比の上昇として現れる1。と比べても、CPFEではと/比が比較的保たれ、が軽く、がより低い1。

⚠️ 「が保たれている」を「軽症」と読み替えない。 見かけ上正常なの裏で、労作時に強い低酸素血症を来していることがある。

評価と治療の要点

肺気腫そのものを元に戻す治療は無く、治療は病変の進行を止めることと・という帰結を管理することに分かれる。

  • 禁煙が唯一、進行速度を変えうる介入である。
  • ・症状の管理はCOPDとしての治療(吸入・・ワクチン・必要なら)に従う。
  • 若年発症、優位の肺気腫、喫煙量に不釣り合いな重症度、家族歴ではを検査する。
  • 優位で高度に不均一な肺気腫では、外科的またはが選択肢になる。⚠️ 均等分布例やの強い例では効果が乏しい。 CPFEを合併する例ではの高度低下そのものが多くの手技の除外条件になる。
  • 反復する気胸では、ブラの外科的処置とを検討する。

鑑別で外すもの

紛らわしいもの 分かれ目
(・など) 明瞭な壁を持つ。分布も肺気腫と異なる(全びまん性/・)
線維化徴候(・容量減少・)を伴い、嚢胞は壁を共有してする
空洞 壁が厚い。感染・悪性腫瘍・血管炎の枠組みへ移る
(喘息など) は増えるが壁の破壊が無い。可逆的
拡張しているのは気道であって腺房ではない。連続断面で気道と連続する

まとめ

  • 肺気腫は「より末梢のの恒久的拡大+壁の破壊+明らかな線維化を伴わない」で定義される病理形態上の実体であり、で定義されるとは土俵が違う。を伴わない肺気腫は珍しくない。
  • 型は(・喫煙)、汎小葉性(・)、(・ブラと)に分かれ、瘢痕周囲の不規則型が加わる。ただし分布は典型であって必発ではなく、PiZ型欠乏症の36%は優位だった。
  • での分かれ目は壁の有無である。壁が無ければ肺気腫、薄い壁があれば、厚い壁があれば空洞、線維化徴候を伴えば。
  • 評価は閉塞側(/比・)とガス交換側(・低酸素血症)を分けて行う。が併存するとが保たれたままだけが著明に低下する。
  • 治療の柱は禁煙ととしての管理であり、選択された症例で、では専門評価を加える。

出典

  1. 1.Syndrome of Combined Pulmonary Fibrosis and Emphysema: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Research Statement(American Thoracic Society / European Respiratory Society / Japanese Respiratory Society / Asociación Latinoamericana de Tórax・2022)気腫合併肺線維症では気流速度と肺気量が比較的保たれる一方でDLCOと転移係数Kcoが高度に障害されFVC/DLCO比が上昇すること、3研究の患者132例をまとめた集計で全肺気量が予測値80%未満だったのは36%にとどまり、FEV1/FVC比が0.70未満だったのは41%にすぎず、37%はFEV1/FVC比0.70以上かつFEV1が予測値80%以上に分類されたこと、COPDと比べるとCPFEではFEV1とFEV1/FVC比が比較的保たれ過膨張が軽くDLCOがより低いことをPMCの全文で確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.CT-Definable Subtypes of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Statement of the Fleischner Society(Radiology (Fleischner Society)・2015)小葉中心性肺気腫を「正常肺に囲まれた境界明瞭または不明瞭な小さい低吸収域」と記述し、単一腺房内の呼吸細気管支の拡張と破壊によること、喫煙関連肺気腫で最も多い型で通常は上肺野優位であること、低吸収域を貫く小葉中心性の肺動脈・細動脈が小葉の中心を示すこと、汎小葉性肺気腫が小葉全体にわたるびまん性の破壊で小葉内のすべての腺房がほぼ均等に侵されること、α1アンチトリプシン欠乏症に伴う進行した汎小葉性肺気腫がしばしば下葉優位の分布を取ること、傍隔壁性肺気腫が遠位腺房の選択的破壊によって生じ縦隔側および末梢の胸膜・葉間に沿った胸膜下小葉に好発して通常は中〜上肺野で最も目立つこと、傍隔壁性肺気腫がしばしば有意な症状・生理学的障害を伴わないこと、ブラはすべての型の肺気腫でみられるが傍隔壁性と最も関連が強いこと、列をなす傍隔壁性肺気腫は蜂巣肺に似ることがあるが嚢胞の大きさが蜂巣肺より大きく構築改変その他の線維化徴候を欠く点で区別されることを確認した。PMCの著者最終稿を閲覧した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Pattern of emphysema distribution in alpha1-antitrypsin deficiency influences lung function impairment(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine・2004)PiZ型α1アンチトリプシン欠乏症119例の定量CTで、肺気腫を認めた102例のうち下肺野優位は65例にとどまり37例(36%)は上肺野優位だったこと、総気腫量と年齢をそろえた対応解析で下肺野優位群はFEV1の低下がより強く(平均差9.9%predicted、95%CI 3.8〜16.0、p=0.002)、上肺野優位群はガス交換障害(PaO2の平均差0.5 kPa、p=0.016/肺胞気-動脈血酸素分圧較差の平均差0.7 kPa、p=0.007)がより強いという解離を示したことを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02