呼吸器学

呼吸器学 · 21

慢性閉塞性肺疾患と肺気腫

COPD and emphysema

前提:臨床
呼吸機能検査:静的・動的肺気量
前提:病態
閉塞性肺疾患(COPD)の病理長期喫煙の気道・肺弾性線維への影響
疾患
気腫合併肺線維症肺気腫慢性閉塞性肺疾患
症状
喀痰
画像所見
肺過膨張
スコア
GOLD分類mMRC息切れスケールMRC息切れスケール(古典版)

ポッドキャスト

🧠 全体像:は、有害粒子・ガスへの曝露とにより、気道・肺胞に異常を生じ、持続する呼吸器症状とを示す不均一な疾患である。肺気腫はを構成する病理形態の一つで、より末梢のが破壊を伴って恒久的に拡大する。

疫学

に基づく65か国のデータから推計すると、30〜79歳における世界のは10.3%、およそ3億9,200万人で、その80.5%(3億1,500万人)が低・中所得国に住む。男性14.1%に対し女性6.5%と男性で2倍以上高い。地域別では西太平洋地域が最も高く(11.7%)、南北アメリカが最も低い(6.8%)。1

死亡では、はすでに世界の死因第3位である。に起因する死亡は1990年の250万人から2021年には372万人へ増えた一方、年齢調整死亡率は同期間に37.1%低下しており、「と絶対死亡数は高齢化とともに増えるが、同年齢での死亡リスクは下がってきた」という二重の動きになっている。世界の死亡の35%(男性51%、女性15%)に喫煙が寄与し、次いで屋外・室内のが続く。1

⚠️ 授業資料との差:授業資料は「2030年に死因第3位になる」という将来予測と「年間300万人の死亡」を示している。これは2000年代の推計に基づく古い記述で、はすでに死因第3位であり、死亡数も372万人(2021年)へ更新されている。1

危険因子

  • 喫煙:最も重要だが、非喫煙者にもは起こる
  • 、、・
  • :α₁アンチ(AAT)欠乏症など
  • 肺発育異常、早産・小児期呼吸器疾患、加速老化
  • 社会経済的要因と

AAT欠乏ではの抑制が不十分となり、弾性線維と肺実質が破壊される。と診断した全患者で、年齢や肺気腫分布にかかわらずAAT欠乏を少なくとも一度検査する。若年発症、優位の、家族歴は特に疑う手掛かりになるが、肺気腫の分布だけでは除外しない。12

病態形成

flowchart TD
  A["喫煙・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dust'>粉塵</span>・バイオマス・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='host'>宿主因子</span>"] --> B["慢性炎症と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>"]
  B --> C["プロテアーゼ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protease-antiprotease imbalance'>抗プロテアーゼ不均衡</span>"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral airway'>末梢気道</span>炎症・線維化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucus hypersecretion'>粘液過分泌</span>"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar wall'>肺胞壁</span>・弾性組織破壊"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='expiratory flow limitation'>呼気流制限</span>"]
  E --> F
  E --> G["ガス交換面積と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary capillary bed'>肺毛細血管床</span>の減少"]
  F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='air trapping'>エアトラッピング</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dynamic hyperinflation'>動的肺過膨張</span>"]
  G --> I["低酸素血症・肺高血圧"]
  H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effort dyspnea'>労作時呼吸困難</span>"]

主な病態は、、、、、二次性肺高血圧である。は(RV)とRV/比の増加として捉えられ、労作時にはこれがさらに進むが呼吸困難の主因になる。

骨粗鬆症、心血管疾患、不安・抑うつ、などの併存症が予後を左右する。

💡 併存症は「たまたま一緒にある病気」ではない。 喫煙という共通の原因に加え、気道の炎症が全身へ溢れ出す(over-spill)ことでが高まり、心血管疾患・骨粗鬆症・減少・代謝異常の発症と進行に関わると考えられている。さらに併存症側もの症状・増悪・予後を悪化させるため、影響は双方向である。だから「肺だけ診て終わり」にせず、併存症の評価と治療を治療計画に組み込む。

臨床像

  • 慢性・進行性の
  • 咳、喀痰、喘鳴、
  • 疲労、体重減少、、不安・抑うつ
  • 進行例:、で、、、
  • 低酸素血症・右心不全:チアノーゼ、、・

診断

呼吸困難、慢性咳・喀痰、反復などの症状、および/または有害曝露・がある患者で疑う。確定にはが必要である。

flowchart TD
  A["症状および/または危険因子"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-bronchodilator spirometry'>気管支拡張薬後スパイロメトリー</span>"]
  B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forced expiratory volume in one second'>FEV₁</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forced vital capacity'>FVC</span>の範囲"}
  C -->|"0.60未満"| D["持続性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airflow limitation (airflow obstruction)'>気流閉塞</span>を確認"]
  C -->|"0.60〜0.80"| E["別日に再検して生物学的変動を除く"]
  C -->|"0.80超"| F["他疾患を評価し、疑いが強ければ再評価"]
  E --> G{"再検でも0.70未満か"}
  G -->|"はい"| D
  G -->|"いいえ"| F
  D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forced expiratory volume in one second'>FEV₁</span>重症度・症状・増悪歴・併存症を評価"]

固定比0.70は実用的だが、高齢者で過剰診断、若年者で過少診断しうる。は症状と危険曝露を伴うで解釈し、比が0.60〜0.80なら別日に再検して生物学的変動を除く。も補助的に考慮する。1

模式例では、正常を 4 L、 5 L、/ 0.80、閉塞例を 1.8 L、 3.2 L、比0.56と置ける。では1秒時点の呼出量が大きく低下するが、例示値そのものを診断閾値には用いない。

気流閉塞の重症度

<0.70を満たす患者を、予測%で分類する(分類)。1

グレード 予測%
1 ≥80% 軽度
2 50〜79% 中等度
3 30〜49% 高度
4 <30% 最重度

だけでは症状や増悪リスクを十分予測できないため、別に評価する。

症状評価

修正MRC呼吸困難尺度

スケールは、のために「どこまで動けるか」を5段階で表す。

グレード 状態
0 激しい運動時のみ
1 平地を急ぐ、または緩い坂で
2 同年齢より遅く歩く、または平地で息継ぎのため止まる
3 平地約100 mまたは数分で息継ぎのため止まる
4 で外出できない、または着替えでも

慢性気道評価テスト

慢性気道評価テスト(、旧称CAT)は、咳、喀痰、、坂・での、家庭内活動、外出への自信、睡眠、活力の8項目を各0〜5点、計0〜40点で評価する。名称変更前後の得点は同等で、 ≥10または ≥2を症状負担が大きい目安とする。1

現行GOLDのA・B・E評価

確定診断後、過去1年の増悪歴と症状で評価する(分類のA・B・E群)。旧ABCD分類のC・D群はE群へ統合されている。

群 増悪歴 症状
A 中等度・なし 0〜1かつ <10
B 中等度・なし ≥2または ≥10
E 中等度またはが1回以上 症状の程度を問わない

⚠️ 2026年版でE群の閾値が変更された。 A群とB群は過去1年に治療を要する増悪がない患者に限り、中等度またはが1回以上あればE群として初期治療を選ぶ。1

肺気腫

型 主な部位 典型的関連
/中心腺房性 腺房の中枢・近位部、優位 喫煙
汎小葉性/汎腺房性 腺房全体が均等に拡大、下葉優位 AAT欠乏症

破壊によりが低下し、を開存させる牽引が失われる。その結果、呼気時、、、換気低下が起こる。肺胞・の減少は、低下、をもたらす。

古典的表現の位置づけ

「赤ら顔で息を吐く型」(肺気腫優位で痩せ、)と「青くむくむ型」(優位でチアノーゼ・浮腫)という呼び分けは、歴史的な両極像であり、現代の分類ではない。実際の患者は連続的・混合的で、体格や呼吸様式だけから病型を決めない。

ただし、この2極が指していた軸そのものは、の肺気腫量を基準に置き直すと測定可能な差として今も観察される。診断名としてではなく、「肺気腫が多い患者と少ない患者では、注意すべき併存症も治療の重心も違う」という理解の枠として使う。

肺気腫が多い側 肺気腫が少ない側
体格 が低い、が少ない が高い
併存症 心血管・代謝性の併存症は少ない 代謝性併存症が多く、を伴いやすい。との重複が多い
生理 が強く、()が低い は軽く、は比較的保たれる
症状・経過 呼吸困難が強く、運動能・健康状態が悪い の症状が多く、増悪を繰り返しやすい
全身炎症 — IL-6・などが高い傾向

💡 同じ「」でも、痩せて息苦しい患者と、太って痰が多く増悪を繰り返す患者では次にすべきことが違う。 前者では栄養・骨格筋・への対応との適応評価が、後者では睡眠時無呼吸・心血管代謝の評価と増悪予防が前面に出る。

まとめ

  • は有害曝露とによる、持続性症状・を示す不均一な疾患である。
  • 診断には <0.70を用い、境界例ではLLNと再検を考慮する。
  • グレード、・、増悪歴を別々に評価し、A・B・E群へ整理する。
  • 肺気腫ではプロテアーゼ優位と低下が、・・を生む。

出典

  1. 1.Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: 2026 Report(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)・2026)COPDの診断基準と境界域での再検、気流閉塞グレード、CAATとCATの同等性、A・B・E群の2026年版増悪閾値、全COPD患者に対するα₁アンチトリプシン欠乏検査を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Initial alpha-1 antitrypsin screening in Turkish patients with chronic obstructive pulmonary disease(2023)AAT遺伝子変異例の肺気腫分布は下葉優位に限られず、分布だけでは除外できないこと閲覧 2026-08-09