呼吸器学

呼吸器学 · 22

COPD急性増悪

COPD acute exacerbation

前提:病態
閉塞性肺疾患(COPD)の病理
疾患
慢性閉塞性肺疾患

ポッドキャスト

🧠 全体像:COPDは、呼吸困難や咳・喀痰が数日から最長14日で悪化するイベントである。感染・が多いが、肺炎、心不全、肺塞栓症、気胸などの併存・を見逃さず、気管支拡張、制御酸素、全身性ステロイド、適応を絞った抗菌薬、必要時の・を行う。1

原因と重症度

  • 呼吸器感染:ウイルス、細菌、SARS-CoV-2など
  • 、吸入治療中断、誤嚥
  • 併発・鑑別:肺炎、肺塞栓症、心不全、不整脈、気胸、胸水

治療内容や受診場所による事後分類ではなく、初診時のからローマで評価する。軽症が既定値で、中等症は次の5項目中3項目以上が閾値を超える場合である。1

評価項目 軽症 中等症以上を示す閾値
呼吸困難の視覚的評価尺度 5未満 5以上
呼吸数 24回/分未満 24回/分以上
心拍数 95回/分未満 95回/分以上
安静時SaO₂(、または平常の酸素処方下) 92%以上かつ平常値からの変化3%以下 92%未満、および/または平常値から3%超の変化
CRP 10 mg/L未満 10 mg/L以上

重症は、上の5項目が中等症と同じであることに加えて、がPaO₂ 60 mmHg以下の低酸素血症、および/またはPaCO₂ 45 mmHg超かつpH 7.35未満の高CO₂血症性アシドーシスを示す場合である。中等症で血液ガスを採った場合に示されうる低酸素血症はPaO₂ 70〜80 mmHg程度までで、PaO₂ 60 mmHg以下は重症側の所見として扱う。重症度だけでなく、意識、、血行動態、基礎となるの重症度、併存症、在宅支援を合わせて治療場所を決める。1

初期評価

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease'>COPD</span>患者の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute symptoms'>急性症状</span>悪化"] --> B["ABCDE・意識・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='work of breathing'>呼吸仕事量</span>・SpO₂"]
  B --> C["ABG・胸部画像・ECG・血液検査"]
  C --> D{"肺炎・心不全・肺塞栓症・気胸など?"}
  D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comorbidity'>併存疾患</span>を同時治療"]
  D -->|"なし/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease'>COPD</span>増悪主体"| F["SABA ± SAMA"]
  E --> F
  F --> G["目標SpO₂ 88〜92%へ酸素<span class='jp-term jp-term-diagram' title='titration'>滴定</span>"]
  G --> H["全身性ステロイドを短期投与"]
  H --> I{"抗菌薬適応?"}
  I -->|"あり"| J["抗菌薬を病態に応じて短期投与"]
  I -->|"なし"| K["支持療法・経過観察"]
  J --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventilatory support'>換気補助</span>が要るならHFNT・NIVを評価"]
  K --> L

検査

  • :全例で酸素化を確認する。値だけで高CO₂血症やアシドーシスは除外できない
  • :病院受診例、呼吸不全・高CO₂血症を疑う例、やを要する例でPaO₂、PaCO₂、pHを確認する
  • 胸部X線:肺炎、気胸、肺うっ血を評価
  • 心電図:虚血・不整脈・
  • 血算、電解質、腎肝機能、;重症例で培養
  • 肺塞栓症が疑わしければに沿って・

急性期治療

気管支拡張薬

()を第一選択とし、()を併用できる。代表例はとである。吸入器と、またはを病態に応じて使う。の系統的レビューでは両者でに有意差はなく、重症例ではのほうが扱いやすい。投与量は1時間ごとに2〜3回まで反復し、その後は反応をみて2〜4時間ごとへ延ばす。1

⚠️ を使うなら、駆動ガスは酸素ではなく空気を選ぶ。 酸素駆動の投与はPaCO₂を上げうるためで、増悪では空気駆動が望ましい。また、高用量のは有害事象のため推奨されないので、反応が乏しいときに漫然と増量しない。は増悪中も継続するか、遅くとも退院前までに開始する。1

静注は有害事象が多く推奨しない。1

酸素療法

初期はSpO₂ 88〜92%を目標に制御酸素を開始し、血液ガスと患者固有の既往に応じて目標を個別化する(デバイスの選び方はを参照)。酸素開始または濃度変更から30〜60分後に血液ガスを再評価し、急速な悪化や意識障害ではこの時刻を待たない。低酸素血症を放置せず、同時に過剰酸素を避ける。2

高流量鼻カニュラ酸素療法

従来のでは低酸素血症が続く、高CO₂血症がある、あるいはNIVに耐えられない患者に対し、した空気・酸素混合ガスを10〜60 L/分で専用のから流す方法である。現行は、性呼吸不全の患者でまず用いるを(HFNT)と位置づけ、高CO₂血症性呼吸不全の患者やHFNTに反応しない患者では、禁忌がないかぎりNIVを用いるとしている。1

⚠️ 「HFNTが先」は低酸素血症が前面に出ている場合の話である。 現行は、高CO₂血症性呼吸不全で入院した患者と、増悪で人工呼吸を受けた後の失敗リスクが高い患者については、欧州呼吸器学会の診療ガイドラインがNIVの禁忌がないかぎりHFNTよりNIVを推奨していると引いている。入れ替えて覚えると、アシドーシスのある患者からを奪う方向に倒れる。1

全身性ステロイド

肺機能、酸素化、回復時間を改善し、・入院期間を減らす。中等症・重症では/相当40 mg/日を5日間とする短期レジメンが標準的で、が可能なら静注を優先する根拠はない。1

⚠️ 授業資料との差:授業資料は「5〜7日を超えない」「40〜60 mg/日」と幅を持たせて示している。方向性は同じだが、現行が具体的に示すのは40 mg/日を5日間であり、長くしても利益は増えず高血糖・感染・せん妄などの害が増える。迷ったら短いほうを選ぶ。1

抗菌薬

次のいずれかで抗菌薬を検討し、地域の耐性・既往培養に基づき選ぶ。1

  • 呼吸困難増加、発熱、喀痰量増加、喀痰膿性化のうち、喀痰膿性化を含む2項目以上がある。この4項目で書くのは現行の本文である1。米国内科学会の助言は同じ条件を「喀痰膿性化があり、加えて呼吸困難増加および/または喀痰量増加がある」という古典的3徴候の形で書いており、発熱は含まない。細菌感染の臨床徴候がそろう場合、同助言は抗菌薬を5日間に限るとしている3
  • 過去の増悪時に陽性歴がある
  • 侵襲的・非侵襲的人工呼吸を要する

💡 喀痰膿性化を必須条件に置くのは、それが細菌量の指標として感度が高いからである。 目視のは高い細菌量に対して感度94.4%・特異度52%で、「見逃しにくいが、陽性でも細菌性とは限らない」という性質をもつ。に基づく投与判断は結果が一貫せず、現行は推奨していない。1

は配合、マクロライド系、テトラサイクリン系、選択例ではキノロン系から地域の耐性状況に応じて選ぶ。治療期間は一般に5〜7日だが、外来治療では5日以内を基本とし、病原体と臨床反応で調整する。1 頻回増悪、高度、人工呼吸を要する増悪では緑膿菌など上記で覆えない耐性菌がいることがあるため、喀痰などの培養を採取する。

非侵襲的換気

ERS/ATSは、増悪による急性または性の(pH 7.35以下)に対してNIVを推奨している(強い推奨、エビデンスの確実性は高い)。実施上の目安は、標準治療を行ってもなおpH 7.35以下、PaCO₂ 45 mmHg超、呼吸数20〜24回/分超の3つが揃う場合である。高CO₂血症があってもアシドーシスがない患者については、有益性を一貫して示す根拠がなく害の可能性があるとして、NIVを行わないことが条件つき(弱い推奨)で示されている。NIVは呼吸困難感と即時の挿管の必要を減らし、滞在(おそらくも)を短縮し、生存を改善する。4

導入を考える所見は、次のいずれかを満たす場合である。血液ガスの数値だけが入口ではない点に注意する。1

  • (PaCO₂ 6.0 kPa すなわち45 mmHg以上 かつ 7.35以下)
  • ・増大を示唆する所見を伴う強い呼吸困難(の使用、腹部の、肋間の陥凹)
  • 酸素投与を行っても持続する低酸素血症

💡 PaCO₂の境界は発行元で1語違う。 GOLDは「45 mmHg以上」、ERS/ATSは「45 mmHg超」と書いており、は3つの所見のいずれか1つで導入を考えるとする一方、/の実施上の目安はpH・PaCO₂・呼吸数の3つが揃う場合を指す。ちょうど45 mmHgの1点と、呼吸数の条件が食い違う部分である。どちらかを誤りと決めず、引いている文書の書き方で読む。臨床的な要点は「アシドーシスの有無」であり、境界値の1 mmHgではない。

一方、次のような場合は禁忌となりうる。1

  • 、または直ちに挿管を要する状態
  • 顔面の外傷・熱傷・手術後・形態異常
  • 固定した
  • 腸閉塞(の危険)
  • 激しい嘔吐
  • が入っていない気胸
  • 状態が悪化してもNIVを受けないという患者本人の明確な意思

患者安全:pHだけをNIVと侵襲的換気の固定境界にしない。低pHほどNIV失敗リスクは上がるが、直ちに挿管できる集中管理下では重度アシドーシスでもNIVを試行できる場合がある。逆にpHが比較的保たれていても、意識障害、分泌物排出不能、循環不安定、では挿管を遅らせない。4

NIV失敗・挿管を考える所見

  • 、不能、嘔吐・大量分泌物
  • 意識障害の進行、著明なでマスク不能
  • 、重篤な不整脈
  • NIV開始後もpH、PaCO₂、呼吸数、が改善しない
  • 難治性低酸素血症

入院中の包括管理

  • 水分バランスを監視し、必要時利尿・補液を調整
  • 入院患者の予防
  • 心不全、不整脈、肺塞栓症など併存病態を治療
  • 安定後にを再開・最適化
  • 、、禁煙、ワクチン、を確認

再発予防と安定期介入

  • 禁煙は最重要介入
  • インフルエンザ、肺炎球菌、など適応ワクチン
  • 重症慢性安静時低酸素血症では;中等度脱飽和にはに処方しない
  • 重症慢性高CO₂血症かつ入院歴では、安定後の長期NIVを選択例で検討
  • 最適治療抵抗性の進行肺気腫では・気管支鏡的介入・移植を専門評価
  • にはを並行

GOLD A・B・Eとの関係

の初期評価は分類のA・B・E群を用いる。 2026では、過去1年に中等度またはが1回以上あれば、症状に関係なくE群とする。増悪後は群分類だけでなく、原因、数、肺炎リスク、を見て維持療法を調整する。1

まとめ

  • 増悪ではを除外しながら、 ± 、制御酸素、短期全身性ステロイドを開始する。
  • ローマ分類は5項目中3項目で中等症、そこにPaO₂ 60 mmHg以下および/または高CO₂血症性アシドーシスが加わると重症になる。PaO₂ 60 mmHg以下を中等症側に置かない。
  • 抗菌薬は喀痰膿性化や人工呼吸など細菌感染の可能性が高い例に絞る。
  • 性呼吸不全ではHFNTを先に置き、を伴う高CO₂血症性呼吸不全ではNIVを早期に用い、固定pH閾値ではなく全身状態と早期反応で挿管を判断する。
  • 退院前に維持薬、、禁煙、ワクチン、リハビリテーションを整える。

出典

  1. 1.Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: 2026 Report(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)・2026)COPD増悪の定義とローマ重症度分類(軽症・中等症・重症の項目と、重症側の血液ガス所見がPaO₂ 60 mmHg以下および/またはPaCO₂ 45 mmHg超かつpH 7.35未満であること)、初期気管支拡張薬と空気駆動ネブライザー、全身性ステロイドの用量・期間、抗菌薬の適応となる4症状と期間、高流量鼻カニュラ酸素療法とNIVの使い分け、NIVの適応・禁忌、安定期E群の増悪閾値を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(British Thoracic Society・2017)COPD増悪における制御酸素療法の目標SpO₂と、酸素開始・濃度変更後の血液ガス再検時期を確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Appropriate Use of Short-Course Antibiotics in Common Infections: Best Practice Advice From the American College of Physicians(2021)COPD増悪で喀痰膿性化に呼吸困難増加または喀痰量増加を伴う場合の抗菌薬適応と短期治療閲覧 2026-08-09
  4. 4.Official ERS/ATS clinical practice guidelines: noninvasive ventilation for acute respiratory failure(European Respiratory Society / American Thoracic Society・2017)Harvard DASHのリポジトリにある掲載版PDF全文で確認した。COPD増悪による急性あるいは急性増悪性の呼吸性アシドーシス(pH 7.35以下)への二相性NIVが強い推奨・エビデンスの確実性は高であること、実施上の考慮事項が標準治療にもかかわらずpH 7.35以下・PaCO₂ 45 mmHg超・呼吸数20〜24回毎分超の3条件で書かれていること(GOLDの図が示す45 mmHg以上とは境界の1点が異なる)、アシドーシスを伴わない高CO₂血症へのNIVには条件付きで反対する推奨が出ていること、NIVが呼吸困難感と即時の挿管の必要を減らし集中治療室滞在とおそらく在院日数を短縮し生存を改善すると述べていること、NIVの試行が不適切になるpHの下限は存在しないが低いpHほど失敗リスクが高いと述べていることを確認した。閲覧 2026-09-21