呼吸器学

呼吸器学 · 23

喘息とCOPDの薬物療法

Asthma and COPD pharmacotherapy

前提:病態
選択的β2刺激薬・気管支拡張薬
薬剤
ジロートン
疾患
気管支喘息慢性閉塞性肺疾患

ポッドキャスト

🧠 全体像:喘息とCOPDはいずれも吸入治療を用いるが、治療の軸が異なる。喘息はによるが必須で、はが基本である。症状、増悪、好酸球、を反復評価し、強化と減量を循環的に行う。

共通する治療原則

  • 正しい診断、症状、増悪歴、肺機能、併存症を確認する。
  • 喫煙・、刺激物、個別に確認した誘因を減らす。
  • 吸入器の選択、、、費用・患者選好を確認する。
  • 処方後は「評価→調整→再評価」を繰り返す。
flowchart TD
  A["症状・肺機能・増悪を評価"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhalation technique'>吸入手技</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adherence'>アドヒアランス</span>・併存症を確認"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-pharmacological'>非薬物療法</span>と薬剤を調整"]
  C --> D["治療反応と有害事象を再評価"]
  D --> E{"目標達成?"}
  E -->|"いいえ"| A
  E -->|"はい"| F["維持または安全な減量を検討"]
  F --> A

喘息治療

吸入薬を優先する理由

吸入薬は標的となる気道へ直接届き、全身投与より少ない用量でを得て、全身性有害事象を減らせる。吸入は作用発現も速い。薬剤の価格だけでなく、と正しい手技が効果を左右する。

現行の基本方針

()単独治療は重症増悪・喘息死のリスクと関連するため推奨しない。成人・思春期では、必要時低用量ICS-をとする治療経路1を優先する。1

ステップ 優先する治療経路1の維持薬/
1〜2 必要時低用量ICS-
3 低用量ICS-維持+必要時使用
4 中用量ICS-
5 専門医へ紹介し、・表現型別生物学的製剤を追加;維持は最後の手段

ICS-による治療経路1を使用できない場合は、ICS-配合薬を必要時に用いるか、使用時に低用量ICSも吸入する。ステップ2以上では毎日ICSまたはICS/を維持し、必要時にICS-またはを用いる。いずれも単独治療を避ける。1

喘息で用いる薬剤

分類 代表薬 役割・注意
ICS 、、、 治療の中心。口腔カンジダ症・嗄声を減らすため吸入後にうがい。剤ごとに肺選択性の作り方が違う——は経口が低く飲み込んだ分が全身へ回りにくい、は肺で酵素的に活性体へ変わるである
SABA 、 気管支拡張。単独依存を避ける。は低K血症・有害事象と喘息死亡リスクから用いない
、 必ずICSと併用。はがありに使用
LAMA など 中高用量ICS/で不十分な例へ追加
LTRA ICSより抗炎症効果が弱い。精神神経系有害事象に注意
5-LO阻害薬 合成を抑制。肝障害・相互作用に注意
生物学的製剤 、、など IgE、好酸球、IL-5/IL-5R等の表現型・で選択

は治療域が狭く、相互作用・不整脈・痙攣のリスクがあるため、なやではない。

COPD治療

治療目標

症状を減らす 将来リスクを減らす
呼吸困難を軽減 疾患進行を抑える
を改善 増悪を予防・治療
健康状態・を改善 死亡を減らす

初期薬物療法:GOLD A・B・E

現行ではA・B・E群を用いる。過去1年に中等度またはが1回でもあればE群とする。E群に該当しなければ、 10点未満かつmMRC 0〜1をA群、 10点以上または 2以上をB群として初期治療を選ぶ。2

群 初期治療の原則
A 1剤。短時間作用性でも長時間作用性でもよい。入手でき費用が許すなら長時間作用性が優先されるが、がごくたまにしか出ない患者はその例外である
B /併用。入手性・費用・副作用に問題がなければこれを初期選択とする。併用が適切でないときはとのどちらを選ぶべきかの根拠は無く、患者が感じる症状の軽さで決める
E /併用(同じく入手性・費用・副作用に問題がなければ)。≥300細胞/µLなら初期//ICSを検討。喘息併存時は喘息として治療しICSを必ず含める

で/ICSを初期選択としてに用いず、ICSが適応ならを優先する。喘息を併存する場合はICSが必須である。2

💡 「入手できるなら」「費用が許すなら」という条件節は飾りではない。 はA群の長時間作用性優先にもB群・E群の/にも、入手性・費用・副作用という条件を明記している。条件を落として読むと、その条件が満たされない地域の診療では成り立たない推奨になる。2

⭐ どの群でも、維持吸入薬とは別に発作治療薬()を全員に処方する。 単独、単独、または+配合を、症状が出たときに使えるよう渡しておく。喘息と違いでは「単独を避ける」というはなく、維持療法にする形で用いる。

💡 は治療の土台だが、死亡率は下げない。 ・は症状を軽くし増悪を減らすが、生存を延ばすことは示されていない。で死亡率の低下が示されているのは、禁煙、(増悪入院中または退院後4週以内の開始。ただし古い試験では有意差があり新しい試験では出ておらず、の表もが定まらないと注記している)、適応を満たす、著明な高CO₂血症例への長期NIV、選択例の、そしてICSを含む三剤合剤である。「吸入薬を増やす」だけでは予後は変わらないという対比を押さえておく。2

⚠️ の「選択例」は狭い。 生存を延ばしたのは重症肺気腫のうち優位でリハビリ後のが低い群で、優位でなくが高い群では手術群のほうが死亡率が高かった。の生存利益は無作為化試験ではなく観察データからの推定である。2

COPDで用いる主な薬剤

分類 代表薬 ・要点
、、、 約4〜6時間;
SAMA 、 約6〜9時間;、と併用可能
、、、、 約12〜24時間;
、、、、 約12〜24時間;増悪予防
ICS/ /、/等 ICS適応のある患者で使用
/ /等 症状・増悪を単剤より改善
経口。 <50%・の症状・入院に至った(重度の)増悪歴のすべてを満たす例で検討
PDE3/ 吸入(標準的なジェット)。抗炎症作用と気管支拡張作用を併せ持つ新規薬。/でも呼吸困難が残る例の追加選択肢だが、/やへのを検証した試験設計ではないため位置づけは未確定で、2026年時点で米国でのみ入手できる2。⚠️ 米国添付文書の適応は成人の維持療法で、急性のの頓用には使わない。を含む精神症状の有害事象の増加が報告されており、うつ病や・自殺行動の既往がある患者では利益と危険を慎重に比較する3
生物学的製剤 (2週ごと)、(4週ごと) 注射。でも増悪する好酸球≥300細胞/µLの例が対象(下記)2
・ エルドステイン、カルボシステイン、 ICSを使っていない患者では、カルボシステインやの定期投与が増悪を減らし健康状態をわずかに改善しうる。ただし軽〜中等症への高用量(600 mg 1日2回)の長期投与は、年間総増悪率も肺機能も有意に改善しなかった。エルドステインはICS併用の有無によらず軽度増悪に効果を示した。を絞り込めるだけのデータは無い2

は有害事象と相互作用が多く、代替がある場合は避ける。

💡 同じでも、疾患が変われば扱いが変わる。 現行は喘息でを推奨していない(上の喘息の表)1。一方 2026の維持薬一覧はをとして、/を+配合として掲げており、で名指しの制限は置いていない2。片方のガイドラインの非推奨をや他疾患へそのまま広げない。

COPDのフォローアップ

flowchart TD
  A["治療後も呼吸困難または増悪"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhalation technique'>吸入手技</span>・遵守・他疾患を確認"]
  B --> C{"主な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatable traits'>治療可能特性</span>は?"}
  C -->|"呼吸困難"| D["単剤なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-acting beta2-agonist'>LABA</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-acting muscarinic antagonist'>LAMA</span>へ"]
  D --> E["不十分ならデバイス・薬剤の変更<br>呼吸リハなど<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-pharmacological'>非薬物療法</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ensifentrine'>エンシフェントリン</span>追加<br>他原因の検索"]
  C -->|"増悪"| F{"現在の維持薬は?"}
  F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchodilator'>気管支拡張薬</span>1剤"| G{"好酸球≥300細胞/µL?"}
  G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-acting beta2-agonist'>LABA</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-acting muscarinic antagonist'>LAMA</span>/ICSを検討"]
  G -->|"いいえ"| I["LABA/LAMAへ"]
  F -->|"LABA/LAMA"| J{"好酸球≥100細胞/µL?"}
  J -->|"はい"| K["LABA/LAMA/ICSへ"]
  J -->|"いいえ"| L["表現型別追加治療を検討"]
  L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic bronchitis'>慢性気管支炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forced expiratory volume in one second'>FEV₁</span><50%<br>入院に至った(重度の)増悪歴<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='roflumilast'>ロフルミラスト</span>を検討"]
  L --> N["現在喫煙していない選択例<br>アジスロマイシンを検討"]
  K --> P["三剤でも増悪するなら表現型別追加治療"]
  P --> Q["好酸球≥300細胞/µL<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dupilumab'>デュピルマブ</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic bronchitis'>慢性気管支炎</span>あり)<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mepolizumab'>メポリズマブ</span>"]
  P --> M
  P --> N

ICSの増悪予防効果は数と連続的に関連し、概ね<100細胞/µLでは小さく、≥300細胞/µLで最も期待しやすい。ただしは単独で使う指標ではなく、増悪歴による臨床的リスク評価と必ず組み合わせる。/使用中にも増悪する場合は、≥100細胞/µLならへ強化する。<100細胞/µLなら、<50%・・入院を要した増悪歴がある例で、現在喫煙していない選択例でアジスロマイシンを検討する。後者では耐性菌出現にも注意する。2

でもなお増悪する例には、そこから先の選択肢がある。 ≥300細胞/µLなら、を伴う例に(とが共有する受容体成分を遮断する)、の有無を問わず(抗IL-5)を追加する。いずれも「下で過去1年に2回以上または1回以上」の集団で増悪が減った。とアジスロマイシンは、/で好酸球<100細胞/µLの場合だけでなく、この後の分岐にも並ぶ。ただしの増悪歴の条件は、前者でが「入院に至った増悪の既往」、後者で「の既往」と書き分けている。2

⚠️ 好酸球を標的にする生物学的製剤が、で一律に効くわけではない。 同じ抗好酸球系でも(抗IL-5受容体α)は、の2本で年間増悪率を下げられなかった。重症喘息で有効な薬をそのままへ移さない。2

からICSを外すのは、開始時の適応が不適切、反応がない、重大な副作用、重症またはがある場合に限って利益と危険を比較する。≥300細胞/µLでは、中止後に増悪しやすい。2

非薬物療法

  • 禁煙支援、、
  • 、自己管理、増悪時行動計画
  • 栄養支援、終末期・
  • インフルエンザ、肺炎球菌、、RSウイルスなどのワクチン
  • 適応患者の

まとめ

  • 喘息はICS含有治療が必須で、単独・単独を避ける。
  • は/が基本で、ICSは増悪歴、好酸球、喘息併存から選ぶ。維持薬とは別に発作治療薬を全員へ渡す。
  • は症状と増悪を改善するが死亡率は下げない。死亡率に効くのは禁煙・呼吸リハ・・長期NIV・・三剤合剤である。
  • でも増悪する例には、好酸球≥300細胞/µLなら・、そのほかとアジスロマイシンという次の段がある。はでは有効性が示されていない。
  • A・B・E群分類は初期治療に用い、では呼吸困難・増悪というで調整する。推奨に付いた「入手でき費用が許すなら」という条件節ごと覚える。
  • 、、併存症を確認せずに薬剤だけを増やさない。

出典

  1. 1.Global Strategy for Asthma Management and Prevention(Global Initiative for Asthma (GINA)・2026)成人・思春期ではSABA単独を避け、低用量ICS-ホルモテロールをリリーバーとする治療経路を優先すること、段階治療と維持・必要時同一吸入療法を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease: 2026 Report(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD)・2026)COPDのA・B・E群別初期治療、増悪時の血中好酸球数に応じたICS追加、ロフルミラスト・アジスロマイシン追加とICS中止の条件を確認した。あわせて、A群の長時間作用性優先とB群・E群のLABA/LAMAに入手性・費用・副作用という条件節が付くこと、LABA/LAMAでも呼吸困難が残る例にエンシフェントリンの追加を挙げ同薬が米国でのみ入手可能であること、三剤併用でも増悪し好酸球300細胞/µL以上の例にデュピルマブ(慢性気管支炎あり)とメポリズマブ(慢性気管支炎の有無を問わない)を挙げる一方ベンラリズマブは増悪率を下げなかったこと、死亡率低下の根拠をまとめた表が三剤合剤・禁煙・呼吸リハ・長期酸素療法・NPPV・肺容量減少術の6項目であり呼吸リハに結論が定まらない旨の注記が付くことを確認した。さらに維持薬一覧(Figure A3.1、画像の表なので本文抽出では読めずページを画像として取得した)でフェノテロールがSABAに、フェノテロール/イプラトロピウムがSABA+SAMA配合に、レバルブテロール・オキシトロピウム・アルホルモテロール・レベフェナシンがそれぞれの区分に、デュピルマブが2週ごと・メポリズマブが4週ごとの注射として挙がることを確認し、粘液溶解薬・抗酸化薬の節でICS非使用例のカルボシステイン・N-アセチルシステイン定期投与、高用量N-アセチルシステインの陰性結果、エルドステインの軽度増悪への効果を確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.OHTUVAYRE- ensifentrine suspension(DailyMed(Merck Sharp & Dohme LLC、米国添付文書)・2026)現行SPL(改訂表示は2026年4月)の全文で、効能が成人の慢性閉塞性肺疾患の維持療法であること、PDE3阻害薬かつPDE4阻害薬として承認されていること、5.1が急性の気管支攣縮の症状緩和に使用しないよう求めていること、5.3が自殺念慮を含む精神症状の有害事象の増加を報告しうつ病や自殺念慮・自殺行動の既往がある患者で利益と危険を慎重に比較するよう求めていることを確認した。これは米国の添付文書であり他国の承認状況は述べていない。閲覧 2026-09-21