呼吸器学

呼吸器学 · 24

気管支炎と気管支拡張症

Bronchitis and bronchiectasis

前提:臨床
呼吸器領域の画像診断法呼吸理学療法、呼吸リハビリテーション、緩和ケア
前提:病態
慢性気管支炎と気管支拡張症の病理
疾患
気管気管支拡張症気管支拡張症原発性線毛運動不全症非結核性抗酸菌症
症状
湿性咳嗽
検査値
鼻腔一酸化窒素濃度
画像所見
tree-in-bud様所見軌道状陰影
スコア
FACEDスコアPICADAR気管支拡張症重症度指数

ポッドキャスト

🧠 全体像:は主にウイルス性の一過性気管支炎症で、抗菌薬を必要としないことが多い。は臨床的な咳・喀痰の表現型である。は気管支の不可逆的拡張、障害、感染、炎症が悪循環を作る慢性疾患である。

急性気管支炎

に続くことが多いで、気管支炎症と急性咳を特徴とする。

原因

  • ウイルス:インフルエンザA/B、パラインフルエンザ、、など
  • 一部の細菌、環境刺激物

臨床像

  • 咳:通常2〜3週で軽快するが、さらに長引くこともある
  • 、頭痛、倦怠感、咳に伴う胸痛
  • で喘鳴・音

診断と治療

臨床診断が基本で、肺炎、・COPD増悪、百日咳、心不全などを疑う場合に検査する。基礎疾患のない成人では、の異常(心拍数100回/分以上、呼吸数24回/分以上、38℃以上)と聴の局所所見(限局性の硬化所見、ヤギ音、の亢進)のいずれもなければ肺炎の可能性は低く、多くの症例で胸部X線は適応にならない。着色痰は細菌感染を示さない。1

  • 水分、休養、煙などの刺激物回避
  • 疼痛・発熱には適応を確認してまたはNSAIDs
  • 合併症のないには、咳の持続期間にかかわらず抗菌薬を定型投与しない。対症療法として、第1世代抗ヒスタミン薬、が挙げられるが、個々の対症療法を支持する根拠は限られている。1
  • インフルエンザなど、抗ウイルス薬の適応がある特定病原体が疑われる場合はそちらの適応に従う(上記の米国外来診療ページはの項で抗ウイルス薬に触れていない)
  • 頻呼吸、低酸素血症、高熱、局在性、全身状態不良では肺炎を除外

慢性気管支炎

他の原因を除外し、2年以上連続して、各年3か月以上続く・喀痰を認める臨床的定義である。を伴わない場合もあり、そのものと同義ではない。

喫煙・により気管支粘液腺が肥大し、のが増加する。、気道炎症、壁線維化に肺気腫が加わると、持続性を生じる。進行例では低酸素血症、高CO₂血症、肺高血圧、右心不全を合併しうる。

気管支拡張症

は、気管支・の異常で不可逆的な拡張を特徴とし、粘液貯留とが気道壁を破壊する。

原因

悪循環

flowchart TD
  A["閉塞・線毛機能障害・免疫異常"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucus clearance'>粘液クリアランス</span>低下"]
  B --> C["細菌定着・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recurrent infection'>反復感染</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophilic inflammation'>好中球性炎症</span>・気道壁損傷"]
  D --> E["不可逆的気管支拡張"]
  E --> B

臨床像

診断

検査 主な所見
() 気管支径がより太い()、末梢まで気管支が見える、、肥厚、
胸部X線 、を示すことがあるが感度は低い
増悪時・安定時の病原体、緑膿菌などの慢性定着を評価
が多いが正常・もある
原因検索 血算・免疫グロブリン、評価、、発症年齢等に応じ汗中Cl・CFTR検査

⚠️ の検査は、2025年指針で「臨床像から疑った選択例」から「全患者」へ広がった。 を始める前にを除外しなければならない(単剤曝露で耐性を作るため)ので、初期評価の段階で調べておく意味がある。2

は線維化した肺実質の構築破壊を示す所見であり、の基本所見ではない。周囲の線維化に牽引される気管支拡張と、慢性気道感染を主体とするを区別する。

治療

気道クリアランス

  • 成人では、能動呼吸サイクル、、呼気陽圧器具などの法を患者ごとに選び、訓練を受けた医療者が指導する。3
  • 2025年指針は、の指導を、喀痰産生例に限らず提供することを強く推奨している。2017年版は「慢性のまたは困難がある患者」に限った条件つき(弱い)推奨だったので、対象と推奨の強さの両方が変わった点である。どの手技・器具が優れているという根拠はなく、個別化して専門のが指導するのがよいとされる。2
  • 必要時、吸入などを・気道反応に注意して検討
  • 吸入は可逆性閉塞、喘息・併存で使用(2025年版はを扱っておらず、2017年版の弱い推奨が有効なまま残っている)2

感染管理

  • 増悪時は可能なら治療前にを採り、既往菌と感受性に沿って抗菌薬を選ぶ。3 投与期間は14日が標準で、感受性のある菌が分離されている場合や治療への反応が速い場合は7〜10日へ短縮しうる。2
  • 高増悪リスクは、過去1年に増悪2回以上、入院を要する重症増悪1回以上、または増悪1回に強い日常症状を伴う場合をいう。2
  • 標準治療を尽くしてもなお高増悪リスクならアジスロマイシンなどのを用いる。2025年版はこれを強い推奨とし、緑膿菌の有無を問わず第一選択に置いた(2017年版は非緑膿菌例の第一選択・緑膿菌例の第二選択で、いずれも弱い推奨だった)。開始前に感染、QT延長、聴覚・肝機能、薬物相互作用を評価する。2
  • 慢性緑膿菌感染かつ高増悪リスクでは、長期を用いる。これも2017年版の弱い推奨から強い推奨へ上がり、緑膿菌例ではと同格の第一選択になった。効果とを定期的に再評価する。2
  • ワクチン、禁煙、(が低下した患者へのは強い推奨)3

💡 「強い推奨」は全員に使えという意味ではない。 2025年版の説明では、マクロライドやの強い推奨は「標準治療を行ってもなお高増悪リスクと判断され、禁忌がない患者のほとんど、または全員を治療すべきである」という意味であり、条件つき推奨なら「高リスクと認めても相当数は治療しない」ことを許す、という対比で書かれている。2

⚠️ 投与閾値の考え方も変わった。 2017年版は「年3回以上の増悪」という回数の線で長期抗菌薬の適応を決めていたが、2025年版は日常症状や他の危険因子(原因疾患が・・関節リウマチであること、グラム陰性菌とくに緑膿菌の感染、強い症状、喀痰の膿性化、やの合併など)を組み込んだ個別のリスク評価へ置き換えた。2

長期の経口非マクロライド抗菌薬は、2017年版の「第二選択として使う」という弱い推奨から、2025年版では条件つきに「使わない」側へ反転した(他の治療を試して無効だった選択例には今も妥当)。2 ICSは喘息、に併存する喘息、適応のあるなど、とは別の明確な適応がない限りに使用しない。長期経口非マクロライド抗菌薬とICSはどちらも「には使わないことを提案する」という条件つき(弱い)推奨であって、禁止ではない。3

喀血と外科治療

では気道・循環を安定化し、出血側を下にして、を第一に検討する。限局性で内科治療抵抗性の・喀血では/を選択しうる。

⚠️ この外科の線引きは2017年版指針に由来する。 2025年版は(および)を扱っておらず、2025年版の臨床サマリーは、2017年版の「内科治療に抵抗性で病変が限局している例を除いて手術を推奨しない」という推奨が今も有効であると明記している。2025年版で新設された「増悪していく患者」のアルゴリズムが、の適応評価などを含めてこの領域を一部引き継いでいる。2

まとめ

  • は多くがウイルス性で、支持療法が基本である。
  • は「2年連続、各年3か月以上の」という臨床表現型で、と同義ではない。
  • はクリアランス障害―感染―炎症―気道破壊の悪循環で進行し、で確定する。
  • 治療の柱は原因検索、、培養に基づく感染管理、増悪予防である。
  • 2025年指針で強い推奨になっているのは、の指導、低下例への、高増悪リスク例への、慢性緑膿菌感染かつ高増悪リスク例への長期の4つである。長期経口非マクロライド抗菌薬とICSは条件つきに「には使わない」側にある。

出典

  1. 1.Outpatient Clinical Care for Adults(Centers for Disease Control and Prevention・2024)合併症のない成人急性気管支炎で肺炎を疑う所見、胸部X線の位置づけ、喀痰色の解釈、抗菌薬を定型投与しない原則を確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.The European Respiratory Society guideline for management of adult bronchiectasis: clinical summary(European Respiratory Society・2026)2025年ERS成人気管支拡張症指針の推奨を、指針の執筆責任者自身が書いた臨床サマリーの全文(オープンアクセス)で確認した。気道クリアランスは2017年版の条件つき推奨から強い推奨へ上がり、対象も喀痰産生例から全患者へ広がったこと、長期マクロライドは強い推奨かつ緑膿菌の有無を問わず第一選択であること、長期吸入抗菌薬は慢性緑膿菌感染例で強い推奨でありマクロライドと同格の第一選択になったこと、呼吸リハビリテーションが強い推奨であること、長期経口非マクロライド抗菌薬は2025年版で条件つきに「使わない」側へ反転したこと、高増悪リスクの定義(年2回以上の増悪、年1回の増悪に強い症状を伴うもの、年1回以上の入院を要する重症増悪)、増悪時の抗菌薬は14日が標準で感受性菌や速やかな反応がある場合は7〜10日へ短縮しうること、非結核性抗酸菌の検査が全患者に推奨へ変わったこと、気管支拡張薬と外科治療は2025年版が扱っておらず2017年版の推奨が有効なままであることを確認した。閲覧 2026-09-21
  3. 3.European Respiratory Society clinical practice guideline for the management of adult bronchiectasis(European Respiratory Society・2025)⚠️ 誌上版本体は取得できていない(erj.ersjournals.com・publications.ersnet.org・doi.org の転送先はいずれも403、Amsterdam UMC のリポジトリ版はJSチャレンジ、Wayback にスナップショット無し、Europe PMC は inEPMC N)。確認したのは Europe PMC が返す構造化抄録の逐語だけで、そこに含まれるのは、ほとんどの患者への気道クリアランス法と運動耐容能が低下した患者への呼吸リハビリテーションがいずれも強い推奨であること、増悪高リスク患者への長期マクロライドと慢性緑膿菌感染かつ増悪高リスク患者への長期吸入抗菌薬がいずれも強い推奨であること、除菌治療と粘液活性薬が特定の状況で条件つき推奨であること、長期の経口非マクロライド抗菌薬と吸入ステロイドを定型的には使わないことを提案していること、8つのPICOと3つの叙述的疑問で構成されることである。高増悪リスクの定義・増悪時抗菌薬の期間・非結核性抗酸菌検査の対象の変更は抄録に含まれないので、それらは臨床サマリー側の出典で受けている。閲覧 2026-08-02