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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

百日咳

Pertussis (whooping cough)

別名
Whooping cough100-day cough
臓器系
感染症呼吸器
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/20:ボルデテラ属
合併症
市中肺炎
関連疾患
ジフテリア
治療薬
アジスロマイシンクラリスロマイシン
原因微生物
Bordetella pertussis
症状
チアノーゼ咳出血鼻汁嘔吐痙攣
検査値
血算
適応薬
エリスロマイシン

🧠 全体像:百日咳は「付着→複数毒素の相加攻撃」という2段構えの病原性と、→→→という4病期の時間軸で理解すると全体が繋がる。感染力が最も強いのは症状の目立たないであり、診断・隔離のタイミングを誤りやすい。ワクチン()による免疫は経年で減弱するため、成人・青年期での罹患や乳児への波及(不全)が現代の主な臨床課題である。

病原体と発症機序

*Bordetella pertussis*はヒトのみを宿主とするで、が厳しくを要する。線毛性の(・)でに強固に接着したのち、・・・の4種類の毒素を同時に放出し、と全身性の炎症反応を起こす。

flowchart TD
  A["飛沫感染で気道へ吸入"] --> B["線毛(FHA・PRN)で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway epithelium'>気道上皮</span>に接着"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pertussis toxin'>百日咳毒素</span>がGiタンパクをADP<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribosylation'>リボシル化</span>"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclic adenosine monophosphate'>cAMP</span>上昇→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway secretion'>気道分泌</span>亢進"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemokine receptor'>ケモカイン受容体</span>も無効化→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral lymphocytosis'>末梢血リンパ球増多</span>"]
  B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tracheal cytotoxin'>気管毒素</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucociliary clearance'>線毛運動</span>を障害"]
  D --> G["特徴的な発作性の咳・カタル症状"]
  F --> G

臨床像

4つの病期を経過し、成人・年長児では典型的な「whoop」を欠くことも多い。

病期 期間 特徴
(潜伏期) 平均7〜10日(範囲5〜21日)1 無症状
1〜2週間 普通の咳・——この時期および咳嗽発症後3週間が最も感染力が強いが診断は難しい(感受性者へのは80%超)1
2〜6週間1 特徴的な痙攣性の咳と吸気時の吼え声(whoop)(小児)。咳嗽後の嘔吐、無呼吸(特に乳児)、・・気胸など咳嗽自体による合併症、黄色ブドウ球菌やによる二次性の肺炎のに注意
1〜3ヶ月 緩徐な回復——「100日咳」とも呼ばれる。非発作性の咳がさらに2〜6週間以上続く1

⚠️ 乳児はな経過をとる。 特に生後4ヶ月未満では特徴的な咳よりも無呼吸・チアノーゼが前面に出ることがあり、致死的経過をたどりうる最もハイリスクな年齢層である。

診断

検査 内容
() 発症後3週間程度までの検体で最も感度が高く、現在の第一選択。培養はが厳しく感度も低いため補助的
培養 Bordet-Gengou寒天培地(10%血液・グリセリン・馬鈴薯)、湿潤環境で3〜7日を要する——感受性を保つ株の分離に有用だが臨床診断の主軸ではない
血清学的検査 抗原検出(、)、発症後期の診断補助
血算 に著明なリンパ球優位の(毒素による阻害の結果)

💡 日本では2018年1月1日から百日咳が5類感染症の全数対象となり、診断後7日以内のへのが必要になった。 これに伴いの対象は「臨床的特徴を有し、かつ原則として実験室診断で確定した症例」に変わり、成人例やワクチン接種歴を含めた発生動向ができるようになった2。国内では特異性の高い法が開発され、法より簡便・迅速な診断法として2016年11月から保険適用となっている(同じく2016年に抗IgM・IgA抗体検査も保険適用)3。

治療

対象 推奨
生後1ヶ月以上の患者・PEP対象者 アジスロマイシン(1日1回・5日間)が第一選択。・も推奨される1
生後1ヶ月未満の乳児 アジスロマイシンが推奨——は(IHPS)のリスクとの関連が指摘され、はこの月齢での有効性データがないため、いずれも推奨されない。アジスロマイシンとIHPSの関連はこれまで報告されていない1
(PEP) 感染者の咳嗽発症から21日以内であれば無症状の家庭内にもマクロライドを投与し、特に重症化リスクの高い生後12ヶ月未満(なかでも4ヶ月未満)やの女性がいる場への波及を防ぐ1

⚠️ 抗菌薬はを過ぎると症状そのものは改善しにくい。 以降の投与は臨床経過短縮よりも感染性の遮断(他者への伝播予防)が主目的になる——・早期治療の意義はここにある12。

⚠️ が国内でも報告され始めている。 中国では2011年以降に増加して2020年にはの57.5〜91.9%を占め、日本でも渡航歴のない大阪の小児3例、鳥取の8株、を要した沖縄の乳児2例が報告されている。耐性菌の代替薬として十分な知見のある薬剤はないがST合剤の併用が検討される(ST合剤は・新生児・妊婦に禁忌)2。

予防はが中心。ワクチン免疫は経年で減弱するため、妊娠27〜36週での母体接種(胎盤経由ので生後早期の乳児を守る)と、乳児と接触する家族・への追加接種()が現代の主要なである。ただしこの母体接種はオーストラリアや欧米諸国での推奨であり、日本のは生後2か月から計4回でその後の追加接種が設定されていないため、日本小児科学会はとして就学前および11〜12歳(2種混合の代わり)での3種混合ワクチン接種を推奨している2。

まとめ

  • B. pertussisは線毛による接着と4種類の毒素ので発症し、→(最も感染力が強い)→(特徴的な咳・whoop、二次性肺炎に注意)→(100日咳)の経過をとる。
  • 乳児、特に生後4ヶ月未満では無呼吸・チアノーゼが前面に出る非典型例が多く最もハイリスク。
  • 診断は現在が第一選択で、培養()は補助的。
  • 治療・はアジスロマイシンが第一選択で、生後1ヶ月未満ではアジスロマイシンが推奨される(はのリスク、はこの月齢のデータ不足のため推奨されない)。国内では株の報告が増えており、ST合剤の併用が検討される。
  • 予防の要は無細胞性ワクチンで、妊娠中接種による母体からのが乳児防御の柱となる。

出典

  1. 1.Recommended antimicrobial agents for the treatment and postexposure prophylaxis of pertussis: 2005 CDC Guidelines(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports 54(RR-14))・2005)百日咳の潜伏期が平均7〜10日(範囲5〜21日、6週間に及ぶ報告もある)であること、カタル期が約1〜2週間で、患者はカタル期および咳嗽発症後3週間が最も感染力が強いこと、感受性者への二次発病率が80%を超えること、発作性咳嗽が通常2〜6週間持続し、回復期にも非発作性の咳が2〜6週間以上続くことを確認した。治療は生後1か月を超える患者ではエリスロマイシン・クラリスロマイシン・アジスロマイシンのマクロライドが推奨され、生後1か月未満ではアジスロマイシンが推奨されエリスロマイシンとクラリスロマイシンは推奨されないこと、その理由がエリスロマイシンは乳児肥厚性幽門狭窄症(IHPS)との関連が指摘されている一方、クラリスロマイシンは生後1か月未満での有効性データが存在しないためであること、生後1か月未満でもアジスロマイシンとIHPSの関連はこれまで報告されていないことを確認した。アジスロマイシンの用法は生後6か月未満で10mg/kg/日を5日間、6か月以上の小児で初日10mg/kg(最大500mg)・2〜5日目5mg/kg(最大250mg)、成人で初日500mg・2〜5日目250mgである。曝露後予防は無症状の家庭内接触者に対して初発患者の咳嗽発症から21日以内に投与すると発症を防ぎうること、生後12か月未満(特に4か月未満)の乳児や妊娠後期(third trimester)の女性がいる曝露設定では投与すべきであることも確認した。早期にマクロライドを投与すると症状の期間と重症度を軽減し感染性の期間を短縮する。閲覧 2026-09-05
  2. 2.百日咳患者数の増加およびマクロライド耐性株の分離頻度増加について(日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会・2025)2018年1月1日から百日咳が感染症法に基づく5類感染症全数把握疾患に定められ、診断後7日以内の保健所への届出が必要となり、この改正によって成人例や予防接種歴を含めた患者発生の把握が可能になったことを確認した。痙咳期の抗菌薬投与は症状の改善は乏しいが他者への感染を著明に低下させること、マクロライド耐性百日咳菌が2011年以降中国で増加し2020年には57.5〜91.9%を占めるに至り、日本でも大阪の渡航歴のない小児3例・鳥取の8株・沖縄の集中治療を要した乳児2例が報告されて国内での増加に注意が必要であること、耐性菌の代替薬として十分な知見のある薬剤はないがST合剤の併用が検討され、ST合剤は低出生体重児・新生児・妊婦に禁忌であることも確認した。日本の定期接種は生後2か月から計4回でその後の追加接種が設定されておらず、日本小児科学会は任意接種として就学前および11〜12歳(2種混合の代わり)での3種混合ワクチン接種を推奨していること、妊娠後期の母体への百日咳含有ワクチン接種はオーストラリアや欧米諸国での推奨として紹介されていることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.IASR 40(1), 2019【特集】百日咳 2018年11月現在(国立感染症研究所(病原微生物検出情報 IASR Vol. 40 p1-2)・2019)2018年1月1日から百日咳が全数把握対象の5類感染症となり、届出対象が「百日咳の臨床的特徴を有し、かつ原則的に実験室診断により診断が確定した症例」に変わったことを確認した。検査法については、菌培養検査は特異性に優れるが特殊な培地を要し陽性率が低いこと、遺伝子検査が最も感度が高く世界的にはリアルタイムPCR法が採用されている一方、日本では特異性の高い百日咳菌LAMP法が開発されリアルタイムPCR法より簡便・迅速な診断が可能で2016年11月から保険適用となったこと、2016年に百日咳菌に対するIgM・IgA抗体を測定する血清学的検査も承認・保険適用されたことを確認した。全数把握開始後の2018年は11月末時点で10,360例が報告され、届出患者の年齢中央値は10歳(範囲0〜98歳)、5〜9歳が38%・10〜14歳が25%を占め、最も重症化しやすい生後6か月未満は453人であった。閲覧 2026-09-05