病理学

病理学 · C/27

胸膜・心膜の病理

Pathology of the pleura and pericardium

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High-yield / ポイント
応用トピック
心膜炎と心嚢液貯留胸水
疾患
BAP1腫瘍素因症候群悪性中皮腫気胸胸膜炎

🧠 全体像:の病変は「何が溜まるか」で性格が決まる——は低タンパクでCHFなど、滲出液は高タンパクで感染・癌など局所炎症を示す。気胸は空気の逃げ道がになった瞬間()に致死的となり、(旧称:)は曝露から数十年という長い潜伏期を経てそのものを消失させる。同じであるでも、液体の貯留・炎症・腫瘍という同じ枠組みで病変を整理できる。

胸膜 — 解剖

  • :肺を包む
  • :胸壁の内面を裏打ちする
  • :両層間の薄い空間、潤滑性の胸水で満たされる
  • 胸膜の病的病変は通常、基礎肺疾患の二次的合併症
  • 原発性の胸膜疾患:原発性の胸膜内細菌感染+

A)胸水と胸膜炎

  • に過剰な液体が貯留 → 肺の拡張を制限 →

漏出液

  • 低タンパク(血液の液)
  • 最も多い原因はCHF

滲出液

  • 高タンパク(>2.9 g/dL)、炎症細胞があればを示唆
  • 実地では蛋白の絶対値ではなくで判定する。現在の形は、胸水/血清蛋白比0.5超、胸水/血清比0.6超、胸水が血清の2/3超のうち1つ以上を満たせば滲出液とする1
  • 1972年の原著では、胸水の項目は「胸水 200 IU超」という絶対値で書かれていた(蛋白比0.5超・比0.6超は現在と同じ)2。測定法によるの違いを吸収するため、後に「血清の2/3超」の形で使われるようになった
  • 原因:
    1. ・:肺感染やからの微生物侵入
    2. 癌:があり発熱・疼痛・陽性がない40歳超の患者では疑う
    3. ウイルス性

転帰

  • と液:通常はなく再吸収
  • ・出血性・化膿性の滲出液 → → 癒着や線維性+時に石灰化
  • 治療:胸水のドレナージ

B)気胸

  • 内の空気(または他の気体)

型

  • :既知の肺疾患のない若く健康な男性に発症
  • 二次性:胸膜面付近の肺病変の破裂(肺気腫、膿瘍、結核、癌)

合併症

  1. :逃げられない進行性の空気貯留(「効果」)→ 対側胸郭への → の障害 → 致死的、再拡張しなければ →
  2. 感染:長期の虚脱 → 感染への感受性
  3. :の膿 →
flowchart TD
    A["胸膜面付近の肺病変の破裂"] --> B["空気が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleural cavity'>胸膜腔</span>へ流入"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endobronchial one-way valve'>一方向弁</span>効果<br>吸気で流入・呼気で排出されない"]
    C --> D["進行性の空気貯留"]
    D --> E["対側胸郭への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinal shift'>縦隔偏位</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary circulation'>肺循環</span>の障害"]
    F --> G["致死的"]

C)血胸

D)乳び胸

  • 脂質微小球を含むのの胸膜貯留
  • 主要リンパ管の閉塞(通常は癌による)が原因

E)中皮腫(旧称:悪性中皮腫)

  • の稀な癌、臓側・から生じる(頻度は低いが腹膜・心膜も)
  • 曝露と強く関連 → 初回曝露から25〜40年後に発生(イタリアの登録2544例ではの中央値44.6年で、環境・家庭内曝露例(48年)は例(43年)よりむしろ長かった)3
  • 機序:線維が付近に蓄積 → ROS()を生成 → 損傷 →
  • ⚠️ 喫煙との関係は肺癌とで異なる。 労働者約1670例の追跡では、による肺癌のは非喫煙者で最も高く、現喫煙者で最も低く、元喫煙者で中間だった。一方、による死亡は喫煙習慣と有意な関連を示さず、リスクは喫煙と独立しているとされた4

形態

  • しばしば広範な維化とに先行される
  • 限局した領域から広がり肺を包み込む
  • 剖検:肺が黄白色で硬い、時にゼラチン状の腫瘍に包まれ、を消失させる
  • 組織型は・・の3つで、2021年版でも変わらない5。米国の9701例の解析では全生存率は6か月55%・1年33%・5年5%で、では非(・)がより予後不良だった。ただしで組織型が有意だったのはグレードを含めないモデルだけで、グレードを同時に入れると有意でなくなり、に最も影響したのは腫瘍のグレードと手術の有無だった6
  • 💡 胸膜・心膜腫瘍分類2021年版では、限局性・びまん性いずれのからも接頭語malignant(悪性)が外れ、BAP1・MTAP発現消失などで認識される(mesothelioma in situ)が新たな病型として加わった。同じ版で心膜腫瘍はと同じ章にまとめられた5。「」は旧来の呼び名として理解する

F)心膜の病変

心膜も胸膜と同じに覆われた漿膜で、()との間のに少量の液体がある。と同じく「何が溜まるか」「どんな炎症か」「腫瘍か」で整理する。

病変 要点
漿液性・・化膿性・出血性などの滲出を伴う炎症。ではを生じ、器質化すると癒着を残しうる
・・血性の液体がに溜まる。問題は量そのものより溜まる速さで、心膜は急には伸びないため少量でも急速に溜まれば心臓を圧迫する
心タンポナーデ 内圧の上昇で心室が十分に拡張できず、1回拍出量が落ちてに至る。胸膜のと同じく「閉じた腔の圧が循環を止める」病態
慢性炎症後の線維化・石灰化で心膜が硬い殻になり、拡張期の充満が妨げられる。との鑑別が問題になる
心膜の腫瘍 は胸膜のほか心膜にも生じうる。 2021年版では心膜腫瘍はと同じ章で分類される5
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial cavity'>心膜腔</span>に液体が貯留"] --> B{"溜まる速さ"}
    B -->|"急速(出血など)"| C["心膜が伸びきれず<br>少量でも<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial cavity'>心膜腔</span>内圧が上昇"]
    B -->|"緩徐"| D["心膜が徐々に伸展<br>大量になるまで耐えうる"]
    C --> E["心室の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diastolic dysfunction'>拡張障害</span>"]
    D --> E
    E --> F["1回拍出量の低下"]
    F --> G["心タンポナーデ(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='obstructive shock'>閉塞性ショック</span>)"]

💡 ポイント: = 低タンパク、CHF。滲出液 = 高タンパク、・癌(40歳超、発熱なし)・梗塞。気胸:自然 = 若年男性、緊張性 = 致死的な。 = 曝露、数十年の潜伏(講義では25〜40年、登録の中央値は約45年)、喫煙とは独立、を消失させる黄白色腫瘍。心膜 = 胸膜と同じ、急速な貯留ほどタンポナーデになりやすい。

まとめ

  • 胸水は(低タンパク、CHFが主因)と滲出液(高タンパク、・癌・などが原因)に分かれ、実地では(蛋白比0.5超・比0.6超・胸水が血清の2/3超のいずれか)で判定する。
  • 40歳超で発熱がなくがある場合は癌を疑う。
  • 気胸は(若く健康な男性)と二次性気胸(既存肺病変の破裂)に分かれ、は効果による進行性の空気貯留から・障害を経て致死的となる。
  • は出血で、破裂による場合はほぼ常に致死的(臨床ではも代表的な原因)、は主要リンパ管の閉塞によるの貯留。
  • (旧称:)は曝露と強く関連し、初回曝露から25〜40年後に発生するとされる(登録では中央値44.6年)3。による肺癌のは非喫煙者で最も高く現喫煙者で最も低かった一方、リスクは喫煙と独立していた4。
  • の機序は線維の蓄積→ROS産生→損傷→で、を消失させる黄白色腫瘍として剖検される。組織型は・・で、 2021年版では接頭語「悪性」が外れが加わった。
  • 心膜も胸膜と同じで、・・心タンポナーデ・・腫瘍を同じ枠組みで整理する。は量より溜まる速さがタンポナーデを決める。

出典

  1. 1.British Thoracic Society Guideline for pleural disease(British Thoracic Society・2023)英国胸部学会の公式サイトが公開しているガイドライン全文PDFで、Table 1(Light's criteria)が「Pleural fluid is an exudate if one or more of the following criteria are met」として胸水/血清蛋白比>0.5、胸水/血清LDH比>0.6、胸水LDH>血清LDH基準上限の2/3の3項目を挙げていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Pleural effusions: the diagnostic separation of transudates and exudates(Annals of Internal Medicine・1972)抄録(OpenAlex収載)で、胸水150例の前向き検討において、滲出液の70%超にみられ漏出液には最大1例しかみられない特徴として①胸水/血清蛋白比0.5超、②胸水LDH 200 IU超、③胸水/血清LDH比0.6超の3つを挙げ、滲出液は1例を除きいずれかを満たし、漏出液でいずれかを満たしたのは1例だけだったことを確認した。原著の第2項目は絶対値(200 IU超)で、「血清LDH基準上限の2/3超」はこの論文の表記ではない。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Analysis of latency time and its determinants in asbestos related malignant mesothelioma cases of the Italian register(European Journal of Cancer・2007)イタリアの中皮腫登録に基づく2544例の解析で、アスベスト初回曝露から発症までの潜伏期間の中央値は44.6年。職業曝露例では43年、環境・家庭内曝露例では48年で、後者のほうがむしろ長かった。潜伏期間は年を追うごとに延長する傾向があった閲覧 2026-08-27
  4. 4.Combined effect of asbestos and smoking on mortality from lung cancer and mesothelioma in factory workers(British Journal of Industrial Medicine (現Occupational and Environmental Medicine)・1985)抄録で確認した。アスベスト工場の男性1250例超・女性420例の1971〜80年の死亡追跡で、喫煙の影響を考慮したうえでのアスベストによる肺癌の相対リスクは非喫煙者で最も高く、現喫煙者で最も低く、元喫煙者で中間という傾向(p<0.05)を認めた。中皮腫による死亡と喫煙習慣との間に有意な関連はなく、複数研究の検討と合わせて中皮腫リスクは喫煙と独立していると結論した。抄録は両者の併存を「相乗的」とは述べていない。閲覧 2026-08-27
  5. 5.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Pleura: Advances Since the 2015 Classification(Journal of Thoracic Oncology・2022)WHO胸膜・心膜腫瘍分類2021年版で、2015年版では心臓腫瘍と一緒に分類されていた心膜腫瘍が胸膜腫瘍と同じ章にまとめられたこと、限局性・びまん性いずれの中皮腫からも接頭語malignantが外されたこと、BAP1・MTAP発現消失やCDKN2Aホモ接合性欠失で認識できる上皮内中皮腫(mesothelioma in situ)が新たに加わったこと、類上皮型・二相型・肉腫型の3つの主要組織亜型は変わらないことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.Malignant Pleural Mesothelioma: A Population-Based Study of Survival(Journal of Thoracic Oncology・2010)抄録で確認した。SEERデータベースの悪性胸膜中皮腫9701例(1973〜2006年診断)の後方視的解析で、6か月・1年・5年全生存率はそれぞれ55%・33%・5%。単変量解析では高齢・男性・高グレード・非類上皮型組織・進行病期・腫瘍に対する手術なし・放射線治療なしが有意な不良因子だった。Cox比例ハザード解析では組織型(HR 1.5)と非限局病期(HR 1.3)はグレードを除いたモデルでは有意だったが、グレードと組織型を同時に入れたモデルでは組織型と病期のHRは小さくなり有意でなかった。著者はグレードと腫瘍に対する手術が全生存に最も大きく影響すると結論している。閲覧 2026-08-27