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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

BAP1腫瘍素因症候群

BAP1 tumor predisposition syndrome

別名
BAP1-TPDSBAP1腫瘍易罹患症候群
臓器系
腫瘍皮膚眼科腎・泌尿器
科目
Pathology (Histopathology)Pathology
トピック
組織病理 H2-026:中皮腫病理学 C/27:胸膜・心膜の病理
鑑別疾患
家族性異型多発母斑・メラノーマ症候群
続発疾患
悪性黒色腫悪性中皮腫腎細胞癌基底細胞癌髄膜腫
症状
非典型的な色素性病変

🧠 全体像:は、BAP1という単一ののが、皮膚・眼・胸膜・腎臓という互いに離れた臓器のを同時に押し上げるの遺伝性症候群である。核心は「修復されない一発目の変異(生殖細胞系列)に、組織ごとにランダムな二発目のが重なったときに、その臓器で腫瘍が生まれる」という two-hit 機序で、・・皮膚・という組み合わせは臓器別診療科だけを見ていては気づきにくい。

病態・遺伝学

BAP1は核のをコードするで、遺伝子でのと、部位におけるの両方に関与する。片方のBAP1対立遺伝子に生殖細胞系列のがあると半量不全の状態になり、そこへ組織特異的に第2対立遺伝子のが加わることで、その臓器に腫瘍が発生する(two-hit機序)1。

遺伝形式はで、患者の約半数は罹患した親を持ち、残りはde novo病的変異による1。

flowchart TD
  A["BAP1の生殖細胞系列<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>(1対立遺伝子)"] --> B["全身の細胞がBAP1半量不全の状態"]
  B --> C{"どの組織で<br>第2対立遺伝子に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatic mutation'>体細胞変異</span>が加わるか"}
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uveal melanoma'>ぶどう膜メラノーマ</span>"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malignant Mesothelioma'>悪性中皮腫</span>"]
  C --> F["皮膚<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melanoma'>メラノーマ</span>・BIMT・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cell carcinoma, BCC'>基底細胞癌</span>"]
  C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal cell carcinoma (RCC)'>腎細胞癌</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clear cell type'>淡明細胞型</span>が主体)"]
  C --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meningioma'>髄膜腫</span>"]

💡 「どの臓器に発症するか」は運まかせに近い。 同じを持っていても、がどの臓器の細胞に生じるかで表現型が決まるため、家系内でも罹患する臓器の組み合わせは一定しない。1人の患者が複数のを持つことも珍しくない。

関連する腫瘍とその特徴

頻度の高い順に、次の腫瘍がリスク上昇と関連する1。

腫瘍 患者での頻度 特徴
皮膚 約45% 複数原発が一般的。発症年齢中央値39歳(一般集団58歳より若い)
約36%(近親者16%) 発症年齢中央値50.5歳(一般集団62歳より若い)。進行性のクラス2腫瘍としてふるまい転移リスクが高い
約25%(近親者19%) 発症年齢中央値55〜58歳。腹膜型の比率が一般集団より高い
約10% 主に
— 複数原発が典型的
約8.5% の様亜型が特徴的
約1.4% 低頻度だが確認されている

⚠️ との2つが、この症候群を特徴づける。 どちらも一般集団では比較的まれな腫瘍であり、この組み合わせ、あるいは若年発症・多発性の皮膚をみたときにを鑑別に挙げる。のでも、BAP1核内発現消失は反応性増殖との鑑別に用いられ、遺伝性素因の手がかりにもなりうる。

皮膚病変:BAP1不活化黒色細胞腫瘍(BIMT)

旧称「非定型Spitz腫瘍」と呼ばれたBAP1不活化黒色細胞腫瘍(BIMT)は、皮膚色〜赤褐色で5 mmのとして現れる。組織学的にはとの中間像を示し、両方のBAP1対立遺伝子が不活化されでBAの発現が消失する。多くの症例で体細胞BRAF p.Val600Glu変異を伴う1。良性のと悪性黒色腫の中間的な病変として位置づけられ、単独での悪性度判定が難しい病変である。

腎細胞癌:サーベイランス開始年齢をめぐる新しい知見

BAP1関連の組織型はが70%を占め、11.7%、その他3.3〜5.0%が続く。Grade I/IIが43.2%・Grade III/IVが55.5%、病期はpT1/T2が84.4%と、比較的早期に検出される例が多い。診断時年齢中央値は49歳(範囲27〜69歳)だが、25%は37歳までに診断されており、多発性病変も35.3%に認められる2。

⭐ 推奨開始年齢は資料により幅がある。 GeneReviewsは・のを30歳から開始するとする一方1、の家系を対象とした2025年の研究は、25%が37歳までに診断されている実態から20〜25歳、または家系内最若年発症の10年前からの開始が適切かもしれないと提案し、腎温存治療の適応や無期限の継続も示唆している2。開始年齢の基準は今後さらに更新されうる点に留意する。

診断基準

以下のいずれか1つを満たせば、を疑い遺伝学的検索の適応となる(ただし複数の・皮膚のみの場合は該当しない)1。

  1. 確認されたBAP1関連腫瘍を2個以上保有する
  2. BAP1関連腫瘍を1個以上保有し、かつに同一腫瘍の家族歴がある

サーベイランス

対象腫瘍 検査 開始年齢 頻度
BIMT・皮膚・ 医による 約18歳 年1回
11〜16歳または思春期 年1回
臨床評価(側腹部痛・血尿)+超音波と()をに施行 30歳(20〜25歳への前倒しを提案する報告あり) 年1回(画像は隔年で超音波・を)
・腹膜炎・腹水・胸水を対象とした臨床評価。画像検査のコンセンサスは無い 30歳 年1回

⚠️ には確立した法が無い。 定期的な胸部X線・はルーティンでは避けるべきとされ、用のを流用しうるとされるにとどまる1。

鑑別

(FAMMM)はCDKN2A遺伝子を原因とする別の遺伝性症候群で、皮膚・のリスクを上げる点は共通するが、・・のリスク上昇はに特徴的であり、この点で区別される。

まとめ

  • は、BAP1遺伝子(をコードする)のによるのである。
  • two-hit機序により、皮膚・・・・・など、臓器を横断した上昇を来す。
  • 皮膚には特徴的なBAP1不活化黒色細胞腫瘍(BIMT)を生じる。
  • 診断はBAP1関連腫瘍2個以上、または1個以上+近親者の同一腫瘍歴で疑う。
  • は皮膚・眼・腎/胸膜で対象年齢・検査法が異なり、については開始年齢を現行推奨より前倒しすべきとする新しい報告がある。
  • FAMMM(CDKN2A)と皮膚リスクは共通するが、・・のリスクはに特徴的である。

出典

  1. 1.BAP1 Tumor Predisposition Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2024)BAP1腫瘍素因症候群は常染色体顕性遺伝で患者の約半数は罹患親を持ち一部はde novo病的変異によること、BAP1は核局在型脱ユビキチン化酵素として細胞増殖を制御しプロモーター領域での転写活性化とDNA二本鎖切断部位での相同組換え修復の両方に関与すること、1つのBAP1対立遺伝子の病的変異が半量不全を来し第2対立遺伝子に体細胞変異が加わることで腫瘍が発生する機序(two-hit機序)を確認した、関連腫瘍は頻度順に患者の約45%が皮膚メラノーマ(複数原発が一般的、発症年齢中央値39歳で一般集団の58歳より若い)・約36%がぶどう膜メラノーマ(親族では16%、発症年齢中央値50.5歳で一般集団の62歳より若く進行性のクラス2腫瘍としてふるまう)・約25%が悪性中皮腫(親族19%、発症年齢中央値55〜58歳、腹膜型の比率が一般集団より高い)・約10%が腎細胞癌(主に淡明細胞型、発症年齢47〜50歳)・基底細胞癌(複数原発が典型的、診断年齢中央値44歳)・約8.5%が髄膜腫(高悪性度の横紋筋肉腫様亜型が特徴的)・約1.4%が胆管癌であること、BAP1不活化黒色細胞腫瘍(BIMT、旧称atypical Spitz tumor)は皮膚色〜赤褐色・平均径5mmでSpitz母斑とメラノーマの中間の組織像を示し両BAP1対立遺伝子の不活化と免疫組織化学でのBAP1蛋白発現消失・多くの症例で体細胞BRAF p.Val600Glu変異を伴うこと、Suggestive Findingsが2個以上の確認されたBAP1関連腫瘍、または1個の関連腫瘍に加え第一度・第二度近親者に同一腫瘍の家族歴(ただし複数の基底細胞癌・皮膚メラノーマのみの場合は除く)であること、サーベイランス推奨がBIMT・皮膚メラノーマ・基底細胞癌に対し約18歳から皮膚科医による年1回の全身皮膚診察、ぶどう膜メラノーマに対し11〜16歳または思春期から散瞳眼底検査を年1回、腎細胞癌に対し30歳から臨床評価に加え超音波とMRI(拡散強調像)を隔年で交互に施行して実質年1回の画像評価とすること、悪性中皮腫に対し30歳から胸膜炎・腹膜炎・腹水・胸水の臨床評価を行うが画像検査モダリティに関するコンセンサスは無く定期的な胸部X線・CTは避けるべきとされていることを確認した閲覧 2026-09-07
  2. 2.Defining the histopathological, clinical, and genetic characteristics of familial BAP1 renal cell carcinoma(European Urology・2025)BAP1関連腎細胞癌の組織型内訳が淡明細胞癌70%・乳頭状癌11.7%・その他3.3〜5.0%であること、Grade I/IIが43.2%・Grade III/IVが55.5%を占めpT1/T2が84.4%と比較的早期に検出される例が多いこと、診断時年齢中央値が49歳(範囲27〜69歳)で25%が37歳までに診断されていたこと、多発性病変を35.3%に認めたこと、著者らが現行のサーベイランス開始推奨年齢(30歳)についてより若い20〜25歳、または家系内最若年発症の10年前からの開始が適切かもしれないと提案し、腎温存治療の適応や無期限のサーベイランス継続の示唆を述べていることを確認した閲覧 2026-09-07