組織病理学

組織病理学 · H2-026

悪性胸膜中皮腫

Mesothelioma

描出疾患
悪性中皮腫
疾患
BAP1腫瘍素因症候群

🧠 全体像:(malignant pleural mesothelioma)は胸膜に由来するまれな悪性腫瘍で、びまん性に胸膜を肥厚させて肺を殻状に包む。曝露との関連と長いが重要だが、診断は形態、、浸潤所見、分子補助検査を統合する。

病因と肉眼像

項目 要点
主な危険因子 ・曝露
曝露から数十年後に発症しうる
曝露の指標だが、の直接のではない
進展 局所から胸膜面に沿ってびまん性に拡大
肉眼像 黄白色で硬く、ときにの腫瘍が肺を包み、を狭小化・閉塞

💡 胸膜・心膜腫瘍分類2021年版での呼称。 限局性・びまん性いずれのからも接頭語のmalignant(悪性)が外され、この病変はびまん性胸膜(diffuse pleural mesothelioma)と呼ばれる。あわせて、BAP1・MTAP発現消失やCDKN2A欠失で認識できる(mesothelioma in situ)が新たな病型として加わり、高分化はwell-differentiated papillary mesothelial tumorへ改称された1。ここでの「」という呼び方は旧称であり、実習・試験ではこちらで問われうる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asbestos'>石綿</span>線維の吸入"] --> B["肺末梢・胸膜近傍に到達"]
    B --> C["慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive oxygen species'>活性酸素</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>傷害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mesothelial cells'>中皮細胞</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation'>腫瘍化</span>"]
    D --> E["胸膜面に沿うびまん性増殖"]
    E --> F["肺の拘束・胸水・胸壁浸潤"]

組織型と診断

組織型 形態
腺、、など。比較的均一な
が束状に増殖
類上皮成分と肉腫成分の両方。小生検でも、一方の成分が10%未満であれば診断してよい

2021年版では、びまん性にが導入され、構築パターンや細胞・間質所見を予後因子として病理報告に記載することが推奨される1。

💡 が何を予測するか。 17施設776例の胸膜を集めた検証研究では、核異型と核分裂数を組み合わせたI〜III(I 39%、II 45%、III 16%)が独立して生存に相関し(P<0.0001)、これに壊死の有無を足すと4群に分かれた。中央値はI・壊死なしで29か月、I・壊死ありとII・壊死なしで16か月、II・壊死ありで10か月、IIIで8か月である2。生検検体でも切除検体でも成立するので、小さな検体でも壊死の有無を書き落とさない。

では腺癌との鑑別が重要である。、WT1、D2-40、CK5/6などの系マーカーと、claudin-4などの系マーカーをパネルで評価する。BAP1核発現消失、MTAP発現消失、EZH2免疫染色、CDKN2A欠失は反応性増殖との鑑別を補助する1。壊死、線維性胸膜、異物様構造だけでは確定しない。

💡 「悪性を支持する分子所見」の中身。 びまん性胸膜で高頻度に変化する遺伝子はBAP1、CDKN2A、NF2、TP53、SETD2、SETDB1である1。系マーカーは「由来かどうか」しか答えず、良悪性は答えない。 良性の反応性増殖とを分けるのは、これらの遺伝子異常を反映するBAP1・EZH2・MTAPの免疫染色とCDKN2Aののほうである。

治療の考え方

病期、組織型、全身状態を多職種で評価し、、放射線療法、厳選例のを組み合わせる。進行例のには+や、+を基礎とする治療などがあり、組織型、併存症、承認状況に応じて個別化する。の未治療例605例の第3相試験では、+の中央値が18.1か月、+が14.1か月(0.74、96.6%0.60〜0.91、p=0.0020)、2年全生存率は41%対27%で、grade 3〜4のの頻度は両群でほぼ同じだった(30%対32%)3。を肉眼像だけで決めない。

まとめ

  • びまん性と肺を包む腫瘍性外套が代表的肉眼像である。
  • は曝露指標であり、必須のではない。
  • 系・系マーカーと悪性を支持する分子所見を組み合わせる。

出典

  1. 1.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Pleura: Advances Since the 2015 Classification(Journal of Thoracic Oncology・2022)WHO胸膜・心膜腫瘍分類2021年版で限局性・びまん性いずれの中皮腫からも接頭語malignantが外されたこと、BAP1・MTAP発現消失やCDKN2Aホモ接合性欠失で認識できる上皮内中皮腫が新たに加わったこと、類上皮型びまん性中皮腫に核異型度分類が導入されたこと、二相型は小生検で一方の成分が10%未満でも診断してよいこと、高分化乳頭状中皮腫がwell-differentiated papillary mesothelial tumorへ改称されたことを確認した。あわせてBAP1・EZH2・MTAPの免疫染色が良性中皮増殖との鑑別に有用であること、びまん性胸膜中皮腫で最も高頻度に変化する遺伝子がBAP1・CDKN2A・NF2・TP53・SETD2・SETDB1であることを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Nuclear grade and necrosis predict prognosis in malignant epithelioid pleural mesothelioma: a multi-institutional study(Modern Pathology・2018)17施設776例の類上皮型胸膜中皮腫で、核異型と核分裂数を組み合わせた核異型度I〜IIIが独立して生存に相関した(核異型度P<0.0001)。壊死を加えると4群に層別され、全生存期間中央値は核異型度I・壊死なしで29か月、核異型度I・壊死ありと核異型度II・壊死なしで16か月、核異型度II・壊死ありで10か月、核異型度IIIで8か月。生検・切除いずれの検体でも成立した閲覧 2026-08-24
  3. 3.First-line nivolumab plus ipilimumab in unresectable malignant pleural mesothelioma (CheckMate 743): a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial(The Lancet・2021)切除不能の未治療悪性胸膜中皮腫605例の第3相試験で、ニボルマブ+イピリムマブの全生存期間中央値は18.1か月、白金製剤+ペメトレキセドは14.1か月(ハザード比0.74、96.6%信頼区間0.60〜0.91、p=0.0020)、2年全生存率は41%対27%。grade 3〜4の治療関連有害事象は30%対32%閲覧 2026-08-24