病理学

病理学 · C/7

脾臓・胸腺の疾患

Disorders of the spleen and thymus

タグ
High-yield / ポイント
応用トピック
脾臓外科と後腹膜疾患の外科治療
疾患
Gaucher病胸腺腫脾機能亢進
症状
脾腫
スコア
Masaoka-Koga分類

🧠 全体像:脾腫は大きさそのものより「(血球除去の増加)」を伴うかどうかが臨床的に重要である。胸腺の病変は良性の過形成でも悪性のでも重症筋無力症と強く結びつく点が試験で問われやすい。

A)脾臓

脾腫

脾臓はでしばしば二次的に侵され、腫大して反応する。

大きさに基づく鑑別(ノートより):

著明(>1000 g) 中等度(500〜1000 g) 軽度(<500 g)
CML、PMF、リンパ腫、CLL/ヘアリーセル白血病、マラリア、、原発性脾腫瘍(稀) 慢性うっ血性脾腫(門脈圧亢進・)、急性白血病、、、AIHA、、、結核・・、/肉腫 急性脾炎(菌血症)、急性脾うっ血、、敗血症・SLE・

慢性脾腫の結果

  • 過剰な血球の除去 → 貧血、、または血小板減少
  • 血小板は特にに隔離されやすい
  • :血球成分の除去増加(単なる腫大とは別)
  • のリスク

脾機能亢進

は脾腫と同義ではなく、血球成分の除去が増加した。

原因:

脾破裂

  • :内出血が生命を脅かしうる
  • 通常は、稀に急性脾腫による
  • やの小さな被膜裂傷
  • 症状:痛・圧痛、めまい、

B)胸腺

胸腺はT細胞の分化の中心で、T細胞系リンパ腫に関与しうる。

💡 胸腺は加齢とともに普遍的に退縮する。高齢者の胸腺は上皮性の島状構造を残しつつも大部分が脂肪組織に置き換わり、上皮細胞も数を減らしてを示す1。この生理的な退縮を基準に置くと、次に述べる(腫大)や、にみられる胸腺無形成が対極の病態として整理しやすい。は22q11.2欠失により第3・4の発生が障害され、胸腺無形成・副甲状腺欠如による・(特に流出路異常)というを来す2。

胸腺過形成

  • 細胞数の増加による大
  • しばしば髄質に・(反応性B細胞):陽性の重症筋無力症患者の約80%に胸腺病理を認め、この胸腺過形成は特に早期発症型で目立ち、がAChRに対する自己反応性形質細胞を生み出す場になる3
  • 自己免疫疾患と関連:重症筋無力症、SLE、関節リウマチ
  • 早期にはが有益なことがある。無作為化試験(MGTX)は18〜65歳・罹病5年未満・MGFA分類II〜IV・陽性での無い126例を対象とし、拡大経胸骨的+併用群が単独群より3年間の平均MG重症度スコアが低く(6.15対8.99)、の必要量も少なかった4。組入れ条件は「が無いこと」であって、の病理が確かめられた患者に限った試験ではない

胸腺腫

の腫瘍。詳細はを参照。

分類(第5版、2021年)の主な型5:

亜型 特徴
A型 の腫瘍上皮細胞。未熟T細胞(非腫瘍性)に乏しい
AB型 A型の胞巣とリンパ球に富む胞巣が混在する
B1型 上皮細胞は目立たず、未熟T細胞が優位(正常な胸腺髄質に類似)
B2型 上皮細胞が明瞭に増加するが、未熟T細胞も依然豊富
B3型 上皮細胞が優位で異型は軽度、未熟T細胞に乏しい
上皮細胞に明らかなを示し、正常胸腺の構築を欠く(扁平上皮癌が代表で、腺癌など複数の型の総称)

💡 A・AB型はの腫瘍上皮細胞、B1〜B3型は類上皮性の腫瘍上皮細胞という核となる形態で大別され、B1→B2→B3と進むにつれ上皮細胞の占める割合が増えて未熟T細胞が減っていく。

上表は試験で問われる主な型で、閉じた一覧ではない。にはこのほか、まれなリンパ性間質を伴う性と化生性があり、胸腺上皮性腫瘍には胸腺のも含まれる。一方、かつてに数えられた微小は、進行する証拠が無いため結節性上皮過形成とみなされるようになった5。

⚠️ かつては「良性・型」「I型()」「II型(=)」という3分類(Rosai–Levine系の旧分類)で教えられたが、これは現行の分類ではない。第5版は、リンパ性間質を伴う性を除いて、A型・AB型を含むを悪性腫瘍と解釈する立場を維持している(ICD-Oの挙動コードは各型が /3、性が /1)5。されていることを理由に「良性」と読み替えない。

:

  • : I(肉眼的・組織学的に完全に)、IIA(被膜への顕微鏡的浸潤)、IIB(周囲脂肪組織への肉眼的浸潤、または・心膜を破らない範囲での癒着)、III(心膜・大血管・肺など隣接臓器への肉眼的浸潤)、IVA(胸膜・心膜への播種)、IVB(・)。
  • / 分類(第8版、2017年発効): 胸腺上皮性腫瘍に初めて導入された分類で、第5版はを必須、改変を任意のとして位置づけている5。

⭐ 4221例の世界規模データベース解析では、年齢・病期・切除状態が生存と再発の独立予後因子である一方、組織型(A・AB・B1〜B3型)は再発にのみ有意な影響を与え生存への独立した影響は示さなかった——組織型より病期の方が予後を規定するという位置づけを裏づける6。

形態:

  • 肉眼:で硬い灰白色腫瘤、20〜25%が周囲組織に浸潤
  • 顕微鏡:上皮性腫瘍細胞+非腫瘍性(未熟T細胞)の組み合わせで構成される

臨床:

💡 ポイント: 著明な脾腫 → MPN(/PMF)、リンパ腫、マラリア、。 = 血球成分の除去増加。:分類の主な型はA・AB・B1・B2・B3とで、は性を除いて悪性腫瘍として扱う。重症筋無力症と強く関連。

まとめ

  • 脾腫の大きさは著明(>1000 g、/PMF・リンパ腫・マラリア・など)・中等度・軽度に分類され、原因疾患の推定に役立つ。
  • は脾腫と同義ではなく、血球成分の除去が増加したを指し、貧血・・血小板減少を来しうる。
  • はによるで、内出血が生命を脅かす。
  • は重症筋無力症・SLE・関節リウマチなどの自己免疫疾患と関連する。
  • は上皮性腫瘍で、第5版(2021年)分類の主な型はA・AB・B1・B2・B3型(ほかにまれな性・化生性)で、は別に扱う。はリンパ性間質を伴う性を除いて悪性腫瘍と解釈され、病期は分類(第8版)を必須、改変を任意として評価する。重症筋無力症との関連が最も重要である。

出典

  1. 1.Thymus and aging: morphological, radiological, and functional overview(Age (Dordrecht, Netherlands)・2014)胸腺は加齢に伴い普遍的に退縮する現象(involution)を示し複数の哺乳類種で保存された長期的過程であること、高齢者の胸腺組織は上皮性の島状構造が散在するのみで大部分が脂肪組織に置き換わっており(脂肪組織による置換)、上皮細胞は加齢とともに数を減らし嚢胞性変化を示すことを確認した。ただし退縮を駆動する分子機構の詳細と開始時期には個体差があり十分に解明されていない閲覧 2026-08-27
  2. 2.22q11.2 deletion syndrome(Nature Reviews Disease Primers・2015)22q11.2欠失症候群は最も頻度の高い染色体微小欠失疾患で、およそ出生1,000人に1人の頻度でde novoの非相同組換えにより生じると推定されること。1965年にDiGeorgeが最初に記載した古典的三徴は胸腺無形成(thymic aplasia)・副甲状腺欠如による低カルシウム血症・先天性心疾患(特に流出路異常)であり、第3・4咽頭嚢の発生障害という共通機序で説明されることを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Thymic hyperplasia in myasthenia gravis: a narrative review(Mediastinum・2025)抗AChR抗体陽性重症筋無力症(AChR-MG)患者の約80%に胸腺病理を認め、そのうち胸腺濾胞性過形成(TFH)は早期発症型MG(EOMG)と特に強く関連すること。TFHはリンパ濾胞と胚中心(GC)の形成を特徴とし、GCがAChRに対する自己反応性形質細胞の産生を促進してAChR自己抗体分泌に寄与し、自己寛容の破綻に直結することを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Randomized Trial of Thymectomy in Myasthenia Gravis(The New England Journal of Medicine・2016)18〜65歳・罹病期間5年未満・MGFA clinical class II〜IV・抗AChR抗体陽性の非胸腺腫性全身型重症筋無力症患者126例を対象とした多施設無作為化試験(MGTX)で、拡大経胸骨的胸腺摘除+隔日プレドニゾン群はプレドニゾン単独群より3年間の時間加重平均定量的MG重症度スコアが低く(6.15対8.99)、隔日プレドニゾンの必要量も少なかった(44 mg対60 mg)。PMC5189669 の全文で確認した。組入れは胸腺腫が無いことで定義されており、胸腺過形成の病理は組入れ要件ではない(緒言は、胸腺腫の無い重症筋無力症患者の最大70%に過形成性の胸腺変化があると述べるにとどまる)閲覧 2026-08-27
  5. 5.The 2021 WHO Classification of Tumors of the Thymus and Mediastinum: What Is New in Thymic Epithelial, Germ Cell, and Mesenchymal Tumors?(Journal of Thoracic Oncology・2022)2021年公表・2022年掲載のWHO胸腺上皮性腫瘍分類第5版の概要論文で、2015年の第4版以降の診断・分子・概念的進歩(腺癌の免疫組織化学的特徴づけ、化生性胸腺腫や稀なB2・B3型胸腺腫での遺伝子転座の同定など)を反映して改訂されたこと、胸腺腫・胸腺癌の大半は標的可能な変異を欠き腫瘍変異負荷が極めて低い一方でPD-L1高発現の表現型を示すことを確認した。あわせて出版社の全文(Wayback 保存版)で、胸腺腫をA型(異型亜型を含む)・AB型・B型(B1・B2・B3)・リンパ性間質を伴う小結節性胸腺腫・化生性胸腺腫に分類すること、胸腺腫を悪性腫瘍と解釈する考え方をリンパ性間質を伴う小結節性胸腺腫を除いて維持したこと(Table 1 の ICD-O 挙動コードは胸腺腫の各型が /3、小結節性胸腺腫が /1、同じ胸腺腫の項に並ぶ脂肪線維腺腫が /0)、微小胸腺腫は結節性上皮過形成とみなされ胸腺腫から外れたこと、病期分類はTNM(UICC 2017)を必須、改変Masaoka-Koga分類を任意としたことを確認した。本科目監査時点(2026年8月)でこれが最新版である閲覧 2026-08-27
  6. 6.The impact of thymoma histotype on prognosis in a worldwide database(Journal of Thoracic Oncology・2015)International Thymic Malignancy Interest Group(ITMIG)の1983〜2012年に診断された胸腺腫4221例の世界規模データベースを解析した多変量解析で、年齢・Masaoka病期・切除状態は生存と再発の両方に有意な影響を与えた一方、WHO組織型(A・AB・B1〜B3型)は再発にのみ有意な影響を示し生存には独立した影響を与えなかった。病期I〜II期はA型・AB型で90%を占めるのに対しB3型の38%はIII期であり、組織型より病期の方が予後を規定する因子として優越することを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Paraneoplastic Syndromes and Thymic Malignancies: An Examination of the International Thymic Malignancy Interest Group Retrospective Database(Journal of Thoracic Oncology・2018)ITMIGレトロスペクティブデータベースの胸腺上皮性腫瘍6297例の検討で、約1/3に傍腫瘍性・自己免疫症候群を認め大部分は重症筋無力症であったが、赤芽球癆(47例)や低ガンマグロブリン血症(13例)もみられた。傍腫瘍性・自己免疫症候群を有する群はより若年・女性優位・早期病期に偏り、10年再発累積発生率も有意に低く(17.3%対21.2%)全生存期間中央値も長かった(21.6年対17.0年)が、多変量解析では独立した予後因子ではなかったことを確認した閲覧 2026-08-27