病理学

病理学 · C/8

骨髄異形成症候群(MDS)

Myelodysplastic syndromes

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応用トピック
骨髄異形成腫瘍骨髄異形成症候群
疾患
骨髄異形成症候群

🧠 全体像:MDSは「造血幹細胞が増殖はするが正しく成熟できない」病態——骨髄は(多くは)過形成なのに末梢血は血球減少という一見矛盾した像()がすべての基本で、3系統すべての異形成所見(・偽Pelger好中球・微小)はこの成熟障害の顕微鏡的な現れにすぎない。遺伝的不安定性ゆえに常にAMLへの転化リスク(10〜40%)を抱える点が「前白血病」という旧称の由来である。

定義と概念

MDS(かつては「前白血病」と呼ばれた)は、以下を特徴とするクローン性の幹細胞:

  • 造血幹細胞の成熟の失敗
  • 1つ以上の系統に異形成を伴う骨髄。多くは過形成またはだが、細胞密度の低い低形成もあり、分類第5版は独立の病型(-h)として扱う1
  • 末梢血の血球減少(産生は無効)
  • 遺伝的不安定性 → 追加変異の獲得リスク → AMLへの転化(10〜40%)

⚠️ 呼称は分類によって食い違う。 分類第5版(2022年)は myelodysplastic syndromes を myelodysplastic neoplasms()へ改称した(略号は維持)。一方、同じ2022〜2023年に公表された(ICC)は「myelodysplastic syndromes」の呼称を維持しており、二つの分類体系は並立したまま食い違う——どちらか一方だけを正しいとしない12。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clonal hematopoiesis'>クローン性造血</span>幹細胞の異常"] --> B["造血幹細胞の成熟の失敗"]
    B --> C["骨髄は過形成~<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Normocellular'>正常細胞密度</span>なのに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ineffective erythropoiesis'>無効造血</span>"]
    C --> D["末梢血の血球減少"]
    B --> E["1つ以上の系統に異形成"]
    A --> F["遺伝的不安定性"]
    F --> G["追加変異の獲得"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute myeloid leukemia'>AML</span>への転化(10〜40%)"]

原因

  • 特発性(最多)
  • による化学療法後
  • 療法後

これら化学療法・放射線治療後に生じる病型はとしてまとめられ、一般に高リスクの的異常を伴いやすい独立した背景区分として扱われる3。扱い方は分類で異なり、分類第5版は「細胞傷害性治療後の(MN-pCT)」という病型群に置き1、ICCは形態・遺伝子で分類したうえで「治療関連」を診断名に付ける修飾語として扱う4。

遺伝

頻度の高い染色体変化:

  • 5番または7番
  • 欠失:del(5q)、del(7q)、del(20q)——del(5q)は遺伝学的異常がに直結する代表例である。に依存するIPSS低〜中間-1リスクのdel(5q) 205例の第3相試験では、免疫調節薬10 mg群・5 mg群の56.1%・42.6%が26週以上の輸血非依存を達成し、プラセボ群は5.9%だった5

形態 — 3系統すべての異形成

赤芽球異形成

  • 核の変化:架橋、出芽、
  • :鉄を含むミトコンドリアが核の周囲に環を形成——スプライシング因子SF3B1の変異と強く結びつき、第5版・ICCのいずれもSF3B1変異を伴う低芽球性を、の有無という形態所見だけでなく遺伝子で定義される病型として独立させている16

顆粒球異形成

  • 偽Pelger異常:
  • 核異常+(顆粒がほとんど・全くない)

巨核球異形成

  • 架橋した核をもつ小型
  • 孤立した核断片をもつ大型

分類

講義で扱う旧来の5分類(WHO 2016年改訂第4版の枠組み)

  1. 単一系統異形成を伴う — 低リスク
  2. を伴う — 低リスク
  3. 孤立性del(5q)を伴う — 低リスク、多数の小型単核
  4. を伴う — 講義資料は 高リスク とする(3系統すべてが侵される)が、芽球は増えていない群である
  5. 芽球増加を伴う(-EB、骨髄5〜19%または末梢血2〜19%の芽球) — 高リスク

⚠️ この5分類は2016年の枠組みで、2022年の2つの分類ではどちらも組み替えられている。 分類第5版は、異形成の系統数(単一か多系統か)による区別を「任意」とし、芽球比率・・異形成系統数による細分より IPSS-R などのを重視する方針をとった1。

2022年の2分類(WHO分類第5版とICC)

両分類とも、孤立性del(5q)・・TP53変異の3つを遺伝学的に定義される病型として認める3。違いが大きいのは芽球10〜19%の扱いである。

区分 分類第5版(2022年)1 ICC(2022年)4
呼称 myelodysplastic neoplasms(、略称) myelodysplastic syndromes
del(5q) MDS-5q:骨髄5%未満かつ末梢血2%未満、5q欠失単独または7番の異常以外の1異常まで -del(5q):骨髄5%未満・末梢血2%未満
SF3B1 -SF3B1:低芽球。ができない場合は15%以上で代用できる -SF3B1:骨髄5%未満・末梢血2%未満、(VAF 10%以上)。は必須でない
TP53 -biTP53():骨髄・末梢血とも20%未満 with mutated TP53:芽球0〜9%。10〜19%は / with mutated TP53
芽球の少ない群 -LB(骨髄5%未満かつ末梢血2%未満)、低形成(-h:年齢補正した骨髄細胞密度25%以下) , NOS(異形成なし/単一系統/多系統)
芽球の増えた群 -IB1(骨髄5〜9%または末梢血2〜4%)、-IB2(骨髄10〜19%または末梢血5〜19%、または)、線維化を伴う-f(骨髄5〜19%・末梢血2〜19%) -EB(骨髄5〜9%・末梢血2〜9%)
芽球10〜19% -IB2(にとどまる) MDS/AMLという独立の区分(旧-EB2を改称)
との境界 芽球20%以上をとする閾値を維持 芽球20%以上をとする閾値を維持

⚠️ ICCの / は「芽球20%以上」ではなく「芽球10〜19%」の区分である。 芽球が20%以上ならどちらの分類でもであり、ICCでは10〜19%の段階ですでに / と呼ぶ(分類第5版はこの名称を採用せず、10〜19%の例は -IB2 に入る。末梢血の区切りは両分類で異なる)42。ただし分類第5版も、-IB2 は治療を考えるうえでは相当とみなしうると述べており、両分類の違いは主に名称と区切りの置き方にある1。

💡 上記の「低リスク/高リスク」という大まかな分類とは別に、より精密なモデルがある。 IPSS-R(改訂国際予後判定システム)は・比率・血球減少の深さを組み合わせて5つの予後群に層別化し、さらに31遺伝子の変異情報を統合したIPSS-Mは、IPSS-Rで層別化された患者の46%をより高いまたはより低いリスク群へ再分類する78。

臨床

  • 年齢:典型的には50〜70歳
  • 症状:血球減少 → 貧血、、血小板減少
  • 化学療法への反応不良
  • 転化:10〜40%
  • 生存期間中央値:9〜29か月(亜型により異なる)

💡 ポイント: = +末梢血球減少()。3系統すべての異形成:(赤血球)、偽Pelger(好中球)、微小。主要変異:del(5q)、7番。10〜40%がへ転化。

まとめ

  • はクローン性の造血幹細胞疾患で、造血幹細胞の成熟の失敗により骨髄は過形成でも末梢血は血球減少という像()を呈する。
  • 原因は特発性が最多で、による化学療法後・療法後も含まれる。
  • 頻度の高い染色体変化は5番・7番、del(5q)・del(7q)・del(20q)。
  • 3系統すべてに異形成がみられうる:()、偽Pelger異常+()、架橋核を持つ小型()。
  • 芽球が骨髄・末梢血で20%以上に達すると、分類第5版・ICCのどちらでもではなくと定義される。ICCは芽球10〜19%を / という中間区分に置き、分類第5版では10〜19%の例は -IB2 に入る。
  • 2022年の2分類はいずれも、del(5q)・・TP53変異を遺伝学的に定義される病型として認める。講義で扱う5分類(単一系統・・del(5q)・多系統・芽球増加)は2016年の枠組みである。
  • 遺伝的不安定性により10〜40%がへ転化し、生存期間中央値は亜型により9〜29か月と幅がある。

出典

  1. 1.The 5th edition of the World Health Organization Classification of Haematolymphoid Tumours: Myeloid and Histiocytic/Dendritic Neoplasms(Leukemia・2022)Europe PMC の全文(PMC9252913、Table 3 を含む)で確認した。WHO分類第5版(2022年)でmyelodysplastic syndromesがmyelodysplastic neoplasms(骨髄異形成腫瘍)へ改称され略称MDSは維持されたこと、MDSを遺伝学的に定義される群(MDS-5q:骨髄5%未満かつ末梢血2%未満で5q欠失単独または7番異常以外の1異常まで/MDS-SF3B1:環状鉄芽球15%以上で遺伝子変異を代用可/MDS-biTP53:骨髄・末梢血とも芽球20%未満)と形態で定義される群(MDS-LB:骨髄5%未満かつ末梢血2%未満/MDS-h:年齢補正した骨髄細胞密度25%以下/MDS-IB1:骨髄5〜9%または末梢血2〜4%/MDS-IB2:骨髄10〜19%または末梢血5〜19%またはAuer小体/MDS-f:骨髄5〜19%・末梢血2〜19%)に分けたこと、単一系統と多系統の異形成の区別を任意とし芽球比率・環状鉄芽球・異形成系統数による「リスクに基づく」細分より IPSS-R などのリスク層別化を重視したこと、MDSとAMLの境界を和らげつつもAMLを定義する芽球20%の閾値は維持し、MDS-IB2は治療上AML相当とみなしうるとしたこと、化学療法や広範囲の放射線治療の既往をもつ骨髄系腫瘍を「細胞傷害性治療後の骨髄系腫瘍(MN-pCT)」とすることを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.The International Consensus Classification of myelodysplastic syndromes and related entities(International Consensus Classification・2023)ICCがmyelodysplastic syndromesという呼称を維持したままCCUS・SF3B1変異病型・多重ヒットTP53病型を定義し、芽球10〜19%をMDS/AMLという独立カテゴリーに置いたことを確認した——WHO分類第5版はこの名称を採用していない閲覧 2026-08-27
  3. 3.Diagnosis and classification of myelodysplastic syndromes(Blood・2023)MDSの診断は形態異形成の存在で非腫瘍性のクローン性血球減少と区別し芽球20%の閾値でAMLと区別すること、治療関連骨髄系腫瘍が高リスク遺伝学的異常を伴いやすい独立した背景区分として扱われること、WHO第5版とICCがいずれも孤立性del(5q)・SF3B1変異・TP53変異という3つの遺伝学的定義病型を認めていることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.International Consensus Classification of Myeloid Neoplasms and Acute Leukemias: integrating morphologic, clinical, and genomic data(Blood・2022)PMC9479031 の全文(Table 20・Table 21 を含む)で確認した。ICCはMDSを MDS-SF3B1(骨髄5%未満・末梢血2%未満、SF3B1変異VAF 10%以上。環状鉄芽球も異形成も必須でない)、MDS-del(5q)、MDS with mutated TP53(芽球0〜9%)、MDS, NOS(異形成なし・単一系統・多系統)、MDS-EB(骨髄5〜9%・末梢血2〜9%)に分け、旧MDS-EB2に当たる芽球10〜19%の群を MDS/AML と改称したこと、AMLを定義する芽球20%の閾値は維持されること、治療関連であることは独立の病型ではなく診断名に付ける修飾語(therapy-related)として扱うことを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.A randomized phase 3 study of lenalidomide versus placebo in RBC transfusion-dependent patients with Low-/Intermediate-1-risk myelodysplastic syndromes with del5q(Blood・2011)PubMed の抄録で確認した。赤血球輸血に依存するIPSS低〜中間-1リスクのdel5q31 MDS 205例を対象とした二重盲検無作為化第3相試験(MDS-004)で、26週以上の赤血球輸血非依存の達成率がレナリドミド10 mg群56.1%・5 mg群42.6%に対しプラセボ群5.9%(いずれもP<.001)であったことを確認した——del(5q)という遺伝学的異常が治療選択に直結する代表例閲覧 2026-08-27
  6. 6.SF3B1-mutant MDS as a distinct disease subtype: a proposal from the International Working Group for the Prognosis of MDS(Blood・2020)SF3B1変異はMDS患者の約半数にみられる体細胞スプライシング因子変異のうち最も頻度が高く環状鉄芽球・無効造血・緩徐な臨床経過と結びつくこと、提案されたSF3B1変異型MDSの診断基準は血球減少・SF3B1体細胞変異・形態異形成(環状鉄芽球の有無を問わない)・骨髄芽球5%未満/末梢血芽球1%未満から成ること、この病型が比較的良好な予後を示しルスパテルセプトに反応しうることを確認した閲覧 2026-08-27
  7. 7.Revised international prognostic scoring system for myelodysplastic syndromes(Blood・2012)IPSS-R(改訂国際予後判定システム)が7,012例の統合データベースから、骨髄細胞遺伝学(5つの予後群)・骨髄芽球比率・血球減少の深さを軸に5つの予後群を定義したこと、年齢・PS・血清フェリチン・LDHが生存に関して付加的な因子であったがAML転化には関与しなかったことを確認した閲覧 2026-08-27
  8. 8.Molecular International Prognostic Scoring System for Myelodysplastic Syndromes(NEJM Evidence・2022)IPSS-Mが血球減少・芽球比率・細胞遺伝学に31遺伝子の変異情報を統合して6つのリスク群に層別化し、IPSS-Rで層別化された患者の46%をより高いまたはより低いリスク群へ再分類したことを確認した閲覧 2026-08-27