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外科学 · S-31

脾臓外科と後腹膜疾患の外科治療

Surgery of the spleen and retroperitoneum

前提:病態
脾臓・胸腺の疾患
疾患
Erdheim-Chester病後腹膜線維症脾静脈血栓症脾摘後重症感染症

🧠 全体像:脾臓は免疫臓器であり、外傷では「損傷Grade」だけでなくで脾温存を判断する。が必要なら、被膜菌ワクチン、発熱時の即時受診、管理を生涯計画に組み込む。

脾臓の外科的役割

脾臓はの除去、被膜菌への、血小板貯留に関与する。適応は、出血制御、の病態改善、感染・腫瘍のと、脾機能喪失の害を比較して決める。

主な適応

病態 手術を考える状況
外傷 蘇生に反応しない循環不安定、持続出血、非手術管理・塞栓不成功
複数の薬物療法に不応・不耐、長期の薬物治療を避けたい、重度の血小板減少に緊急の治療を要し薬物療法への反応が不十分——のいずれかに当たる成人(下記参照)1
中等症~重症溶血、輸血依存、症候性脾腫。年齢と感染リスクを考慮
・ 選択例。疾患別ガイドラインと血液内科評価が必須
膿瘍・嚢胞・腫瘍 経皮治療不適、症候性大型病変、、
左側門脈圧亢進 出血など選択例。原因と血行解剖を評価

免疫性血小板減少症での脾摘の位置づけ

⚠️ ここは2026年に書き換わった。 米国血液学会(ASH)の2019年指針は、3か月以上続き・無効の成人について、・・リツキシマブを2剤ずつ突き合わせる形で条件付きに提案していた(推奨7〜9。エビデンスの確実性はいずれも非常に低い)2。この推奨7〜9は2026年版で撤回され、推奨2a・2bに置き換えられた1。

⭐ 撤回は「が選択肢から外れた」という意味ではない。 2026年版の推奨は3つ(推奨1・2a・2b)で、はそのいずれの選択肢にも挙がっていないが、には別に good practice statement の章が置かれた1。⚠️ good practice statement を「弱い推奨」と読まない。 本版はこれを、系統的レビューに基づかないものの強い推奨として解釈しうる記述だと定義している1。

その章はまず背景として、が次のいずれかに当たる成人で適切に考慮されると述べる1。

  1. 複数の薬物療法に、・至適期間で不応または不耐である
  2. 長期の薬物治療を避けたいと本人が望む
  3. 重度の血小板減少に緊急の治療を要し、薬物療法への反応が不十分である

⚠️ この①〜③は背景の説明であって、good practice statement の本体ではない。 本体として置かれているのは次の2本である1。

  • 実行可能なら、寛解の可能性があるため診断後少なくとも1年はを延期する。
  • 実行可能なら術前2週以上前に適切なを受けさせ、と、の生涯にわたる敗血症および血栓症のリスクについて説明する。発熱の早期認識と速やかな抗菌薬使用を患者に教育し、術後は少なくとも年1回、の確認・・推奨されるスケジュールの遵守確認のために追跡する。

💡 推奨の枠から good practice statement の枠へ移った、と読む。 推奨2aで薬物療法(刺激薬=受容体作動薬のほか遺伝子組換えヒトを含む薬効群が強い推奨、リツキシマブが条件付き)に強さの序列が付いたぶん、は「薬物療法を尽くした後」「薬物療法を望まない場合」という位置に整理された1。⚠️ 外科側が「もう適応が無い」と読むと、①〜③の患者を手術の機会から外す方向に倒れる。

💡 1年の延期は2019年版から引き継がれている。 2019年版では推奨9の備考が「1年目のの可能性があるため、可能なら診断後少なくとも1年は延期する」としていた2。2026年版はこれを推奨の備考ではなく独立した good practice statement として置き直している1。

外傷での脾温存

「AAST Grade IV~Vだから直ちに」という固定則は現行管理に合わない。が安定し、腹膜炎や他の緊急開腹適応がなければ、高Gradeでも監視下の非手術管理と・を検討できる。造影剤、、持続出血、輸血需要が塞栓判断の手掛かりとなる。の脾外傷分類・管理指針も、は解剖学的Gradeだけでなく血行動態・随伴損傷を含めた生理学的状態を統合して多職種で決めるべきだとしている3。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic injury'>脾損傷</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemodynamics'>循環動態</span>と腹膜炎"}
    B -->|"不安定・腹膜炎"| C["緊急開腹"]
    C --> D["止血不能なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenectomy'>脾摘</span>・可能なら温存"]
    B -->|"安定"| E["造影CTでGradeと血管損傷を評価"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudoaneurysm'>仮性動脈瘤</span>・高リスク"}
    F -->|"あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiography'>血管造影</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic artery embolization'>脾動脈塞栓</span>"]
    F -->|"なし"| H["厳密な観察と反復評価"]
    G --> H

ではが標準となることが多い。、、外傷・出血では開腹を選ぶ。部分や塞栓は十分な実質を残しを温存できるが、再出血・残存病変リスクを評価する。

脾摘前後の安全管理

ワクチン

  • 肺炎球菌、髄膜炎菌ACWY・B、b型を接種歴・年齢・地域の最新スケジュールに従って行う。
  • では可能なら手術14日以上前に接種する。ただし至適な接種時期は確立しておらず、周術期の直近の接種でも有効でありうるとするデータが多い4。後は免疫反応と退院機会を考慮し、安定後の適切な時期に接種する。
  • ⚠️ 上の菌種の指定はASH 2026 の記述ではない。 ASH 2026 の good practice statement は「実行可能なら術前2週以上前に適切なを受けさせる」とだけ述べ、個々の菌名を挙げていない1。菌種と接種間隔の根拠は感染症の側の資料に当たる45。
  • 髄膜炎菌などは追加接種が必要で、毎年のも重要である。

生涯リスク

は急速に敗血症へ進み得る。原因菌は肺炎球菌・・髄膜炎菌が主体である5。致死率はおよそ50〜70%とされる(症例報告のが総説を引いて紹介する値)。発熱時は直ちに医療機関へ連絡し、培養と経験的抗菌薬を遅らせない。医療アラートカード・旅行時の計画、動物咬傷・マラリア対策を教育する。

だけで全例にアスピリンを投与しない。、門脈・脾静脈血栓、、出血リスク、基礎疾患に応じて予防を個別化する。

⭐ 説明すべき生涯リスクは感染だけではない。 ASH 2026 の good practice statement は、術前の説明項目としてとともに、生涯にわたる敗血症だけでなく血栓症のリスクも挙げ、術後は少なくとも年1回、の確認・・の遵守確認のために追跡することを求めている1。⚠️ では、が正常化しても母体の抗体のは防げず、新生児は起こりうる1。

後腹膜疾患

後腹膜には腎・副腎、尿管、膵の一部、十二指腸、大動脈・下大静脈、神経、リンパ節、脂肪組織がある。病変が大きくなるまで症状が乏しく、臓器・大血管との関係が手術難度を決める。

病態 主な介入
後腹膜肉腫 専門施設で画像・計画生検後、完全を目指す
副腎・腎病変 腹腔鏡・後腹膜鏡・ロボット支援または開腹
膿瘍 抗菌薬と/ドレナージ。失敗・壊死なら手術
・血管病変 血管内修復または開腹再建
原因評価と薬物治療が中心。尿路閉塞には・剥離術
外傷 zone、、臓器損傷に応じ観察、塞栓、、開腹

後腹膜腫瘍手術の原則

  • 造影CT、必要時で腫瘍と大血管・臓器・神経の関係をする。
  • 肉腫疑いの生検は専門チームと相談し、将来の切除範囲に含められる経路でを行う。安易なやを避ける。
  • 断端陰性のを目標とするが、隣接臓器を無条件に切除せず、組織型・浸潤・機能損失を多職種で検討する。
  • 再発治療とを含め、肉腫専門施設で管理する。

まとめ

  • 脾外傷の治療はGrade単独ではなくで決め、安定例では高Gradeでも塞栓を含む脾温存が可能である。
  • ⭐ のは、ASH 2026 で推奨の枠から good practice statement の枠へ移った(弱い推奨になったのではなく、系統的レビューに基づかないが強い推奨として解釈しうる枠である)。複数の薬物療法に不応・不耐、長期の薬物治療を避けたい、緊急治療を要し薬物療法への反応が不十分——のいずれかなら引き続き適切な選択肢だとされ、good practice statement 本体は「可能なら診断後1年は延期」と「術前2週以上前の・説明・術後の追跡」の2本である1。
  • は被膜菌ワクチン、発熱時の即時抗菌薬評価、生涯教育を行う。説明には敗血症だけでなく血栓症のリスクを含め、少なくとも年1回の追跡を組む1。
  • に対するアスピリンは一律投与しない。
  • 後腹膜腫瘍は計画生検からまで専門で設計する。

出典

  1. 1.American Society of Hematology 2026 Guidelines for Immune Thrombocytopenia (ITP)—Initial and Second-Line Therapy in Adults with Primary ITP(American Society of Hematology・2026)全57頁の本文PDFを取得して確認した。本版の推奨は3つ(推奨1・2a・2b)で、脾摘はそのいずれの選択肢にも挙がらず、Table 1で2019年版の推奨5〜9が撤回され本版の推奨1・2に置き換えられている。脾摘はGood Practice Statementsの章で扱われ、その章の背景の段が「脾摘は次の状況にある成人の原発性ITPで適切に考慮される」として①至適用量・至適期間で複数の薬物療法に不応または不耐、②長期の薬物治療を避けたい、③重度の血小板減少に緊急の治療を要し薬物療法への反応が不十分、の3つを挙げる。good practice statement 本体はこの①〜③ではなく2本で、1本目が「実行可能なら、寛解の可能性があるため診断後少なくとも1年は脾摘を延期する」、2本目が「実行可能なら術前2週以上前に適切な予防接種を受けさせ、抗菌薬予防投与と脾摘後の生涯にわたる敗血症および血栓症のリスクについて説明する。発熱の早期認識と抗菌薬による対応を患者に教育し、術後は少なくとも年1回、血小板数の確認・カウンセリング・推奨される予防接種スケジュールの遵守確認のために追跡する」である。個々のワクチンの菌名は全文に一度も現れない(pneumococc・meningococc・Haemophilus・influenzae・encapsulat はいずれも0件)。本版はgood practice statementを、系統的レビューに基づかないが強い推奨として解釈しうるものと定義している。同じ背景の段は、インジウム標識自家血小板シンチグラフィが脾摘への反応を予測し脾臓型87.1%・混合型47.1%・肝臓型25.5%であること、脾摘後に血小板数が正常化しても母体の抗血小板抗体の経胎盤移行は防げず新生児血小板減少症を生じうることも述べる。⚠️ 出版社サイトは今回も403で、読んだのはInternet Archiveに保存された出版社のFirst Edition版PDF(組版前の採択原稿、Tracking no ADV-2026-021269R1)であり、誌上版との異同は確認していない閲覧 2026-09-17
  2. 2.American Society of Hematology 2019 guidelines for immune thrombocytopenia(American Society of Hematology・2019)PMC6963252の全文で推奨の番号・文言・強さを確認した。3か月以上続きステロイド依存またはステロイド無効の成人ITPについて、推奨7が脾摘とTPO受容体作動薬のいずれかを、推奨8がリツキシマブを脾摘より、推奨9がTPO受容体作動薬をリツキシマブより提案していた(いずれも条件付き推奨・エビデンスの確実性は非常に低い)。推奨9の備考は、可能なら診断後少なくとも1年は脾摘を延期すること(1年目の自然寛解の可能性のため)、長期の内服を避けたい患者は脾摘またはリツキシマブを、手術を避けたい患者はTPO受容体作動薬またはリツキシマブを、持続的な反応を重んじる患者は脾摘またはTPO受容体作動薬を選びうることを述べる。⚠️ 推奨7〜9はいずれも2026年版で撤回・置換されている閲覧 2026-09-08
  3. 3.Splenic trauma: WSES classification and guidelines for adult and pediatric patients(World Society of Emergency Surgery / World Journal of Emergency Surgery・2017)脾損傷の治療方針は解剖学的Grade分類だけでなく、循環動態、随伴損傷を含めた患者の生理学的状態を統合して多職種で決めるべきであり、小児の鈍的脾損傷の大部分は非手術的に管理できることを提示したこと。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Perioperative Immunization for Splenectomy and the Surgeon's Responsibility: A Review(JAMA Surgery・2020)脾摘後重症感染症(OPSI)の疫学的頻度が0.1〜8.5%の幅で報告されていること、また手術前後14日以内はワクチンを接種しないことがほぼ全てのガイドラインで一致した方針であるため、待機的脾摘術ではこの期間を避けて手術14日以上前に接種を完了させる必要があること。一方で、高いレベルのエビデンスが乏しく至適な接種時期と追加接種の要否は確立しておらず、多くのデータは周術期の直近でも接種が有効でありうることを示唆している(most data suggest that immunization might be effective even in the immediate perioperative time)こと(2026-09-24に抄録で確認)。閲覧 2026-08-26
  5. 5.The sword of Damocles for the splenectomised: death by OPSI(German Medical Science (GMS)・2016)OPSIの原因菌はStreptococcus pneumoniae・Haemophilus influenzae(Hib)・Neisseria meningitidisが主体であること。致死率「およそ50〜70%」は本報告(症例報告)自身のデータではなく、序論がDi Sabatino 2011(Lancet 総説)を引いて紹介している値であること。閲覧 2026-08-26