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Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

有毛細胞白血病

Hairy cell leukemia

別名
HCLヘアリー細胞白血病
臓器系
血液腫瘍
科目
PathologyInternal MedicinePharmacology
トピック
病理学 C/11:CLL/有毛細胞白血病内科学 H-21:非ホジキンリンパ腫病理学 C/17:脾腫を来す疾患薬理学 B31:抗がん薬I(代謝拮抗薬)
上位概念
白血病
鑑別疾患
慢性リンパ性白血病有毛細胞白血病バリアント脾辺縁帯リンパ腫
治療薬
クラドリビンリツキシマブベムラフェニブ
症状
脾腫倦怠感出血
検査値
血算好中球減少血小板減少

🧠 全体像は「成熟B細胞にBRAF V600E変異が生じる→細胞質に毛髪様の突起を持つ腫瘍細胞が骨髄と脾臓のへ緩徐に浸潤する→と著明な脾腫を来すがリンパ節腫大は目立たない→BRAF V600Eという単一の分子異常が診断(免疫染色)と治療(、BRAF阻害薬)の双方を貫く」という一本の流れで理解する。かつての亜型として教えられてきたが、現在は分子的にも臨床経過的にも独立した疾患単位として扱われ、多くのの中でも治療反応性と予後がひときわ良好な点が際立つ。

概要

は成熟B細胞に由来するの腫瘍で、白血病・リンパ腫全体の中では稀な疾患である。中高年男性に多く、名称は腫瘍細胞の細胞質にみられる細い毛髪様の突起に由来する。かつてはの一亜型として位置づけられてきたが、後述するBRAF V600E変異という共通の分子基盤が同定されて以降は独立した疾患単位として扱われる。白血病の中でも慢性・リンパ系に属するの一員だが、リンパ節腫大が目立たず脾腫が前面に出る点で他のと一線を画す。

病態・分子的特徴

の病態を理解する軸はただ一つ、BRAF V600E変異である。ほぼ全例でこの変異が腫瘍細胞に存在し、下流のMAPKを恒常的に活性化することで腫瘍性の増殖・を維持する。この変異は他の成熟B細胞腫瘍にはまれにしかみられないため疾患特異性が高く、診断のための免疫染色と、治療標的としてのBRAF阻害薬の両方に直結する軸になっている。

flowchart TD
    A["成熟B細胞にBRAF V600E変異が生じる"] --> B["MAPK<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kinase pathway'>キナーゼ経路</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activation'>恒常的活性化</span>"]
    B --> C["毛髪様突起を持つ腫瘍性B細胞の緩徐な増殖"]
    C --> D["骨髄への間質性浸潤と脾臓<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red pulp'>赤脾髄</span>への浸潤"]
    D --> E["正常造血の圧迫→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancytopenia'>汎血球減少</span>"]
    D --> F["著明な脾腫"]
    C --> G["単球への選択的な圧迫→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monocytopenia'>単球減少</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opportunistic'>日和見</span>感染への易感染性"]

⭐ BRAF V600E変異は、を診断するだけでなくそのものを規定する。この一点を軸に、免疫染色による診断との両方を理解する。

病理形態

末梢血・骨髄では、細い毛髪様の細胞質突起を持つ小〜中型のリンパ球が特徴的である。骨髄はびまん性の間質性浸潤を示し、の増生を伴うことが多い。

⭐ こののため、では多くの症例で吸引液がほとんど得られず、確定診断にはが必須になる。生検では腫瘍細胞の核どうしが均等な間隔で離れて配置される特徴的な構築()がみられる。

脾臓では、正常なら濾胞を形成するが萎縮する一方、に腫瘍細胞がびまん性に浸潤する。この「優位の浸潤」は、)に浸潤するCLLやリンパ腫との対比軸として重要である。腫瘍細胞の浸潤により正常なの構築が壊れ、赤血球が貯留する偽洞様の血液湖が形成される。

免疫表現型

では、CD19・CD20を強陽性とする成熟B細胞の表現型に加え、CD11c・CD25・CD103・CD123の4マーカーが陽性になる点が診断的価値を持つ。に対する特異性が高いマーカーとして、1は弱陽性として検出される。

マーカー CLL(対比)
CD19・CD20 強陽性 陽性(CD20は弱いことが多い)
CD5・CD23 陰性 いずれも陽性
CD11c・CD25・CD103・CD123 陽性 陰性〜弱陽性
陽性(特異性が高い) 陰性

⚠️ 染色は歴史的に用いられてきた検査だが、現在の診断はによると、後述するBRAF V600E変異の確認が中心であり、この染色を第一に頼ることはない。

臨床像

典型像は、著明な脾腫を伴うである。血算では貧血・好中球減少血小板減少がそろって進行し、脾腫によるを伴う。CLLなど他の慢性リンパ系腫瘍と異なり、リンパ節腫大は目立たない点が重要な鑑別点になる。

に特徴的な所見で、Mycobacterium avium complexなど)を含む感染への易感染性の一因になる。血小板減少による出血傾向、易感染性、も高頻度にみられる。

診断

診断は末梢血・骨髄所見とによる、そしてBRAF V600E変異の確認を統合して行う。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancytopenia'>汎血球減少</span>+著明な脾腫を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral smear'>末梢血塗抹</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flow cytometry'>フローサイトメトリー</span>"]
    B --> C{"CD11c・CD25・CD103・CD123陽性か"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow biopsy'>骨髄生検</span>(吸引不成功のことが多い)"]
    D --> E["BRAF V600E変異を確認(PCRまたはVE1免疫染色)"]
    E --> F["腹部画像で脾腫の程度を評価"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hairy cell leukemia'>有毛細胞白血病</span>と確定"]

のために吸引が不成功に終わることが多く、生検による評価が診断の要になる。BRAF V600E変異は、(アレル特異的PCRなど)に加え、変異特異的抗体(VE1)を用いた免疫染色でも高い感度・特異度で検出でき、処理を経た検体にも適用しやすいという実務的な利点がある。

鑑別

疾患 鑑別のポイント
CD5・CD23陽性、著明なリンパ節腫大を伴う、BRAF V600E陰性
軽度の突起を持つリンパ球で、BRAF V600E陰性、CD103陰性のことが多い
を欠き、CD25・が陰性、BRAF V600E変異を欠く

⚠️ は、かつての亜型として扱われてきたが、BRAF V600E変異を欠き、への反応性も乏しいなど生物学的に異なる疾患であることが明らかになった。造血器腫瘍のWHO分類第5版(2022年)では、とともに再編され、「著明な核小体を伴う脾原発B細胞リンパ腫・白血病」という独立した病型として位置づけられている。古典的なと同一疾患として扱わない。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hairy cell leukemia'>有毛細胞白血病</span>と診断"] --> B{"血球減少・症候性脾腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recurrent infection'>反復感染</span>があるか"}
    B -->|"いいえ"| C["無治療で経過観察"]
    B -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purine analogue'>プリンアナログ</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cladribin'>クラドリビン</span>など)を第一選択とする"]
    D --> E{"再発・難治か"}
    E -->|"いいえ"| F["長期の無病生存を期待して経過観察を継続"]
    E -->|"はい"| G["BRAF阻害薬+抗CD20抗体などを検討"]

無症候の症例に早期治療の利益はなく、貧血・血小板減少・好中球減少などの血球減少、症候性の脾腫、反復する感染を治療開始の目安として経過観察する。

治療開始基準を満たせば、であるまたはペントスタチンを第一選択とする。単回に近い短期間の投与で高いと長期にわたる無病生存が得られる点が、他の多くのと際立って異なる。が残る例や再発例では、リツキシマブに併用しの深さを高める試みがなされている。

では、BRAF阻害薬であるをリツキシマブと併用する治療が、化学療法を用いない選択肢として実地診療で位置づけを広げている。⚠️ CD22を標的としたは、の選択肢として承認されていた時期があったが、2023年に販売中止となっており、現在の肢としては扱わない。

治療関連・疾患関連の血球減少がある期間は、感染への対策として抗菌薬・抗ウイルス薬の予防投与や、必要に応じたワクチン接種を検討する。

は、が普及する以前はの標準治療であった。しかし循環血液中の腫瘍細胞やそのものには無効であるため、現在は第一選択とされず、薬物治療に抵抗性の症例や血小板減少に伴う出血を来す例など、限られた場面での選択肢にとどまる。

予後

は、による治療後、多くのと比べて極めて良好な予後を示し、生命予後が一般人口に近づく症例も少なくない。一方、への反応性に乏しく、経過もほど良好ではないため、両者を混同しないことが臨床的に重要である。

まとめ

  • はほぼ全例にBRAF V600E変異を伴う成熟B細胞腫瘍で、この変異が診断と治療の両方を貫く軸になる。
  • 骨髄はのため吸引が不成功に終わることが多く生検が必要で、脾臓はでなくに浸潤する点がCLLとの対比軸である。
  • CD11c・CD25・CD103・CD123陽性、陽性というが特徴で、染色は歴史的検査に位置づけられる。
  • 著明な脾腫を伴うとリンパ節腫大の乏しさ、による感染への易感染性が臨床像の中心である。
  • 無症候例は経過観察し、治療開始基準を満たせば)を第一選択とし、ではBRAF阻害薬とリツキシマブの併用を検討する。
  • はBRAF V600E変異を欠く生物学的に異なる疾患としてWHO分類上も区別され、への反応性・予後が劣る。