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Disease Atlas · 血液 · 腫瘍

有毛細胞白血病バリアント

Hairy cell leukemia variant

別名
HCL-VHCLバリアント著明な核小体を伴う脾リンパ腫SLPN
臓器系
血液腫瘍
科目
Pathology
トピック
病理学 C/11:慢性リンパ性白血病(CLL)/有毛細胞白血病
上位概念
白血病
鑑別疾患
有毛細胞白血病脾辺縁帯リンパ腫
治療薬
クラドリビンリツキシマブトラメチニブ
症状
脾腫倦怠感
検査値
血算血小板減少絶対単球数

🧠 全体像は、名前に反して古典的とは生物学的に別の疾患である。両者を分ける一本の軸はBRAF V600E変異の有無で、HCL-Vはこの変異を欠くために診断的免疫染色(CD25・陰性)も治療反応性(単剤に抵抗性、BRAF阻害薬が無効)もと対照的になる。臨床像も、に対してHCL-Vは白血球増加を呈しも伴わないという、教科書的なHCL像を裏切る組み合わせで気づかれる。WHO分類第5版(2022年)では「著明な核小体を伴う脾リンパ腫(SLPN)」として独立した病型に再編され、古典的の亜型という位置づけはすでに過去のものである。

病態・分子的特徴

HCL-Vの病態を理解する軸は、の対極にある——BRAF V600E変異を欠くという一点である1ではこの変異がMAPKを恒常的に活性化し腫瘍性増殖を駆動するが、HCL-Vではこの経路が病態の中心を担わない。分子基盤が未確立であること自体が、と異なる治療反応性(後述)の背景になっている。

WHO造血器腫瘍分類第5版(WHO-HAEM5、2022年)は、脾原発のリンパ腫・白血病を①、②、③著明な核小体を伴う脾リンパ腫(SLPN、旧称HCL-V)、④脾原発びまん性リンパ腫の4病型に再編した1HCL-Vは「の亜型」ではなく独立した病型として扱われる点が、古典的な教育内容との最大の違いである。

flowchart TD
    A["成熟B細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation'>腫瘍化</span>"] --> B{"BRAF V600E変異があるか"}
    B -->|"あり"| C["古典的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hairy cell leukemia'>有毛細胞白血病</span>"]
    B -->|"なし(野生型)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='HCL-V'>有毛細胞白血病バリアント</span><br>=著明な核小体を伴う脾リンパ腫(SLPN)"]
    C --> E["CD25・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annexin A1'>アネキシンA1</span>陽性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='monocytopenia'>単球減少</span>を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancytopenia'>汎血球減少</span>"]
    D --> F["CD25・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annexin A1'>アネキシンA1</span>陰性<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='monocytopenia'>単球減少</span>を伴わない白血球増加"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purine analogue'>プリンアナログ</span>単剤に高感受性"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purine analogue'>プリンアナログ</span>単剤に抵抗性<br>リツキシマブ併用が必要"]

古典型との対比

⭐ HCL-Vの理解は、古典的との対比表そのものである。臨床像・・分子異常・治療反応性のすべてが逆方向を向く。

項目 古典的
BRAF V600E変異 陽性(ほぼ全例) 陰性(野生型)1
低下の一部) 増加(著明な白血球増加を呈することが多い)2
減少 保たれる(を伴わない)21
CD25 陽性 陰性(診断時に全例で陰性)1
CD123 陽性 通常dimまたは陰性1
陽性 陰性(全例)1
核小体 目立たない 明瞭な核小体1
著明(吸引不成功になりやすい) より軽度
単剤への反応 高い 反応不良期間とも劣る)1
BRAF阻害薬 で有効 無効(BRAF野生型のため標的が存在しない)
MEK阻害薬 主要な肢ではない MAP2K1を伴う症例(約4割)では治療標的になりうるが、臨床的位置づけは未確立3

臨床像

典型像は、著明な脾腫と末梢血の白血球増加である2で必発するを伴わない点が、教科書的なHCL像との違いとして診断のきっかけになる21。貧血・血小板減少は約1/3の症例で検出されうるが、のようなという組み合わせにはならない1などはと共通する。

診断

末梢血・骨髄塗抹で、と同様の毛髪様突起を持つリンパ球を認めるが、核小体が明瞭という形態学的な違いがある1。骨髄のほど強くなく、吸引が可能なことが多い。でCD25・CD123・がいずれも陰性〜dimであることを確認し、BRAF V600E変異が陰性(野生型)であることをまたはVE1免疫染色で確認して初めて診断が確定する。BRAF陰性の確認そのものが診断の要であり、を除外する決め手になる。

flowchart TD
    A["白血球増加+脾腫(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monocytopenia'>単球減少</span>を伴わない)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral smear'>末梢血塗抹</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flow cytometry'>フローサイトメトリー</span>"]
    B --> C{"CD25・CD123・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annexin A1'>アネキシンA1</span>は陰性〜dimか"}
    C -->|"はい"| D["BRAF V600E変異を確認"]
    D --> E{"BRAF野生型か"}
    E -->|"はい"| F["HCL-V(著明な核小体を伴う脾リンパ腫)と確定"]
    E -->|"いいえ(変異陽性)"| G["古典的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hairy cell leukemia'>有毛細胞白血病</span>を再検討"]

鑑別

古典的が最も重要な鑑別対象で、上記の対比表がそのまま鑑別の実務になる。も脾腫優位でリンパ節腫脹に乏しいB細胞腫瘍として鑑別に挙がるが、いずれもBRAF野生型・CD25陰性という点でからは同じ方向に外れるため、両者の鑑別にはの細部(CD103・CD11cの発現パターンなど)とパターンの評価を要する。

治療

flowchart TD
    A["HCL-Vと診断・症候性"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purine analogue'>プリンアナログ</span>単剤は<br>反応不良・抵抗性と想定"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cladribin'>クラドリビン</span>+リツキシマブ併用を選択"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='(treatment) response'>奏効</span>するか"}
    D -->|"はい(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complete remission rate'>完全寛解率</span>90%程度)"| E["経過観察"]
    D -->|"難治"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenectomy'>脾摘</span>・他レジメンを検討"]

⚠️ 単剤をと同じ第一選択にしない。 HCL-Vは単剤への期間がより劣り、抵抗性とみなされる1。症候性例ではリツキシマブを併用するレジメンが導入され、単剤より高い転帰(90%程度)が報告されている1

⚠️ BRAF阻害薬は適応にならない。 HCL-VはBRAF野生型であるため、で用いるなどでのBRAF阻害薬の位置づけをそのまま当てはめられない。

一方、MEK阻害薬は一律に無効とは言えない。 HCL-Vの約4割(IGHV4-34陰性例で15例中6例=40%、IGHV4-34陽性例で9例中4例=44%)にMAP2K1(MEK1をコードする)のが同定されており、この経路がBRAF非依存的にMAPKシグナルを活性化しうる3。MEK1・下流のERKはこの変異を持つ症例における治療標的として着目されているが、原著論文自身が「現行のMEK阻害薬レパートリーが全患者に臨床的有益性をもたらすとは限らない」と留保しているとおり、MEK阻害薬(など)の臨床的位置づけは未確立であり、に対するBRAF阻害薬のような確立した標準治療ではない3

は、循環血中の腫瘍細胞やそのものには無効という点でと共通し、薬物治療に抵抗性の症候性脾腫など限られた場面での選択肢にとどまる。

まとめ

  • HCL-Vは名称に反し古典的とは別疾患で、WHO分類第5版では「著明な核小体を伴う脾リンパ腫(SLPN)」として独立した病型に位置づけられる。
  • BRAF V600E変異を欠くことが病態・診断・治療反応性のすべてを規定する軸で、CD25・陰性、CD123 dim〜陰性、核小体明瞭という免疫染色・形態がと対照的である。
  • 臨床像はの「」に対し「を伴わない白血球増加」という逆方向の血算パターンで気づかれる。
  • 単剤には反応不良で、+リツキシマブ併用が症候性例の治療の軸になる。BRAF野生型のためBRAF阻害薬は無効だが、約4割にみられるMAP2K1を持つ症例ではMEK阻害薬が治療標的になりうる(ただし臨床的位置づけは未確立)。

出典

  1. 1.Untangling hairy cell leukaemia (HCL) variant and other HCL-like disorders: Diagnosis and treatment(Journal of Cellular and Molecular Medicine・2024)WHO第5版(WHO-HAEM5、2022年)が有毛細胞白血病バリアントを「著明な核小体を伴う脾リンパ腫(SLPN)」へ再命名したこと、HCL-VはBRAFが全例で野生型でありANXA1染色が全例陰性、診断時のCD25発現が全例陰性、CD103・CD123の発現が通常dimまたは陰性であること、核小体が明瞭な点が古典型と異なること、プリンアナログ(PNA)単剤への奏効率・奏効期間が古典型より劣り抵抗性とみなされること、症候性例にはクラドリビンとリツキシマブの併用が導入され奏効率が改善したこと(完全寛解率90%)、BRAFが野生型でありpERKが奏効の指標として使えないためBRAF阻害薬は古典型と異なり無効であること、MEK阻害薬の位置づけについては原文が「specified(明確化)されるべき今後の課題」とするにとどめ確立していないことを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Hairy Cell Leukemia(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Naing PT, Acharya U, Kumar A)・2023)HCLバリアントが古典型でみられる好中球減少・単球減少・貧血・血小板減少を伴わない著明な白血球増加を呈することが多いこと、古典型では逆に汎血球減少・単球減少が特徴的であること、HCLバリアントはCD25・CD123が陰性であること、形態学的に核小体が明瞭で骨髄浸潤が古典型より軽いこと、プリンアナログへの反応が古典型に比べて不良であることを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.High prevalence of MAP2K1 mutations in variant and IGHV4-34 expressing hairy-cell leukemia(Nature Genetics(Waterfall JJ, et al.)・2014)MAP2K1(MEK1をコードする)の活性化変異がHCL-Vの3亜群すべてに認められること(IGHV4-34陰性HCL-Vで15例中6例=40%、IGHV4-34陽性HCL-Vで9例中4例=44%、IGHV4-34陽性古典型HCLで7例中5例)でありこれらの頻度に有意差がないこと、同定された変異の多くがMEK1の自己抑制ドメイン(エクソン2・3)に集簇し基礎酵素活性と細胞増殖を強く増加させる活性化変異であること、Results欄で「現行のMEK阻害薬レパートリーが全患者に臨床的有益性をもたらすとは限らないが、MEK1とそのエフェクターERKはこの白血病における治療標的として非常に魅力的である」と述べ、MEK阻害薬の臨床的位置づけを留保しつつ治療標的としての可能性を提示していることを確認した閲覧 2026-08-11