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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

卵巣炎

Oophoritis

臓器系
生殖・産婦人科感染症
科目
Gynecology
トピック
婦人科 31:骨盤内炎症性疾患婦人科 02:続発性無月経
治療薬
セフトリアキソンドキシサイクリンメトロニダゾール
原因微生物
Mumps virusNeisseria gonorrhoeaeChlamydia trachomatis D-K
症状
骨盤痛発熱卵巣機能不全
元疾患
骨盤内炎症性疾患流行性耳下腺炎

🧠 全体像は原因によって顔つきがまったく違う3つの病態が同じ名前を共有している——ウイルス性の合併症)、細菌性の一部としての)、自己免疫性の一因)である。学習の軸になるのは、同じ「性腺の炎症」でもとは対照的に、は頻度も低く、生殖能への影響もほとんど無いとされるという非対称性である。この一点を押さえておくと、診療で「男性は不妊を心配するが女性はそこまで心配しなくてよい」という説明の根拠が分かる。

病態と原因別の整理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oophoritis'>卵巣炎</span>"] --> B["ウイルス性"]
    A --> C["細菌性"]
    A --> D["自己免疫性"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mumps virus'>ムンプスウイルス</span>が耳下腺から<br>血行性に卵巣へ波及"]
    C --> C1["腟・子宮頸部からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending infection'>上行感染</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Endometritis'>子宮内膜炎</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Salpingitis'>卵管炎</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oophoritis'>卵巣炎</span>"]
    D --> D1["卵巣に対する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphocytic infiltration'>リンパ球浸潤</span><br>卵胞の自己免疫性破壊"]
    B1 --> E["急性の疼痛・腫脹<br>感染<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resolution'>終息</span>とともに軽快"]
    C1 --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubo-ovarian abscess, TOA'>卵管卵巣膿瘍</span>・骨盤腹膜炎へ進展しうる"]
    D1 --> G["卵胞減少の進行<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='POI'>原発性卵巣機能不全</span>"]
主な原因 経過 生殖能への影響
ウイルス性 急性、感染とともに軽快することが多い ほとんど無いとされる
細菌性 淋菌・クラミジアなど、の一部 ・骨盤腹膜炎へ進展しうる のリスク(自体よりPID全体のとして)
自己免疫性 卵巣に対する自己免疫性 慢性・進行性 卵胞減少が進めばの原因になる

ムンプスによるウイルス性卵巣炎

は耳下腺を中心とした腺を持ち、精巣・卵巣・膵臓・髄膜へ波及しうる。が思春期後の男性で約20〜30%に生じるのに対し、は思春期後女性の約5%にとどまる1

と違って生殖能への影響がほとんど無いとされる。 ではを来しうるものの精巣ホルモン産生と生殖能はおおむね保たれるとされ、は男性のほど臨床的に認識されにくく疼痛も軽度で、生殖能を障害しないとされている2発熱・下腹部痛・で発症し、虫垂炎など他のと紛らわしいことがある。

💡 ただし、この5%という頻度や「生殖能への影響がほとんど無い」という通説の根拠は限られた症例集積にとどまり、長期予後を追跡した研究はこのに留保を付けている——実際に小児期の罹患後に卵巣萎縮・を来した症例報告もあり、まれではあるが生殖能への影響を完全には否定できない1

💡 卵巣は精巣と異なり強靭なに覆われていない(内で腫脹による圧迫壊死を起こしにくい)ことが、この頻度・重症度の差の一因として挙げられる。

細菌性卵巣炎(骨盤内炎症性疾患の一部として)

腟・子宮頸部から上行した淋菌・クラミジアなどの微生物がと波及する過程で、卵巣にも炎症が及ぶ。という一連の病態スペクトラムの一部であり、だけを単独疾患として扱うより、PIDとしてを開始することが実務上の要点になる3。放置すれば・骨盤腹膜炎へ進展し、破裂すればに至る外科的緊急症となる。

自己免疫性卵巣炎

卵巣に対する自己免疫性により卵胞が破壊され、40歳未満で卵巣機能が低下するの原因の一つになる4。他の自己免疫性内分泌疾患(など)を合併する自己免疫性多腺性症候群の一部として現れることがある。

⚠️ 閉経様の症状で自己免疫性を疑う場合は、単独疾患として片づけず、他の自己免疫性内分泌疾患の合併スクリーニングを行う。

診断

  • ウイルス性の流行状況、耳下腺腫脹の有無、血清やRT-PCRでの確認。急性の下腹部痛が耳下腺炎に先行・並行することがある。
  • 細菌性:妊娠可能年齢ののいずれかを認めればPIDとしてを開始する。で淋菌・クラミジアを検索する。
  • 自己免疫性とFSH高値の組み合わせでPOIを疑い、自己免疫抗体・他の内を評価する。

治療

  • ウイルス性:特異的な抗ウイルス治療はなく、鎮痛・安静などの対症療法が中心である。
  • 細菌性:PIDに準じた経験的治療(セフトリアキソン+ドキシサイクリン+メトロニダゾールなど)をの結果を待たずに開始する3
  • 自己免疫性:原疾患そのものを治す治療はなく、エストロゲン補充療法などに準じた対応と、他の自己免疫性内分泌疾患のフォローを行う。

まとめ

  • はウイルス性()・細菌性(PIDの一部)・自己免疫性(POIの原因)という機序の異なる3つの病態を包含する。
  • に伴うは思春期後女性の約5%にとどまり、(約20〜30%)より頻度が低いだけでなく、と異なり生殖能への影響もほとんど無いとされる。
  • 細菌性はPIDのスペクトラムの一部として、確定診断を待たずにを開始する。
  • 自己免疫性の原因の一つで、他の自己免疫性内分泌疾患の合併を確認する。

出典

  1. 1.Pregnancy after mumps: a case report(Journal of Medical Case Reports・2019)卵巣炎が思春期後女性のムンプス罹患者の約5%にとどまる一方、精巣炎は思春期後男性の20〜30%に生じるとされ、両者の頻度に明確な差があることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Mumps(Merck Manual Professional Version・2024)思春期後の男性の約30%(未接種)・6%(接種済み)が精巣炎を発症し精巣萎縮を来しうるが精巣ホルモン産生と生殖能はおおむね保たれること、女性の卵巣炎は男性の精巣炎ほど認識されにくく疼痛も軽度で、生殖能を障害しないことを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021 — Pelvic Inflammatory Disease(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2021)骨盤内炎症性疾患の外来治療がセフトリアキソン単回筋注にドキシサイクリン・メトロニダゾール14日間を併用するレジメンであることを確認した閲覧 2026-08-02
  4. 4.Evidence-based guideline: premature ovarian insufficiency(Human Reproduction Open・2024)原発性卵巣機能不全(POI)が40歳未満での卵巣機能低下を指し、自己免疫性がその原因の一つとして挙げられることを確認した閲覧 2026-08-11