疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 病態

異常子宮出血(機能性子宮出血)

Abnormal (dysfunctional) uterine bleeding

臓器系
生殖・産婦人科
科目
Gynecology
トピック
婦人科 04:機能性子宮出血(現在の排卵障害関連異常子宮出血)
鑑別疾患
子宮筋腫子宮体癌子宮内膜症・子宮腺筋症
治療薬
トラネキサミン酸レボノルゲストレルエチニルエストラジオール+レボノルゲストレルノルエチステロンメドロキシプロゲステロン酢酸エステルデスモプレシン
症状
過多月経血行動態不安定呼吸困難失神出血出血傾向動悸
検査値
血算
原因となる疾患
多嚢胞性卵巣症候群

🧠 全体像:かつて「」と呼ばれた病態——構造的な病変が見当たらないのに起こる——は、現在はという枠組みに統合され、DUBという用語自体は歴史的なものになった。DUBの実体の多くは、この分類でいうAUB-O(またはAUB-E(に相当する。中心となる機序は単純で、「排卵が起きない→黄体が形成されない→周期的な黄体ホルモン分泌がない→子宮内膜がエストロゲンに無防備にさらされ続けて過剰・不均一に増殖する→血流が追いつかず不規則に脱落する」という一本の連鎖である。臨床の要点は、「構造病変がないから安心」ではなく、年齢・出血パターンに応じて妊娠・構造病変・凝固異常・内膜癌を系統的に除外したうえで初めてAUB-Oと診断できるという順序にある。

概要

  • 」は、な構造病変(ポリープ、筋腫、悪性腫瘍など)が認められないにもかかわらず生じるを指した歴史的な用語である。
  • 現在はFIGO()が提唱したにより、全体をに体系的に分類するようになり、DUBという呼び方そのものは使われなくなりつつある。
  • かつてDUBと呼ばれていた病態の多くは、この新しい枠組みではAUB-O(に伴うもの)、一部はAUB-E(子宮内膜局所の止血異常によるもの)に位置づけられる。
  • 臨床的には、思春期・閉経移行期などが生理的に起こりやすい年齢層で頻度が高いが、「性だから精査不要」ではなく、年齢に応じた(妊娠・構造病変・凝固異常・内膜癌)を経て初めて診断が確定する点が重要である。

PALM-COEIN分類

の原因は、頭文字を取ったPALM-COEINという枠組みで整理する。前半4つ(PALM)が超音波・病理などで同定できる、後半5つ(COEIN)がである。

分類 原因 備考
P:ポリープ 画像・で同定
A: と関連
L:
M:悪性・過形成(Malignancy and hyperplasia)
C:凝固異常 など全身性の 思春期の高度で必ず考慮
O: かつてのDUBの中心。が代表的な基礎疾患
E: 局所の止血機構の異常(排卵は保たれている) 規則的だが多量の出血として現れる
I:医原性 、抗凝固薬、IUDなど 配合ホルモン薬のによるもここに含む
N: 上記に当てはまらないもの 剖検・組織学的にのみ同定される稀な原因など

💡 「機能性」「DUB」という言葉が指していた病態は、この表のO(とごく一部のE(に相当する。逆に言えば、PALM()を除外して初めてO・Eという診断にたどり着けるのであり、「がなさそうだから機能性」という順序で最初から思い込んではならない。

病態

無排卵によるAUB-O(旧DUBの中心像)

排卵が起こらないと黄体が形成されず、周期的な黄体ホルモン分泌が欠如する。その結果、子宮内膜はエストロゲンの持続的作用にさらされ続け、過剰かつ不均一に増殖する。増殖した内膜は血流の供給が追いつかず、部分的・的に脱落するため、出血の周期性が失われ、量・期間ともに予測できない出血となる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligo-/anovulation'>無排卵</span>(思春期・閉経移行期・PMOS・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid disease'>甲状腺疾患</span>・体重変化・摂食障害・ストレスなど)"] --> B["黄体が形成されない"]
    B --> C["周期的な黄体ホルモン分泌が欠如する"]
    C --> D["子宮内膜へエストロゲンが持続的に作用する"]
    D --> E["内膜が過剰かつ不均一に増殖する"]
    E --> F["増殖した内膜に血流の供給が追いつかず不規則に脱落する"]
    F --> G["予測不能・遷延する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal uterine bleeding, AUB'>異常子宮出血</span>(AUB-O)"]
  • を来す代表的な状況:思春期(視床下部-下垂体-卵巣系の未成熟)、閉経移行期(卵巣機能の低下)、PMOS、甲状腺機能異常、急激な体重変化、摂食障害、過度なストレス・運動。

排卵性のAUB(AUB-E寄り)

排卵周期が保たれていても、子宮内膜局所の止血機構(プロスタグランジン産生の異常など)に問題があると、周期は規則的なまま出血量だけが多くなることがある。これはPALM-COEINのE(に相当する。

医原性の出血

配合ホルモン薬のには、黄体ホルモンの消退により(withdrawal bleeding)が生じる。これは生理的な現象だが、抗凝固薬やIUDなど他の医原性要因と合わせてI(医原性)に分類される。

⚠️ 「排卵性か性か」という機序の分類は病態理解として重要だが、臨床の入り口では機序を問わずまず(PALM)と全身性の凝固異常(C)を除外するという順序が優先される。機序だけで原因を決め打ちしてはならない。

臨床像

  • 月経パターンの評価:周期の規則性、出血日数、経血量(の有無、夜間のナプキン交換の要否、1〜2時間ごとの交換が必要か)、日常生活への支障の程度を具体的に聴取する。
  • 貧血・の評価、失神、起立性の症状は、貧血または循環不安定を示唆する。
  • 思春期のの手がかり直後からの著明な、皮下出血のしやすさ、の家族歴は、などの全身性凝固異常(PALM-COEINのC)を強く疑わせる。

⚠️ 急性の大量出血例では、原因の精査より先に気道・呼吸・循環の安定化(、血算、血液型・を優先する。出血源の特定を急ぐあまり循環管理を後回しにしてはならない。

診断

年齢層と出血のに応じて、除外すべき項目の優先順位が変わる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal uterine bleeding, AUB'>異常子宮出血</span>(生殖年齢)"] --> B{"血行動態が不安定 or 高度貧血症状"}
    B -->|"はい"| C["まず気道・循環の安定化(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='IV access'>静脈路</span>、血算、血液型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crossmatch (compatibility testing)'>交差適合試験</span>)を優先"]
    B -->|"いいえ"| D{"妊娠検査(尿・血中hCG)"}
    D -->|"陽性"| E["流産・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic pregnancy'>異所性妊娠</span>など妊娠関連の原因を評価する"]
    D -->|"陰性"| F["血算・鉄欠乏評価(TSH・プロラクチン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulation assay'>凝固検査</span>は病歴に応じて追加)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vaginal examination'>内診</span>・骨盤超音波で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PALM'>構造病変</span>を評価"]
    G --> H{"思春期で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='menarche'>初経</span>後からの高度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heavy menstrual bleeding (menorrhagia)'>過多月経</span>、易出血、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bleeding disorder'>出血性疾患</span>の家族歴"}
    H -->|"あり"| I["凝固異常スクリーニング(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand disease'>von Willebrand病</span>など)を追加"]
    H -->|"なし"| J{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial cancer'>子宮内膜癌</span>リスク:45歳以上、または45歳未満でも持続出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligo-/anovulation'>無排卵</span>・肥満・糖尿病・治療不応など"}
    J -->|"該当する"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial biopsy'>子宮内膜組織診</span>を行う"]
    J -->|"該当しない"| L["病歴・画像所見から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PALM-COEIN classification'>PALM-COEIN分類</span>上の原因を確定し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定する"]
  • 妊娠検査:生殖年齢では必ず行い、流産・を最初に除外する。
  • 血算・鉄欠乏評価:出血量のな指標として重要。TSH、プロラクチン、は病歴(の異常、思春期の高度出血歴など)に応じて追加する。
  • ・骨盤超音波:PALM(ポリープ、、筋腫、悪性・過形成)を評価する構造的評価の中心。
  • の適応:45歳以上のAUB、または45歳未満であっても持続する出血、、肥満、糖尿病、治療への反応不良などの危険因子を伴う場合に行う。
  • 思春期例での凝固異常スクリーニング後からの著明な、易、家族歴があればなどを疑い検査を追加する。

💡 のプロゲステロン単回測定だけで排卵の有無・AUBの原因を確定させる方法は実用性が限られる。単発のに頼るより、月経歴・画像所見・内膜癌リスクを総合して判断する方が臨床的に有用である。

治療

段階 治療内容 特徴・使い分け
非ホルモン治療 排卵性・性いずれのにも使用可。避妊を必要としない場合は単独でも選択肢になる。は血栓症リスクを個別に評価する
ホルモン治療 放出子宮内システム、などの複合ホルモン製剤、などの経口・注射黄体ホルモン 妊娠希望、、避妊希望を確認して選択する。は出血量減少効果が高く第一選択に位置づけられることが多い
専門的治療 など基礎に凝固異常が確認された例に限り、血液専門医と連携して用いる。一般的なAUB-Oの「最終手段」ではない
手術・専門的処置 、子宮摘出 子宮腔内病変が疑われる場合はを選ぶ(盲目的なのみは再発・見逃しにつながる)。は妊孕性温存を希望せずを除外した治療不応例に限る。子宮摘出は根治的だが侵襲が大きく、が無効・不適切な場合に検討する

の軸は「止血」だけでなく、妊娠希望の有無・・避妊希望という3点を必ず確認することにある。同じ「」でも、これらの希望が異なれば選ぶべき治療(LNG-IUS vs 複合ホルモン製剤 vs 手術)はまったく違ってくる。

まとめ

  • 」は歴史的な用語であり、現在はFIGOのにより、に体系的に分類する。DUBの実体の多くはAUB-O()、一部はAUB-E()に相当する。
  • 病態の中心は「→黄体形成なし→周期的黄体ホルモンの欠如→内膜へのエストロゲン持続作用→過剰・不均一な増殖→不規則な脱落」という連鎖であり、排卵性のAUBでは子宮内膜局所の止血異常が規則的だが多量の出血を来す。
  • 診断は年齢・で優先順位が変わる:血行動態の安定化を最優先し、妊娠を除外し、を画像で評価し、思春期では凝固異常を、45歳以上または危険因子のある45歳未満ではを系統的に除外する。
  • 治療は・NSAIDsといった非ホルモン治療、や複合ホルモン製剤・経口/注射黄体ホルモンといったホルモン治療が中心で、手術(、子宮摘出)は適応を絞って行う。は凝固異常合併例に限られる専門的治療である。
  • 「構造病変がなさそうだから機能性」と最初から決めつけず、年齢に応じたを経て初めてAUB-O/AUB-Eの診断に至る、という順序を守ることが臨床上の最大のポイントである。