組織学

組織学 · 15.1

女性生殖:卵巣

Female reproductive system — Ovary

応用トピック
卵巣機能性嚢胞卵巣の良性腫瘍

🧠 卵巣皮質は「1つの卵胞が、育っては黄体になり、そしてとして消えていく」という一生のサイクルを一断面に凝縮して見せる場所、と覚える。 →→二次(胞状)卵胞→成熟()卵胞→排卵→黄体→、という一方向のを頭に入れれば、卵巣の標本にはこの上の異なる段階が同時に散らばって観察される、という見方ができる。

卵巣の構造:皮質と髄質

卵巣は表層の皮質(卵胞を含む)と中心の髄質(血管・神経に富む結合組織)からなり、表面は(, germinal epithelium)で覆われる。

卵胞発育の段階

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primordial follicle'>原始卵胞</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple squamous'>単層扁平</span>の卵胞細胞"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary follicle'>一次卵胞</span>:単層〜多層の立方卵胞細胞(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulosa cell'>顆粒膜細胞</span>)"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary follicle'>二次卵胞</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antrum'>卵胞腔</span>が出現"]
  C --> D["成熟(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Graafian'>グラーフ</span>)卵胞:大きな単一の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antrum'>卵胞腔</span>"]
  D --> E["排卵"]
  E --> F["黄体:一過性の内分泌構造"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corpus albicans'>白体</span>:退縮した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scar tissue'>瘢痕組織</span>"]
卵胞の段階 特徴的な構造
をの卵胞細胞が取り囲む、プールは出生前に確立され以後は減る一方とされる1
卵胞細胞が立・多層化(, granulosa cells)、が周囲に出現
二次(胞状)卵胞 間に液体が貯留しを形成、周囲に莢膜が分化
成熟()卵胞 単一の大きな、はとして内に突出

⭐ 莢膜は(アンドロゲンを産生しホルモン産生細胞様の外観)と(線維性の結合組織)に分かれる——が産生したアンドロゲンはのアロマターゼによりエストロゲンに変換される「2細胞2ゴナドトロピン説」として知られ、下垂体(13-1-pituitary-hypophysis)由来の()と()の協調作用の基盤になる。

黄体と白体

排卵後、卵胞壁(・細胞)は黄体へと変化し、プロゲステロンを主体に分泌する一過性のとして働く。妊娠が成立しなければ黄体は退縮し、組織のとして残る。

由来 細胞
特徴 大型、中心性の黄体形成の主体 小型、周辺部に位置
分泌 プロゲステロン主体 エストロゲンにも関与

💡 卵胞の大部分は排卵に至らず閉鎖という退行過程をたどる——出生時に約100万個あるのうち、一生涯で排卵に至るのはごく一部(400〜500個程度)にすぎず、残りは閉鎖卵胞として吸収される。この過程は形態学的にはアポトーシス(01-5-cell-cycle-death)によるの消失として進行する。この「ほとんどが使われずに消える」という原則は、卵巣の卵胞プールを理解するうえで重要な前提であり、黄体から分泌されるプロゲステロンは15-2-uterine-tube-uterusで扱う子宮内膜のへの移行を引き起こす。

⚠️ 「胎生中期に700万個、出生時に100万個」という数字は、思っているほど固まっていない。 この定番の数列は1963年の研究に由来するが、その根拠は妊娠20週の卵巣2例(左右計680万個、うち20%が閉鎖)と出生時2例(計200万個、うち50%が閉鎖)という極めて小さい標本である。1953年から2011年までの7研究139例を突き合わせた2026年の総説は、胎児・新生児卵巣の生殖細胞数の報告値が数千個から2,000万個までばらつき、独立した研究は総数も「妊娠後半に70〜85%が死滅する」という大量脱落も再現していないとしている2。閉鎖という現象自体は確かだが、出生時の卵胞数は桁の目安として扱い、確定値のように暗記しない。 一方、加齢とともに減ること自体は定量的に裏づけられていて、8研究(n=325)をモデル化すると95%の女性で30歳に出生前最大数の12%、40歳に3%しか残らない1。

💡 「出生後に卵胞は新生しない」は現在も主流の理解だが、2004年以降ずっと論争がある。 2012年には生殖年齢女性の卵巣皮質からをもつ生殖細胞をFACSで分離し、in vitroでを、で卵胞形成を得たという報告が出た3。同じ2012年、マウスでDdx4-Cre系統追跡を行った研究は、出生後卵巣のDdx4陽性細胞が分裂もせず新規卵胞形成にも寄与しないことを示し、従来説を支持した4。試験に書くなら従来説(新生しない)でよいが、「決着済み」ではなく「有力な反証つきで主流説が保たれている」状態と理解しておく。

まとめ

  • 卵巣皮質では→→→成熟卵胞→排卵→黄体→という上の各段階が同時に観察される。
  • (アンドロゲン産生)と(アロマターゼによるエストロゲン変換)の協調が2細胞2ゴナドトロピン説の基盤。
  • 黄体は(プロゲステロン主体)とからなる一過性の内分泌構造で、退縮するとになる。
  • 卵胞の大部分は排卵に至らず閉鎖という退行過程をたどる。
  • 出生時の卵胞数(約100万個)は1963年の少数例に由来する数字で、その後の定量研究では再現されておらず桁の目安にとどまる。出生後に卵胞は新生しないという前提も、2012年の相反する2報を含む論争が続いている。

出典

  1. 1.Human ovarian reserve from conception to the menopause(PLOS ONE・2010)8つの定量組織学研究(n=325)をモデル化し、非発育卵胞プールは出生前に確立され以後減少する。95%の女性で30歳時に出生前最大数の12%、40歳時に3%しか残らない閲覧 2026-08-24
  2. 2.The human ovarian reserve: the narrative and the science(Human Reproduction Update・2026)「胎生中期に700万個、出生時に100万〜200万個」という定番の数字は1963年の研究(20週 n=2 で計680万個、出生時 n=2 で計200万個)に由来し、その後の独立した定量研究は総数も変性率も再現していない。7研究139例で報告された胎児・新生児卵巣の生殖細胞数は数千〜2,000万個と幅がある閲覧 2026-08-24
  3. 3.Oocyte formation by mitotically active germ cells purified from ovaries of reproductive-age women(Nature Medicine・2012)生殖年齢女性の卵巣皮質からFACSで分裂能をもつ稀な生殖細胞を分離し、in vitroで卵母細胞を、免疫不全マウスへの異種移植で卵胞形成を得たと報告閲覧 2026-08-24
  4. 4.Experimental evidence showing that no mitotically active female germline progenitors exist in postnatal mouse ovaries(Proceedings of the National Academy of Sciences・2012)Ddx4-Cre系統追跡マウスで、出生後卵巣のDdx4陽性細胞は分裂もせず新規卵胞形成にも寄与しないことを示し、出生後の卵胞新生は起こらないという従来説を支持閲覧 2026-08-24