組織学

組織学 · 1.5

細胞・細胞小器官・核:細胞周期と細胞死

Cytology — Cell cycle & death

🧠 細胞周期は「準備()→分裂()」の2幕構成、細胞死は「プログラムされた静かな自殺(アポトーシス)」と「事故的で炎症を起こす崩壊(壊死)」の対比、と2組に分けて覚える。 両方とも「秩序」がキーワード——細胞周期はによる秩序立った進行、アポトーシスは周囲を巻き込まない秩序立った自己解体である。

細胞周期

細胞周期はと分裂期(, mitosis)からなる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='G1 phase'>G1期</span>(成長・タンパク質合成)"]
  A --> B["S期(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>複製)"]
  B --> C["G2期(分裂への準備)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='M phase'>M期</span>(分裂:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitosis'>核分裂</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytokinesis'>細胞質分裂</span>)"]
  D --> A
  D --> E["G0期(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='telogen (phase)'>休止期</span>:分裂を離脱)"]
期 主な出来事
細胞成長、タンパク質・の合成
S期 複製(量が2倍になる。染色体の本数は46のままで、各染色体が2本のになる)
G2期 分裂に向けた最終チェック・微小管など分裂装置の準備
(・中期・後期・)と
G0期 細胞周期から一時的または永続的に離脱した休止状態(多くの)

各期のにはがあり、損傷や複製の不備を検出すると周期の進行を止める。この監視機構が破綻すると、異常なをもった細胞が分裂を続け、のリスクが高まる。

⭐ G0期にとどまる細胞(成熟ニューロン、成熟など)は基本的に再分裂できない——これは組織の力を左右する重要な原則で、なぜの心筋やニューロンの損傷が再生しにくいかの根拠になる(対照的に上皮・は活発に分裂を続ける)。

⚠️ ただし「一生入れ替わらない」は行き過ぎである。 冷戦期の核実験で大気中に増えた¹⁴Cが、その年に合成されたへ取り込まれることを利用してヒト細胞の「生まれ年」を測る方法(炭素14年代測定)で、ヒトは25歳で年約1%、75歳で年約0.45%の速度で入れ替わり、生涯で交換されるのは全体の50%未満と推定された1。同じ手法で海馬では片側あたり1日約700個の新生ニューロンが加わり、入れ替わる集団(海馬ニューロンの約3分の1)の年1.75%に相当することが示されている2。が上皮やのように分裂で自己複製しないという原則は変わらないが、正確にはゼロではなく「極めて遅い」であり、に組織が戻らないのはこの速度が損傷の規模に到底追いつかないためである。

有糸分裂の4期

期 主な変化
クロマチンが凝縮し染色体が可視化、が崩壊、開始(01-3-non-membranous-organelles-cytoskeletonのが起点)
中期 染色体が細胞赤道面に整列
後期 が両極へ分離
が再形成、染色体が脱凝縮、続いてで2つの娘細胞に分かれる

細胞死:アポトーシスと壊死

flowchart TD
  A["細胞死"]
  A --> B["アポトーシス:プログラム細胞死"]
  A --> C["壊死:病的な細胞死"]
  A --> D["制御されたネクローシス<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='necroptosis'>ネクロプトーシス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pyroptosis'>パイロトーシス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ferroptosis'>フェロトーシス</span>など<br>形態は壊死だが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Molecular Mechanisms'>分子機構</span>は制御されている"]
アポトーシス 壊死
性質 生理的・プログラムされた「能動的な」細胞死 病的・偶発的な「受動的な」細胞死(虚血・毒性など)
細胞・核の変化 細胞の萎縮、クロマチン凝集、核の、形成 細胞・の膨化、細胞膜の破綻
周囲への影響 炎症反応を起こさない(近隣細胞・マクロファージに速やかに貪食される) 細胞内容物が漏出し炎症反応を誘発
代表例 発生における間の水かき退縮、の選択()、正常な組織の 心筋梗塞、重度の熱傷・外傷

⚠️ 「アポトーシス=制御された死/壊死=制御されない死」というは、現在の分類では成立しない。 細胞死委員会(NCCD)の2018年勧告は、形態ではなくに基づいて制御された細胞死を細分し、内因性・外因性アポトーシスに加えて(RIPK3-MLKL経路)、(→ガスダーミンDによる)、(鉄依存性の)、MPT依存性ネクローシス、、エントーシス、NETotic細胞死、リソソーム依存性細胞死、オートファジー依存性細胞死、、、分裂期カタストロフィなどを定義している3。これらの多くは形態的には壊死に見える(膜が破れ内容物が漏れて炎症を起こす)のに、遺伝的にプログラムされている点が要点で、上の表の「壊死=受動的・偶発的」は虚血・熱傷のような偶発的壊死に限った説明として読む。

💡 アポトーシスが「周囲を巻き込まない」自己解体である一方、壊死は細胞膜が破れて内容物が漏れ出すため炎症を惹起する——この違いが、なぜ発生過程の正常な細胞除去(指の水かきの退縮など)はアポトーシスで静かに進むのに対し、梗塞や外傷による組織障害は炎症反応を伴うのかを説明する。なお「巻き込まない」のは静かだからではなく、片づけの合図が先に出るからである。平常時はによって細胞膜の細胞質側(内葉)に閉じ込められているが、アポトーシスがを活性化すると速やかに細胞表面へ反転露出し、これがに対する「私を食べろ(eat me)」シグナルになる4。内容物が漏れ出す前に隣接細胞・マクロファージが丸ごと飲み込む、という順序で押さえる。

まとめ

  • 細胞周期はG1・S・G2期からなると(有糸分裂)に分かれ、が損傷などを監視する。
  • G0期にとどまる(成熟ニューロン・など)は基本的に再分裂しない。ただし¹⁴C年代測定ではヒトは25歳で年約1%(75歳で0.45%)、海馬では片側あたり1日約700個の新生ニューロンという緩やかな入れ替わりが示されており、はゼロではなく「極めて遅い」。
  • 有糸分裂は・中期・後期・の4段階を経て、続くで2つの娘細胞になる。
  • アポトーシスは炎症を起こさないプログラム細胞死、壊死は膜破綻により炎症を誘発する病的細胞死である。が炎症を起こさないのは露出という「eat me」シグナルで漏出前に貪食されるため。
  • 制御された細胞死はアポトーシスに限らず、・・など「形態は壊死だがは制御されている」型がNCCD 2018で定義されている。

出典

  1. 1.Evidence for cardiomyocyte renewal in humans(Science・2009)冷戦期の核実験由来の炭素14がDNAに取り込まれることを利用してヒト心筋細胞の年齢を測ると、心筋細胞は25歳で年1%、75歳で年0.45%の割合で入れ替わり、生涯で交換されるのは全体の50%未満である閲覧 2026-08-24
  2. 2.Dynamics of hippocampal neurogenesis in adult humans(Cell・2013)炭素14年代測定により、成人ヒトでは海馬ニューロンの約3分の1が入れ替わる集団を構成し、片側海馬あたり1日約700個の新生ニューロンが加わる(入れ替わる集団の年1.75%に相当し、加齢による低下はわずか)閲覧 2026-08-24
  3. 3.Molecular mechanisms of cell death: recommendations of the Nomenclature Committee on Cell Death 2018(Cell Death and Differentiation・2018)細胞死命名委員会(NCCD)は形態ではなく分子機構に基づいて制御された細胞死を分類し、内因性アポトーシス・外因性アポトーシス・MPT依存性ネクローシス・ネクロプトーシス・フェロトーシス・パイロトーシス・パルタナトス・エントーシス・NETotic細胞死・リソソーム依存性細胞死・オートファジー依存性細胞死・免疫原性細胞死・細胞老化・分裂期カタストロフィを定義している閲覧 2026-08-24
  4. 4.An Apoptotic 'Eat Me' Signal: Phosphatidylserine Exposure(Trends in Cell Biology・2015)ホスファチジルセリンは通常フリッパーゼによって細胞膜の細胞質側(内葉)に限局しているが、アポトーシスがスクランブラーゼを活性化して速やかに細胞表面へ露出させ、貪食細胞に対する「eat me」シグナルとして働く閲覧 2026-08-24