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Disease Atlas · 消化器 · 腫瘍

腹膜偽粘液腫

Pseudomyxoma peritonei

臓器系
消化器腫瘍
科目
PathologyGynecology
トピック
病理学 C/41:虫垂・腹膜の病理婦人科 25:卵巣の良性腫瘍
鑑別疾患
癌性腹膜炎
続発疾患
イレウス・腸閉塞
治療薬
マイトマイシン
症状
腹部膨満

🧠 全体像は、腹腔内に粘液が大量に貯留する病態で、大半は虫垂の破裂・に由来する。かつては卵巣原発と考えられていたが、免疫染色と分子解析によって虫垂原発が大半であることが判明したという発見の経緯そのものが学習上の要点である。もう一つの核心は、組織学的異型は乏しいのに、粘液が腹腔を埋めて腸閉塞・で致死的になるという「良性に見えて致死的」というにあり、このゆえにとは扱いが異なる——完全で長期生存が期待できる、数少ない病態である。

病態:どこから来るか

flowchart TD
    A["虫垂<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mucinous neoplasms'>粘液性腫瘍</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-grade'>低異型度</span>〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade'>高異型度</span>)"] --> B["虫垂壁の菲薄化・破裂・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perforation (penetration)'>穿破</span>"]
    B --> C["粘液産生細胞が腹腔内へ播種"]
    C --> D["腹腔全体に粘液が蓄積"]
    D --> E["腸管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>・癒着"]
    E --> F["腸閉塞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malnutrition'>栄養障害</span>"]

⚠️ かつては卵巣原発と考えられていたが、免疫染色と分子解析によって虫垂原発が大半であることが判明した。 虫垂原発の腫瘍はCK20・CEA・CDX2陽性かつCK7・CA125陰性という免疫染色パターンを示し、これが卵巣由来(逆にCK7陽性・CK20陰性)と対照的であることが、を虫垂と特定する決め手になった1。卵巣にがみられても、それは虫垂の卵巣転移であることが多く、原発性卵巣と安易に判断しない。

なぜ「良性に見えて致死的」なのか

⚠️ の組織学的異型は乏しく、細胞そのものの悪性度は低い症例が多い。それでもなお致死的になりうるのは、粘液そのものが腹腔容積を物理的に占拠し、腸管を・癒着させて腸閉塞とを引き起こすためである。多くは症状に乏しいまま進行し、腹部膨満・腹水様の所見・腸閉塞という形で発見されたときにはすでに病期が進んでいることが多い1。この「ゼリー様腹水」という通称は、腫瘍細胞の悪性度ではなく粘液の量そのものが予後を左右するという病態の本質を言い当てている。

分類:PSOGI分類

旧来のRonnett分類は、微小異型にとどまる型(DPAM)と、所見を示す型(PMCA)のだったが、現行はこれを整理したPSOGI分類が標準である。

分類 特徴 5年2
無細胞性粘液 上皮成分を欠く粘液のみ 100%
の上皮細胞を伴う 93.6%
細胞が20%を超える 53.6%
成分(10%超)を伴う、最も予後不良 66.7%(無増悪生存はさらに不良)

このPSOGI分類の用語・組織学的定義はAJCC第8版・2019年改訂WHO分類にも採用されており、現行の標準分類である2同じ「」でも、無細胞性粘液からまで予後が大きく異なるため、病理報告のグレードを確認せずに一律の予後を語らない。

治療:CRS+HIPECが標準治療になる理由

⚠️ 手術+は、虫垂原発のに対する標準治療である3。これは全般における位置づけと対照的である。では、CRS+HIPECは上皮型腹膜の手術可能例や一部の厳選された大腸癌・卵巣癌症例に適応が絞られ、が基本となる病態が大半を占める。は、その中で完全減量できれば長期生存が期待できる数少ない病態であり、同じ「腹膜への播種」という見た目でも治療の重みづけが逆転する。

  • 使用薬剤は主にC3
  • 完全減量(残存腫瘍がない状態)を達成できるかどうかが長期生存の分かれ目であり、病変量・分布の術前評価がを左右する。
  • ・無細胞性粘液の症例ほど完全減量による治療効果が高い一方、の症例は同じCRS+HIPECを行っても予後が不良である2

まとめ

  • は腹腔内に粘液が大量貯留する病態で、大半が虫垂の破裂に由来し、CK7-/CK20+/CDX2+の免疫染色パターンから虫垂原発と判明した経緯を持つ(かつては卵巣原発と考えられていた)。
  • 組織学的異型は乏しいのに、粘液の物理的な腹腔占拠が腸閉塞・を招き致死的になりうる「良性に見えて致死的」な病態である。
  • 現行のPSOGI分類は無細胞性粘液・の4群からなり、AJCC第8版・WHO分類にも採用されている。グレードにより5年は100%から53〜67%まで幅がある。
  • 治療はCRS+HIPECが標準で、完全減量できれば長期生存が期待できる点が、一般のと最も異なる。

出典

  1. 1.Pseudomyxoma Peritonei(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)腹膜偽粘液腫はかつて虫垂粘液性嚢胞腺腫の穿破に由来すると考えられていたが、現在は虫垂を含む粘液産生性腫瘍の腹膜播種を指す語として広く用いられていること。虫垂原発の腫瘍はCK20・CEA・CDX2陽性かつCK7・CA125陰性を示すという免疫染色パターンで卵巣原発と区別できること。旧来のRonnett分類は微小異型のdisseminated peritoneal adenomucinosis(DPAM)と高異型度所見を示すperitoneal mucinous carcinomatosis(PMCA)に二分していたが、2016年のPSOGI分類は無細胞性粘液・低異型度・高異型度の各カテゴリーに整理し、印環細胞成分は予後不良のため別区分としたこと。多くは進行した病期になって初めて腹部膨満・腹水様所見・腸閉塞・栄養障害として症候性になること。標準治療は完全減量手術(CRS)+腹腔内温熱化学療法(HIPEC)であること。低異型度/DPAMの10年生存率63%に対し高異型度/PMCAは40.1%であること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Cytoreduction (CRS) and Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy (HIPEC)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)CRS-HIPECが腹膜偽粘液腫を含む虫垂粘液性腫瘍の腹膜播種に対する標準治療であること、虫垂原発の腹膜偽粘液腫にはマイトマイシンCが主に用いられること閲覧 2026-08-11
  3. 3.Survival outcomes according to the PSOGI classification in patients with pseudomyxoma peritonei(Pleura and Peritoneum・2023)PSOGI分類(無細胞性粘液・低異型度粘液性腹膜癌腫症・高異型度粘液性腹膜癌腫症・印環細胞を伴う高異型度)の用語・組織学的定義がAJCC第8版・2019年改訂WHO分類にも採用され現行の標準分類であること、5年全生存率が無細胞性粘液100%・低異型度93.6%・高異型度53.6%・印環細胞を伴う高異型度66.7%であったこと閲覧 2026-08-11