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Disease Atlas · 消化器 · 腫瘍

癌性腹膜炎

Peritoneal carcinomatosis

別名
腹膜播種腹膜転移
臓器系
消化器腫瘍
科目
PathologyGynecology
トピック
病理学 C/41:虫垂・腹膜の病理病理学 C/42:小腸・大腸の腫瘍婦人科 26:卵巣腫瘍の病因・臨床像・スクリーニング
鑑別疾患
腹膜偽粘液腫
続発疾患
イレウス・腸閉塞
関連疾患
線維形成性小円形細胞腫
治療薬
マイトマイシンシスプラチンオキサリプラチン
症状
腹水腹部膨満
画像所見
水腎症
スコア
腹膜癌指数(PCI)
原因となる疾患
胃癌大腸癌卵巣癌膵癌

🧠 全体像は、腹腔内臓器の癌がへ播種性に転移した状態である。原発は胃・大腸・虫垂・卵巣・膵が代表で、多くは(多くはStage IV)を意味し予後を規定する。機序は「漿膜浸潤→腹腔内への腫瘍細胞の脱落→腹膜表面への」という「種と土」の一本道で理解でき、その帰結として現れるのが・細胞診陽性の腹水である。臨床上のもう一つの要点は、による腸閉塞は単一部位ではなく多発性に起こりやすく、外科的解除が困難なことが多い点である。治療はが基本で、手術+は虫垂原発の・一部の大腸癌・という限られた病態にのみ適応が絞られる——「だから積極的なを」という短絡は誤りである。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発腫瘍</span>(胃・大腸・虫垂・卵巣・膵など)"] --> B["漿膜(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral peritoneum'>臓側腹膜</span>)への浸潤"]
    B --> C["腫瘍細胞が腹腔内へ脱落"]
    C --> D["腹膜液の流れに沿って腹腔内を移動"]
    D --> E["腹膜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesothelium'>中皮</span>への接着・浸潤(種と土)"]
    E --> F["腹膜表面の播種性結節・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater omentum'>大網</span>肥厚"]
    E --> G["腹膜からの滲出液増加"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exudate'>滲出性</span>・細胞診陽性の腹水"]
    F --> I["腸管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramural'>壁内</span>浸潤"]
    I --> J["多発性の腸閉塞"]
    F --> K["尿管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>"]
    K --> L["水腎症"]

の漿膜を突破した腫瘍細胞が腹腔内へ脱落し、腹膜液の流れに乗って腹腔内を移動したのち腹膜に接着・浸潤するという経腹腔播種が主要な機序である1。大腸癌では約30%が経過中に腹膜転移を来すとされ1大腸癌の転移順序(領域リンパ節→肝→肺→骨→腹膜)の最終段階として現れることが多い。卵巣癌では腹膜液の生理的な流れ(後方Douglas窩、、右横隔膜下、)に沿って播種する経路をとる。

腹水はの主症状で、・細胞診陽性である。による滲出に加え、腫瘍によるリンパ管閉塞も腹を助長する。は低値(門脈圧亢進を示唆する高値パターンとは逆)を示すのが典型である。

臨床像

  • 初発症状として腹水(約34%)と腸閉塞(約19%)が多く、その他に腹部膨満、体重減少、、非特異的な腹部不快感がみられる1
  • ⚠️ による腸閉塞は、癒着によるの機械性腸閉塞と異なり多発性に起こりやすく、外科的な解除が困難なことが多い。腹膜転移による悪性腸閉塞は小腸・大腸を問わず単一部位・多発部位いずれの形でも起こりうるが、閉塞部位がより(近位)であるほど外科手術がしない傾向がある2。1か所を解除しても別の部位で再閉塞するため、根治的な外科的アプローチより薬物療法(・分泌抑制薬・ステロイド)による症状緩和を優先する場面が多い。
  • 尿管の・浸潤により水腎症を来すことがあり、の原因として見落とされやすい。

診断

  • 造影CT:腹膜表面の軟部結節、限局性またはびまん性の腹膜肥厚、の肥厚、腹水が主要所見である1
  • 腹水細胞診で悪性細胞を認めれば診断的価値が高い。
  • :腹膜病変の量・分布を最も正確に評価でき、生検も同時に行える1
  • PCI(腹膜癌指数):腹腔を13領域に分け、各領域の病変径を0〜3点でスコア化し合算する定量指標(最大39点)で、病変の広がりをに表しの決定に用いる1の虫垂・大腸癌由来でPCIが20を大きく超える例では、多くの施設が根治的を推奨しない1

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peritoneal carcinomatosis'>癌性腹膜炎</span>の診断"] --> B{"原発と病変量は<br>CRS+HIPECの適応か"}
    B -->|"虫垂原発の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomyxoma peritonei'>腹膜偽粘液腫</span>"| C["CRS+HIPECが標準治療"]
    B -->|"上皮型腹膜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mesothelioma'>中皮腫</span>(手術可能)"| D["CRS+HIPECが第一選択"]
    B -->|"大腸癌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypovolemia'>低容量</span>病変・良好な全身状態"| E["厳選例でCRS+HIPECを検討"]
    B -->|"それ以外・高PCI・全身状態不良"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic chemotherapy'>全身化学療法</span>が基本"]
    C --> G["腸閉塞など合併症には<br>症状緩和を優先した個別対応"]
    D --> G
    E --> G
    F --> G

が基本である。の組織型に応じたレジメンを用い、多くの患者はこの枠組みで管理される。

⚠️ 手術+は、限られた病態にのみ適応が絞られる

病態 CRS+HIPECの位置づけ 主な薬剤
虫垂原発の・虫垂 標準治療
上皮型腹膜(手術可能例) 第一選択 シスプラチン(±
大腸癌の腹膜転移 PRODIGE 7試験以降は議論が続き、病変・良好な全身状態など厳選例に限定 または
卵巣癌の Stage III上皮性卵巣癌の中手術+HIPECでともに延長3 シスプラチン
胃癌の腹膜転移 エビデンス限定的、ごく一部の厳選例のみ

これらの適応外にある症例(高PCI、全身状態不良、胃癌の多くなど)にCRS+HIPECを行っても生存利益は乏しく、を継続するのが原則である4

⚠️ とは別の病態として区別する。 虫垂の・腺癌のにより腹腔内にゼリー状の粘液が貯留する疾患で、他臓器原発のとは生物学的性質・進行速度・CRS+HIPECへの反応性が異なり、同じ「」でも臨床的な扱いを混同しない。

まとめ

  • は腹腔内腫瘍のへの播種性転移で、原発は胃・大腸・虫垂・卵巣・膵が代表であり、多くはStage IVに相当し予後を規定する。
  • 機序は漿膜浸潤→腫瘍細胞の腹腔内脱落→腹膜への(種と土)で、腹水は・細胞診陽性という特徴を示す。
  • 腸閉塞は多発性に起こりやすく外科的解除が困難で、造影CT・腹水細胞診・・PCIで評価する。
  • 治療はが基本で、CRS+HIPECは虫垂原発の・一部の大腸癌・という限られた病態にのみ適応される。
  • は他臓器原発のとは別の病態として区別する。

出典

  1. 1.Peritoneal Surface Malignancies(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)腹膜表面悪性腫瘍は原発性腹膜腫瘍・腹膜偽粘液腫・消化器/婦人科原発からの癌性腹膜炎を含む異種性の腫瘍群であり大腸癌患者の約30%が経過中に腹膜転移を来すこと、腫瘍細胞が漿膜基底膜を突破し腹膜中皮に接着・浸潤する経腹腔播種(transcoelomic dissemination)が主な機序であること、初発症状として腹水(34%)と腸閉塞(19%)が多いこと、造影CTでは腹膜表面の軟部結節・限局性または びまん性の腹膜肥厚・大網肥厚(omental caking)・腹水がみられること、診断的腹腔鏡が腹膜病変量・分布の評価に最も正確であること、PCI(peritoneal cancer index)は腹腔を13領域に分け各領域の病変径をスコア化し最大39点となる定量指標であること、PCIが高度(高異型度の虫垂・大腸癌由来で20を大きく超える例)ではほとんどの施設が根治的減量手術を推奨しないこと閲覧 2026-08-11
  2. 2.Cytoreduction (CRS) and Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy (HIPEC)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)CRS-HIPECは腹膜偽粘液腫を含む虫垂粘液性腫瘍の腹膜播種に対する標準治療であること、上皮型腹膜中皮腫の手術可能例に対する第一選択治療であること、大腸癌の腹膜転移に対する適応はPRODIGE 7試験公表後に議論が続いており低容量病変・良好な全身状態などの厳選された症例に限られること、胃癌の腹膜転移に対するエビデンスは限定的でごく一部の厳選症例に適応が絞られること、虫垂原発にはマイトマイシンC、大腸原発にはマイトマイシンCまたはオキサリプラチン、卵巣癌にはシスプラチンがそれぞれ主に用いられること閲覧 2026-08-11
  3. 3.Prognostic Factors for Surgical Failure in Malignant Bowel Obstruction and Peritoneal Carcinomatosis(Frontiers in Surgery・2021)腹膜転移による悪性腸閉塞は小腸・大腸を問わず単一部位・多発部位いずれの形でも起こりうること、閉塞部位がより口側(近位)であるほど姑息的外科手術が奏効しない確率が高いこと閲覧 2026-08-11
  4. 4.Hyperthermic Intraperitoneal Chemotherapy in Ovarian Cancer(New England Journal of Medicine・2018)オランダ・ベルギー8施設のStage III卵巣癌245例を対象としたOVHIPEC-1試験で、中間期腫瘍減量手術にシスプラチンHIPEC(100mg/m2)を併用した群は手術単独群に比べ無増悪生存期間(14.2か月 対 10.7か月)・全生存期間(45.7か月 対 33.9か月)がいずれも延長したこと閲覧 2026-08-11