病理学

病理学 · C/41

虫垂・腹膜の病理

Vermiform appendix and peritoneum

タグ
High-yield / ポイント
応用トピック
急性虫垂炎妊娠に合併する外科疾患(虫垂炎・腸閉塞・胆石症)腹膜炎の診断と治療急性虫垂炎の診断と治療腹膜炎と消化管穿孔急性虫垂炎
疾患
癌性腹膜炎腹膜偽粘液腫
症状
腹水
画像所見
大網肥厚
スコア
腹膜癌指数

🧠 全体像:虫垂炎は「内腔閉塞→内圧上昇→→」という一本の連鎖で進行し、この順序がそのまま早期・化膿性・というに対応する。腹膜・腹水の病態は「腹腔に何が漏れ出たか(膿・胆汁・血液など)」で原因とを読み解くと理解しやすい。

A)虫垂の病理

急性虫垂炎

発生機序:

  • 閉塞:(便でできた結石)、胆石、腫瘍、虫の塊
  • 閉塞+粘液液の分泌 → 内腔圧の上昇 → 排流静脈の虚脱
  • 閉塞+虚血傷害 → +浮腫+滲出
flowchart TD
    A["虫垂内腔の閉塞<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecalith'>糞石</span>・胆石・腫瘍・虫塊)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucus secretion'>粘液分泌</span>の持続<br>内腔圧の上昇"]
    B --> C["排流静脈の虚脱"]
    C --> D["虚血傷害"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial growth'>細菌増殖</span>+浮腫+滲出"]

形態 — 3段階:

  1. 急性早期虫垂炎:フィブリンに覆われた粘膜のびらん、漿膜が鈍く、、赤くなる
  2. 急性化膿性虫垂炎:の膿瘍形成++巣
  3. 急性虫垂炎:広範な出血性潰瘍+壁から漿膜に及ぶ緑黒色の壊死

臨床:

虫垂の腫瘍

(。最も多い虫垂腫瘍とされる)

  • 腸クロム親和(神経内分泌)細胞から生じる
  • すべてのは潜在的に悪性(浸潤・転移しうる)
  • 虫垂炎で切除された虫垂で偶発的に発見されることが多い
  • 💡 「」は旧い呼び名である。 消化器腫瘍分類第5版(2019)は、どの部位でもを高分化の(NET、G1〜G3)と低分化の(NEC)に分けて呼ぶ。虫垂に特有の「」も、神経内分泌成分が少ないことから腺癌へ改称された1。教科書・過去問の「」は、おおむね高分化のNETを指している
  • ⭐ 大きさでが変わる。 欧州15か国・40施設で完全切除された1〜2cmの虫垂NET 278例を統合したでは、のみの群と追加の切除(リンパ節郭清を伴う)群とで全生存率に有意差はなく(調整0.88)、遠隔転移は278例中、2例・2例(いずれも約1%)と少数にとどまり、いずれも診断時にすでに存在していた。切除を受けた例の20%(112例中22例)にはリンパ節転移が見つかったが、著者らはこれを臨床的に意味のないものと判断し、で完全切除された1〜2cm病変には切除は適応でないとしている2

  • 腫瘍ではない、による虫垂内腔の拡張
  • 非腫瘍性の閉塞(通常はに関連)による

  • 教科書的な:良性=、悪性= → 壁を越えて腹腔内に広がる →
  • ⚠️ 現行の用語はこのと違う。 腹膜表面腫瘍の国際グループ(PSOGI)の2016年の合意では、「」の語はもう推奨せず、(LAMN)という語を支持し、周囲組織へ入り込む浸潤を欠くが高度の細胞異型を示すものに(HAMN)を新設した。「」は周囲組織へ入り込む浸潤を示す病変に限って使う3。
  • 💡 は「癌が播種したもの」とは限らない。 同じ合意はを「現象を特徴とするによる腹腔内の粘液貯留」と定義し、通常は虫垂のから生じるとしたうえで、・・を伴うの3区分に分け、細胞を含まない粘液()は別に扱う3。浸潤癌でないの腫瘍でも、虫垂から漏れた粘液と腫瘍細胞が腹腔内に広がりうる。
  • ⭐ の多くは虫垂原発であり、卵巣原発ではない。 オランダの全国病理データベースを用いた10年間・167,744件の研究では、のうち原発部位が同定できた症例の82%が虫垂原発だった(卵巣は少数派)。同じ研究で上皮性腫瘍は虫垂検体の0.3%(旧来の区分で良性73%・悪性27%)に見つかり、そのうち20%がへ進展したことも示された4

B)腹膜の病理

急性腹膜炎

気腹

腹水

  • 腹腔内への過剰な液体の貯留
  • 500 mL以上で臨床的に検出可能、数リットルに達し腹部の著明な膨満を来しうる
  • 漿液:タンパクは 3 g/dL 未満程度(主にアルブミン)、電解質濃度は血液と同じ
  • 液体分析:
    • 好中球 → 感染。好中球数が 250/µL を超えるとと診断する(同じ指針は培養陰性例の記述では「250以上」と書く。培養陽性は必須でなく、250以上で培養陰性の例も同じように治療する)。総蛋白が 1.5 g/dL 未満の腹水は、を起こしやすい危険因子とされる5
    • 赤血球 → 播種性腹腔内癌の可能性。の鑑別には細胞診を行う5
    • 血清-腹水アルブミン勾配(SAAG):原因がはっきりしないときに「 − 腹水アルブミン」を計算し、1.1 g/dL 以上なら門脈圧亢進が腹水のに関わる(精度約97%)と読む5
  • 長期の腹水 → 胸水、典型的には右側。は、右側に多い横隔膜の小さな欠損を通って、吸気時ので腹水が胸腔へ引き込まれて生じる5
  • 最多原因:肝硬変・重度肝疾患または心不全 → 静脈圧上昇++Na⁺貯留 → 門脈圧亢進 → 腹水。西欧では腹水の約80%が肝硬変によるもので、残りを悪性腫瘍・心不全・結核・膵疾患などが占める5

腹膜の腫瘍

⚠️ は悪性腫瘍である。 元の一覧はを良性側に置いていたが、これは誤りで、腹膜の由来の良性病変は腺腫様腫瘍と高分化瘍のほうである。後者は以前「高分化」と呼ばれていたが、びまん性へ進展しうる例があることから、 は「」という語に改めている。

💡 ポイント: 虫垂炎 = 閉塞、3段階(早期 → 化膿性 → )。(現行名は)= 最多の虫垂腫瘍、潜在的に悪性、。 = 虫垂の(のLAMNを含む)に由来する腹腔内の粘液貯留。腹膜炎:+線維素化膿性滲出物、高死亡率。腹水:好中球 = 感染(250/µL超で)、赤血球 = 癌、SAAG 1.1 g/dL以上 = 門脈圧亢進、最多原因 = 肝硬変。 = 臓器穿孔。

まとめ

  • はなどによる内腔閉塞→内圧上昇→静脈虚脱→という連鎖で進行し、早期→化膿性→の順に重症化する。
  • 虫垂の最多腫瘍は(現行名は。潜在的悪性、)。虫垂のは現在、(LAMN)・(HAMN)・浸潤性のに分けて呼ばれ、浸潤癌でないLAMNからもが生じうる。
  • は細菌性(臓器穿孔など)・化学性(胆汁・膵液・胃液・血液)に大別され、線維素化膿性滲出物とともにを呈し死亡率が高い。
  • の最多原因は腹部臓器の穿孔。
  • 腹水の液体分析:は感染(250/µL超で)、赤血球優位は播種性腹腔内癌を示唆し、SAAG 1.1 g/dL以上は門脈圧亢進の関与を示す。最多原因は肝硬変・重度肝疾患による門脈圧亢進。
  • 腹膜のは稀で、大部分は胃・膵・結腸・卵巣からの()である。

出典

  1. 1.The 2019 WHO classification of tumours of the digestive system(Histopathology・2020)WHO消化器腫瘍分類第5版(2019)の要約で、神経内分泌腫瘍をすべての部位で高分化の神経内分泌腫瘍(NET、G1〜G3)と低分化の神経内分泌癌(NEC)に分けたこと、虫垂の杯細胞カルチノイド(goblet cell carcinoid/carcinoma)を、神経内分泌成分が少ないことから杯細胞腺癌(goblet cell adenocarcinoma)へ改称したことを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Hemicolectomy versus appendectomy for patients with appendiceal neuroendocrine tumours 1-2 cm in size: a retrospective, Europe-wide, pooled cohort study(The Lancet Oncology・2023)欧州15か国・40施設で2000〜2010年に完全切除された1〜2cmの虫垂神経内分泌腫瘍278例を統合した後ろ向きコホート研究で、虫垂切除のみの群(163例)と追加の右側結腸切除(オンコロジー的郭清)を行った群(115例)とで全生存率に有意差はなく(調整ハザード比0.88、95%CI 0.36-2.17)、遠隔転移は278例中2例(腹膜)と2例(肝)にとどまり、いずれも診断時にすでに存在していた。右側結腸切除後のリンパ節転移は112例中22例(20%)に見つかったが、追加切除は生存に寄与しないと結論した閲覧 2026-08-27
  3. 3.A Consensus for Classification and Pathologic Reporting of Pseudomyxoma Peritonei and Associated Appendiceal Neoplasia: The Results of the Peritoneal Surface Oncology Group International (PSOGI) Modified Delphi Process(The American Journal of Surgical Pathology(Peritoneal Surface Oncology Group International)・2016)抄録で、腹膜偽粘液腫は通常は虫垂の粘液性腫瘍から生じること、「粘液性腺癌」は浸潤性(infiltrative)の浸潤を示す病変に限って用い、「嚢胞腺腫(cystadenoma)」の語はもはや推奨しないこと、低異型度虫垂粘液性腫瘍(LAMN)の語を支持し、浸潤性の浸潤を欠くが高度の細胞異型を示す病変に高異型度虫垂粘液性腫瘍(HAMN)を新設したこと、腹膜偽粘液腫を低異型度・高異型度・印環細胞を伴う高異型度の3区分とし、無細胞性粘液は別に分類することで合意したことを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.Appendiceal neoplasms and pseudomyxoma peritonei: A population based study(European Journal of Surgical Oncology (EJSO)・2008)オランダの全国病理データベースを用いた1995〜2005年の10年間・虫垂切除167,744件の集団ベース研究で、粘液性上皮性腫瘍は虫垂検体の0.3%(73%良性、27%悪性)に見つかり、そのうち20%が腹膜偽粘液腫へ進展した。腹膜偽粘液腫267例のうち原発部位が同定できたのは68%で、そのうち82%は虫垂が原発であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.EASL Clinical Practice Guidelines for the management of patients with decompensated cirrhosis(European Association for the Study of the Liver・2018)本文PDF(KU Leuven リポジトリ版)の「Evaluation of patients with ascites」「Diagnosis of ascites」「Hepatic hydrothorax」節で、西欧では腹水の約80%が肝硬変によること、腹水の好中球数250/µL超で特発性細菌性腹膜炎と診断すること(II-2;1。培養陰性例の記述では「≥250」と書き、同様に治療するとしている)、総蛋白1.5 g/dL未満は特発性細菌性腹膜炎の危険因子とされること、原因が明らかでないときは血清-腹水アルブミン勾配(SAAG)を計算し、1.1 g/dL以上なら門脈圧亢進の関与を約97%の精度で示すこと、悪性腹水の鑑別には細胞診を行うこと、肝性胸水は主に右側に多い横隔膜の小欠損を通って腹水が胸腔へ移動して生じることを確認した閲覧 2026-09-24