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Disease Atlas · 消化器 · 病態

機能性ディスペプシア

Functional dyspepsia

別名
FD機能性胃腸症
臓器系
消化器
科目
PharmacologyInternal Medicine
トピック
薬理学 B24:制吐薬・消化管運動促進薬内科学 S-27:胃炎内科学 G-04:大腸疾患と機能性消化管疾患
鑑別疾患
胃炎胃食道逆流症胃不全麻痺過敏性腸症候群消化性潰瘍
治療薬
アコチアミドボノプラザンビスマステトラサイクリンメトロニダゾールアモキシシリンクラリスロマイシンファモチジンアミトリプチリンイトプリドメトクロプラミドドンペリドン
原因微生物
ヘリコバクター・ピロリ
症状
早期満腹感腹痛悪心
スコア
Rome IV基準
適応薬
アコチアミドドンペリドン

🧠 全体像:は「内視鏡で異常が見つからないのに上腹部症状が続く」病態で、により(PDS)と(EPS)の2型に分けてする。診療の幹は、①と年齢で内視鏡の要否を先に決める、②症状発症が診断の6か月以上前で直近3か月基準を満たすという時間規定を守る、③治療はH. pylori除菌→酸分泌抑制→抗うつ薬→(・)という順に進める、の3段階である。

定義とRome IV基準

、、、のいずれか1つ以上が持続し、器質的疾患を検査で除外できることが前提になる。日本の診療では「」という単一の病名で扱われることが多いが、Rome IVは症状パターンで2つの型に分ける。

型 頻度の目安
(PDS) 通常の食事量を食べきれないほどの、または 週3日以上
(EPS) 日常生活に支障をきたすほどのまたは(排便・で軽快しない) 週1日以上

両者は排他的でなく、実地臨床では重複例が珍しくない1。

⭐ 時間規定を必ず確認する。 症状発症が診断の6か月以上前にあり、直近3か月は上記基準を満たしていることが要件で、発症したばかりの症状には適用しない1。

病態

、胃の、、十二指腸の・、*H. pylori*感染、が複合して症状を作る、単一機序に還元できない病態である。PDSは・と、EPSはとの関連がやや強いとされるが、厳密に一対一対応するわけではない。

flowchart TD
    A["胃・十二指腸の複数機序"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired gastric accommodation'>適応性弛緩障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed gastric emptying'>胃排出遅延</span>"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral hypersensitivity'>内臓知覚過敏</span>"]
    A --> D["十二指腸の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microinflammation'>微小炎症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eosinophilic infiltration'>好酸球浸潤</span>"]
    A --> E["H. pylori感染"]
    A --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychosocial factors'>心理社会的要因</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain-gut axis'>脳腸相関</span>の破綻"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postprandial fullness'>食後膨満感</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early satiety'>早期満腹感</span><br>(PDS)"]
    C --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epigastric pain'>心窩部痛</span>・灼熱感<br>(EPS)"]
    D --> H
    E --> G
    E --> H
    F --> G
    F --> H

診断アプローチ

⚠️ ではなくだが、年齢との評価が前提。 消化管出血、貧血、体重減少、嚥下障害・、、、悪性腫瘍の家族歴といったは、器質的疾患を疑う手がかりとして必ず確認し、単純にを当てはめない。ただし、それをどこまで内視鏡に直結させるかは指針によって違う。

  • 米国・カナダの/CAG 2017は年齢を主軸に置き、60歳以上のには器質的疾患の除外のためを条件付きで提案する(胃癌の多い国で幼少期を過ごした人や家族歴のある人では、より若い年齢での内視鏡も考慮しうる)。一方、60歳未満ではがあっても自動的に内視鏡へ進めず、個別に判断するとしている2。
  • 英国の 2022は、他の症状が無い場合の緊急内視鏡を「体重減少を伴うの55歳以上」と「胃癌の多い地域の出身か食道胃癌の家族歴をもつ40歳超」に絞り、55歳以上の治療抵抗性や、・悪心・嘔吐を伴う場合は非緊急の内視鏡を考慮するとしている。年齢を問わず嚥下障害は緊急内視鏡の対象である(英国の紹介基準)3。
  • 60歳未満であれば、内視鏡を先行させずにH. pylori非侵襲検査(・・血清抗体)から始めてよい2。
  • 内視鏡を行う場合、胃炎・消化性潰瘍・悪性腫瘍などの器質的疾患が見つかればとは呼ばない。が症状の説明にならない軽微な所見(軽度の発赤など)だけでは器質的疾患と扱わない。

治療

⚠️ H. pylori陽性ならが最初の一手である。 除菌そのものが症状を改善させる一群が存在し、消化性潰瘍などと異なり唯一治癒的たりうる肢という位置づけを持つ。の2024年ガイドラインは、未治療で抗菌薬感受性が不明な例の推奨レジメンを14日間のとし、ペニシリンアレルギーが無ければまたは()二剤療法の14日間を経験的な代替として挙げている4。の構成は、・・テトラサイクリン・メトロニダゾールである5。アモキシシリンとを組み合わせるは感受性が判明している集団の選択肢である。欧州のMaastricht VI/Florence合意(2022)は、個別のが利用できない場合、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をとし(治療WG Statement 2、合意率92%、Grade B1)、それも使えなければ非含有の併用四剤療法を考慮しうるとしている。(++アモキシシリン)を用いるのは、局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合に限られる5。韓国の2025年版ガイドラインを解説した総説も、耐性率が30%を超えて一次治療に求められる intention-to-treat 除菌率80%に届かなくなったことを、を経験的一次治療から外した理由に挙げている6。

⚠️ ただし日本では今もが一次除菌の標準である。 日本ではが使用できないため四剤療法が選択される機会は限られており、日本ヘリコバクター学会2024年版はを行わない一次除菌に「+アモキシシリン+」または「+アモキシシリン+メトロニダゾール」を強く推奨している(合意率90.5%、エビデンスの確実性A)7。日本の率は30%以上でどの地域でも15%以上だが、メトロニダゾール耐性率が低いという地域特性がこの推奨を支えている7。「は退場した」は地域を限定せずに言える主張ではない。

💡 「最適化」は既治療例の言葉である。 が「最適化」を冠したを優先するのは、除菌に失敗して感染が持続している患者のうち、最適化をまだ受けておらず感受性も不明な例に対してであって、未治療例の一次治療は無印のである。同じく・を含むレジメンをが感受性確認例に限っているのはについての推奨で、一次治療の記述ではない4。

治療は次の順で組み立てる。

  1. H. pylori陽性なら(上記レジメン)。
  2. 陰性、または除菌後も症状が残る場合はの経験的投与(4〜8週間)。(など)を代替とすることもある。
  3. 改善しなければ(低用量など)を追加。特にEPSで選択されやすい。
  4. さらに(、、)を、特にPDSで検討する2。

💡 承認と臨床使用は別である。 は、日本で「」という病名そのもので承認されている唯一の薬(2013年承認、効能効果は・・で、により胃のを改善する。EPSへの有効性は確立しておらず、特にPDS向けの位置づけを持つ)。一方、・はという病名では承認されておらず(は「における消化器症状」などが承認病名)、臨床使用としてに用いられる位置づけである。

胃食道逆流症・過敏性腸症候群との役割分担

⭐ 3つのは同じ患者が複数の基準を満たすことが多く、症状の局在と時間パターンで一次的に切り分ける。

疾患 症状の主座 特徴的なパターン
上腹部() 食後膨満・(PDS)または・灼熱感(EPS)。排便との関連が乏しい
〜 ・。仰臥位・夜間で増悪
下腹部・腸全体 腹痛が排便に関連し、(・)を伴う

が主体ならGERD、排便に関連した腹痛とが主体なら、それ以外の上腹部症状が主体ならという順で考えるが、重複例では両方の診断・治療を並行することが多い。

まとめ

  • はでPDS・EPSの2型に分け、症状発症6か月以上前・直近3か月基準を満たすという時間規定を守ってする。
  • 60歳以上では内視鏡で器質的疾患を除外する(/CAG)。60歳未満のは個別に判断し、英国は体重減少を伴う55歳以上や嚥下障害を緊急内視鏡の対象とする。
  • 治療はH. pylori除菌→→→の順。除菌はFDにおける数少ない治癒的介入である。
  • GERD・とは症状の主座と時間パターンで役割分担するが、重複は珍しくない。

出典

  1. 1.Rome IV Criteria(The Rome Foundation・2016)機能性ディスペプシアのRome IV基準として、食後愁滿症候群(PDS)は週3日以上の食後膨満感または早期満腹感、心窩部痛症候群(EPS)は週1回以上の心窩部痛または心窩部灼熱感を要件とし、いずれも器質的疾患が除外されていること、症状発症が診断の6か月以上前で直近3か月は基準を満たしていることを確認した。閲覧 2026-08-12
  2. 2.ACG and CAG Clinical Guideline: Management of Dyspepsia(American College of Gastroenterology (ACG) / Canadian Association of Gastroenterology (CAG)・2017)抄録(Europe PMC)で確認した。60歳以上のディスペプシアには器質的疾患の除外のため上部消化管内視鏡を条件付きで提案し(胃癌高リスク国で幼少期を過ごした人や家族歴のある人ではより若い年齢での内視鏡も考慮しうる)、60歳未満では警告徴候があっても自動的に内視鏡へ進めず個別に検討するとしていること。60歳未満はまずH. pylori非侵襲検査を行い陽性なら除菌治療、陰性または無効ならPPIの試行、それでも改善しない例に三環系抗うつ薬または消化管運動促進薬へ進む段階的方針であること閲覧 2026-08-12
  3. 3.British Society of Gastroenterology guidelines on the management of functional dyspepsia(Gut(British Society of Gastroenterology)・2022)全文(PMC9380508)で確認した。ほかに上部消化管の警告症状・徴候が無い場合、緊急内視鏡が必要なのは体重減少を伴うディスペプシアの55歳以上、または胃癌リスクの高い地域出身か食道胃癌の家族歴をもつ40歳超に限られるとし(強い推奨、エビデンスの質は非常に低い)、55歳以上の治療抵抗性ディスペプシアや、血小板増多・悪心・嘔吐を伴うディスペプシアでは非緊急の内視鏡を考慮するとしていること(強い推奨)。Box 1が英国NICEの紹介基準として、年齢を問わない嚥下障害を緊急内視鏡の対象に挙げていること閲覧 2026-09-24
  4. 4.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)抄録のみ閲覧(誌上版本文は取得できず)。未治療で抗菌薬感受性が不明な例では14日間のビスマス四剤療法が推奨レジメンで、ペニシリンアレルギーの無い患者ではリファブチン三剤療法またはP-CAB二剤療法の14日間が経験的代替となること。「最適化」ビスマス四剤療法が優先されるのは既治療の持続感染例であること。クラリスロマイシンまたはレボフロキサシンを含むサルベージレジメンは感受性が確認された場合にのみ用いるとされること。ビスマス四剤療法の構成薬の列挙と、除菌判定の待機期間の数値は抄録に無い閲覧 2026-08-12
  5. 5.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group ほか、29か国41名の専門家)・2022)リポジトリ版(repositorio.uam.es)から全文PDFを取得して確認した。取得できたのは Gut 2022;0:1-39 と表記されるonline-first 版で、誌上版 71(9):1724-1762 とはページ番号が異なる。H. pylori 感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、原則として感染者全員が治療対象になる。診断ワーキンググループのStatement 9は「Clarithromycin susceptibility testing, if available through molecular techniques or culture, is recommended before prescribing any clarithromycin containing therapy.」(合意率91%、Grade A1)で、分子生物学的手法または培養による感受性検査が利用できる場合という条件つきの推奨である。治療ワーキンググループのStatement 2(合意率92%、Grade B1)は、個別の感受性検査が利用できない場合、クラリスロマイシン耐性率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をビスマス四剤療法とし、それも利用できなければビスマス非含有の併用(concomitant)四剤療法を考慮しうるとする。図1の凡例はビスマス四剤療法をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾール、クラリスロマイシン三剤療法をPPI・クラリスロマイシン・アモキシシリンと定義し、後者は局所で有効性が示されているかクラリスロマイシン感受性が判明している場合にのみ用いるとする。治療Statement 1(Grade D2)は一次治療前でも感受性検査をルーチンに行うことを reasonable とするが、原文自身が「そのような感受性検査に基づく戦略を日常診療で一般的に用いることの妥当性はまだ確立されていない」と続けている。なおMethodsの定義により、Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1強い/2弱い)を表す閲覧 2026-09-08
  6. 6.Treatment of Helicobacter pylori Infection in Korea: An Evidence-Based Analysis of the Upcoming 2025 Guideline(The Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2026)全文を確認した。ビスマス四剤療法(BQT)の構成をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾールと明記していること。クラリスロマイシン耐性率が15%を超える地域では感受性検査なしの三剤療法を一次治療として推奨しないこと閲覧 2026-09-08
  7. 7.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第2章「治療」(日本ヘリコバクター学会・2024)第2章「治療」のPDF全文を確認した。総論は、本邦のクラリスロマイシンの耐性菌率は30%以上であり本邦のどの地域でも15%以上であることから、本来であればMaastricht VI/Florence consensus reportに基づくとビスマス製剤を含む4剤療法が適切な推奨レジメンとなるが、本邦ではビスマス製剤を使用することができないと述べる。CQ2-5は、本邦で一次除菌治療に感受性検査をしないときはボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン、またはPPI+アモキシシリン+メトロニダゾールのいずれかを推奨する(推奨の強さ「強い」、合意率90.5%、エビデンスの確実性A)閲覧 2026-09-08