内科学

内科学 · S-27

胃炎

Gastritis

前提:病態
胃炎カンピロバクター属とヘリコバクター・ピロリ
前提:正常
唾液腺の機能と胃液分泌の調節
疾患
リンパ球性胃炎胃炎機能性ディスペプシア
検査値
ガストリン

🧠 全体像:胃炎は病理学的な炎症であり、上腹部症状だけのとは同義でない。急性びらん性/出血性、Helicobacter pylori胃炎、自己免疫性などを、病歴・内視鏡・生検と非侵襲的検査で区別する。

病型と特徴

病型 主な原因・部位 重要な帰結
急性びらん性/出血性 、アルコール、重症ストレス、虚血;が主体 上腹部痛、悪心、・
H. pylori胃炎 前庭部優位から全胃炎(pangastritis)/萎縮へ 消化性潰瘍、MALTリンパ腫、胃癌リスク
・の障害、 鉄欠乏、ビタミンB12欠乏・、1型胃NET(確立)1、腺癌リスクは議論あり2
化学性/ 胆汁逆流、など 、炎症は軽いこともある

💡 病型を並べたら、次は「どこまで萎縮が進んだか」を病期で表す。 京都分類(2015年の胃炎国際コンセンサス)は胃炎・十二指腸炎を病因別に分類し直してICD-11に反映させると同時に、胃癌のためのグレーディングシステムの採用との使用を推奨した3。その代表がOLGAで、萎縮の程度(生検スコア)と分布(前庭部A・Cのマッピング)を統合して0〜IV期に分ける。外来439例の前向き研究では、良性病態は0〜II期に、腫瘍性病変(浸潤癌・とも)はIII〜IV期に集まった(いずれもp<0.001)4。で同じことを行うのがOLGIMである。

⚠️ の「腺癌リスク」は確定した話ではない。 1型胃NETは確立した合併症で、367例中9例(2.4%)が診断時にすでに保有し、追跡214例では年間0.4%/人年で新規発生した1。一方、血清・組織・分子生物学的にH. pylori陰性を確認した211例を平均7.5年(10,541人年)追跡した研究では、一般人口と比べた胃癌の過剰リスクが認められず、従来報告されてきたリスク上昇は認識されていないH. pylori既往・併存で説明できる可能性が指摘された2。「=腺癌リスク」と単純に暗記せず、NETは確立・腺癌は議論中と分けて覚える。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dyspepsia'>ディスペプシア</span>/貧血/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal bleeding'>上部消化管出血</span>"] --> B{"出血・体重減少・嚥下障害などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alarm feature'>警告徴候</span>"}
    B -->|"あり"| C["上部内視鏡+適切な生検"]
    B -->|"なし"| D["年齢・地域リスクに応じH. pylori非侵襲検査"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urea breath test (UBT)'>尿素呼気試験</span>または便抗原"]
    E --> F{"陽性"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eradication therapy'>除菌治療</span>+治癒確認"]
    F -->|"いいえ"| H["症状別に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>などを検討"]

自己免疫性が疑われる場合は、鉄、ビタミンB12、、/を評価する。血清H. pylori抗体は既感染と現感染を区別しにくく、治癒判定に使わない。

治療

  • 、アルコール、喫煙など原因を除き、必要に応じでを促す。継続が必要ならリスクに応じ胃保護を行う。
  • H. pylori陽性は全例治療する5。ACG 2024は、未治療例で感受性が不明なら14日間の(BQT)を推奨レジメンとし、ペニシリンアレルギーの無い例では14日間のまたは二剤療法を経験的な代替に挙げる6。個別のができない場合、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療はであり、は局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合にのみ用いる5。
  • 全例で除菌後の治癒確認を行う6。日本ヘリコバクター学会のガイドラインは、を薬の内服終了後4週以降にまたはモノクローナル抗体を用いた測定で行うとし、ウレアーゼ活性に影響する薬剤(・)は少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上中止することが望ましいとしている7。
  • ではB12・鉄欠乏を補充し、リスクに応じを個別化する。

💡 「全感染者を治療する」は近年の転換点である。 H. pylori感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、症状や潰瘍の有無にかかわらず原則として感染者全員が治療対象になった5。京都コンセンサスも、前腫瘍性変化(萎縮・)が生じる前の除菌を推奨している3。

⚠️ が退いたのは耐性率の上昇による。 欧州のMaastricht VI/Florence合意(2022)は、個別のが利用できない場合、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をとし(治療WG Statement 2、合意率92%、Grade B1)、それも使えなければ非含有の併用四剤療法を考慮しうるとしている。(++アモキシシリン)を用いるのは、局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合に限られる5。同合意はまた、または培養でが利用できるなら、を含むレジメンを処方する前に感受性を確認すべきとしている(診断WG Statement 9、合意率91%、Grade A1)5。⚠️ Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1=強い/2=弱い)を表す。 韓国の2025年版ガイドラインを解説した総説は、一次治療として認められるには intention-to-treat 除菌率80%以上が要るという線引きを挙げ、耐性率が30%を超えた韓国ではがこれに届かないとしている8。米国の 2024は未治療例で感受性が不明なら14日間の(BQT)を推奨レジメンとする6。BQTの構成は・・テトラサイクリン・メトロニダゾールである5。旧来の「+アモキシシリン+7〜14日」は、低リスク例か感受性が確認できた場合の選択肢に格下げされたと理解する5。⚠️ ただしこれは地域を限定せずに言える話ではない。 日本ではが使用できず四剤療法の選択機会が限られるため、日本ヘリコバクター学会2024年版はを行わない一次除菌に+アモキシシリン+または+アモキシシリン+メトロニダゾールを強く推奨している(合意率90.5%、エビデンスの確実性A)9。

💡 「最適化BQT」は既治療例に使う語である。 2024が最適化BQTの14日間を優先するとしているのは、除菌に失敗して感染が持続している例のうち、最適化BQTをまだ受けておらず感受性も不明な患者であって、未治療例の一次治療ではない(未治療例には無印のBQTが置かれている)。すでに最適化BQTを受けた例には14日間のが経験的な代替となる。⚠️ やを含むレジメンの使用制限も、では救済レジメンについて述べられたものであって、一次治療の話ではない6。

⚠️ 除菌しても胃癌リスクはゼロにならない。 日本の除菌成功例59,274例の全国コホートでは、除菌1年以降に649例(1.44%)が胃癌を発症し、5年は1.47%だった。男性・除菌時高齢が危険因子で、では喫煙のみが独立した危険因子だった(調整1.37、95%CI 1.05〜1.78)10。除菌はの終了理由にならない——とくに萎縮・が進んだ(OLGA/OLGIM高病期の)症例では追跡を続ける。

まとめ

  • 胃炎は組織学的炎症で、そのものではない。
  • H. pyloriはを検査し、除菌後に必ず治癒確認する。
  • では鉄・B12欠乏と胃NET/癌リスクを評価する。

出典

  1. 1.Development of type I gastric carcinoid in patients with chronic atrophic gastritis(Alimentary Pharmacology & Therapeutics・2011)慢性萎縮性胃炎367例のうち9例(2.4%)が萎縮性胃炎診断時にすでに1型胃カルチノイドを有し、2年以上追跡した214例では1,463人年で6例が新たに発生して年間発生率は0.4%/人年だった閲覧 2026-08-25
  2. 2.Autoimmune gastritis: long-term natural history in naïve Helicobacter pylori-negative patients(Gut・2023)血清・組織・分子生物学的検査で一貫してH. pylori陰性と確認された自己免疫性胃炎211例を平均7.5年追跡し、1型神経内分泌腫瘍(初回10例、追跡時11例)は常に広範な酸分泌腺萎縮とECL細胞の腺腫様過形成・異形成を伴った。一方、累積10,541人年の追跡で一般人口と比べ胃癌その他の悪性腫瘍の過剰リスクは認められず、これまで報告されてきた胃癌リスク上昇は認識されていないH. pyloriの既往・併存で説明できる可能性が指摘された閲覧 2026-08-25
  3. 3.Kyoto global consensus report on Helicobacter pylori gastritis(Gut・2015)慢性胃炎・十二指腸炎の分類、H. pylori起因のディスペプシアと機能性ディスペプシアの臨床的区別、胃炎の診断評価、H. pylori胃炎を「いつ・誰に・どう治療するか」の4領域22の臨床設問に対し、合意率80%超で24のステートメントをまとめた初の胃炎の国際コンセンサス。病因に基づく胃炎・十二指腸炎の新分類をICD-11向けに提案し、「H. pylori関連ディスペプシア」という新カテゴリーと診断アルゴリズムを設け、胃癌リスク層別化のためのグレーディングシステムと画像強調内視鏡の採用を推奨した。前腫瘍性変化が生じる前にH. pyloriを除菌することを推奨している閲覧 2026-08-25
  4. 4.Gastritis staging in clinical practice: the OLGA staging system(Gut・2007)萎縮スコアと萎縮の分布(前庭部Aと胃体部Cの生検マッピング)を統合して胃炎を0〜IV期に病期分類するOLGAシステム。ディスペプシア外来患者439例の前向き横断研究で、十二指腸潰瘍を含む良性病態は0〜II期に集まり、浸潤癌・非浸潤性を含むすべての腫瘍性病変はIII〜IV期に集まった(いずれもp<0.001)。H. pylori感染状態と組み合わせることで予後・治療・管理に直結する情報が得られる閲覧 2026-08-25
  5. 5.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group ほか、29か国41名の専門家)・2022)リポジトリ版(repositorio.uam.es)から全文PDFを取得して確認した。取得できたのは Gut 2022;0:1-39 と表記されるonline-first 版で、誌上版 71(9):1724-1762 とはページ番号が異なる。H. pylori 感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、原則として感染者全員が治療対象になる。診断ワーキンググループのStatement 9は「Clarithromycin susceptibility testing, if available through molecular techniques or culture, is recommended before prescribing any clarithromycin containing therapy.」(合意率91%、Grade A1)で、分子生物学的手法または培養による感受性検査が利用できる場合という条件つきの推奨である。治療ワーキンググループのStatement 2(合意率92%、Grade B1)は、個別の感受性検査が利用できない場合、クラリスロマイシン耐性率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をビスマス四剤療法とし、それも利用できなければビスマス非含有の併用(concomitant)四剤療法を考慮しうるとする。図1の凡例はビスマス四剤療法をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾール、クラリスロマイシン三剤療法をPPI・クラリスロマイシン・アモキシシリンと定義し、後者は局所で有効性が示されているかクラリスロマイシン感受性が判明している場合にのみ用いるとする。治療Statement 1(Grade D2)は一次治療前でも感受性検査をルーチンに行うことを reasonable とするが、原文自身が「そのような感受性検査に基づく戦略を日常診療で一般的に用いることの妥当性はまだ確立されていない」と続けている。なおMethodsの定義により、Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1強い/2弱い)を表す閲覧 2026-09-08
  6. 6.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)未治療例で抗菌薬感受性が不明な場合は14日間のビスマス四剤療法(BQT)が推奨レジメンであり、ペニシリンアレルギーの無い例では14日間のリファブチン三剤療法またはP-CAB二剤療法が経験的な代替になること。既治療の持続感染例では「最適化」BQTの14日間が優先されること。クラリスロマイシンまたはレボフロキサシンを含む救済レジメンは感受性が確認された場合にのみ用いるとされること。除菌後は全例で治癒確認を行う必要があるとされること。⚠️ 誌上版本文は取得できておらず、以上はいずれも抄録に記載された内容である。BQTの構成薬の内訳と除菌判定の待機期間の数値は抄録に無い閲覧 2026-08-25
  7. 7.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第1章「診断」(日本ヘリコバクター学会・2024)BQ1-7が、除菌判定は除菌治療薬の内服終了後4週以降に行うとし、除菌判定には尿素呼気試験とモノクローナル抗体を用いた便中H. pylori抗原測定が有用とすること。ウレアーゼ活性に影響する薬剤(PPI・P-CAB)は除菌判定の実施にあたり少なくとも2週間、抗菌薬は4週間以上の中止が望ましいとすること閲覧 2026-09-08
  8. 8.Treatment of Helicobacter pylori Infection in Korea: An Evidence-Based Analysis of the Upcoming 2025 Guideline(The Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2026)国際ガイドラインは、クラリスロマイシン耐性率が15%を超える地域では感受性検査なしの三剤療法を一次治療として推奨していないこと、および一次治療として推奨されるには intention-to-treat 除菌率が80%以上必要とされること。ビスマス四剤療法(BQT)の構成がPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾールであること閲覧 2026-08-25
  9. 9.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第2章「治療」(日本ヘリコバクター学会・2024)CQ2-5が、日本で感受性検査を行わない一次除菌に「ボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン」または「PPI+アモキシシリン+メトロニダゾール」のいずれかを推奨していること(推奨の強さ「強い」、合意率90.5%、エビデンスの確実性A)。総論が、日本のクラリスロマイシン耐性率は30%以上でどの地域でも15%以上だがビスマス製剤を使用できないため四剤療法が選択される機会は限られると述べていること閲覧 2026-09-08
  10. 10.Gastric Cancer Incidence After Helicobacter pylori Eradication and Lifestyle-Related Risk Factors: A Population-Based Cohort Study(Helicobacter・2026)日本の健康保険請求・健診データ(2014〜2023年)を用いた除菌成功例59,274例(平均64.9歳)の後ろ向きコホート。除菌1年以降に649例(1.44%)が胃癌を発症し、5年累積発症率は1.47%だった。男性と除菌時の高齢が有意な危険因子で、生活習慣では喫煙のみが独立した危険因子だった(調整ハザード比1.37、95%CI 1.05〜1.78)。除菌後も胃癌は臨床的に重要な帰結として残る閲覧 2026-08-25